名大病院のTAVI

心臓病以外の病気(併存疾患)をお持ちの大動脈弁狭窄症の患者さんは、各臓器すべての分野において最先端の医療で対応できる、当院での治療を特にお勧めします。


1. TAVIは特殊な先進治療であり、TAVI施行のための専門のハートチームの構成が不可欠です。当院では、心臓外科専門医、カテーテル治療専門医、超音波専門医、心臓麻酔専門医、カテーテル治療専門技師・看護師、心臓リハビリ技師、その他コメディカルが所属を超えて当治療に対する強固なチームを形成しています。毎週カンファレンスを行い患者さんの情報を共有し、治療の適応、方法、長期的な管理を含め、様々な視点から詳細な検討を行っています。大学病院の特徴として、それぞれの部門のスタッフが豊富であるため、層の厚いチームが形成され、より手厚く安全を重視した包括治療が可能となっています。

2. TAVIを要する患者さんは、高齢の方が中心であることもあり、多くの場合心臓以外の併存疾患を有しています。それらは血管疾患、肺疾患、消化器疾患、悪性疾患など多岐にわたり、同時に精査、治療、管理を要することもしばしばあります。当院では、大学病院として、各診療科、どの分野においてもその専門家スタッフが充実しており、心臓に対しての治療だけで無く、各科と連携することで常に患者さんの全体を考えた全人的な治療を提供する事が可能となっています。

3. 現在の当院でのTAVI施行のスケジュールは主に下記のようになっています。近年のデバイスの発展とともに、血管を通過させる器具も細小化し、患者さんの負担もさらに軽減されるようになってきました。カテーテルの挿入はほとんどの場合鼠径部から行いますが、最近は多くの患者さんで切開を行う事もなく、穿刺ならびに止血用の器具を使用して治療を行っています(穿刺法TAVI)。そのため傷は小さく、ほとんど術後の痛みを感じる事がありません。体力の低下を防ぐためにも、翌日から心臓リハビリ専門の理学療法士とともに病棟歩行を積極的に行っています。2日後に術後の検査を一通り行い、多くの場合は週末に退院をしています。入院期間を短期とする事で、速やかに通常の日常生活に戻る事を目指しています。

TAVI トピックス(医療従事者向けの情報を含みます)

TAVI トピックス

TAVI術前CT検査で偶発的に見つかる心血管外の異常所見(Incidental Findings)について

安全かつ正確にTAVIを行ううえで、術前の造影CTは必須の検査と言えます。造影CTは大動脈弁周囲、アクセス血管や冠動脈を評価する目的で行われますが、TAVIを受けられる患者さんのほとんどが高齢であることも影響して、心血管外に意図せずして異常所見が見つかることがあります。このような偶発的に見つかる所見をIncidental Findings (IFs)と呼びます。当院のTAVI候補患者さんを対象に、IFsの頻度やその影響を調べました(参考文献)。

●方法
対象:TAVI候補患者さんとして当院でTAVI-CTを撮影した257名。
Incidental Findingsの評価方法:放射線科医の作成した読影レポートを基に、次の3つに分類
1) insignificant(重要でない);さらなる精査・治療・フォローアップを必要としない所見
 例;肺炎症性変化、腎嚢胞、肝嚢胞、etc
2) intermediate(中間);フォローアップを必要としたり、さらなる精査が考慮されるが、TAVIの計画には影響を与えない所見
 例;肺陰影(要経過観察)、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)、etc
3) significant(重要);早急な精査を必要としたり、TAVIの計画に影響を与える所見
 例;肝臓癌の疑い、etc

●結果
なんらかのIFを認めたのは254/257人(98.8%)で、ほぼ全例でした。insignificant / intermediate / significant IFsが指摘された患者さんの割合はそれぞれ98.4% / 59.5% / 13.2%でした。significant IFsが指摘された34名(13.2%)を詳しくみてみると、新規で指摘された所見だったのが19名で、既知の所見だったのが15名でした。新規に指摘された19名のうち、精査の結果悪性疾患の確定診断あるいは強い疑いとなった方は6名でした。そのうちの2名(全体の0.8%)の患者さんにおいて、悪性疾患による予後が厳しいことから、TAVIも中止となりました。

