トピックス

Horizontal aorta

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Horizontal Aorta (水平大動脈); 水平方向に上行大動脈が寝ているような形をしていることを言います
TAVIにおいては、人工弁の留置の難易度が上がります。
医療関係者の方へ;上行大動脈の走行が60度以上の傾きがある場合(真横に走るものを90度とした定義)をhorizontal aortaと言います そのような患者さんのTAVIではLCC側が深く留置される傾向になります 我々は同軸留置の工夫を行っており、弁輪に対して斜めに留置されることを防いでおります。(counter closkwise rotation, flex解除,Pre-BAVの施行がオプションとなると考えています。)
上行大動脈瘤が存在する場合もワイヤーの走行は実質horizontal aortaのようになります。当院へは動脈瘤の患者さんの紹介が多いので、結果としてhorizontal aortaの方のTAVI治療例も多いです。

(徳田順之)

TAVI web

TAVI WEBはカテーテル弁置換 とかTAVIというキーワードをGoogleで検索するとトップに上がってくるサイトです。プロがつくったホームページで、わかりやすくて、患者さん向けの情報が充実しています。

http://tavi-web.com

PCR Tokyo Valves

PCR tokyo valvesは私たちの仲間である 国内TAVIのパイオニア 林田健太郎先生が主催される 弁膜症の低侵襲治療の学会です。我々のハートチームも参加しています。ヨーロッパのEuroPCRの影響を受けて、会場の雰囲気がおしゃれで異国的です。ホームページには技術的情報が沢山掲載されています.

https://www.pcronline.com

経皮穿刺法TAVI(きずのほぼ残らないTAVI)

TAVI施行の際には、外科的に血管(主として大腿動脈)を露出してシース(シースイントロデューサーの略、血管内に留置してカテーテル、ガイドワイヤー、TAVI弁本体などを出血なく挿入するための止血弁付きの筒)を挿入するカットダウン法、血管を露出せずに経皮的にシースを挿入する穿刺法があります。カットダウン法の場合、傷の大きさは3-4㎝です。(患者さんの皮下組織の厚さなどによって傷の大きさは異なります。)
穿刺法の場合、始めは創の大きさは1㎝弱程度の小さなものですが。1週間もするとほぼわからなくなります。我々は経皮穿刺法TAVIを大腿動脈アプローチの大半の例において行っています。

カットダウン法の場合はシースを抜いた後にできる血管の穴は外科的に縫合することで止血しますが、経皮穿刺法の場合は特殊な止血用の道具を使用する必要があります。
当院ではパークローズPROGLIDE(プログライド)🄬という道具を使用しています。


(医療関係者の方へ)
当院でのプログライド使用方法と我々が留意している点(TAVI弁挿入側)(この方法は 経皮穿刺法ステントグラフトにも応用可能です)
(当院ではTAVI弁挿入側のシース抜去部の止血にはプログライドを2本使用しています。)
1. 6Frシース挿入。(エコーガイド下に血管性状のよいところでかつ必ず血管のど真ん中を狙って穿刺する。石灰化の強い部位を穿刺したり、血管の端によった穿刺をしたりすると、プログライドでの止血が困難となる。ここは肝である。)
2. シース周囲をメス(尖刃)、スペンサーもしくは鑷子を使用して剥離。(十分な剥離を行わないとプログライドの機構が十分働かない。ここももう一つのポイントである。)
3. ガイドワイヤー(0.035"、180㎝ラジフォーカス🄬)を挿入。(透視下に先端を腹部大動脈まで進める。)
4. 6Frシース抜去。
5. プログライド挿入。
6. ガイドワイヤー抜去。
7. 側面のマーカーチューブから血液が噴出するところまでプログライドをさらに進める。
8. 一旦血液が噴出しないところまで引く。その後、さらに進めて血液が噴出するところまで進める。
9. 1と書かれたレバーを倒す。
10. マーカーチューブーブから血液が噴出しないところまで慎重に引く。
11. ブランジャーを押して(2の矢印の方向に押す。)、その後引く(3の矢印の方向に引く。)。
12. ブランジャーを引いて本体から引き離す。本体から出てきた糸を切る。
13. レバーをもとの位置に戻す。(4の番号がついている。)
14. 本体全体をゆっくりと引く。
15. 糸を引き出す。結び目をネラトンにて先端を保護したモスキートで把持する。
16. ガイドワイヤーポートが見えたら、本体を引くのをやめ、2本目のプログライド挿入のためのラジフォーカスガイドワイヤーを挿入する。(先端が腹部大動脈内に位置するよう透視で確認する。)
17. 1本目のプログライド本体を抜去する。
18. 2本目のプログライド挿入。
19. 6から15を再び行う。これによりシース挿入部に糸が2本かかった状態が作られる。(シース抜去部に2方向で糸がかかるよう、プログライドを傾けて展開する。)
20. 9Frスーパーシースを挿入
21. 以降、TAVI弁留置用のシースに交換し、手技を進める。TAVI弁留置が無事終了すればスティフワイヤーを残した状態でTAVI弁留置用シース抜去、プログライドを天井方向に引き上げて出血コントロールが行えることを確認しつつ、末梢動脈の拍動を確認。
22. 末梢血流よければ、スティフワイヤー抜去。(ワイヤーが残っていれば動脈損傷に対して血管内治療が可能であるため最後までワイヤーを残しておく。)
23. 二組ある糸の内、一組の糸を天井方向に引き上げながらもう一方の組の糸の結び目を付属のスーチャートリマーを用いてシース抜去部まで進める。これは糸を切らずに保持しておく。
24. 同様の手順によってもう一組の糸も結び目をシース抜去部まで送り、糸を切る。
25. 先に結んだ側の糸も切り、圧迫止血を15分程度行う。

手技上の留意点
A) シース挿入部はエコーで十分に確認し、総大腿動脈の中で石灰化等のない性状良好な部位を選択し血管中央を穿刺する。
B) 2本使用する際は、1本目と2本目でシース抜去部に糸がかかる方向が異なるように、デバイス本体を傾けてからデバイスを展開する。
C) 血管損傷を避けるため、ワイヤー、プログライドの出し入れを行う際は透視下に行う。
D) 結び目が血管穿刺部まで進められるよう、最初に6Frシースを挿入した後の剥離はアクセス血管を損傷しない範囲で十分に行う。
                     (西俊彦)

集中治療と緩和医療

緩和医療というのは、治療根治が難しい病状に対して、できるだけ苦痛なく過ごせるように ということを考える医療のことで 主として悪性疾患の治療で発達した分野です。状況を適切に伝えることが医療者の仕事のなかでおおきなウェイトを占めるとされています。

集中治療(ICU治療)を要するような循環器疾患にも、治療が困難な病状があったり、逆に高いリスクがあっても治療に踏み切らざるを得ないような局面が存在したりします。そのような状況を患者さんやその家族に、わかってもらえるように、過度な落胆もしないように、伝えるというのは非常に難しい仕事と考えられます。

循環器病領域で注目されているこの内容について、中川俊一先生(米国Columbia University Medical Center 緩和医療学ディレクター) が、集中治療室において重篤な病状に陥った患者さんとそのご家族に対するアプローチの方法について説いてます。http://medipress.jp/doctor_columns/303

(来日し移植学会にて講演された内容を、聴講された先生がまとめられた内容です。)

 

Pre-BAV(TAVI中の前拡張)について

TAVIにおいて人工弁を留置するためには、血管内を通って心臓まで人工弁を運ぶカテーテルが、石灰化で狭くなった患者さんの自己大動脈弁を通過する必要があります。高度な石灰化のために弁の開きが非常に悪い場合などには、人工弁を運ぶカテーテルを通過し易くする目的で、事前に風船を膨らませること(バルーン拡張)で自己の大動脈弁を広げることがあります(= 前拡張;pre BAV)。


(以下は医療従事者の方向けです)
【当院におけるpre BAVの適応基準】
・大動脈弁弁口面積AVA (aortic valve area) <0.5 cm2  ・大動脈弁最大通過流速Peak Velocity >5m/sec 特に無冠尖の石灰化が顕著な場合(bulky NCC)
・先天的2尖弁
・Horizontal Aorta(=水平大動脈, 正中軸に対して大動脈が60°以上傾斜)

【pre BAVを行うことの利点】
・デバイス通過困難の回避、同軸性の確保 や展開不良の予防(特に自己拡張型人工弁; Evolutシリーズ)
・透視上で石灰化した弁尖の挙動を確認できる


【pre BAVを行うことのデメリット】 急激に出現する大動脈弁閉鎖不全が問題になります
・術前にAR(大動脈弁閉鎖不全=逆流)がない場合、pre BAVでARが急激に出現することで循環動態の破綻に繋がる
・pre BAVと人工弁deployで2回approachすることとなり、strokeや基部破裂のriskが高まる
一般に自己拡張型弁においては、前拡張でより多くの微小栓子が認められたとの報告もありdirect(前拡張なしでの留置)が推奨されていますが、一方で後拡張(人工弁留置後のBAV)では弁周囲破裂の危険性が高いとの報告もあり、前拡張を行うことの方が一般的となりつつあります。前拡張・後拡張と周術期脳梗塞との関係には議論の余地があります。



【pre BAV手技上の留意点】
・術前のCT計測を踏まえ、弁輪径の短径を超えないバルーンサイズを選択する必要がある 当院ではBAV balloonには通常18mmを用いますが、基部破裂の危険性が高い症例では16mmの小口径バルーンを用いています
・BAV中の同時造影は狭い部分に高い圧力がかかり大動脈解離を引き起こす危険がある バルーンの肩までPigtailを引くべき (当院では同時造影を避けています)
・ARで血行動態の破綻を招き、rapid pacing終了後にも血圧が回復しない場合があるため、前拡張施行前には人工弁のクリンプまたはloadingを終了させておく必要がある

(山田真生)



TAVI時の冠動脈閉塞への対策

 TAVIの致死的合併症の一つに冠動脈閉塞があります。劣化した自己の弁尖を全て切除した上で新しい人工弁を植えこむ外科手術と異なり、TAVIの場合は、自己の弁尖は新しく植え込む人工弁によって壁側に押しやられる形となります。通常はバルサルバ洞の隙間に収納されるような形となりますが、稀にその石灰化を伴う弁尖がうまく治りきらず冠動脈入口部を塞いでしまうことがあります。その発生頻度としては約1%程度で、その多くは人工弁植え込み直後に発生するとされています。一方で一部遅発性に発生するケースがあることも最近わかってきています。

 TAVIに伴う冠動脈閉塞の発生は完全に予測できるわけではありませんが、弁輪から冠動脈入口部までの高さが低い、バルサルバ洞の膨らみが小さい、弁尖(特に先端付近)の高度石灰化、などが主な危険因子とされており、術前のCTではこれらの項目やそれぞれの位置関係を詳細に分析し、そのリスク評価を行います。また本邦でも最近認可されたValve in valveの手技 (劣化した外科人工弁に対してのTAVI)もリスクの一つとされています(特に外巻きと呼ばれる種類の生体弁の場合)。

 冠動脈閉塞は一旦発生すると速やかにそれを解除する必要があります。しかしながら、弁尖についた石灰化の塊が冠動脈入口部を塞いでしまうと、それを一から解除しに行くのは非常に困難です。そのため、リスクが一定以上と考えられる症例においては、冠動脈プロテクションを行なった上で弁の留置を行います。

 弁を留置する前に、事前に冠動脈にガイドワイヤーを通し、多くの場合はバルン(場合によってはステント)を冠動脈内に待機させておきます(写真1)。弁の留置後、冠動脈閉塞が確認されれば、速やかに待機させていたバルン(ステント)を入口部まで引いてきて閉塞の解除を行います(写真2)。 (田中哲人)

TAVI後の伝導障害 ①左脚ブロック




心臓は通常規則正しく動いていますが、これは心臓の細胞の興奮が心房から心室へと伝わっているからです。この興奮を伝えるシステムを刺激伝導系といいます。TAVI治療において、この刺激伝導系を人工弁が圧迫することによって、刺激伝導系の障害、すなわち伝導障害が起こることがあります。伝導障害による症状は、その障害の程度によって様々です。左脚ブロックとは、刺激伝導系の中の左脚という部位が障害されること(つまり、心臓の興奮が左脚を伝わることをブロックされること)です。左脚ブロックが起こると、心臓の左心室内での興奮の伝わりが悪くなり、左心室がいびつな動きをするようになります。
左脚ブロックが生じることによる長期的な予後との関連は、まだ十分に解明されていません。

 

●伝導障害のメカニズム
TAVI後の合併症として伝導障害は頻度の高いものであり、その中でも左脚ブロックが最も多いとされています。(参考文献①)これは伝導路の解剖学的特性に起因します。右房にある房室結節から連なるHis束が膜性中隔を通り左側へと走り、膜性中隔と筋性中隔の間に出てきます。ここで左脚に分枝しますが、ここは大動脈無冠尖と右冠尖の間の基部と非常に近いところにあります。TAVI弁による圧迫によって、この伝導路に様々な程度で機械的な障害が起こり、伝導障害が発生します。また、この伝導路には個人差があることが知られており、膜性中隔が短い患者さんでは伝導障害がより発生しやすいとされています。(参考文献②)

●頻度
TAVI後左脚ブロックの発生頻度は、観察されたタイミングや、TAVI弁の種類によって異なります。前世代のTAVI弁(CoreValve、SAPIEN/SAPIEN XT)では4-65%に生じるとされ、CoreValveは18-65%、SAPIEN/SAPIEN XTは4-30%と報告されています。一般的に、自己拡張型(CoreValveシリーズ)の方が頻度が高いとされます。新世代の弁に関するデータはまだ少ないですが、SAPIEN3における発生率は12-22%と報告されています。(参考文献②)SAPIEN3と前世代のSAPIEN XTを比較した研究では、新規左脚ブロック発生率は22% vs 7.1%とSAPIEN3に多く、これはSAPIEN3の強いradial strengthとアウタースカートによるものと考察されています。(参考文献③) CoreValveシリーズのEvolut RおよびEvolut Proに関する報告はさらに少ないですが、Evolut Rで44.2%、Evolut Proで36.8%といった報告や(参考文献④)、Evolut RとEvolutProを合わせた頻度で19.2%だったという報告があります。(参考文献⑤)
 TAVI直後に生じた新規左脚ブロックは、フォローアップ中に一定の割合で改善することが知られています。(参考文献②⑥)最近の日本の研究でも、TAVI患者230人中90人に術後新規左脚ブロックが生じましたが、1か月後も左脚ブロックが持続していたのは29人であったと報告されています。(参考文献①)

