名大病院の重症心不全治療

植込み型左室補助人工心臓(植込み型LVAD)



【概要】
左室補助人工心臓(以下LVAD)は、機能が低下した心臓のポンプ機能を補助し、全身に血液を送り出す血液ポンプです。LVADは体外設置型が主流でしたが、2011年から植込み型が保険承認され、現在植込み型が主流となっております。生存率の改善に加えて、ポンプ本体を体内に植え込むことで、自宅へ退院することが可能となり、生活の質の改善につながっています。

【デバイスの特徴】
初期のものは重量が重く、ポンプ本体を腹壁または腹腔内に置いておりました。一方遠心ポンプや軸流ポンプを用いた第二・第三世代連続流植込型LVAD はポンプ本体を横隔膜上に設けたポケットに置くか、小型のものは心嚢内にポンプ本体を挿入でき、ポケットを作製する必要がないという利点があります。最も新しいデバイスには磁気浮上や動圧浮上によりロータが血液と接触しないことで合併症の発生を抑制する特徴を持つものがあります。

【適応】
日本の植込型LVAD 適応は、関連学会が2010 年に厚生労働省に提言した「植込型補助人工心臓」実施基準にまとめられています。この実施基準では、植込型LVAD の適応は“心臓移植適応基準に準じた末期的重症心不全としており、心臓移植登録の有無については言及されておらず、年齢としては65 歳以下が望ましいとされています。海外においては心臓移植を受けられない患者さんにとって、心臓移植に代わる最終治療としての使用が行われており、日本でも臨床治験が行われております。

【実施施設】
植込型LVAD 装着およびその管理を行うためには,植込型補助人工心臓実施基準管理委員会により認定された施設である必要があります。また植込型LVAD の市販後のデータ収集に関してはJ-MACS(Japanese registry for Mechanically Assisted Circulatory Support)が設立されており、有害事象を評価する独立した有害事象判定委員会とJ-MACS の組織運営を第3者的に監視する観察研究モニタリング委員会が設置されております。



【参照】
重症心不全に対する植込型補助人工心臓治療ガイドライン
https://www.j-circ.or.jp/old/guideline/pdf/JCS2013_kyo_h.pdf

日本臨床補助人工心臓研究会 http://www.jacvas.com/

 


重症心不全治療 トピックス

心臓移植

心臓移植は、薬物療法(ACE阻害薬・β遮断薬など)・非薬物療法(手術治療・心臓再同期療法など)の治療にもかかわらず、重症の末期心不全状態の方が対象となります。心臓移植は、心臓移植を受ける患者様(レシピエント)に対し、脳死状態の臓器提供者(ドナー)から提供された心臓を移植する手術です。
日本では特定の実施施設でのみ心臓移植は行われており、2021年4月時点で日本には計11施設の心臓移植実施施設があります。当院は、2016年12月に東海北陸地区で唯一の心臓移植実施施設として認められ、以後心臓移植手術を行っております。
心臓移植の手技に関しては、下記のリンク
https://plaza.umin.ac.jp/~jscvs/surgery/5_3_syujutu_sinzou_sinzouisyoku/

現在日本では、心臓移植を希望される患者様(レシピエント)に対し、ドナーの方が少ないために、心臓移植を受けるために5年以上待機が必要になることが多いです。その間、心不全の症状を改善し、ご自宅からの就労・就学を実現するために、植込み型補助人工心臓を装着していただくことが通常の治療の流れになっています。

 

植込み型補助人工心臓を装着したうえで、適合するドナーが見つかった際に、心臓移植手術を受けていただいております。心臓移植後は、植込み型補助人工心臓の管理は必要なくなりますが、移植したドナーの心臓を患者様(レシピエント)の免疫細胞が攻撃してしまう拒絶反応を予防するために、免疫抑制薬の服用が必要です。また、拒絶反応の有無を確認するために、定期的にカテーテルで心筋生検の検査を受けていただく必要があります。

当院では心臓移植・植込型左室補助人工心臓を行うための最新の設備を整え、心臓外科・循環器内科・集中治療医をはじめとした医師や移植コーディネーター・看護師・薬剤師・理学療法士・管理栄養士などのコメディカルスタッフによるチーム医療によって高い医療レベルを維持するだけでなく、患者さん本人や家族と寄り添うことを大切に治療にあってっています。