●当院で留意していること
TAVI治療後の患者さんの最大の死因は非心臓死という報告があります。つまりTAVIを受けられる患者さんにおいて、治療対象である心臓だけでなく、それ以外を含めた全身を包括的に見た上で治療を考えていく必要があると言えます。またTAVIの適応が若年患者さんへと拡大しており、いっそうIFsに注意する必要がありそうです。本検討では、TAVI施行患者さんにおいて、心血管外の異常所見が偶発的に見つかることが、決して稀ではなく、むしろ頻度が高いことが示されました。
 当院ではTAVI術前CT画像を画像の専門である放射線科医を含めた複数の医師でチェックし、見落としがないように気を付けています。また重大な所見の指摘があった場合には、総合病院という強みを生かし、各専門科に相談し適切な対応をするよう心がけています。

参考文献
Tobe A, et al. Heart Vessels. 2021 Jun 3.

文責 戸部彰洋

TAVI後の抗血栓療法(について(抗凝血療法)4 -アップデート 2021.5- ~DAPT vs SAPT~


「TAVI後の抗血栓療法について①」でDAPTとSAPTについて記載しました。今回はそのアップデート版として、2020年に発表されたPOPular TAVI trial cohort A(参考文献①)についてご紹介します。
POPular TAVI trial cohort Aは、TAVI後の抗血栓療法としてSAPTとDAPTのどちらが優れているのかを検証したランダム化比較試験です。
(尚、この記事の2021年5月現在は、日本のガイドライン並びに添付文書は、まだDAPTが標準になっています。参考文献②)

対象患者:
TAVIを受ける予定で、抗凝固薬の適応となる疾患のない重症AS患者。

プロトコール:
SAPT群はアスピリン単剤を継続。DAPT群はアスピリンとクロピドグレルをTAVI後3か月間内服し、その後はアスピリンのみを継続。

評価項目:
第一評価項目(2つ)・・・12か月間の全出血と非手技関連出血。
※この出血の定義は少しややこしいので、この記事の最後に注釈として載せておきます。

第二評価項目①・・・12か月間の心血管死、非手技関連出血、脳卒中、心筋梗塞の複合エンドポイント

第二評価項目②・・・12か月間の心血管死、虚血性脳卒中、心筋梗塞の複合エンドポイント

結果:
SAPT群に331人、DAPT群に334人が割り付けられました。年齢は80±6歳、49%が女性でした。94%でTrans femoral-TAVIが行われました。Sapien 3が45%に、Corevalve Evolut R/Proが37%に留置されました。

第一評価項目である全出血はSAPT群の15%、DAPT群の27%に認め、SAPT群で有意に少ない結果でした。出血イベントの過半数がアクセス部位関連でした。手技関連出血 (=BARC type 4) はSAPT群で認めず、DAPT群では1.8%に認めました。全出血のうち、特にmajorおよびminor 出血がSAPT群で少ない結果でした。

第二評価項目①はSAPT群の23%に、DAPT群の31%に認めました。これについてSAPT群はDAPT群に対して非劣性であり、優位性も示されました。

第二評価項目②はSAPT群の9.7%に、DAPT群の9.9%に認め、SAPT群のDAPT群に対する非劣性が示されました。

虚血性脳卒中、脳出血、症候性弁血栓症、弁圧較差上昇について2群間で有意差を認めませんでした。

●当院で留意していること
POPuler TAVI cohort Aの結果は、「TAVI後のSAPTはDAPTと比較して、出血イベントを減らすが血栓性イベントは増やさない」というものでした。これまでも観察研究を中心とするメタアナリシスの結果などから、ここ最近はそのような論調に傾いてきていましたが、今回の比較的大きなRCTの結果を受けて、今後日本でもガイドラインが改定されるかもしれません。尚、アメリカのガイドラインでは、すでにSAPTがDAPTより推奨度が上となっています(参考文献③)。当院では患者さんの背景や既往などを考慮して、最適な抗血栓療法を選択するよう努めています。