●予測因子
 左脚ブロックを生じる予測因子としては、弁の種類(CoreValveシリーズ>SAPIENシリーズ)、弁留置の深さ(深いと生じやすい)、自己弁輪に対してTAVI弁が過度に大きいこと、といった手技的な要因や、既存の伝導障害、女性、冠動脈バイパス術既往、糖尿病、大動脈弁の石灰化量などの患者側の要因が指摘されています。(参考文献②)

●予後
 TAVI後新規左脚ブロックによって懸念されるものとして、高度房室ブロックへの進行や突然死といった不整脈系のイベントや、左室収縮能の低下による心不全の発症などが挙げられますが、そういった予後との関係はまだ十分に明らかにはされていません。(参考文献②⑥)新規左脚ブロックが1年後の死亡と関連していたという報告もあれば(参考文献⑦)、死亡とは関連しなかったというものもあります。(参考文献①)これは術後左脚ブロックの定義、すなわちどのタイミングで観察されたものを対象としたかということや、患者数および観察期間などの要因も影響していると思われます。新規ペースメーカー留置が必要となるリスクについても同様で、高度房室ブロックに進行してペースメーカー留置となる可能性を高めるとする報告もあれば、そうでないとするものもあります。(参考文献①②⑥⑦) 最近の日本の研究で、TAVI後新規左脚ブロックは、心不全による再入院率の上昇と関連することが報告されています。(参考文献①)

●当院で留意していること
 術前の造影CT検査をもとに、複数の医師で大動脈弁輪部の計測を行い、適したTAVI弁の種類およびサイズを決定しています。また、左脚ブロックはTAVI弁の留置位置が深いと生じやすいことが知られていますので、位置が深くなりすぎないように、術中の大動脈造影および経食道心エコーを確認して位置決定を行っています。


参考文献
① Sasaki K. et al. “Clinical Impact of New-Onset Left Bundle-Branch Block After Transcatheter Aortic Valve Implantation in the Japanese Population - A Single High-Volume Center Experience.“ Circ J. 2020 Mar 27.
② Auffret V. et al. “Conduction Disturbances After Transcatheter Aortic Valve Replacement: Current Status and Future Perspectives.” Circulation. 2017 Sep 12;136(11):1049-1069
③ Jochheim D. et al. “Aortic regurgitation with second versus third-generation balloon-expandable prostheses in patients undergoing transcatheter aortic valve implantation.” EuroIntervention. 2015 Jun;11(2):214-20.
④ Gaurav Rao. et al. “Early Real-World Experience with CoreValve Evolut PRO and R Systems for Transcatheter Aortic Valve Replacement.” J Interv Cardiol. 2019 Oct 1;2019.
⑤ Zaid S .et al. “Novel Anatomic Predictors of New Persistent Left Bundle Branch Block After Evolut Transcatheter Aortic Valve Implantation.” Am J Cardiol. 2020 Apr 15;125(8):1222-1229.
⑥ Massoullié G. et al. “New-Onset Left Bundle Branch Block Induced by Transcutaneous Aortic Valve Implantation.” Am J Cardiol. 2016 Mar 1;117(5):867-73.
⑦ Regueiro A. et al. “Impact of New-Onset Left Bundle Branch Block and Periprocedural Permanent Pacemaker Implantation on Clinical Outcomes in Patients Undergoing Transcatheter Aortic Valve Replacement: A Systematic Review and Meta-Analysis.” Circ Cardiovasc Interv. 2016 May;9(5):e003635.

 

(文責 戸部彰洋)

 


TAVI後の伝導障害 ②房室ブロック/ペースメーカー留置

TAVI後の伝導障害 ②房室ブロック/ペースメーカー留置

 『TAVI後の伝導障害 ①左脚ブロック』の中で、刺激伝導系について説明しました。この刺激伝導系がより強く障害されると、心房から心室へと興奮が伝わりにくくなります。これを房室ブロック(心房から心室へと興奮が伝わることがブロックされること)といいます。心房と心室の間の興奮伝達が完全に遮断されると、心房と心室の連携は失われ、各々が独自のペースで動くことになります。この状態を完全房室ブロック(3度房室ブロック)と呼びます。一般的に完全房室ブロックの場合は、著しく脈が遅くなり、放置しておくと心臓に負担がかかり心不全となったり突然死を起こすことがあるので、ペースメーカー留置の適応となります。ペースメーカーとは、心臓に電気刺激を送って脈を打たせる機械のことです。
 TAVI治療は、機械の進歩や手技の習熟とともに合併症の頻度も少なくなってきていますが、この伝導障害、特にペースメーカー留置となる危険性は依然として高く(4-30%)、TAVI治療のアキレス腱と言われています。
 ペースメーカー留置となった場合と予後との関連に関しては、まだ十分に解明されていません。

医療関係者の方へ

●伝導障害のメカニズム
左脚ブロックなどを除くと、ペースメーカー留置は最も多い合併症と言われています。刺激伝導系の解剖学的特性については『TAVI後の伝導障害 ①左脚ブロック』をご参照ください。もともと伝導障害を認めなかった方が高度房室ブロックになる場合もあれば、もともと右脚ブロックのあった方に新規左脚ブロックを生じて結果的に完全房室ブロックとなる場合もあります。

●頻度
TAVI後に恒久式ペースメーカー留置となる頻度は、前世代のCoreValveで16.6-37.6%、SAPIEN/SAPIEN XTで3.4-17.3%と報告されています。左脚ブロック同様、ペースメーカー留置となるリスクは自己拡張型(CoreValveシリーズ)の方が一般的に高いとされていますが、一方で変わらないという報告もあります。新世代の弁に関して、バルーン拡張型のSAPIEN3では3.7-31%と報告されています。SAPIEN3について検討した3つの多施設レジストリー研究において、ペースメーカー率は11-14%であり、前世代と比較して2倍も多くなっています。これは左脚ブロックが増えていたことと同様に、SAPIEN3の強いradial strengthとアウタースカートによるものと考察されています。(参考文献①)CoreValveシリーズのEvolut Rではペースメーカー率は10.8-31.3%、(参考文献①②③)Evolut Proでは11.8-27.7%と報告されています。(参考文献②③④⑤⑥)CoreValveシリーズに関しては、デバイスの改良とともにペースメーカー率が低くなっていると考察している文献もあります。(参考文献⑥)
このTAVI後新規ペースメーカー留置率を考慮するうえで注意すべきことがあります。一つ目は、もともとペースメーカーが留置されていた患者さんを母数から抜いているかどうかです。もともとペースメーカーが留置されている方は、TAVI後に新規ペースメーカー留置となることはないので、母数から抜かないと本当の新規ペースメーカー率を過小評価する可能性がありますが、一部の研究では母数から抜かれていません。二つ目は、ペースメーカー留置となった理由です。ペースメーカー留置の判断基準(不整脈の種類やwaiting期間など)は施設によって異なり、例えば新規左脚ブロックに対して予防的にペースメーカーを植え込む施設もあります。(参考文献①)
 高度房室ブロックはTAVI後24時間以内に発生するものがほとんどですが、遅発性に生じることもあります。退院時に伝導障害がなければ、その後高度房室ブロックに進行することはまれと考えられています。(参考文献①)
 左脚ブロック同様に、高度房室ブロックも時間経過とともに改善する場合があります。留置されたペースメーカーの解析で、心室ペーシング率が1%未満となる方が一定数存在することが知られています。ただし、たとえ1%未満のペーシング率でも、致命的となりうる発作性の高度房室ブロックを防いでいる可能性はあります。(参考文献①)

●予測因子
 ペースメーカー留置の予測因子として多くの研究で証明されているのは、術前の右脚ブロックと、自己拡張型弁(CoreValveシリーズ)の使用です。他には、患者さんの要因としては、男性、Ⅰ度房室ブロック、左脚前肢ブロック、大動脈弁/左室流出路/僧帽弁輪の石灰化が、手技的な要因としては、弁留置の深さなどが指摘されています。(参考文献①)

●予後
 TAVI後のペースメーカー留置と予後の関連はまだ十分に明らかにされていません。1つのメタアナリシスではペースメーカー留置と1年後の死亡との関連は認めなかったと報告されています。また別の研究で、ペースメーカー留置群の方が1年後の死亡率が低い傾向を示したことが報告されており、これは突然死を予防したからではないかと考察されています。一方、レジストリー研究で1年後の死亡と有意に関連していたとするものもあります。
 このようにペースメーカー留置と中長期予後は意見の分かれるところですが、これはペースメーカー留置となった理由(高度房室ブロックなのか、左脚ブロックに対して予防的に留置したのか、など)やペースメーカー依存率、特に右室ペーシング率の違いによる影響も大きいと考えられます。またTAVI患者さんは高齢で心外合併症も多く、一般的に寿命の長くない方々と考えられるので、長期右室ペーシングの影響が表れにくいのかもしれません。
 ペーシング率が高いと推測される患者さんを対象とした研究では、中長期の死亡と関連していたとする報告もあります。(参考文献①)

●当院で留意していること
 術前検査として行っている心電図で、既存の伝導障害の有無を確認しています。弁留置の深さがペースメーカー率と関連するとされているので、術中の大動脈造影や経食道心エコーをもとに、適切な深さに弁を留置するよう心がけています。また、術後の遅発性房室ブロックを見逃さないように、退院時まで心電図モニターを装着しています。


参考文献
① Auffret V. et al. “Conduction Disturbances After Transcatheter Aortic Valve Replacement: Current Status and Future Perspectives.” Circulation. 2017 Sep 12;136(11):1049-1069
② Gaurav Rao. et al. “Early Real-World Experience with CoreValve Evolut PRO and R Systems for Transcatheter Aortic Valve Replacement.” J Interv Cardiol. 2019 Oct 1;2019
③ Hellhammer K. et al. “The Latest Evolution of the Medtronic CoreValve System in the Era of Transcatheter Aortic Valve Replacement: Matched Comparison of the Evolut PRO and Evolut R.” JACC Cardiovasc Interv. 2018 Nov 26;11(22):2314-2322
④ Forrest JK . Et al. “Early Outcomes With the Evolut PRO Repositionable Self-Expanding Transcatheter Aortic Valve With Pericardial Wrap.” JACC Cardiovasc Interv. 2018 Jan 22;11(2):160-168
⑤ Kalogeras K. et al. “Comparison of the self-expanding Evolut-PRO transcatheter aortic valve to its predecessor Evolut-R in the real world multicenter ATLAS registry.” Int J Cardiol. 2020 Feb 27. pii: S0167-5273(19)34112-9.
⑥ Pagnesi M. et al. Transcatheter Aortic Valve Replacement With Next-Generation Self-Expanding Devices: A Multicenter, Retrospective, Propensity-Matched Comparison of Evolut PRO Versus Acurate neo Transcatheter Heart Valves. JACC Cardiovasc Interv. 2019 Mar 11;12(5):433-443.

 

(文責 戸部彰洋)


TAVI中の経食道超音波検査(TEE)

TAVIにおいては、留置する弁のサイズは手術前の造影CTで決定します。手術中の弁留置は造影や弁の石灰化などを透視(X線装置)で見てそれを指標に行います。
その意味では、TAVIにおいて経食道心エコー(TEE)は、主たる留置位置ガイドの手段 ではありませんが、合併症のモニタリング手段として大変重要です。TAVIでの合併症は重篤となることも多いため、我々はワイヤーの位置の確認や術中の弁逆流増悪のチェックや心収縮能などを、TEEを用いて手技中に終始評価しています。また、合併症が起きた際の迅速な診断のため比較対象を知っておくことが大切であり、術中の評価だけでなく術前の状態(心嚢水や弁膜症、心収縮能)の状態の確認も大切と考えています。
留置後は特に、弁周囲逆流(PVL)評価が重要ですが、 円周方向到達度(circumferential extent)を中心に AR到達度やVena Contractaの幅やエリア、下行大動脈の拡張期逆流波形などで評価しています。

なお間質性肺炎などの肺疾患がある場合など、気管挿管をしないで(全身麻酔を避けて)TAVIを行う場合はTEEなしで、経胸壁心エコー(TTE)での評価で治療を行います。

 

エコー担当医としては 手術の流れ・合併症のタイミングや種類を理解して、術中・術後の評価を行っていますが、 「術者が今何を気にしているか」を常にイメージするようにしています。

麻酔科医やMEさんなど他のハートチームメンバーの近くで仕事することが多く、術者とは少し違った視点ももって参加しています。
「今ワイヤーの位置は大丈夫?」という術者の声や 「ちょっとデバイス引けてますよ」 などエコー医の声が手術中にすぐかかることはいいチームの証だと思います。

 

(文責 三木裕介)

ASDカテーテル閉鎖術中の経食道心エコーとfusion imaging


ASDカテーテル閉鎖術中、ガイドワイヤーの操作のガイド方法は透視(X線装置)がメインとなります。一方、デバイスのサイズ決定~留置~留置後の確認は経食道心エコー(TEE) が主なガイド方法となります。その段階では術者も心エコーの画像をみながら手を動かすことが多くなります。TEE担当者は術者が常に見たいところが見えるように心がけています。
当院では通常のTEE画像に加え、ライブX線とライブエコーを融合するfusion imagingソフトのecho navigatorも使用して手技を進めています。TEEの走査面が透視画面上でどこかが一目瞭然となります。ハイブリッド手術室におけるこのようなfusion imagingの技術の進歩は近年めざましく、有用な手技補助手段として注目されています。

(文責 三木裕介 )

 

fUSION IMAGNINGの例

右図(透視画面)上の紫色の扇形は 経食道超音波TEE(左図)の走査断面を示します. TEE画面に表示されているのは透視画面上でどこか ということを把握することができます.