心臓移植手術を受けるためには、心不全が重症であるだけでなく、癌や重度の肝疾患・腎疾患など他の病気が無いかを確認する精査を受けていただく必要があります。また、ご本人様・ご家族に、心臓移植は植込み型補助人工心臓について、十分に理解いただいた上で治療の体制を整えていただく必要があります。植え込み型補助人工心臓また心臓移植は、通常の内服治療や手術治療とは異なり、患者様ご自身でしっかりと自己管理を行うことがカギとなる治療となります。そのために、心臓移植または植込み型補助人工心臓について、病気が進行する前にあらかじめ十分に知っておき、検討しておく必要があります。治療に関するちょっとした疑問でも問題ございませんので、いつでもお気軽に当院にご相談ください。(文責 近藤徹)

植込型補助人工心臓で治療をされている患者さん向けの外来(VAD外来)

植込み型補助人工心臓(VAD)外来

植込み型補助人工心臓(VAD)を装着していただいた患者様は、1か月に1回、VAD外来に通院していただいております。

VAD外来では、①患者様の体調確認②抗凝固薬などの薬剤の調整③VADの機器の確認④ドライブライン刺入部の確認、などを行います。

①患者様の体調確認
VAD装着後も、一部の患者様はむくみや息切れといった心不全症状が残る方がいます。そういった症状の悪化がないかを確認します。

②抗凝固薬などの薬剤の調整
VAD装着中は、VAD本体に血栓ができて塞栓症が生じるリスクがあります。それを予防するために抗凝固薬と呼ばれる血栓を予防する内服薬を服用していただきます。この抗凝固薬がしっかり効いているか、もしくは効きすぎていないかを採血のPT-INRという値で確認します。当院では、抗凝固薬の効果をより安定させるために、「コアグチェック® XS / コアグチェック® ProII」で抗凝固薬の効果を確認する方法を併用しています。

③VADの機器の確認
VADのポンプが正常に作動しているかを確認します。

④ドライブライン刺入部の確認
VADは、体内のVAD本体とコントローラー・バッテリーに「ドライブライン」でつながっており、ドライブラインは患者様のお腹から体外に出ています。ご自宅では、このドライブラインが体外に出る刺入部を患者様ご自身で消毒をしてもらっています。VAD外来では、刺入部に感染が起きていないかの確認を行います。


VADの治療は普段から自己管理をしっかり行うことが大切です。患者様には、ご自身の体調の確認や、体重測定、ドライブラインの観察を普段から心がけて頂いています。当院では、iPadで用いるLVAD@homeというアプリを提供させていただき、円滑な自己管理ができるようにサポートしております。

劇症型心筋炎

劇症型心筋炎

心筋炎は、ウイルスや自己免疫、薬剤への過敏症などが原因で、心臓に炎症が生じる病気です。発熱や倦怠感など、心筋炎だと疑うのが難しい症状で発症することが多いため、受診が遅れたり診断するのが難しい病気です。病院を受診した時や、診断された時にはすでに重篤になっていることも多い病気です。

炎症が強い場合に心臓の機能が強く障害されると、各臓器に十分な血液が行き届かなくなってしまう(多臓器不全)ために、心臓の働きを強める薬や、心臓の働きをサポートもしくは代わりをする補助循環といわれる機械が必要になることがあります。このような重篤な心筋炎を、劇症型心筋炎といいます。残念ながら、現在でも劇症型心筋炎は20-60%程度と死亡率が高い病気です。

劇症型心筋炎は、心臓の炎症自体を抑えることと、心臓の機能が障害されている間に機械的補助循環を用いて多臓器不全を予防することが治療の柱となります。心臓の炎症自体を抑えるには、一部の心筋炎に免疫抑制薬が有効であることが知られています。機械的補助循環には、IABP・VA-ECMO・Impellaといった経皮的に用いる機械から、体外式LVAD・Central ECMOといった手術で用いる機械があります。劇症型心筋炎では、病気の状態に応じてこれらの機械を使い分け、適宜変更しながら治療を行います。