参考文献
① Brouwer J, et al. N Engl J Med. 2020 Oct 8;383(15):1447-1457
② 泉知里ら. 日本循環器学会/日本胸部外科学会/日本血管外科学会/日本心臓血管外科学会 2020年改訂版弁膜症治療のガイドライン
③ Otto CM, et al. Ciculation. 2021 Feb 2;143(5):e72-e227


※注釈
全出血はVARC-2基準のmajor/minor/life-threatening or disabling、そして後述の手技関連出血と非手技関連出血の全てを含みます。非手技関連出血の定義は少しややこしいです。VARC-2基準では手技関連と非手技関連の区別がないため、まず手技関連出血をBARC type 4 (術後48h以内の頭蓋内出血、胸骨閉鎖後の出血管理目的の再手術、48h以内の5単位以上の輸血、24時間以内の胸腔ドレンからの2L以上の出血)と定義します。非手技関連出血は全出血から手技関連出血(BARC type 4)を除いたものですが、TAVI穿刺部の出血のほとんどがBARC type 4の基準を満たさないので、これら(穿刺部出血)は非手技関連出血に含まれます。手技関連出血(=BARC type 4)は全出血の中に自動的に含まれます(非手技関連出血も全出血に含まれます)。


(文責 戸部彰洋)

名大病院TAVI標準的手順書 バルン拡張型弁(医療従事者向け)


当院ハートチームではハイブリッド手術室で行う 血管内治療全例で個々の例に応じた手順書を事前作成しチーム内で共有しています。

以下はバルン拡張型TAVI弁の 標準的留置手順書の例です

(免責事項 あらゆる医療手技は実施医師の個別の責任のもと実施されてください)