TAVI後の抗血栓療法(抗凝血療法)1

TAVI後の抗血栓療法について① ~DAPT vs SAPT~

TAVI治療後、留置した人工弁自体に対して、また二次的な血栓塞栓性イベントを防ぐために、抗血栓療法を行うことが推奨されています。
SAPIEN 3(バルーン拡張型生体弁)の添付文書では6か月後までアスピリン+チエノピリジン系のDAPT(二剤併用抗血小板療法)を行い、6か月以後はSAPT(単剤抗血小板療法)に減量することが推奨されています。Evolut R/Pro(自己拡張型生体弁)の添付文書では3か月後までDAPTを行うことが推奨されています。しかし、TAVI治療の対象患者さんは、高齢、並存疾患などにより出血高リスクとなることが多くなります。そのためDAPTによる出血リスク増加の懸念もあり、最適なDAPTの期間や必要性など、未だ十分に明らかにされていません。またTAVI後の抗血栓療法としての抗凝固薬の有用性や位置づけも意見の分かれるところです。TAVI後の最適な抗血栓療法はまだ定まっていません。

●DAPT vs. SAPT
バルーン拡張型生体弁を使用したTAVI後の抗血栓療法としてDAPT(アスピリン+クロピドグレルを3か月、最低6か月まではアスピリン単剤を継続)とSAPT(最低6か月まではアスピリン単剤を継続)を比較した小規模な前向きランダム試験では、DAPT群で出血イベントが多く、脳梗塞などの血栓塞栓性イベントはSAPT群と同等という結果でした。(参考文献①) また、自己拡張型生体弁を使用した小規模な前向きランダム化試験においても、DAPT群とSAPT群で短中期成績は同等であり、DAPTの優位性は示されませんでした。(参考文献②) 複数のメタアナリシスでもDAPTが出血イベントを増やすものの、血栓塞栓性イベントはSAPTと同等ということが報告されています。(参考文献③-⑤)

尚、TAVI後の血栓塞栓性イベントとして重要な脳梗塞は、その多くが術後24時間以内に起こることが知られています。この機序は、大動脈や大動脈弁に対する機械的な刺激によってプラークなどが剥がれて塞栓を起こす、というものです。この塞栓に対して、DAPTの予防効果は期待できません。また24時間以降に起こる脳梗塞は心房細動との関連が指摘されており、これに対してもDAPTの効果は限定的です。(参考文献①)

●当院で留意していること
日本循環器学会の「2020年改訂版 弁膜症治療ガイドライン」では、TAVI後の抗血栓療法は6か月未満のDAPT後、SAPTを継続することがクラスⅡaで推奨されています。(参考文献⑥) 一方上述のように、TAVI後のDAPTは血栓塞栓を減らさないが出血は増やす、というデータも出てきています。このようにTAVI後の最適な抗血栓療法はまだ定まっていませんが、当院では患者さんの背景や併存疾患および併用薬などを考慮しながら、最適と思われる抗血栓療法を選択しています。

(参考文献)
① Rodés-Cabau J, et al. “Aspirin Versus Aspirin Plus Clopidogrel as Antithrombotic Treatment Following Transcatheter Aortic Valve Replacement With a Balloon-Expandable Valve: The ARTE (Aspirin Versus Aspirin + Clopidogrel Following Transcatheter Aortic Valve Implantation) Randomized Clinical Trial” JACC Cardiovasc Interv. 2017 Jul 10;10(13):1357-1365.
② Ussia GP, et al. “Dual Antiplatelet Therapy Versus Aspirin Alone in Patients Undergoing Transcatheter Aortic Valve Implantation” Am J Cardiol 2011;108:1772–1776
③ Maes F, et al. “Meta-Analysis Comparing Single Versus Dual Antiplatelet Therapy Following TranscatheterAortic Valve Implantation” Am J Cardiol. 2018 Jul 15;122(2):310-315.
④ Siddamsetti S, et al. “Meta-Analysis Comparing Dual Antiplatelet Therapy Versus Single Antiplatelet Therapy Following Transcatheter Aortic Valve Implantation” Am J Cardiol 2018;122:1401-1408.
⑤ Hu X, et al. “Single versus Dual Antiplatelet Therapy after Transcatheter Aortic Valve Implantation: A Systematic Review and Meta-Analysis.” Cardiology 2018;141:52–65
⑥ 泉知里、江石清行編 「2020年改訂版弁膜症治療のガイドライン」 日本循環器学会/日本胸部外科学会/日本血管外科学会/日本心臓血管外科学会合同ガイドライン

 

(文責 戸部彰洋)

TAVI後の抗血栓療法(抗凝血療法)2

TAVI後の抗血栓療法について② ~弁血栓症と抗凝固療法~

●弁血栓
TAVI後の抗血栓療法を考えるうえで、弁血栓症(leaflet thrombosis)は重要です。TAVI後に造影CTを撮影すると、一定の割合(4-13%)でHALT(hypo attenuated leaflet thrombosis)と呼ばれる低吸収領域がTAVI弁周囲に観察されることが知られています。(参考文献①) これは人工弁に付着した血栓、すなわち弁血栓であると推測されています。この弁血栓は、人工弁機能不全の原因となりうると考えられていますが、実際のところ多くの方では無症候とも言われています。無症候の弁血栓症を、subclinical leaflet thrombosisと呼びます。CTで発見されたsubclinical leaflet thrombosisが脳血管イベント(特にTIA)と有意に関連していたという報告もあれば(参考文献②)、関連を認めなかったとする報告もあります。(参考文献①、③)

 


●弁血栓発生の機序
ウィルヒョウの3徴をもとに解説している文献があります。(参考文献④)
① 人工弁表面の損傷
人工弁をおりたたむクリンプという作業時に、人工弁の表面に細かい傷がつくことが知られています。また人工弁留置時に、特にバルーン拡張型では傷がつくとされます。
② 血流の異常(停滞)
心拍出量が低いと弁血栓が生じやすいという報告があります。また、人工弁によってできたneo-sinusが大きいと血流が停滞しやすいと考えられます。大きな人工弁やvalve in valveもリスクとする報告があります。
③ 過凝固状態
高齢、炎症、癌、CKD、DMが血栓形成に関連する可能性があります。また自己弁の石灰化が凝固を亢進するといわれています。外科的大動脈弁置換術では自己弁を取り除くので、弁血栓の発生が少ないことと関連している可能性があります。

●症候性の弁血栓と抗凝固療法
弁血栓により人工弁の動きが制限され(reduced leaflet motion)、圧較差の上昇をきたすことがあります。このような人工弁機能不全に対して、抗凝固療法を行うことにより弁血栓が縮小・消失し、弁機能も改善したということが報告されています。(参考文献②)

●TAVI後の抗血栓療法としての抗凝固療法 (GALILEO試験/GALILEO-4D試験)
2019年、TAVI後抗血栓療法としての抗凝固薬の有用性を検討したGALILEO試験が発表されました。これは、TAVI後に3か月間アスピリン+リバーロキサバン10mgを併用し3か月以後はリバーロキサバン10mg単剤にするリバーロキサバン群と、TAVI後3か月間アスピリン+クロピドグレルを併用し3か月以降はアスピリン単剤にする抗血小板薬群の成績を比較した前向きランダム化試験です。対象患者さんは、抗凝固療法が適応となるような他の病気を持っていない人たちです。この試験は安全性の観点から早期中止となりましたが、結果はリバーロキサバン群の方が死亡+血栓塞栓イベントの複合エンドポイントのリスクが高く、さらに出血イベントのリスクも高いというものでした。死亡は有意にリバーロキサバン群で多かったですが、脳梗塞や心筋梗塞は両群で有意差を認めませんでした。死亡の原因は、出血によるものは少数で、多くが突然死、原因不明の死、非心臓死でした。(参考文献⑤)

GALILEO試験のサブスタディであるGALILEO-4D試験は、TAVI後約90日後に造影CTを撮影し、弁血栓症の頻度の差をみたものです。この試験の結果は、リバーロキサバン群においてreduced leaflet motionやsubclinical leaflet thrombosisの頻度が少ないというものでした。(参考文献⑥) つまり上述のGALILEO試験と合わせると、抗凝固薬(リバーロキサバン10mg)を使用することで弁血栓の頻度を減らすものの、それが臨床結果を改善させてはいない、という結論でした。

このようにTAVI後の抗血栓療法として、抗凝固薬の適応となるような他の疾患のない患者さんに対し抗凝固薬をルーチンで使用することの有用性については現状では懐疑的となっています。


●当院で留意していること
TAVI治療後の抗血栓療法法としては抗血小板薬が選択されることが一般的です。しかしフォローアップ中に、心エコー検査にてTAVI弁の流速や圧較差の上昇を認めた場合は、弁血栓を疑って対応をします。腎機能の良い患者さんでは造影CTを撮影して、弁血栓の有無を調べることもありますが、TAVI治療を受けられた患者さんは高齢で腎障害のある方も多いです。その場合は造影CTは撮影せずに、弁血栓が生じたと考え抗凝固薬を使用し反応をみることもあります。
抗凝固薬が適応となる他の疾患をお持ちの患者さんに対する抗血栓療法については後述します。


(参考文献)
① Vollema EM, et al. “Transcatheter Aortic Valve Thrombosis: The Relation Between Hypo-Attenuated Leaflet Thickening, Abnormal Valve Haemodynamics, and Stroke” Eur Heart J. 2017 Apr 21;38(16):1207-1217.
② Chakravarty T, et al. “Subclinical leaflet thrombosis in surgical and transcatheter bioprosthetic aortic valves: an observational study” Lancet. 2017 Jun 17;389(10087):2383-2392.
③ Yanagisawa R, et al. “Incidence, Predictors, and Mid-Term Outcomes of Possible Leaflet Thrombosis After TAVR” JACC Cardiovasc Imaging. 2016 Dec 8;S1936-878X(16)30897-X
④ Rashid HN, et al. “Subclinical Leaflet Thrombosis in Transcatheter Aortic Valve Replacement Detected by Multidetector Computed Tomography - A Review of Current Evidence” Circ J. 2018 Jun 25;82(7):1735-1742.
⑤ Dangas GD, et al. “A Controlled Trial of Rivaroxaban After Transcatheter Aortic-Valve Replacement” N Engl J Med. 2020 Jan 9;382(2):120-129
⑥ De Backer O, et al. “Reduced Leaflet Motion After Transcatheter Aortic-Valve Replacement” N Engl J Med. 2020 Jan 9;382(2):130-139.

TAVI後の抗血栓療法(抗凝血療法)3

TAVI後の抗血栓療法について③ ~抗凝固薬を内服している患者さんの場合~

心房細動などの抗凝固療法が適応となる疾患を持っている患者さんへのTAVI後抗血栓療法について検討したのがPOPular TAVI試験(cohort B)です。この試験では、TAVI治療前から、抗凝固療法が適応となる疾患を持っている患者さんを対象に、TAVI後の抗血栓薬として抗凝固薬単剤群と、抗凝固薬+クロピドグレルの2剤療法を3か月間行い以後は抗凝固薬単剤とする抗凝固薬+クロピドグレル群に分けて、出血イベントなどを比較検討しています。抗凝固薬の選択はTAVI前から内服していたものを継続することになっており、ビタミンK拮抗薬でもDOAC(直接経口抗凝固薬)でもよいです。結果は、抗凝固薬単剤群で出血イベントが有意に少なく、心血管死亡+虚血性脳卒中+心筋梗塞の複合イベントも非劣勢でした。また、ビタミンK拮抗薬よりもDOACの方が出血を減らせる可能性が指摘されています。(参考文献)

●当院で留意していること
TAVIを受けられる患者さんで、心房細動などの抗凝固療法が適応となる疾患をお持ちの場合の、最適なTAVI後抗血栓療法はまだ定まっていません。当院では、患者さんの背景や出血/血栓塞栓リスクを考慮して、最適と思われる方法を選択しています。


(参考文献)
Nijenhuis VJ, et al. “Anticoagulation with or without Clopidogrel after Transcatheter Aortic-Valve Implantation” N Engl J Med. 2020 Apr 30;382(18):1696-1707.


僧帽弁置換術後のTAVI

僧帽弁置換術後のTAVI

心臓手術歴のある患者さんに対する二度目以降の心臓手術(いわゆる、Re-do)は、周術期リスクが高くなります。(参考文献①、②) これは僧帽弁置換術後の患者さんに外科的大動脈弁置換術を行う場合も当てはまると考えられます。しかしある研究では、過去に僧帽弁の手術を受けた方の5%に、フォローアップ中に大動脈弁疾患を発症し外科的大動脈弁置換術が必要となることが報告されており、頻度としては決してまれというわけではありません。(参考文献③) このような背景から、過去に僧帽弁置換術などの心臓手術歴のある患者さんが高度大動脈弁狭窄症を発症した場合、より低侵襲のTAVIはリスクを減らせる治療となる可能性があります。

●僧帽弁置換術後のTAVIのリスク、合併症
一方、僧帽弁置換術後のTAVIも手技的な難易度は高くなります。それは、TAVI弁と人工僧帽弁が干渉しうるためです。具体的には、TAVI弁留置中に人工僧帽弁に接触することで、TAVI弁の位置がずれたり、TAVI弁の拡張不良を起こすことがあります。また、人工僧帽弁の開放制限をきたすこともあります。TAVI弁の位置のずれは、特に問題とならない程度のものから、大きくずれて2個目のTAVI弁を重ねて留置することを要したり、塞栓といって大動脈内に移動してしまうこともあります。海外の報告では、僧帽弁置換術後のTAVI患者91人中6人(6.7%)にTAVI弁の塞栓を認めました。これは僧帽弁置換術後ではないTAVI患者より有意では無いものの多い傾向がありました。(参考文献④) 日本からの報告では、僧帽弁置換術後のTAVI患者31人中、TAVI弁の塞栓を認めたのは0人、TAVI弁の位置のずれは9人(29.0%)、人工僧帽弁の開放制限は1人(3.2%)に認めました。いずれの症例においても2個目のTAVI弁や開胸手術は要しませんでした。(参考文献⑤)

 また、僧帽弁置換術後のTAVI患者さんでは、出血性合併症が多いことが知られています。これは心房細動の合併や人工僧帽弁に対するより厳格な抗凝固療法、DOACではなくワーファリンを使用することといった要因があると思われます。(参考文献④、⑤)

●TAVI弁の移動・塞栓の予測因子
TAVI弁の移動・塞栓を引き起こす重要な要因として指摘されているのは、大動脈弁輪と人工僧帽弁の距離の短さです。この距離が短いとTAVI弁と人工僧帽弁がお互いに干渉しやすくなります。他には、TAVI弁のサイズが大きいとステントフレームが長くなり僧帽弁と干渉しやすくなったり、人工僧帽弁が左室流出路へ突出していると干渉しやすくなることが指摘されています。(参考文献④、⑤)

●留意すべきポイント(参考文献④、⑤)
①術前のCT計測
 僧帽弁置換術後のTAVIを行う上で、術前のCT評価は非常に重要です。大動脈弁輪と人工僧帽弁の距離を計測することで、TAVI弁と僧帽弁が干渉するリスクを予測したり、TAVI弁をどの程度の深さに留置すべきかをイメージすることができます。

②TAVI弁留置の深さ
 TAVI弁を深く留置しすぎると、人工僧帽弁と干渉し、上記の合併症を引き起こす可能性があります。一方、高く留置しすぎると、大動脈弁輪部に固定されず塞栓を起こす危険性があります。この両者を意識して留置位置を決定します。

③弁留置時
 バルーン拡張型TAVI弁(SAPIENシリーズ)の場合、ゆっくりとTAVI弁を拡張させて留置させた方が、位置のずれを予防できると言われています。自己拡張型生体弁(Evolut R/Pro)の場合は、弁のリリース前に再収納して位置調整が可能なので、最適な位置となるまで位置調整を行います。ただし、最終リリース時に位置がずれるリスクもあると言われています。

④麻酔管理
 全身麻酔で呼吸を管理した方が、呼吸による位置のずれを最小限にできると考えられます。また、全身麻酔下であれば、経食道心エコーも使用でき、より詳細な評価が可能です。

文責:戸部彰洋


参考文献
① Rankin JS, et al. “Determinants of operative mortality in valvular heart surgery.” J Thorac Cardiovasc Surg. 2006;131:547-57.
② Lung B, et al. “A prospective survey of patients with valvular heart disease in Europe: The Euro Heart Survey on Valvular Heart Disease.” Eur Heart J. 2003;24:1231-43.
③ Vaturi M, et al. “The Natural History of Aortic Valve Disease After Mitral Valve Surgery.” J Am Coll Cardiol. 1999;33:2003-8.
④ Amat-Santos IJ, et al. “Prosthetic Mitral Surgical Valve in Transcatheter Aortic Valve Replacement Recipients : A Multicenter Analysis.” JACC Cardiovasc Interv. 2017;10:1973-1981.
⑤ Tanaka M, et al. “Previously implanted mitral surgical prosthesis in patients undergoing transcatheter aortic valve implantation: Procedural outcome and morphologic assessment using multidetector computed tomography.” Plos One. 2019 Dec 26;14(12):e0226512.