当院は、機械的補助循環のあらゆる選択肢を持ち合わせており、どのような内科的治療・外科的治療が最適かを心臓外科・循環器内科で相談し協力しながら、集中治療室で集学的に治療を行っています。劇症型心筋炎について、全国有数の治療経験があります。

劇症型心筋炎の患者様を救命するには、心筋炎の、より早期の状態からのどのような治療を行うかが重要となります。そのため、劇症型心筋炎だけでなく、心筋炎が重篤化する前の状態であっても、いつでもお気軽にご相談ください。 

(文責 近藤徹)


新しい補助循環装置 インペラ

Impella®(インペラ)

重症の心原性ショック症例に対して従来使用されてきた補助循環機器には、大動脈バルーンパンピング(IABP)や経皮的人工心肺補助装置(PCPS / VA- ECMO)があります。重症心不全の場合には、両者の併用が必要になります。多くの場合大腿動脈から生理的な血流と逆行性に血液を送る経皮的心肺補助装置(PCPS / VA-ECMO)は自己の心臓には負担になることや、脱血が十分できていたとしても解剖学的シャントにより左心室が拡張し、心筋がダメージを受けることで救命できない症例があることが問題点でした。

 Impella®(インペラ)は経皮的または経血管的に左心室に挿入され、順行性に補助循環を行う世界最小の心内留置型の定常流ポンプカテーテルです。カテーテル先端にある小型軸流ポンプのインペラ(羽根車)が回転することにより左心室内にある吸入部から血液を吸い込み、上行大動脈にある吐出部に送血されます。

 


https://www.youtube.com/watch?v=UOOQspSdAS8

欧州では2004年から、北米では2008年から承認販売され、本邦でも2017年9月から導入されました。補助人工心臓治療関連学会協議会及び厚生労働省により認可を受けた施設のみで実施可能な高度医療であり、当院は2018 年7月に実施施設としての認可を頂きました。その適応や使用に関しては名古屋大学重症心不全治療センターに所属する多職種(循環器内科医、心臓外科医、麻酔科医、臨床工学士、放射線技師、看護師など)による協議の上なされています。先に述べた大動脈バルーンパンピング(IABP)や経皮的人工心肺補助装置(PCPS / VA- ECMO)と併用も可能で、患者さまの状態に合わせて機器を組み合わせて必要な補助を行うことが可能です。

Impella®の最大の生理学的利点として、左心室から直接脱血することで左心室の容量および圧負荷が減少することで心筋の酸素需要を低下させ、自己心機能の回復が見込めることです。また経皮的人工心肺補助装置(PCPS / VA- ECMO)と異なり、生理的血流と同じ順行性に血液を送ることで心臓を含めた全身臓器に安定して血液を供給することができます。

適応には急性心筋梗塞、劇症型心筋炎など従来の機器では救命が困難であった重症心原性ショックを来す症例が適応になります。また心臓外科術後に左心室内圧を減圧する必要がある症例や心機能が低下した症例にも効果的であると考えられます。


 

現在Impella®(インペラ)は、最大補助流量の異なるImpella 2.5、Impella CP、Impella 5.0の3種類の機器が使用可能です。Impella 2.5、CPはそれぞれ最大2.5リットル毎分、3.7リットル毎分の補助循環が可能で、大腿動脈を穿刺してインペラカテーテルを挿入するためのシースを動脈内に留置し、そのシースから血管内に留置します。それに対しImpella 5.0は最大5.0リットル毎分の補助循環が可能ですが、カテーテルが前2者に比べて太いため、大腿動脈や腋窩動脈に外科的に吻合した人工血管を介してインペラカテーテルを挿入します。機器の選択は、患者さまに必要な最大補助流量を考慮するだけでなく、挿入後の治療方針も影響します。腋窩動脈からImpella®を挿入した場合は、大腿動脈に挿入した場合と異なり体位による動脈損傷の危険が少ないため、リハビリが可能になります。例えば植込み型補助人工心臓手術までの待機期間などのように留置が比較的長期に及ぶことが予想される場合には、心臓リハビリテーションが実施できるようにImpella 5.0を腋窩動脈から導入します

(文責 伊藤英樹)

https://www.youtube.com/watch?v=uWY9jFotZos

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