典型的手術手順  <Sapien3>
1. DCパッド装着 右肘ならびに左肘はBA穿刺部をマークし外反位置で穴コン消毒他型通り消毒。
2. 左鼠径FV, FA puncture。FV 6Fr long (for Pacemaker)穿刺いったん仮固定 左FA6Fr穿刺固定
3. アクセス側 puncture。FV穿刺、シースは入れずワイヤーのみの状態で、FA穿刺へ。エコー下にpuncture 6Frのシースを入れる。FVの6Fr longシースも挿入する。メスでカットした上でFAのシース周囲を十分剥離する。その上でproglideを2本かける。1本めは正面で、2本めはやや角度をずらしてかける。proglideの糸は閉めずに結び目の部分は外に出して固定しておく。2本掛けたあと9Frシースを挿入する。
4. パッケージ開けてDevice準備開始 
5. (穿刺成功後) ヘパリン投与 (ACT測定)
6. 左FVからAPにてtemporary pacingをRV apexに留置 閾値確認。 動かないように固定 布かけ slight inflation.(1ml;回収時にはdeflateする)
7. 造影Pigtailを大動脈基部に送る Pigtailアシスト接続 
8. 予測Perpendicular View <厳密に術前計測しておく>15ml/s /10mlでrapid pacing下に基部造影 この段階で石灰化との弁輪部との位置関係 弁輪部とバックグラウンドの情報の関係を確認
9. メインアクセス、0.035radifocus(RF)とJR4を進め、遠位上行に留置。RFは抜きそれを介してe-sheathを入れるためのstiff wireとしてAmplazer Extra stiff (AES) を留置(最近はエゴイストを使用) 
10. 内筒付き14Fr e Sheathを奥まで留置 内筒抜去
11. AESはJR4を介して抜き、JR4を上行に留置 透視をperpendicular viewとして、 0.035 straight wire(J-coil wire) +JR4でA弁通過 (2nd option AL2.0)
12. 通過したら直ちにRAO30度としてstraight wireはLV midまで進める 
13. そこまで行ったところで少し clockwiseにしながらJR4を落とし込む straight wire を抜く
14. (省略可能)JR4を介して、J-tip wire(dual flexの反対) を入れる LAOに振り直して前乳頭筋の方向 画面右へGWが行っていないか再確認する その後またRAO30に戻す  AESを介してpig tailを進め左室内に座らせる pigtailを使用の場合は RAO30にてわりと基部よりで6の字が正面視できてる形が良い )
15. Safari stiff wire XSを進める LV内に座るSafari GWの安定確認 TEEでGW確認MR悪化なしか確認
16. Safariの安定しつつあるすこし前ころにTHVのCrimp
17. <BAV > Perpendicular View血行動態を確認  BAV balloonは陰圧をかけてからシースに入れないと抵抗が強い BAV balloon 16cc for 20mm <BAVは特に石灰化が強い場合(bulky cusp)あるいは5m/sを超えるようなcritical stenosisの場合に考慮>
18. BAV前にPigtailはSTJ上に引く Rapid pacing下に BAVを施行。full inflation後に造影 5ml/s /10ml 冠動脈の状況 石灰化の挙動などを確認 TEEと造影見返し。
19. 再びPigtailを弁上まで進めてマーキングとする
20. Wire先端確認しTHV Delivery system進めるロゴマーク上フラッシュポート向こう。 AP view。  
21. <弁アラインメント>下行大動脈でTHVを正対視する角度<CRA20度 ただし伸び方次第>にて弁アラインメント。アラインメントポジション(unlock-シャフトを1本線まで引き戻し-忘れずlock)+ダイヤル微調整(さらにシャフトを引き戻す=反時計回し)を行う GWが抜けうるので先端注視 この作業時 助手が必ずGWを保持する(画面内にLV)。
22. Flexホイール回しつつ 大動脈弓を通過 <角度 弓部角度LAO45度> ノーズコーン通過する前に一旦停止ノーズコーン通過する前に Perpendicular viewに。 通過しない場合の対応→flexを調整、Wireをセンターへ(少し引く) counterに手前に回す (とより後ろ向きになろう)
23. 血行動態確認(PM、呼吸器準備確認)し THV通過 そしてフレックスCathをトリプルマーカー中央部まで引き戻し(unlock-引き戻し-lock) この作業で若干LV側に落ち込むので位置調整 忘れずGWがCoaxialとなるように調整  弁尖石灰化よりTHV上端が上にあること確認 トリプルマーカー(シース),シースのロック, coaxialty, GW, PM,
Coaxial維持が重要 THV clockwiseに回したり  GW押しを緩めたりして調整
24. 基部造影を施行 短期間のrapid pacing下に行う 造影5/10 マーカーで位置調整<弁輪 センターマーカー下縁やや下で> Pigtailは位置決め後STJに引く  ここで完璧に位置決めする 
25. <THV deploy> Rapid pacing下にTHV deploy. rapid pacing HR180 BP下りつつあるときに造影5/10 (これで位置が違えば位置を動かしそのままdeployするのではなくて いったんdeployを中止する)  さがりきった降圧確認 麻酔科は血圧下がりましたどうぞと言う  そのままslow inflation(2ml程度だけ入れる) 弁はいったんわずかに頭側に持ち上がり(バルーンの影響で)そして固定されLV側が短縮していく挙動  調節しつつ full deploy.  full deploy後 5秒数えてdeflateしpacing off.  <6atmに達しないようにが望ましい>
26. Wire保持してすぐにDeviceを引く GWを中央に持ってきてTEE確認。ARはある程度容認する。
27. device回収決定 Systemをde-flex  シースに入れる前にデフォルトPositionに。 デフォルトポジションでdeviceを抜去
28. Pigtailを入れそれを介してSafariをLVから抜去。
29. Safariを抜いたらe-sheath抜去のため カテを介してAESを入れておく
30. 最終基部造影 deviceの上縁に接する位置までpigtailを下げ 十分な造影効果が得られる位置をもって造影5/10(USでcoaxialにしてもリーク多いような場合はTHVを回収前 GWを左室に残したまま造影する)
31. AESが入ったらGW交換のカテは抜き AES越しにe-sheathに忘れずダイレーター内筒を入れいれたまま抜去
32. 一人が圧迫をしながらproglide1本目を引っ張るのみで締める、それにて締り具合を確認。良さそうであればAESを抜去し、その上で、ploglideをプッシャーを使用し最後まで締める。もし止血が悪ければ、2本目を締める。2本目を締めても止血が悪い場合は、シースを挿入Angiosealの追加も考慮。圧迫追加。プロタミン投与。メインの止血に目処が立てば対側もプログライド使用し止血、圧迫
33. 手術終了