新しい補助循環装置 インペラ

Impella®(インペラ)

重症の心原性ショック症例に対して従来使用されてきた補助循環機器には、大動脈バルーンパンピング(IABP)や経皮的人工心肺補助装置(PCPS / VA- ECMO)があります。重症心不全の場合には、両者の併用が必要になります。多くの場合大腿動脈から生理的な血流と逆行性に血液を送る経皮的心肺補助装置(PCPS / VA-ECMO)は自己の心臓には負担になることや、脱血が十分できていたとしても解剖学的シャントにより左心室が拡張し、心筋がダメージを受けることで救命できない症例があることが問題点でした。

 Impella®(インペラ)は経皮的または経血管的に左心室に挿入され、順行性に補助循環を行う世界最小の心内留置型の定常流ポンプカテーテルです。カテーテル先端にある小型軸流ポンプのインペラ(羽根車)が回転することにより左心室内にある吸入部から血液を吸い込み、上行大動脈にある吐出部に送血されます。

 


https://www.youtube.com/watch?v=UOOQspSdAS8

欧州では2004年から、北米では2008年から承認販売され、本邦でも2017年9月から導入されました。補助人工心臓治療関連学会協議会及び厚生労働省により認可を受けた施設のみで実施可能な高度医療であり、当院は2018 年7月に実施施設としての認可を頂きました。その適応や使用に関しては名古屋大学重症心不全治療センターに所属する多職種(循環器内科医、心臓外科医、麻酔科医、臨床工学士、放射線技師、看護師など)による協議の上なされています。先に述べた大動脈バルーンパンピング(IABP)や経皮的人工心肺補助装置(PCPS / VA- ECMO)と併用も可能で、患者さまの状態に合わせて機器を組み合わせて必要な補助を行うことが可能です。

Impella®の最大の生理学的利点として、左心室から直接脱血することで左心室の容量および圧負荷が減少することで心筋の酸素需要を低下させ、自己心機能の回復が見込めることです。また経皮的人工心肺補助装置(PCPS / VA- ECMO)と異なり、生理的血流と同じ順行性に血液を送ることで心臓を含めた全身臓器に安定して血液を供給することができます。

適応には急性心筋梗塞、劇症型心筋炎など従来の機器では救命が困難であった重症心原性ショックを来す症例が適応になります。また心臓外科術後に左心室内圧を減圧する必要がある症例や心機能が低下した症例にも効果的であると考えられます。


 

現在Impella®(インペラ)は、最大補助流量の異なるImpella 2.5、Impella CP、Impella 5.0の3種類の機器が使用可能です。Impella 2.5、CPはそれぞれ最大2.5リットル毎分、3.7リットル毎分の補助循環が可能で、大腿動脈を穿刺してインペラカテーテルを挿入するためのシースを動脈内に留置し、そのシースから血管内に留置します。それに対しImpella 5.0は最大5.0リットル毎分の補助循環が可能ですが、カテーテルが前2者に比べて太いため、大腿動脈や腋窩動脈に外科的に吻合した人工血管を介してインペラカテーテルを挿入します。機器の選択は、患者さまに必要な最大補助流量を考慮するだけでなく、挿入後の治療方針も影響します。腋窩動脈からImpella®を挿入した場合は、大腿動脈に挿入した場合と異なり体位による動脈損傷の危険が少ないため、リハビリが可能になります。例えば植込み型補助人工心臓手術までの待機期間などのように留置が比較的長期に及ぶことが予想される場合には、心臓リハビリテーションが実施できるようにImpella 5.0を腋窩動脈から導入します

(文責 伊藤英樹)

https://www.youtube.com/watch?v=uWY9jFotZos

劇症型心筋炎

劇症型心筋炎

心筋炎は、ウイルスや自己免疫、薬剤への過敏症などが原因で、心臓に炎症が生じる病気です。発熱や倦怠感など、心筋炎だと疑うのが難しい症状で発症することが多いため、受診が遅れたり診断するのが難しい病気です。病院を受診した時や、診断された時にはすでに重篤になっていることも多い病気です。

炎症が強い場合に心臓の機能が強く障害されると、各臓器に十分な血液が行き届かなくなってしまう(多臓器不全)ために、心臓の働きを強める薬や、心臓の働きをサポートもしくは代わりをする補助循環といわれる機械が必要になることがあります。このような重篤な心筋炎を、劇症型心筋炎といいます。残念ながら、現在でも劇症型心筋炎は20-60%程度と死亡率が高い病気です。

劇症型心筋炎は、心臓の炎症自体を抑えることと、心臓の機能が障害されている間に機械的補助循環を用いて多臓器不全を予防することが治療の柱となります。心臓の炎症自体を抑えるには、一部の心筋炎に免疫抑制薬が有効であることが知られています。機械的補助循環には、IABP・VA-ECMO・Impellaといった経皮的に用いる機械から、体外式LVAD・Central ECMOといった手術で用いる機械があります。劇症型心筋炎では、病気の状態に応じてこれらの機械を使い分け、適宜変更しながら治療を行います。

当院は、機械的補助循環のあらゆる選択肢を持ち合わせており、どのような内科的治療・外科的治療が最適かを心臓外科・循環器内科で相談し協力しながら、集中治療室で集学的に治療を行っています。劇症型心筋炎について、全国有数の治療経験があります。

劇症型心筋炎の患者様を救命するには、心筋炎の、より早期の状態からのどのような治療を行うかが重要となります。そのため、劇症型心筋炎だけでなく、心筋炎が重篤化する前の状態であっても、いつでもお気軽にご相談ください。 

(文責 近藤徹)


植込型補助人工心臓で治療をされている患者さん向けの外来(VAD外来)

植込み型補助人工心臓(VAD)外来

植込み型補助人工心臓(VAD)を装着していただいた患者様は、1か月に1回、VAD外来に通院していただいております。

VAD外来では、①患者様の体調確認②抗凝固薬などの薬剤の調整③VADの機器の確認④ドライブライン刺入部の確認、などを行います。

①患者様の体調確認
VAD装着後も、一部の患者様はむくみや息切れといった心不全症状が残る方がいます。そういった症状の悪化がないかを確認します。

②抗凝固薬などの薬剤の調整
VAD装着中は、VAD本体に血栓ができて塞栓症が生じるリスクがあります。それを予防するために抗凝固薬と呼ばれる血栓を予防する内服薬を服用していただきます。この抗凝固薬がしっかり効いているか、もしくは効きすぎていないかを採血のPT-INRという値で確認します。当院では、抗凝固薬の効果をより安定させるために、「コアグチェック® XS / コアグチェック® ProII」で抗凝固薬の効果を確認する方法を併用しています。

③VADの機器の確認
VADのポンプが正常に作動しているかを確認します。

④ドライブライン刺入部の確認
VADは、体内のVAD本体とコントローラー・バッテリーに「ドライブライン」でつながっており、ドライブラインは患者様のお腹から体外に出ています。ご自宅では、このドライブラインが体外に出る刺入部を患者様ご自身で消毒をしてもらっています。VAD外来では、刺入部に感染が起きていないかの確認を行います。


VADの治療は普段から自己管理をしっかり行うことが大切です。患者様には、ご自身の体調の確認や、体重測定、ドライブラインの観察を普段から心がけて頂いています。当院では、iPadで用いるLVAD@homeというアプリを提供させていただき、円滑な自己管理ができるようにサポートしております。

心臓移植

心臓移植は、薬物療法(ACE阻害薬・β遮断薬など)・非薬物療法(手術治療・心臓再同期療法など)の治療にもかかわらず、重症の末期心不全状態の方が対象となります。心臓移植は、心臓移植を受ける患者様(レシピエント)に対し、脳死状態の臓器提供者(ドナー)から提供された心臓を移植する手術です。
日本では特定の実施施設でのみ心臓移植は行われており、2021年4月時点で日本には計11施設の心臓移植実施施設があります。当院は、2016年12月に東海北陸地区で唯一の心臓移植実施施設として認められ、以後心臓移植手術を行っております。
心臓移植の手技に関しては、下記のリンク
https://plaza.umin.ac.jp/~jscvs/surgery/5_3_syujutu_sinzou_sinzouisyoku/

現在日本では、心臓移植を希望される患者様(レシピエント)に対し、ドナーの方が少ないために、心臓移植を受けるために5年以上待機が必要になることが多いです。その間、心不全の症状を改善し、ご自宅からの就労・就学を実現するために、植込み型補助人工心臓を装着していただくことが通常の治療の流れになっています。

 

植込み型補助人工心臓を装着したうえで、適合するドナーが見つかった際に、心臓移植手術を受けていただいております。心臓移植後は、植込み型補助人工心臓の管理は必要なくなりますが、移植したドナーの心臓を患者様(レシピエント)の免疫細胞が攻撃してしまう拒絶反応を予防するために、免疫抑制薬の服用が必要です。また、拒絶反応の有無を確認するために、定期的にカテーテルで心筋生検の検査を受けていただく必要があります。

当院では心臓移植・植込型左室補助人工心臓を行うための最新の設備を整え、心臓外科・循環器内科・集中治療医をはじめとした医師や移植コーディネーター・看護師・薬剤師・理学療法士・管理栄養士などのコメディカルスタッフによるチーム医療によって高い医療レベルを維持するだけでなく、患者さん本人や家族と寄り添うことを大切に治療にあってっています。

心臓移植手術を受けるためには、心不全が重症であるだけでなく、癌や重度の肝疾患・腎疾患など他の病気が無いかを確認する精査を受けていただく必要があります。また、ご本人様・ご家族に、心臓移植は植込み型補助人工心臓について、十分に理解いただいた上で治療の体制を整えていただく必要があります。植え込み型補助人工心臓また心臓移植は、通常の内服治療や手術治療とは異なり、患者様ご自身でしっかりと自己管理を行うことがカギとなる治療となります。そのために、心臓移植または植込み型補助人工心臓について、病気が進行する前にあらかじめ十分に知っておき、検討しておく必要があります。治療に関するちょっとした疑問でも問題ございませんので、いつでもお気軽に当院にご相談ください。(文責 近藤徹)

胸部大動脈瘤とハイブリッド手術

胸部大動脈瘤の治療方法は 開胸型手術(open repair) とステントグラフト内挿術(TEVAR)に大別されます。TEVARは低侵襲(切開範囲が小さい)という点でメリットを持ちますが、枝のある場所(弓部大動脈など)での対応に限界があります。両者を組み合わせるハイブリッド治療という方法も注目されています。
図は比較的広い範囲の弓部動脈瘤に対して 心臓側は人工血管を用いた弓部大動脈の分枝再建で対応し 心臓より遠い側(下行大動脈側)は ステントグラフト(TEVAR)で対応するという組み合わせのハイブリッド治療の例です。(Bavaria分類のtype III hybrid arch repair)

 

 

胸部大動脈瘤や大動脈解離の治療は、進歩の速度が急激な分野です。個々の患者さんの動脈瘤の場所や形態などによっても大きく治療方針は異なります。お悩みの方は外来までお越し下りご相談ください。https://www.med.nagoya-u.ac.jp/hospital/departments/cardiac-s/
名古屋大学附属病院は、胸部大動脈瘤について、3次医療機関の大学病院として周辺の病院より多くの治療紹介をいただいており、心臓外科と血管外科で協力してハイブリッド胸部大動脈治療を行っています。
大動脈瘤の患者さんは動脈硬化による他の併存疾患をお持ちの方も多いです。全身状態を把握した上でのきめ細やかな治療と周術期管理が必要と考えられます。名古屋大学附属病院は、循環器疾患だけを扱う単科病院ではありませんので、関連診療科のバックアップ体制は万全で、併存疾患を数多く抱えた患者さんでもその方にとって最適の状態で治療を受けることができます。術後回復を補助するため心臓大血管術後のリハビリテーションについても力をいれており、多くのスタッフを投入しています。これらについてはリハビリテーション領域でも高い評価を受けています。 (文責 徳田順之)

 

 

 

 

 

 

胸部大動脈瘤ステントグラフト手術のメリット デメリット

TEVAR手術の メリット
TEVAR手術の最大のメリットは、身体的負担の少なさです。
創部も小さいため術後の疼痛も少なく、早期から通常の日常生活に戻ることが可能です。

TEVAR手術の デメリット
TEVAR手術のデメリットは、大動脈の形状(解剖学的理由)により手術ができないことがあることです。特に分枝を巻き込む弓部大動脈や胸腹部大動脈で問題となります。また、大動脈瘤が体内には残ることになりますので、定期的な検査が必要です。場合により追加治療が必要になる可能性があります。

名大病院での胸腹部大動脈瘤手術

胸腹部大動脈瘤の治療

大動脈瘤(血管のこぶ)は「大動脈の一部の壁が、全周性または局所性に拡大または突出した状態」と定義され、その直径が正常径の1.5倍を超えて拡大した場合を指します。胸腹部大動脈瘤は、胸部と腹部を隔てる横隔膜にまたがる大動脈瘤のことであり、高血圧や大動脈解離などによる炎症が原因で発生します。
本邦のガイドラインでは、60mmを超えるものや半年で5mm以上拡大するものは特に破裂の危険性が高いといわれています。また60mmに満たなくても症状(痛み)のあるものは危険性が高いです。治療は開胸開腹下人工血管置換術、ステントグラフト内挿術が挙げられます。最近ステントグラフトによる治療が増えてきておりますが、人工血管置換術と比べて対麻痺を下げる結果には至っておりません。

開胸開腹下人工血管置換術について
手術範囲にもよりますが、第5-6肋間左開胸~第7-8肋間開胸に後腹膜アプローチを追加して大動脈に到達します。

 

大動脈解離が原因の場合、動脈瘤が広範囲にわたることが多く脊髄を栄養する肋間動脈や腸・肝臓・膵臓や腎臓を栄養する腹部の動脈をどのように温存するかが重要になります。とくに脊髄の合併症が重篤であり、脊髄梗塞を発症すると下半身不随(対麻痺)や直腸膀胱障害を起こします。脊髄梗塞を予防する方法がこれまでに多数報告されてきておりますが、当院では術前の脊髄動脈(Adamkiewics動脈)の特定(CT、MRI)を行っております。脊髄動脈は、肋間動脈の第7肋間動脈~第4腰動脈のいずれかから栄養されているといわれています。これまでは同定が困難といわれていましたが、臨床画像の進化により最近ではある程度同定ができるようになってきました。脊髄動脈の特定を予め行っておくことで重要な肋間動脈を選択に再建することが可能になり、これにより対麻痺の発症を下げることができるようになりました。また脊髄梗梗塞の危険性が高い方には、脊髄ドレナージ(術前・術後に脊髄腔へ管を入れる)を行うことで、ある程度予防また治療を行うことができます。

 

CTやMRIによる脊髄動脈の特定が困難な場合、患者様の状態によって肋間動脈をまとめて再建する方法を当科では行っております。これがVascular Tube Technique(血管ロール法)による肋間動脈再建法です。この方法のメリットは、脊髄動脈を同定する必要がなくたくさんの肋間動脈を一気に再建できる点にあります。これにより脊髄動脈虚血を防ぎ、その虚血時間も短時間にできること、出血リスクをさげることができます。当院では、2004年頃よりVascular Tube Techniqueを用いた肋間動脈再建を行い、この手術法により脊髄麻痺発症率0%と良好な成績を認めております。また遠隔期の成績も良好であり、遅発性対麻痺の発生もありません

引用
1) 日本循環器学会ガイドライン
2) J Thorac Cardiovasc Surg. 2019 Feb 12:S0022-5223(19)30352-6. doi: 10.1016/j.jtcvs.2019.01.120. Online ahead of print.
3) Interact Cardiovasc Thorac Surg. 2010 Jul;11(1):15-9. doi: 10.1510/icvts.2009.223099. Epub 2010 Apr 12.
4) Ann Thorac Surg. 2010 Oct;90(4):1237-44; discussion 1245. doi: 10.1016/j.athoracsur.2010.04.091.
5) Eur J Cardiothorac Surg. 2006 Mar;29(3):413-5. doi: 10.1016/j.ejcts.2005.12.010. Epub 2006 Jan 24.

 

文責 六鹿雅登 内田亘 中田俊介

名大病院でのMICS

低侵襲心臓手術(MICS)

かつては心臓の手術とは命を落とすリスクも高いものでしたが、技術や機材の進歩に伴い弁膜症に関してはそのリスクは数%まで改善されています。手術成績はもちろんのこと、患者様のQOLを重視した治療を施す必要があると考えています。
従来の胸骨を縦に切って行う手術では、喉元からみぞおちにかけて約20cmの創が残りますが、2018年4月に保健収載された低侵襲心臓手術(MICS)は約5センチの創部から内視鏡補助下に行う手術であり、術後の創部は下の写真のように目立ちません。当科ではMICSを2018年夏から導入しました。
MICSのメリット
・骨を切らないため出血が少ない
・入院期間が短い
・術後の運動制限期間が短くて済む
・切開が小さいため美容的に優れている など
MICSのデメリット
・胸の形や血管の太さなど一定の条件がある
・適応症が限られている など
50代男性 僧帽弁形成術後

MICSの創部の例;50代男性 僧帽弁形成術後  20代女性心房中隔欠損(ASD)閉鎖手術後

条件を満たしている疾患の患者様に対しては可能な限りMICSを第一選択に考えます。右脇腹に約5cmの創と、約1cmの内視鏡用、約5mmの管子用の創を作製し、3Dハイビジョンモニター(KARL STORZ社)を見ながら手術を行います。対象物をモニターに大きく映し出すので手術部位を詳細に観察することができ、術者だけでなく手術スタッフ全員が病変を確認しながら術者の動きも見ることができるので、チーム全体が手術の流れを理解しやすくなります。胸骨を切らない手術ですので、術後の創の痛みが少なく、従来の手術に比べて早期退院が可能です。

上記はMICSの術中風景

(KARL STORZ社の3D内視鏡 メーカーHPより抜粋)

MICSの対象手術
・僧帽弁形成術
・三尖弁形成術
・大動脈弁置換術
・心房中隔欠損閉鎖術
・不整脈手術(メイズ手術) など

また、大学病院ならではの複雑病変に対する手術、再手術など、他病院では施行困難な手術も積極的に行っており、病変が複雑な場合には従来通りの胸骨を切って行う手術を選択しています。

今後はda Vinci(intuitive Surgical社)を用いたロボット手術も行うべく申請しています。1〜2cmの創部からロボットのアームを挿入し、先端についている管子や内視鏡を遠隔操作して手術を行います。管子の自由度が高く、繊細な動きが可能となるため複雑で繊細な手術操作が可能になります。

文責 六鹿雅登

 

名大病院での僧帽弁手術

僧帽弁手術
僧帽弁形成術は僧帽弁置換術と比較して弁下の構造を保てることなどから術後の合併症発生率を軽減でき左室機能も維持されると考えられています。当科では形成術を第一選択とし、形成が困難な場合のみ僧帽弁置換術を選択しています。
形成の手技に関しては余剰弁尖を切除し再縫合を行う方法と、人工腱索を再建する方法が主流でありますが、当科では「respect rather than resect」のコンセプトをもとに、人工腱索再建の方法を積極的に施行しています。弁輪拡大予防目的にほぼ全例に人工弁輪を使用しています。
日本循環器学会から弁膜症治療のガイドラインが発行されており、ガイドラインに基づいた治療を提供しています。
http://j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2020_Izumi_Eishi.pdf

 

文責 柚原 悟史

sutureless AVR

縫合結紮が少ない 外科的大動脈弁置換術 sutureless AVR

経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)用生体弁の技術とこれまで使用されてきた生体弁技術の融合により誕生したINTUITY Elite(エドワーズライフサイエンス株式会社)の施設認定を受けており、解剖学的に条件を満たしている患者様に対してはより低侵襲に大動脈弁置換が施行できるようになりました。

提供:エドワーズライフサイエンス(株)

慢性血栓塞栓性肺高血圧症に対する肺動脈血栓内膜摘除術

1. 病気について
 慢性血栓塞栓性肺高血圧症は、肺動脈に器質化血栓による閉塞や狭窄性病変が形成されて、肺高血圧になる病気です。本症の原因については不明な点が多いのですが、下肢や骨盤内の深部静脈に形成された血栓が反復性に遊離して、肺動脈内で溶解しないで陳旧化することが主な原因と考えられています。

 本症における肺血栓は、急性期にみられる柔らかな赤色血栓と違い、淡白色で肺動脈壁に固く付着し器質化した血栓です。慢性血栓塞栓性肺高血圧症では、このような器質化血栓のために肺血管床(酸素と二酸化炭素を交換できる面積)が著しく減少し、肺動脈平均圧が25mmHg以上となる肺高血圧、右心室の肥大・拡張、右心不全をきたします。

2. 症状・診断
慢性血栓塞栓性肺高血圧症では、労作時の息切れ、疲れ易さが主な症状であり、また胸痛、咳、失神なども見られ、特に肺出血や肺梗塞を合併すると血痰や発熱を来すこともあります。肺高血圧の合併により右心不全症状をきたすと、お腹や下肢のむくみ、体重増加などが見られます。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症の診断には、肺動脈造影検査、肺換気血流シンチグラフィなどの専門的な複数の検査が必要であり、名古屋大学では、循環器内科肺高血圧治療グループとともに精査・治療方針の検討を進めます。

3. 治療
 慢性血栓塞栓性肺高血圧症は、治療困難な指定難病とされていますが、肺動脈中枢側に病変を認める場合は、第一選択として手術:肺動脈血栓内膜摘除術が推奨されます。一方、病変が肺動脈の細い枝に限局している場合は、バルーンによるカテーテル治療(BPA)を選択しますが、内科的治療では肺動脈血栓内膜摘除術のような根治は難しい現状です。

肺動脈血栓内膜摘除術は、器質化した血栓を肺動脈内膜とともに剥離し、摘除する手術です。手術によって、自覚症状や肺血流を改善する効果は非常に大きく、その後の日常生活改善が期待できます。患者さんそれぞれの体力や併存疾患、病変の形状などにより、手術の効果や危険性等を検討の上、手術適応を判断します。
 
・肺動脈血栓内膜摘除術の手術について
全身麻酔下に、胸の正中で開創し、自分の心臓と肺を代行する人工心肺装置を装着して手術を行います。肺動脈内の無血視野を得るために、人工心肺で体温を下げ低体温間欠的循環停止法を併用します。この循環停止中に肺動脈を切開し、肺動脈内の血栓を区域枝から亜区域枝にかけて、内膜ごと器質化血栓を剥離し摘除します。開通した肺動脈の枝には、肺循環再開後すぐに直接血流が流入し、肺動脈における酸素交換可能な面積の増大が得られます。心臓と肺の血流バランスを調整しながら人工心肺の機械を外し、胸の創を縫合して終了します。

治療経過の目安として、術前は2週間ほど前に入院し、術直前の検査や薬剤調整を行います。手術後は、数日間集中治療室で加療し、一般病棟に移動後3-4週間積極的にリハビリ等を行いつつ、術後のエコー検査やカテーテル検査で改善効果を判定します。
術後は、多くの方において、酸素療法や肺高血圧治療薬からの離脱が可能となり、積極的な日常生活を送って頂けるようになっています。

国内でも限られた施設で施行可能な手術ですので、治療を必要とされる方は当科まで御連絡ください。

・肺動脈造影検査:【術前】矢印:主な狭窄や閉塞病変部位

 

 

 

 


【術後】矢印部分の血流改善を認める

 

 

摘出した肺動脈血栓内膜

文責 寺澤幸枝 (診療のお問合せは寺澤まで)

名大病院でのCABG


【はじめに】
当院は心臓外科医が24時間常駐しており、冠動脈疾患に関わらず弁膜症や大動脈疾患の緊急手術を受け入れる体制が充実しています。治療方針の決定に際しては心臓外科、循環器内科などの多職種から構成されるハートチームでの協議によって、患者様の状態に合った最適な治療法を提供させていただいております。

【冠動脈バイパス術 CABG:coronary artery bypass grafting】
CABGは冠動脈の狭窄や閉塞により引き起こされる狭心症や心筋梗塞に対して行われる手術です。また当院は、冠動脈瘤や冠動脈起始異常に対する外科治療の経験もあります。
冠動脈疾患や、その一般的な治療法の詳細に関しては、日本胸部外科学会ホームページに記載されておりますので、ご参照ください。
http://www.jpats.org/modules/general/index.php?content_id=12#3

【カテーテル治療とCABG】
 冠動脈疾患の侵襲的治療にはカテーテル治療とCABGがあります。それぞれの治療を受けることによる利益とリスクを考慮し、患者さまの状態に合わせた治療選択が必要です。治療指針の基盤となる現在の日本のガイドラインは、冠動脈病変の重症度と糖尿病の合併の有無により層別化して推奨クラスが決定されています。
 カテーテル治療は冠動脈狭窄部位にステントを留置する治療ですが、治療後の再狭窄が問題になっていました。特に左冠動脈主幹部や近位部の場合、CABGの方がカテーテル治療より生命予後は良好で、術後心筋梗塞発症率が低いことが報告されていました。近年ではステントの改良などにより、適切に適応を決定すれば術後5年間に限ってはCABGとPCIの成績は同等であるとの報告もあります。しかし糖尿病を罹患されている、または冠動脈多枝病変や複雑病変を伴う患者さまでは、いまだにCABGの方が術後の成績に優れているのが現状です。2012年に天皇陛下(現上皇)が二枝病変であり、PCIの適応でもありましたが、CABGを受けられたことの理由の一つに「公務に早く復帰するため」と報道されていたことには、こういった背景があります。
 治療の目標、治療が含有する潜在的なリスク、患者さまの状態やご意向などから総合的に判断してハートチームの協議により治療方針を決定しております。
【当院のCABGの特徴】
①人工心肺の使用について
 CABGは人工心肺という装置を使用して心臓を停止させて吻合する方法が一般的でしたが、外科医の技術や手術器具の改良に伴い、1990年台後半から人工心肺を使用せず心臓を拍動させたまま吻合する手術(オフポンプCABG)が普及しています。心臓を拍動させたまま吻合するため手術の技術的難易度は上がり、オフポンプCABGは欧州や北米ではCABG全体の約20%程度にとどまりまる一方、日本では約60%に行われている現状は、日本の心臓外科の技術力の高さを裏付けています。
 人工心肺の使用により、全身に炎症が生じることによる体内の臓器機能の低下や免疫力の低下、上行大動脈の操作に伴う脳梗塞、凝固因子の消費による出血傾向などの合併症が懸念されます。よってハイリスク症例と呼ばれる上行大動脈や頸動脈に高度粥状硬化病変を有し脳梗塞の危険の高い症例(図1)、低肺機能(図2)、腎機能不全、80歳以上の超高齢者などにはオフポンプCABGが良い適応とされます。実際オフポンプCABGでは、このようなハイリスク症例の早期死亡リスクが低く、脳梗塞や術後腎機能障害を減少させることが確認されています。
 その一方で、冠動脈の直径が著しく細い場合には吻合の精度が低下し、心表面の脂肪の深い部分や心筋内に走行している冠動脈は拍動したまま探すことが困難であり、低心機能や高度弁膜症を有する場合には、吻合のために心臓を脱転することで全身の循環が維持できなくなる危険があります。つまり手術方法には一長一短があり、患者さまの状態に合わせて適切な方法を選択することが重要です。
 当院では、術前に全身精査を厳格に行い、人工心肺を使用することに問題のない患者さまには、吻合の精度高めるため人工心肺を使用して吻合する方法を第一選択としています。また上述したように、人工心肺を使用することで危険性が増加する患者さまにはオフポンプCABGを積極的に行っております。
②グラフトの選択について
 冠動脈に吻合する血管のことをグラフトといいます。一般に動脈グラフトの方が静脈グラフトに比べて、長期開存性に優れているとされます。使用可能なグラフトとして、内胸動脈、橈骨動脈、右胃大網動脈、大伏在静脈があります。
 どのグラフトを冠動脈のどの部位に吻合するかは、施設により治療方針は様々です。または冠動脈の狭窄度の度合は、術後のグラフト開存性に影響を与えます。
 この中で左前下行枝に対する左内胸動脈の使用は、15年を超える超長期にわたる経過観察期間でも開存率が90%以上と安定した成績が世界各施設から報告され、当院でも第一選択としています。左回旋枝領域には、右内胸動脈を積極的に使用する方針としています。左心系のバイパスに長期開存性が期待できる内胸動脈を使用することで生命予後が改善すること、中枢吻合が不要であることから上行大動脈操作に伴う脳梗塞の危険を減ずることができることが利点としてあげられます。特に若年者には積極的に動脈グラフトを使用し、長期開存性を期待しています。(図3)その一方で両側内胸動脈の使用は胸骨への血流を低下させ、術後胸骨創感染のリスクを増加させるとされています。内胸動脈の採取には胸骨感染が比較的少ないskeletonized法を用いていますが、糖尿病、女性、BMI(ボディマス指数)が高い患者さまでは、特にそのリスクが高いとされ適応に留意しています。右冠動脈領域のバイパスには、動脈グラフトとして右胃大網動脈を用いています。ただし大動脈と比較してグラフト内圧が20%低いとされる右大網動脈は、冠動脈の狭窄度が低いと血流が競合して閉塞のリスクがあります。よって狭窄度が比較的強い冠動脈に右胃大網動脈を使用しています。動脈グラフトが使用困難な部位には大伏在静脈を使用しています。採取や使用する長さの調節が容易であることからCABGにおいて重宝するグラフトです。一般的に長期開存性が問題とされますが、近年静脈周囲の組織をつけたまま採取する方法や、採取後に静脈を拡張しないことで長期開存性が改善しているとの報告もあり、当院でも採取法には留意しながら使用しています