 

Pre-BAV(TAVI中の前拡張)について②


以前にPre-BAVについての記事をアップしていますが、その後2つのランダム化試験が出ましたのでご紹介します。

●DIRECT trial (参考文献①)
自己拡張型生体弁(CoreValve、Evolut R、Evolut Pro)によるTAVIにおいて、pre-BAV群とno-BAV群での成績を比較した、ランダム化比較試験です。No-BAV群の非劣性を検証しています。

主要評価項目:デバイス成功率で、VARC-2基準(手技関連死亡のないこと、一つの弁を適切な位置に留置すること、patient prosthesis mismatchやmoderate以上のARがないこと)と、VARC-1基準(アクセス・デリバリー・留置・抜去の成功、適切な位置に留置すること、AVA>1.2cm2かつmean PG<20mmHg or peak V<3 m/sかつmoderate以上のARがないこと、1つの弁のみの留置であること)による評価がされています。
第二評価項目:30日での脳卒中、ペースメーカー留置、血管合併症です。

Pre-BAVのサイズは弁輪短径に基づいて決めることが推奨されています。

結果:
86人がpre-BAV群、85人がno-BAV群に割り付けられました。留置された自己拡張型弁の割合は、CoreValve 11.7%、Evolut R 83.6%、Evolut Pro 4.7%でした。Pre-BAVのサイズは平均20mmで、バルーン径と弁輪短径の比率は平均1.02でした。後拡張(post-balloon dilation)を行ったのはno-BAV群29%、pre-BAV群15%で、no-BAV群で有意に多かったです。
VARC-2基準によるデバイス成功率はno-BAV群76.5%、pre-BAV群74.4%で、no-BAV群の非劣勢が証明されました。VARC-1基準でも同様で、no-BAV群88.2%、pre-BAV群87.2%で、no-BAV群の非劣勢が示されました。
第二評価項目である30日イベントも、それぞれ両群で有意差を認めませんでした。脳卒中はno-BAV群で1名のみ、ペースメーカー留置はno-BAV群で32.8%、pre-BAV群で27.5%でした。
TAVI前のA弁弁口面積<0.6cm2の患者におけるサブ解析では、pre-BAV群で成功率が高い傾向にありましたが、統計学的有意差は認めませんでした(no-BAV群65%、pre-BAV群79.4%、p=0.20)。
moderate以上のARの発生率も両群間で有意差を認めませんでした。

結論:
自己拡張型生体弁(CoreValve、Evolut R、Evolut Pro)によるTAVIにおいて、Pre-BAVを行わないことは、pre-BAVありと比較してデバイス成功に関して非劣性でした。Pre-BAV群では後拡張の頻度が少なかったです。


●DIRECTAVI trial (参考文献②)
バルーン拡張型生体弁(Sapien3)によるTAVIにおいて、pre-BAV群とno-BAV群の成績を比較したランダム化比較試験です。No-BAV群の非劣性を検証しています。

主要評価項目:72時間でのVARC-2と、patient prosthesis mismatchを除いたVARC-1基準によるデバイス成功。
第二評価項目:手技的結果(手技時間、放射線被爆量、造影剤使用量)、後拡張の頻度、入院期間、臨床イベント(1か月での全死亡、脳卒中、major出血、AKI stage2-3、ペースメーカー留置)。

Pre-BAVのサイズは、CT計測による弁輪径に基づいたメーカー推奨に沿って20/23/25mmのいずれかで行われました。

結果:
115人がPre-BAV群、121人がno-BAV群にエンロールされました。平均年齢は83歳、女性は45%でした。経大腿動脈アプローチで行われたのが89.8%で、残りの10.2%は経頸動脈でした。No-BAV群において、弁不通過のためにpre-BAVを要したのが3人(2.5%)、その他の理由でpre-BAVを行ったのが4人(3.3%)で、計7人(5.8%)でpre-BAVを要しました。
VARC-2基準によるデバイス成功率はno-BAV群80.2%、pre-BAV群75.7%で、no-BAV群は非劣性でした。Patient prosthesis mismatchを除いたVARC-1基準によるデバイス成功率はno-BAV群95.9%、pre-BAV群94.7%で、こちらも非劣性でした。
第二評価項目である後拡張の頻度、造影剤量、手技時間、透視線量、全死亡、脳卒中などすべての項目で2群間に有意差を認めませんでした。

結論:
バルーン拡張型生体弁Sapien3によるTAVIにおいて、pre-BAVを行わないことはpre-BAVありと比較してデバイス成功率に関して非劣性でした。後拡張の頻度や手技時間、脳卒中の発生頻度なども両群で有意差を認めませんでした。

●当院で留意していること
元来pre-BAVは、TAVI弁の通過や十分な拡張を目的として行われてきました。一方pre-BAVを行うことで弁輪破裂・脳梗塞・ARやrapid pacingによる血行動態の破綻といったリスクがあると言われてきました。
2つの試験の結果から、CoreValveシリーズおよびSapien3を用いたTAVIにおいて、ルーチンでのpre-BAVは不要な可能性が示されました。これはTAVIデバイスの進化によるところが大きいです。
DIRECT trialの結果から、CoreValveシリーズを用いたTAVIでは、ダイレクトで弁を留置した場合に後拡張を必要とする可能性が高くなりそうです。
またDIRECTAVI trialの結果からは、Sapien3を用いたTAVIでは、ダイレクトで弁を留置した場合でも、後拡張の頻度を含めてpre-BAVを行った場合と成績に差を認めませんでしたが、少数の症例でpre-BAVを必要としました。

2つのtrialでの後拡張の頻度の差は、自己拡張型かバルーン拡張型かといった違いの影響がありそうです。また大動脈弁の石灰化が高度な症例や狭窄が強い症例ではpre-BAVが必要となる可能性があります。
これらの試験の結果も踏まえて、当院ではルーチンでのpre-BAVは行っていませんが、症例によってはpre-BAVを行うことを検討します。具体的にはAVA≦0.6cm2、AV V max≧5m/s、AV mean PG≧60mmHgといった超重症AS、石灰化が高度な場合、二尖弁などです。またhorizontal aortaではデバイス通過困難が予想される場合があるのでpre-BAVを考慮します。Pre-BAVを行う場合は安全性に留意して、弁輪短径を超えないサイズを選択することが多いです。

参考文献
① Toutouzas K, et al. JACC Cardiovasc Interv. 2019 Apr 22;12(8):767-777
② Leclercq F, et al. JACC Cardiovasc Interv. 2020 Mar 9;13(5):594-602


(文責 戸部彰洋)

僧帽弁置換術後のTAVI

僧帽弁置換術後のTAVI

心臓手術歴のある患者さんに対する二度目以降の心臓手術(いわゆる、Re-do)は、周術期リスクが高くなります。(参考文献①、②) これは僧帽弁置換術後の患者さんに外科的大動脈弁置換術を行う場合も当てはまると考えられます。しかしある研究では、過去に僧帽弁の手術を受けた方の5%に、フォローアップ中に大動脈弁疾患を発症し外科的大動脈弁置換術が必要となることが報告されており、頻度としては決してまれというわけではありません。(参考文献③) このような背景から、過去に僧帽弁置換術などの心臓手術歴のある患者さんが高度大動脈弁狭窄症を発症した場合、より低侵襲のTAVIはリスクを減らせる治療となる可能性があります。