文責 伊藤英樹

経静脈的リード抜去術


1. 経静脈的リード抜去術とは
ペースメーカーなどの植込型心臓電気デバイス(CIEDs)による治療中に、細菌感染や余剰リードの存在、リード留置静脈の閉塞など様々な理由でリードを取り除かなければならない事象が発生します。一度体内に埋め込まれたリードは、血管内・心臓内で癒着が起こり、留置後1年程度であれば牽引することで抜去できますが、それ以上の期間になると単純には抜けず、留置期間が長くなればなるほど癒着は強固になり抜去が困難になります。従って、こういった場合、十数年ほど前までは開胸心臓手術を行わないと抜けませんでしたが、最近では様々なデバイスを用いて、経静脈的に鎖骨下の本体植込み部位からのアプローチで、開胸心臓手術を行うことなく低侵襲に抜去できるようになってきました。

2. その適応
この治療の判断基準(手術適応)は日本循環器学会・日本不整脈心電学会合同ガイドライン1に従って適応を判断しています。具体的には、菌血症や敗血症を含めたすべての植込型心臓電気デバイス(CIEDs)関連感染症はその適応になります。リードによる留置静脈のトラブルや、リードによる疼痛、留置リードあるいは残存リードによる様々な不具合も抜去の適応になります。本邦では感染に起因することが多いですが、最近では、治療過程で不要になったリードや無機能リードの抜去等リードマネージメントを考慮した経静脈的リード抜去術がその利益とリスクをよく勘案して施行されています。

3. 手術の実際
 ほとんどの症例は全身麻酔で行なっています。局所麻酔で行うこともありますが、癒着の程度が軽いと判断できる、リスクの低い症例に限定しています。パワードシースと言われるエキシマレーザーシース(図1)、回転式ダイレーターシース(図2)を用いて、リード周囲に取り巻く血管内、心臓内の癒着を剥離し、リードを体外に抜去します。また、足の付根(大腿静脈)などから各種スネアカテーテルを(図3)用いてリードを捉えて牽引する抜去法などの血管内操作を行うこともあります。これらの操作はすべてX線透視下に行われます。経静脈的リード抜去術は様々な血管内カテーテル等の操作技術に習熟する必要があります。剥離操作によって血管や心臓を損傷した場合、生命に関わる合併症を発症する可能性のある手術です。
 リード抜去後は必要に応じて再度ペースメーカー等の植込みを行います。心臓再同期療法など、循環器内科と連携してハートチームで治療を行います。

4. 実施施設について
この手技は上述のように技術的難易度が高く、十分な経験がないと手術死亡率が高くなることがわかっているため、特にパワードシースを用いた経静脈的リード抜去術は、日本不整脈心電学会より厳格な施設要件及び、所定の研修を修了するなど医師にも実施要件が設定されており、その要件を満たさないと手術を行うことはできません。
当院では2011年から東海地区では他施設に先駆けて上記のパワードシースを含めた様々なデバイスを用いた経静脈的リード抜去術を行ってきました。当科の治療成績は、海外の報告と遜色ない高い抜去成功率と低い合併症発症率で行なってきており、現在までに大きな出血性合併症の発症や手術死亡例はありません(表1)。今では多くの病院で同様の手術は行われていますが、ほとんどの施設では循環器内科が主導した治療がなされています。しかし、緊急時の対応や開胸手術が必要になることがあることを考えると、一貫した治療が行える我々のような心臓外科主導でこの手術を行うことの方が望ましいと考えています。
全国のリード抜去可能な施設に関しては下記URLをご参照ください。
(https://procomu.jp/leadmanagement/lead_bakkyo.html)

参考文献
1. 日本循環器学会ガイドラインシリーズ 不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)第2章植込み型心臓電気デバイス (CIED) 6. 経皮的リード抜去術 p49-50

エキシマレーザーシース; グライドライト: フィリップス社

回転式第レーターシース; エボリューションRL: クック社

 

.
当院の治療成績と欧米の治療成績の比較

  当院 米国(LExlCon研究) 欧州(ERECTRa研究)
臨床的成功率 97.5% 97.7% 96.7%
主要合併症発症率 1.2% 1.4% 1.7%
手術死亡率 0% 0.5% 0.5%

文責成田裕司



経静脈リード抜去について 診療のお問合せは 心臓外科 成田裕司まで(木曜日外来)

閉塞性肥大型心筋症(HOCM)の手術

1.閉塞性肥大型心筋症とは
肥大型心筋症は心臓の筋肉が不適切に肥大する疾患であり、その中でも特に左室流出路(心臓からの血流の出口部)に狭窄が存在するもの(図1)を閉塞性肥大型心筋症と言います。閉塞性肥大型心筋症の症状には、胸痛・呼吸困難・動悸といった胸部症状と立ちくらみや失神といった脳症状があります。

 


2.治療法
治療法は薬物療法と非薬物治療に大別でき、薬物治療のみで改善されない場合に非薬物治療を検討します。薬物治療は姑息的治療であり、症状を改善する場合もありますが、根本治療とはなりません。
非薬物療法には外科的中隔切除術、経皮的中隔心筋焼灼(PTSMA;カテーテル治療) があります。これら非薬物療法は左室流出路狭窄の原因となっている肥大心筋を縮小させることのできる治療です。外科的中隔切除術は合併する心臓の構造異常を同時に治療でき、治療経験が豊富な施設では,90%以上の症例で左室流出路閉塞が解除され,再発はほとんどみられないとされ1)、外科手術を受けることができる全身状態であれば外科的な中隔心筋切除術が第一選択となります。一方で、PTSMAは,肥大心筋の栄養血管である冠動脈からエタノールを注入し,肥大心筋を菲薄化させる治療です。PTSMAが再度必要となる割合は 5-15%と言われていますが1),低侵襲であるというメリットが挙げられます。
中隔心筋切除術か,PTSMA どちらを行うかの選択は,年齢や病態を総合的に加味し、肥大型心筋症の治療に精通した循環器内科医,心臓外科医, 他の多職種からなるチームにより議論し、ご本人やご家族と相談の上決定します。

 


3. 外科的中隔心筋切除術、当院での手術の特徴
 外科的治療は開胸下で肥大心筋を直接切除することで(図2)左室内閉塞を解除する方法で、確実な効果が期待できる治療です。
切除する心筋の近くを刺激電導路(心臓を収縮させる電気刺激の通り道)が走行しているので、完全房室ブロックといった不整脈が出現し術後ペースメーカー治療が必要となる場合があり、高度な技術と経験を要する治療法です。そのため、ガイドライン上も10例以上の治療経験のある術者により施行することを推奨しています。
当院では2000年か50例以上の経験があり、流出路狭窄の指標である左室流出路圧較差の改善を認めています(図3)。

当院では安全で適切な手術を目指す為、術中エコーを使用したNeedle stick法による心筋切除法(図4)を考案し施行しています。

 


また、閉塞性肥大型心筋症ではその多くで左室流出路狭窄に伴って、流出路に隣り合う僧帽弁が引き込まれ(僧帽弁収縮期前方運動:SAM 図5)僧帽弁逆流症を呈する為、当院では僧帽弁前尖に糸をかけ積極的にSAMを防止するfloating stich法(図6)を施行することで良好な術後成績を収めています。




(参考文献)
1)日本循環器学会 心筋症診療ガイドライン (2018年改訂版)
2)Masato Mutsuga, MD, PhD, Yuji Narita, MD, PhD, and Akihiko Usui, MD, PhD
A Floating Stitch on the Anterior Mitral Leaflet Can Eliminate Systolic Anterior Motion in Hypertrophic Obstructive Cardiomyopathy. Semin Thoracic Surg 32:266–268
3)Akihiko Usui, MD, Yoshimori Araki, MD, Hideki Oshima, MD, and Yuichi Ueda, MD
A Needle Stick Technique for Septal Myectomy for Hypertrophic Obstructive Cardiomyopathy. Ann Thorac Surg 2013;95:726–8

 

文責 碓氷礼奈

慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)に対する肺動脈拡張術(BPA)

CTEPH: Chronic thromboembolic pulmonary hypertension
BPA: Balloon pulmonary angioplasty


適切な抗凝固療法(血液をサラサラにする治療)を行っても肺動脈に器質化血栓(組織と一体化した血栓)が残存し、息切れなどの症状が残っている患者さんはCTEPD(Chronic thromboembolic pulmonary disease)と診断されます。その中でも残存している血栓が多く、肺高血圧症を合併している状態を特にCTEPHと呼びます。本邦では特定疾患治療研究事業(いわゆる難病)に指定されています。
CTEPHの治療は①外科手術(血栓内膜摘除術)、②カテーテル治療(BPA)、③薬物治療に大きく分かれます。これまで血栓内膜摘除術の適応外の場合、薬物治療しかなく、生命予後は非常に悪いものでした。しかし近年、BPAの発達によりそのような方の予後は飛躍的に改善してきています(図1)。当院でもCTEPHに対してカテーテル治療(BPA)を積極的に行っています。しかしCTEPHは外科手術の適応判断がとても重要です。外科手術の効果は劇的であり、適応があるのであれば外科手術に勝るものではありません。一方で、外科手術の適応判断はとても難しいため、当院では循環器内科の肺高血圧チームと心臓血管外科が連携をして各患者にとって適切な治療方針を判断しています。この合議の結果、外科手術が適応外となった方にBPAを行います。その他にも外科手術前の状態が非常に悪くその状態改善のためや手術後の残存した肺高血圧症に対して行うこともあります(図2)。
このBPAという治療は外科手術と異なり、1回で終わるものではありません。安全のため複数回(およそ4~5回)に分けて治療を行います。治療ゴールは自覚症状と肺動脈圧の十分な低下を確認し、長期生存を可能とする状態を目指していますが、年齢や状態に応じて、治療ゴールを決め、ひとりひとりの患者さんに適した目標を定め、過度な治療をしないよう努めています。
さらに我々は国内外での様々な研究にも積極的に参加し、さらに安全で効果的なBPA治療を目指して研究活動も行っております。
慢性的な息切れ症状がある方、心エコーで三尖弁の圧格差が40mmHg以上ある場合にはCTEPHが隠れている可能性がありますので、いつでも当院にご紹介ください。
 
文責 足立史郎(本疾患の紹介受診はこちらまで)

図1 BPA治療前後の肺動脈の血流の違い
左:BPA前であり、血流が途絶えています。
右:BPA後の血流です。末梢までくまなく血管が見えるようになっています。


図2 CTEPHの治療方針
適切な診断および薬物治療を行います。高額な治療となるため難病の申請を行います。その後CTEPHチームで治療方針を決定します。

図3 BPA時の様子
医師(肺高血圧専従医師)、診療工学技士、看護師、臨床放射線技師それぞれが役割を持ち、協力して治療を行います。

Pre-BAV(TAVI中の前拡張)について②


以前にPre-BAVについての記事をアップしていますが、その後2つのランダム化試験が出ましたのでご紹介します。

●DIRECT trial (参考文献①)
自己拡張型生体弁(CoreValve、Evolut R、Evolut Pro)によるTAVIにおいて、pre-BAV群とno-BAV群での成績を比較した、ランダム化比較試験です。No-BAV群の非劣性を検証しています。

主要評価項目:デバイス成功率で、VARC-2基準(手技関連死亡のないこと、一つの弁を適切な位置に留置すること、patient prosthesis mismatchやmoderate以上のARがないこと)と、VARC-1基準(アクセス・デリバリー・留置・抜去の成功、適切な位置に留置すること、AVA>1.2cm2かつmean PG<20mmHg or peak V<3 m/sかつmoderate以上のARがないこと、1つの弁のみの留置であること)による評価がされています。
第二評価項目:30日での脳卒中、ペースメーカー留置、血管合併症です。

Pre-BAVのサイズは弁輪短径に基づいて決めることが推奨されています。

結果:
86人がpre-BAV群、85人がno-BAV群に割り付けられました。留置された自己拡張型弁の割合は、CoreValve 11.7%、Evolut R 83.6%、Evolut Pro 4.7%でした。Pre-BAVのサイズは平均20mmで、バルーン径と弁輪短径の比率は平均1.02でした。後拡張(post-balloon dilation)を行ったのはno-BAV群29%、pre-BAV群15%で、no-BAV群で有意に多かったです。
VARC-2基準によるデバイス成功率はno-BAV群76.5%、pre-BAV群74.4%で、no-BAV群の非劣勢が証明されました。VARC-1基準でも同様で、no-BAV群88.2%、pre-BAV群87.2%で、no-BAV群の非劣勢が示されました。
第二評価項目である30日イベントも、それぞれ両群で有意差を認めませんでした。脳卒中はno-BAV群で1名のみ、ペースメーカー留置はno-BAV群で32.8%、pre-BAV群で27.5%でした。
TAVI前のA弁弁口面積<0.6cm2の患者におけるサブ解析では、pre-BAV群で成功率が高い傾向にありましたが、統計学的有意差は認めませんでした(no-BAV群65%、pre-BAV群79.4%、p=0.20)。
moderate以上のARの発生率も両群間で有意差を認めませんでした。