●僧帽弁置換術後のTAVIのリスク、合併症
一方、僧帽弁置換術後のTAVIも手技的な難易度は高くなります。それは、TAVI弁と人工僧帽弁が干渉しうるためです。具体的には、TAVI弁留置中に人工僧帽弁に接触することで、TAVI弁の位置がずれたり、TAVI弁の拡張不良を起こすことがあります。また、人工僧帽弁の開放制限をきたすこともあります。TAVI弁の位置のずれは、特に問題とならない程度のものから、大きくずれて2個目のTAVI弁を重ねて留置することを要したり、塞栓といって大動脈内に移動してしまうこともあります。海外の報告では、僧帽弁置換術後のTAVI患者91人中6人(6.7%)にTAVI弁の塞栓を認めました。これは僧帽弁置換術後ではないTAVI患者より有意では無いものの多い傾向がありました。(参考文献④) 日本からの報告では、僧帽弁置換術後のTAVI患者31人中、TAVI弁の塞栓を認めたのは0人、TAVI弁の位置のずれは9人(29.0%)、人工僧帽弁の開放制限は1人(3.2%)に認めました。いずれの症例においても2個目のTAVI弁や開胸手術は要しませんでした。(参考文献⑤)

 また、僧帽弁置換術後のTAVI患者さんでは、出血性合併症が多いことが知られています。これは心房細動の合併や人工僧帽弁に対するより厳格な抗凝固療法、DOACではなくワーファリンを使用することといった要因があると思われます。(参考文献④、⑤)

●TAVI弁の移動・塞栓の予測因子
TAVI弁の移動・塞栓を引き起こす重要な要因として指摘されているのは、大動脈弁輪と人工僧帽弁の距離の短さです。この距離が短いとTAVI弁と人工僧帽弁がお互いに干渉しやすくなります。他には、TAVI弁のサイズが大きいとステントフレームが長くなり僧帽弁と干渉しやすくなったり、人工僧帽弁が左室流出路へ突出していると干渉しやすくなることが指摘されています。(参考文献④、⑤)

●留意すべきポイント(参考文献④、⑤)
①術前のCT計測
 僧帽弁置換術後のTAVIを行う上で、術前のCT評価は非常に重要です。大動脈弁輪と人工僧帽弁の距離を計測することで、TAVI弁と僧帽弁が干渉するリスクを予測したり、TAVI弁をどの程度の深さに留置すべきかをイメージすることができます。

②TAVI弁留置の深さ
 TAVI弁を深く留置しすぎると、人工僧帽弁と干渉し、上記の合併症を引き起こす可能性があります。一方、高く留置しすぎると、大動脈弁輪部に固定されず塞栓を起こす危険性があります。この両者を意識して留置位置を決定します。

③弁留置時
 バルーン拡張型TAVI弁(SAPIENシリーズ)の場合、ゆっくりとTAVI弁を拡張させて留置させた方が、位置のずれを予防できると言われています。自己拡張型生体弁(Evolut R/Pro)の場合は、弁のリリース前に再収納して位置調整が可能なので、最適な位置となるまで位置調整を行います。ただし、最終リリース時に位置がずれるリスクもあると言われています。

④麻酔管理
 全身麻酔で呼吸を管理した方が、呼吸による位置のずれを最小限にできると考えられます。また、全身麻酔下であれば、経食道心エコーも使用でき、より詳細な評価が可能です。

文責:戸部彰洋


参考文献
① Rankin JS, et al. “Determinants of operative mortality in valvular heart surgery.” J Thorac Cardiovasc Surg. 2006;131:547-57.
② Lung B, et al. “A prospective survey of patients with valvular heart disease in Europe: The Euro Heart Survey on Valvular Heart Disease.” Eur Heart J. 2003;24:1231-43.
③ Vaturi M, et al. “The Natural History of Aortic Valve Disease After Mitral Valve Surgery.” J Am Coll Cardiol. 1999;33:2003-8.
④ Amat-Santos IJ, et al. “Prosthetic Mitral Surgical Valve in Transcatheter Aortic Valve Replacement Recipients : A Multicenter Analysis.” JACC Cardiovasc Interv. 2017;10:1973-1981.
⑤ Tanaka M, et al. “Previously implanted mitral surgical prosthesis in patients undergoing transcatheter aortic valve implantation: Procedural outcome and morphologic assessment using multidetector computed tomography.” Plos One. 2019 Dec 26;14(12):e0226512.