結論:
自己拡張型生体弁(CoreValve、Evolut R、Evolut Pro)によるTAVIにおいて、Pre-BAVを行わないことは、pre-BAVありと比較してデバイス成功に関して非劣性でした。Pre-BAV群では後拡張の頻度が少なかったです。


●DIRECTAVI trial (参考文献②)
バルーン拡張型生体弁(Sapien3)によるTAVIにおいて、pre-BAV群とno-BAV群の成績を比較したランダム化比較試験です。No-BAV群の非劣性を検証しています。

主要評価項目:72時間でのVARC-2と、patient prosthesis mismatchを除いたVARC-1基準によるデバイス成功。
第二評価項目:手技的結果(手技時間、放射線被爆量、造影剤使用量)、後拡張の頻度、入院期間、臨床イベント(1か月での全死亡、脳卒中、major出血、AKI stage2-3、ペースメーカー留置)。

Pre-BAVのサイズは、CT計測による弁輪径に基づいたメーカー推奨に沿って20/23/25mmのいずれかで行われました。

結果:
115人がPre-BAV群、121人がno-BAV群にエンロールされました。平均年齢は83歳、女性は45%でした。経大腿動脈アプローチで行われたのが89.8%で、残りの10.2%は経頸動脈でした。No-BAV群において、弁不通過のためにpre-BAVを要したのが3人(2.5%)、その他の理由でpre-BAVを行ったのが4人(3.3%)で、計7人(5.8%)でpre-BAVを要しました。
VARC-2基準によるデバイス成功率はno-BAV群80.2%、pre-BAV群75.7%で、no-BAV群は非劣性でした。Patient prosthesis mismatchを除いたVARC-1基準によるデバイス成功率はno-BAV群95.9%、pre-BAV群94.7%で、こちらも非劣性でした。
第二評価項目である後拡張の頻度、造影剤量、手技時間、透視線量、全死亡、脳卒中などすべての項目で2群間に有意差を認めませんでした。

結論:
バルーン拡張型生体弁Sapien3によるTAVIにおいて、pre-BAVを行わないことはpre-BAVありと比較してデバイス成功率に関して非劣性でした。後拡張の頻度や手技時間、脳卒中の発生頻度なども両群で有意差を認めませんでした。

●当院で留意していること
元来pre-BAVは、TAVI弁の通過や十分な拡張を目的として行われてきました。一方pre-BAVを行うことで弁輪破裂・脳梗塞・ARやrapid pacingによる血行動態の破綻といったリスクがあると言われてきました。
2つの試験の結果から、CoreValveシリーズおよびSapien3を用いたTAVIにおいて、ルーチンでのpre-BAVは不要な可能性が示されました。これはTAVIデバイスの進化によるところが大きいです。
DIRECT trialの結果から、CoreValveシリーズを用いたTAVIでは、ダイレクトで弁を留置した場合に後拡張を必要とする可能性が高くなりそうです。
またDIRECTAVI trialの結果からは、Sapien3を用いたTAVIでは、ダイレクトで弁を留置した場合でも、後拡張の頻度を含めてpre-BAVを行った場合と成績に差を認めませんでしたが、少数の症例でpre-BAVを必要としました。

2つのtrialでの後拡張の頻度の差は、自己拡張型かバルーン拡張型かといった違いの影響がありそうです。また大動脈弁の石灰化が高度な症例や狭窄が強い症例ではpre-BAVが必要となる可能性があります。
これらの試験の結果も踏まえて、当院ではルーチンでのpre-BAVは行っていませんが、症例によってはpre-BAVを行うことを検討します。具体的にはAVA≦0.6cm2、AV V max≧5m/s、AV mean PG≧60mmHgといった超重症AS、石灰化が高度な場合、二尖弁などです。またhorizontal aortaではデバイス通過困難が予想される場合があるのでpre-BAVを考慮します。Pre-BAVを行う場合は安全性に留意して、弁輪短径を超えないサイズを選択することが多いです。

参考文献
① Toutouzas K, et al. JACC Cardiovasc Interv. 2019 Apr 22;12(8):767-777
② Leclercq F, et al. JACC Cardiovasc Interv. 2020 Mar 9;13(5):594-602


(文責 戸部彰洋)

TAVI後の抗血栓療法(について(抗凝血療法)4 -アップデート 2021.5- ~DAPT vs SAPT~


「TAVI後の抗血栓療法について①」でDAPTとSAPTについて記載しました。今回はそのアップデート版として、2020年に発表されたPOPular TAVI trial cohort A(参考文献①)についてご紹介します。
POPular TAVI trial cohort Aは、TAVI後の抗血栓療法としてSAPTとDAPTのどちらが優れているのかを検証したランダム化比較試験です。
(尚、この記事の2021年5月現在は、日本のガイドライン並びに添付文書は、まだDAPTが標準になっています。参考文献②)

対象患者:
TAVIを受ける予定で、抗凝固薬の適応となる疾患のない重症AS患者。

プロトコール:
SAPT群はアスピリン単剤を継続。DAPT群はアスピリンとクロピドグレルをTAVI後3か月間内服し、その後はアスピリンのみを継続。

評価項目:
第一評価項目(2つ)・・・12か月間の全出血と非手技関連出血。
※この出血の定義は少しややこしいので、この記事の最後に注釈として載せておきます。

第二評価項目①・・・12か月間の心血管死、非手技関連出血、脳卒中、心筋梗塞の複合エンドポイント

第二評価項目②・・・12か月間の心血管死、虚血性脳卒中、心筋梗塞の複合エンドポイント

結果:
SAPT群に331人、DAPT群に334人が割り付けられました。年齢は80±6歳、49%が女性でした。94%でTrans femoral-TAVIが行われました。Sapien 3が45%に、Corevalve Evolut R/Proが37%に留置されました。

第一評価項目である全出血はSAPT群の15%、DAPT群の27%に認め、SAPT群で有意に少ない結果でした。出血イベントの過半数がアクセス部位関連でした。手技関連出血 (=BARC type 4) はSAPT群で認めず、DAPT群では1.8%に認めました。全出血のうち、特にmajorおよびminor 出血がSAPT群で少ない結果でした。

第二評価項目①はSAPT群の23%に、DAPT群の31%に認めました。これについてSAPT群はDAPT群に対して非劣性であり、優位性も示されました。

第二評価項目②はSAPT群の9.7%に、DAPT群の9.9%に認め、SAPT群のDAPT群に対する非劣性が示されました。

虚血性脳卒中、脳出血、症候性弁血栓症、弁圧較差上昇について2群間で有意差を認めませんでした。

●当院で留意していること
POPuler TAVI cohort Aの結果は、「TAVI後のSAPTはDAPTと比較して、出血イベントを減らすが血栓性イベントは増やさない」というものでした。これまでも観察研究を中心とするメタアナリシスの結果などから、ここ最近はそのような論調に傾いてきていましたが、今回の比較的大きなRCTの結果を受けて、今後日本でもガイドラインが改定されるかもしれません。尚、アメリカのガイドラインでは、すでにSAPTがDAPTより推奨度が上となっています(参考文献③)。当院では患者さんの背景や既往などを考慮して、最適な抗血栓療法を選択するよう努めています。


参考文献
① Brouwer J, et al. N Engl J Med. 2020 Oct 8;383(15):1447-1457
② 泉知里ら. 日本循環器学会/日本胸部外科学会/日本血管外科学会/日本心臓血管外科学会 2020年改訂版弁膜症治療のガイドライン
③ Otto CM, et al. Ciculation. 2021 Feb 2;143(5):e72-e227


※注釈
全出血はVARC-2基準のmajor/minor/life-threatening or disabling、そして後述の手技関連出血と非手技関連出血の全てを含みます。非手技関連出血の定義は少しややこしいです。VARC-2基準では手技関連と非手技関連の区別がないため、まず手技関連出血をBARC type 4 (術後48h以内の頭蓋内出血、胸骨閉鎖後の出血管理目的の再手術、48h以内の5単位以上の輸血、24時間以内の胸腔ドレンからの2L以上の出血)と定義します。非手技関連出血は全出血から手技関連出血(BARC type 4)を除いたものですが、TAVI穿刺部の出血のほとんどがBARC type 4の基準を満たさないので、これら(穿刺部出血)は非手技関連出血に含まれます。手技関連出血(=BARC type 4)は全出血の中に自動的に含まれます(非手技関連出血も全出血に含まれます)。


(文責 戸部彰洋)

名大病院TAVI標準的手順書 バルン拡張型弁(医療従事者向け)


当院ハートチームではハイブリッド手術室で行う 血管内治療全例で個々の例に応じた手順書を事前作成しチーム内で共有しています。

以下はバルン拡張型TAVI弁の 標準的留置手順書の例です

(免責事項 あらゆる医療手技は実施医師の個別の責任のもと実施されてください)



典型的手術手順  <Sapien3>
1. DCパッド装着 右肘ならびに左肘はBA穿刺部をマークし外反位置で穴コン消毒他型通り消毒。
2. 左鼠径FV, FA puncture。FV 6Fr long (for Pacemaker)穿刺いったん仮固定 左FA6Fr穿刺固定
3. アクセス側 puncture。FV穿刺、シースは入れずワイヤーのみの状態で、FA穿刺へ。エコー下にpuncture 6Frのシースを入れる。FVの6Fr longシースも挿入する。メスでカットした上でFAのシース周囲を十分剥離する。その上でproglideを2本かける。1本めは正面で、2本めはやや角度をずらしてかける。proglideの糸は閉めずに結び目の部分は外に出して固定しておく。2本掛けたあと9Frシースを挿入する。
4. パッケージ開けてDevice準備開始 
5. (穿刺成功後) ヘパリン投与 (ACT測定)
6. 左FVからAPにてtemporary pacingをRV apexに留置 閾値確認。 動かないように固定 布かけ slight inflation.(1ml;回収時にはdeflateする)
7. 造影Pigtailを大動脈基部に送る Pigtailアシスト接続 
8. 予測Perpendicular View <厳密に術前計測しておく>15ml/s /10mlでrapid pacing下に基部造影 この段階で石灰化との弁輪部との位置関係 弁輪部とバックグラウンドの情報の関係を確認
9. メインアクセス、0.035radifocus(RF)とJR4を進め、遠位上行に留置。RFは抜きそれを介してe-sheathを入れるためのstiff wireとしてAmplazer Extra stiff (AES) を留置(最近はエゴイストを使用) 
10. 内筒付き14Fr e Sheathを奥まで留置 内筒抜去
11. AESはJR4を介して抜き、JR4を上行に留置 透視をperpendicular viewとして、 0.035 straight wire(J-coil wire) +JR4でA弁通過 (2nd option AL2.0)
12. 通過したら直ちにRAO30度としてstraight wireはLV midまで進める 
13. そこまで行ったところで少し clockwiseにしながらJR4を落とし込む straight wire を抜く
14. (省略可能)JR4を介して、J-tip wire(dual flexの反対) を入れる LAOに振り直して前乳頭筋の方向 画面右へGWが行っていないか再確認する その後またRAO30に戻す  AESを介してpig tailを進め左室内に座らせる pigtailを使用の場合は RAO30にてわりと基部よりで6の字が正面視できてる形が良い )
15. Safari stiff wire XSを進める LV内に座るSafari GWの安定確認 TEEでGW確認MR悪化なしか確認
16. Safariの安定しつつあるすこし前ころにTHVのCrimp
17. <BAV > Perpendicular View血行動態を確認  BAV balloonは陰圧をかけてからシースに入れないと抵抗が強い BAV balloon 16cc for 20mm <BAVは特に石灰化が強い場合(bulky cusp)あるいは5m/sを超えるようなcritical stenosisの場合に考慮>
18. BAV前にPigtailはSTJ上に引く Rapid pacing下に BAVを施行。full inflation後に造影 5ml/s /10ml 冠動脈の状況 石灰化の挙動などを確認 TEEと造影見返し。
19. 再びPigtailを弁上まで進めてマーキングとする
20. Wire先端確認しTHV Delivery system進めるロゴマーク上フラッシュポート向こう。 AP view。  
21. <弁アラインメント>下行大動脈でTHVを正対視する角度<CRA20度 ただし伸び方次第>にて弁アラインメント。アラインメントポジション(unlock-シャフトを1本線まで引き戻し-忘れずlock)+ダイヤル微調整(さらにシャフトを引き戻す=反時計回し)を行う GWが抜けうるので先端注視 この作業時 助手が必ずGWを保持する(画面内にLV)。
22. Flexホイール回しつつ 大動脈弓を通過 <角度 弓部角度LAO45度> ノーズコーン通過する前に一旦停止ノーズコーン通過する前に Perpendicular viewに。 通過しない場合の対応→flexを調整、Wireをセンターへ(少し引く) counterに手前に回す (とより後ろ向きになろう)
23. 血行動態確認(PM、呼吸器準備確認)し THV通過 そしてフレックスCathをトリプルマーカー中央部まで引き戻し(unlock-引き戻し-lock) この作業で若干LV側に落ち込むので位置調整 忘れずGWがCoaxialとなるように調整  弁尖石灰化よりTHV上端が上にあること確認 トリプルマーカー(シース),シースのロック, coaxialty, GW, PM,
Coaxial維持が重要 THV clockwiseに回したり  GW押しを緩めたりして調整
24. 基部造影を施行 短期間のrapid pacing下に行う 造影5/10 マーカーで位置調整<弁輪 センターマーカー下縁やや下で> Pigtailは位置決め後STJに引く  ここで完璧に位置決めする 
25. <THV deploy> Rapid pacing下にTHV deploy. rapid pacing HR180 BP下りつつあるときに造影5/10 (これで位置が違えば位置を動かしそのままdeployするのではなくて いったんdeployを中止する)  さがりきった降圧確認 麻酔科は血圧下がりましたどうぞと言う  そのままslow inflation(2ml程度だけ入れる) 弁はいったんわずかに頭側に持ち上がり(バルーンの影響で)そして固定されLV側が短縮していく挙動  調節しつつ full deploy.  full deploy後 5秒数えてdeflateしpacing off.  <6atmに達しないようにが望ましい>
26. Wire保持してすぐにDeviceを引く GWを中央に持ってきてTEE確認。ARはある程度容認する。
27. device回収決定 Systemをde-flex  シースに入れる前にデフォルトPositionに。 デフォルトポジションでdeviceを抜去
28. Pigtailを入れそれを介してSafariをLVから抜去。
29. Safariを抜いたらe-sheath抜去のため カテを介してAESを入れておく
30. 最終基部造影 deviceの上縁に接する位置までpigtailを下げ 十分な造影効果が得られる位置をもって造影5/10(USでcoaxialにしてもリーク多いような場合はTHVを回収前 GWを左室に残したまま造影する)
31. AESが入ったらGW交換のカテは抜き AES越しにe-sheathに忘れずダイレーター内筒を入れいれたまま抜去
32. 一人が圧迫をしながらproglide1本目を引っ張るのみで締める、それにて締り具合を確認。良さそうであればAESを抜去し、その上で、ploglideをプッシャーを使用し最後まで締める。もし止血が悪ければ、2本目を締める。2本目を締めても止血が悪い場合は、シースを挿入Angiosealの追加も考慮。圧迫追加。プロタミン投与。メインの止血に目処が立てば対側もプログライド使用し止血、圧迫
33. 手術終了

 

TAVI術前CT検査で偶発的に見つかる心血管外の異常所見(Incidental Findings)について

安全かつ正確にTAVIを行ううえで、術前の造影CTは必須の検査と言えます。造影CTは大動脈弁周囲、アクセス血管や冠動脈を評価する目的で行われますが、TAVIを受けられる患者さんのほとんどが高齢であることも影響して、心血管外に意図せずして異常所見が見つかることがあります。このような偶発的に見つかる所見をIncidental Findings (IFs)と呼びます。当院のTAVI候補患者さんを対象に、IFsの頻度やその影響を調べました(参考文献)。

●方法
対象:TAVI候補患者さんとして当院でTAVI-CTを撮影した257名。
Incidental Findingsの評価方法:放射線科医の作成した読影レポートを基に、次の3つに分類
1) insignificant(重要でない);さらなる精査・治療・フォローアップを必要としない所見
 例;肺炎症性変化、腎嚢胞、肝嚢胞、etc
2) intermediate(中間);フォローアップを必要としたり、さらなる精査が考慮されるが、TAVIの計画には影響を与えない所見
 例;肺陰影(要経過観察)、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)、etc
3) significant(重要);早急な精査を必要としたり、TAVIの計画に影響を与える所見
 例;肝臓癌の疑い、etc

●結果
なんらかのIFを認めたのは254/257人(98.8%)で、ほぼ全例でした。insignificant / intermediate / significant IFsが指摘された患者さんの割合はそれぞれ98.4% / 59.5% / 13.2%でした。significant IFsが指摘された34名(13.2%)を詳しくみてみると、新規で指摘された所見だったのが19名で、既知の所見だったのが15名でした。新規に指摘された19名のうち、精査の結果悪性疾患の確定診断あるいは強い疑いとなった方は6名でした。そのうちの2名(全体の0.8%)の患者さんにおいて、悪性疾患による予後が厳しいことから、TAVIも中止となりました。

●当院で留意していること
TAVI治療後の患者さんの最大の死因は非心臓死という報告があります。つまりTAVIを受けられる患者さんにおいて、治療対象である心臓だけでなく、それ以外を含めた全身を包括的に見た上で治療を考えていく必要があると言えます。またTAVIの適応が若年患者さんへと拡大しており、いっそうIFsに注意する必要がありそうです。本検討では、TAVI施行患者さんにおいて、心血管外の異常所見が偶発的に見つかることが、決して稀ではなく、むしろ頻度が高いことが示されました。
 当院ではTAVI術前CT画像を画像の専門である放射線科医を含めた複数の医師でチェックし、見落としがないように気を付けています。また重大な所見の指摘があった場合には、総合病院という強みを生かし、各専門科に相談し適切な対応をするよう心がけています。

参考文献
Tobe A, et al. Heart Vessels. 2021 Jun 3.

文責 戸部彰洋

旧 心臓外科教授からのご挨拶 

ご挨拶

◆メッセージ
 私たちの教室では、冠動脈バイパス術や心臓弁膜症に対する外科治療などの後天性心疾患に対する手術と、成人先天性心疾患に対する手術、および胸部・胸腹部大動脈に対する手術を中心に外科治療を行っています。22の関連病院と連携し、重症心疾患や胸部・胸腹部大動脈に対する手術症例を大学に集中させ、名古屋地区の心臓・大血管領域の外科治療の最終治療施設としての重責を担っています。
 冠動脈バイパス術や心臓弁膜症の治療は循環器科と合同のハートチームを形成し治療方針を決めています。胸部・胸腹部大動脈瘤に対する治療は開胸手術、ステント治療およびそれぞれを組み合わせたハイブリッド治療を血管外科と合同の大動脈チームを形成し施行しています。
 大動脈弁狭窄症手術困難例に対する弁膜症カテーテル治療は、2016年から施行しています。心臓移植を最終治療とする重症心不全診療は東海地区は東京・大阪に比べ大きく遅れていましたが、2013年に植込型補助人工心臓治療を開始し、2017年からは心臓移植治療を行っています。
 心臓外科は高齢化人口の増加に従い、今後ますます手術数の増加が予想され、発展しなくてはならない診療科です。多くの領域で治療方針が刷新され、治療方針のパラダイムシフトが起こっています。教室には明日の心臓・大血管外科を担う若い力が必要です。心臓・大血管外科に興味を持つあなたの参集を待っています。

 

名古屋大学大学院医学系研究科 心臓外科学 教授  碓氷章彦

 


◆役職・所属等
【所属学会・役職】
H16年~ 日本胸部外科学会 評議員
H23年 日本胸部外科学会 幹事
H25年 日本胸部外科学会 理事
H24年~ 日本外科学会 代議員
H30年~日本外科学会 理事
H 9年~ 日本人工臓器学会 評議員

H24年~ 日本心臓血管外科学会 評議員
H30年~日本心臓血管外科学会 理事
H16年~ 日本循環器学会東海支部 評議員
H28年~日本循環器学会 評議員
H24年~ 日本不整脈学会 評議員
H25年~ 日本冠動脈外科学会 評議員 
H28年~日本冠動脈外科学会 理事
H28年~ 日本血管外科学会 評議員
H15年~ Society for Thoracic Surgeon(International Member)
H16年~ The Asian Society for Cardiovascular and Thoracic Surgery

【資格】
H16年 心臓血管外科専門医
H22年 心臓血管外科修練指導医
H10年 日本胸部外科学会指導医
H8年 外科専門医
H22年 日本外科学会指導医
H23年 植込型補助人工心臓実施医
H23年 植込み型除細動器/ペーシングによる心不全治療実施医
H16年 臨床修練指導医
H25年 不整脈専門医
◆略歴
1981年 名古屋大学医学部卒業
1981年 大垣市民病院研修医
1982年 大垣市民病院外科医員
1985年 名古屋大学大学院医学研究科胸部外科・大学院生
1987年 Toronto General Hospital、Clinical fellow
1989年 名古屋大学大学院医学研究科胸部外科・大学院生復学
1991年 愛知県立尾張病院心臓血管外科医長
1996年 名古屋大学医学部助手 (胸部外科)
2001年 名古屋大学大学院医学系研究科助教授(心臓外科学)
2002年 文部科学省長期在外研究員 トロント大学、ベルリン心臓センター留学
2007年 名古屋大学大学院医学系研究科准教授(心臓外科学)
2012年 名古屋大学大学院医学系研究科教授(心臓外科学)

 

 


心臓外科教授からのご挨拶

ご挨拶

◆メッセージ
 私たちの教室では、冠動脈バイパス術や心臓弁膜症に対する外科治療などの後天性心疾患に対する手術と、成人先天性心疾患に対する手術、および胸部・胸腹部大動脈に対する手術を中心に外科治療を行っています。22の関連病院と連携し、重症心疾患や胸部・胸腹部大動脈に対する手術症例を大学に集中させ、名古屋地区の心臓・大血管領域の外科治療の最終治療施設としての重責を担っています。
 冠動脈バイパス術や心臓弁膜症の治療は循環器科と合同のハートチームを形成し治療方針を決めています。胸部・胸腹部大動脈瘤に対する治療は開胸手術、ステント治療およびそれぞれを組み合わせたハイブリッド治療を血管外科と合同の大動脈チームを形成し施行しています。
 大動脈弁狭窄症手術困難例に対する弁膜症カテーテル治療は、2016年から施行しています。心臓移植を最終治療とする重症心不全診療は東海地区は東京・大阪に比べ大きく遅れていましたが、2013年に植込型補助人工心臓治療を開始し、2017年からは心臓移植治療を行っています。
 心臓外科は高齢化人口の増加に従い、今後ますます手術数の増加が予想され、発展しなくてはならない診療科です。多くの領域で治療方針が刷新され、治療方針のパラダイムシフトが起こっています。教室には明日の心臓・大血管外科を担う若い力が必要です。心臓・大血管外科に興味を持つあなたの参集を待っています。

 

名古屋大学大学院医学系研究科 心臓外科学 教授  碓氷章彦

 

 


Valve in Valve TAVI:人工弁の中に入れるTAVI

Valve in Valve TAVI:人工弁の中に留置するTAVIについて(一般の方 向け)




人工弁には機械弁と生体弁がありますが、機械弁は耐久性に優れているが、持続的な抗凝固療法が必要であるというデメリットがあります。一方で生体の組織から作られた生体弁は抗凝固療法の必要がない一方で、 耐久性の問題があります。開胸手術(SAVR)で留置された生体弁は術後およそ10-15年が経過すると形態的な劣化が生じ、人工弁に「狭窄」(弁が硬くなり開きにくくなる)や「逆流)」(弁が閉まらず血液が逆流してしまう)が認められるようになり、「生体弁機能不全 (SVD)」に陥ります(図1)[1]。


図1. Dvir, et al. Standardized Definition of Structural Valve Degenerationより引用 [1]


生体弁機能不全が起こりますと心臓から全身への血流の供給が低下する心不全の状態になる可能性があります。術後は定期的に心エコー検査を行い、機能不全になってきた場合には再治療が必要となります。機能不全に陥った人工弁に対してはこれまで再開胸・人工心肺使用による再手術(再AVR)が唯一の方法でありましたが、2018年7月から機能不全に陥った外科生体弁へのTAVI治療が保険適応になりました。弁膜症治療のガイドラインでは、「手術リスクの高い症例で、生体弁機能不全対するカテーテル治療」は推奨クラスIIa(エビデンス・見解から有用・有効である可能性が高い)と記載されています(図2)[2]。



図2. 2020年改訂版弁膜症治療のガイドライン[2]


この生体弁機能不全に対する特殊なTAVIは「TAV in SAV」と呼ばれており、2021年現在使用できるデバイスは自己拡張型Evolut Rおよび、バルーン拡張型Sapienが認められております。

 



図3. Webb and Dvir. Aortic Valve-in-Valve Implantationより引用 [3]




人工弁には大きく分けて、生体弁と機械弁があります。TAV in SAVの対象となる弁は生体弁で、機械弁は対象となりません。生体弁にはStented, Stented (Externally Mounted), Stentlessの3種類があります(図3)[3]。外巻き弁に対してTAVIでvalve-in-valveを行う場合は その構造上、冠動口塞のリスクは内巻き弁より高いと考えられており、Sapienに関しては外巻の生体弁は対象外とされております。
さらに現時点では劣化したTAVI弁に対するTAVI(TAV-in-TAV)は現状のところ保険適用となっておらず、あくまでSAVRで置換された外科生体弁がその対象となります。

成績:
valve-in-valveにおいてはその低侵襲という特性上、外科手術ハイリスク症例に対しても優れた術後成績が報告されており[4]、生体弁機能不全に対する治療として、十分なオプションとなり得ると考えられます。再AVRとvalve-in-valveの成績が同等であるという報告もありますが[5]、 一方でvalve-in-valveを支持する報告も認められます[6]。Ahmedらの2021年の報告によると、valve-in-valve群の方が再AVR群と比べてベースのリスクが高かったにも関わらず30日死亡は低かったとされております[7]。一方で再AVR群の方が弁周囲の逆流や、患者人工弁ミスマッチ(PPM)、植え込んだ弁のパフォーマンスに関しては優れていたとも報告されております[7]。

Valve-in-valveに関する注意点はいくつか報告されております。小さな外科生体弁が入っている症例や、もともとPPMのある症例にvalve-in-valveを行うと予後が悪いという報告[3]があり注意が必要であると考えられます。

valve-in-valveの有効弁口面積が外科弁のフレームに制限されてしまうという問題点を解決するため、最近の外科生体弁にはフレームが拡張する機能をもつものが市場に出ており、さらにvalve fractureというstent frameを割って広げるというテクニックも紹介されております[8]。

再AVRかvalve-in-valveかの選択は現時点では難しい選択となり、ハートチームで個々の症例ごとに詳細な評価を行い決定することが重要であると考えられます。さらに今後の大動脈弁治療においては、TAV in SAVの可能性を常に念頭に置き、初回AVR時における弁の選択(サイズや種類)がこれまで以上に重要になってくると考えています。

文責 藤井太郎

参考文献:

① Dvir D, Bourguignon T, Otto CM, et al Standardized definition of structural valve degeneration for surgical and transcatheter bioprosthetic aortic valves. Circulation. 2018;137:388–399.

② 日本循環器学会/ 日本胸部外科学会/ 日本血管外科学会/ 日本心臓血管外科学会合同ガイドライン. 2020年改訂版弁膜症治療のガイドライン.
https://www.j-circ.or.jp/cms/wpcontent/uploads/2020/05/JCS2020_Izumi_Eishi_0420.pdf
(2021年6月閲覧)

③ Webb JG and Dvir D. Transcatheter aortic valve replacement for bioprosthetic aortic valve failure: the valve-in-valve procedure. Circulation. 2013;127:2542-50.

④ Webb JG, Murdoch DJ, Alu MC, Cheung A, Crowley A, Dvir D, et al. 3-year outcomes after valve-in-valve transcatheter aortic valve replacement for degenerated bioprostheses: the PARTNER 2 registry. J Am Coll Cardiol. (2019). 73:2647–55.

⑤ Sedeek AF, Greason KL, Sandhu GS, et al. Transcatheter Valve-in-Valve Vs Surgical Replacement of Failing Stented Aortic Biological Valves. Ann Thorac Surg 2019; 108: 424-430.

⑥ Pierre D, et al. Transcatheter Valve-in-Valve Aortic Valve Replacement as an Alternative to Surgical Re-Replacement. J Am Coll Cardiol. 2020 Aug 4;76(5):489-499.

⑦ Ahmed A, Levy KH. Valve‐in‐valve transcatheter aortic valve replacement versus redo surgical aortic valve replacement: a systematic review and meta‐analysis. J Card Surg. 2021;36:2486‐2495.

⑧ Chhatriwalla AK, Allen KB, Saxon JT, Cohen DJ, Aggarwal S, Hart AJ, Baron SJ, Dvir D and Borkon AM. Bioprosthetic Valve Fracture Improves theHemodynamic Results of Valve-in-Valve Transcatheter Aortic Valve Replacement. Circulation Cardiovascular interventions. 2017;10.

 

文責 藤井太郎