TAVI後の抗血栓療法(抗凝血療法)3

TAVI後の抗血栓療法について③ ~抗凝固薬を内服している患者さんの場合~

心房細動などの抗凝固療法が適応となる疾患を持っている患者さんへのTAVI後抗血栓療法について検討したのがPOPular TAVI試験(cohort B)です。この試験では、TAVI治療前から、抗凝固療法が適応となる疾患を持っている患者さんを対象に、TAVI後の抗血栓薬として抗凝固薬単剤群と、抗凝固薬+クロピドグレルの2剤療法を3か月間行い以後は抗凝固薬単剤とする抗凝固薬+クロピドグレル群に分けて、出血イベントなどを比較検討しています。抗凝固薬の選択はTAVI前から内服していたものを継続することになっており、ビタミンK拮抗薬でもDOAC(直接経口抗凝固薬)でもよいです。結果は、抗凝固薬単剤群で出血イベントが有意に少なく、心血管死亡+虚血性脳卒中+心筋梗塞の複合イベントも非劣勢でした。また、ビタミンK拮抗薬よりもDOACの方が出血を減らせる可能性が指摘されています。(参考文献)

●当院で留意していること
TAVIを受けられる患者さんで、心房細動などの抗凝固療法が適応となる疾患をお持ちの場合の、最適なTAVI後抗血栓療法はまだ定まっていません。当院では、患者さんの背景や出血/血栓塞栓リスクを考慮して、最適と思われる方法を選択しています。


(参考文献)
Nijenhuis VJ, et al. “Anticoagulation with or without Clopidogrel after Transcatheter Aortic-Valve Implantation” N Engl J Med. 2020 Apr 30;382(18):1696-1707.


TAVI後の抗血栓療法(抗凝血療法)2

TAVI後の抗血栓療法について② ~弁血栓症と抗凝固療法~

●弁血栓
TAVI後の抗血栓療法を考えるうえで、弁血栓症(leaflet thrombosis)は重要です。TAVI後に造影CTを撮影すると、一定の割合(4-13%)でHALT(hypo attenuated leaflet thrombosis)と呼ばれる低吸収領域がTAVI弁周囲に観察されることが知られています。(参考文献①) これは人工弁に付着した血栓、すなわち弁血栓であると推測されています。この弁血栓は、人工弁機能不全の原因となりうると考えられていますが、実際のところ多くの方では無症候とも言われています。無症候の弁血栓症を、subclinical leaflet thrombosisと呼びます。CTで発見されたsubclinical leaflet thrombosisが脳血管イベント(特にTIA)と有意に関連していたという報告もあれば(参考文献②)、関連を認めなかったとする報告もあります。(参考文献①、③)

 


●弁血栓発生の機序
ウィルヒョウの3徴をもとに解説している文献があります。(参考文献④)
① 人工弁表面の損傷
人工弁をおりたたむクリンプという作業時に、人工弁の表面に細かい傷がつくことが知られています。また人工弁留置時に、特にバルーン拡張型では傷がつくとされます。
② 血流の異常(停滞)
心拍出量が低いと弁血栓が生じやすいという報告があります。また、人工弁によってできたneo-sinusが大きいと血流が停滞しやすいと考えられます。大きな人工弁やvalve in valveもリスクとする報告があります。
③ 過凝固状態
高齢、炎症、癌、CKD、DMが血栓形成に関連する可能性があります。また自己弁の石灰化が凝固を亢進するといわれています。外科的大動脈弁置換術では自己弁を取り除くので、弁血栓の発生が少ないことと関連している可能性があります。

●症候性の弁血栓と抗凝固療法
弁血栓により人工弁の動きが制限され(reduced leaflet motion)、圧較差の上昇をきたすことがあります。このような人工弁機能不全に対して、抗凝固療法を行うことにより弁血栓が縮小・消失し、弁機能も改善したということが報告されています。(参考文献②)

●TAVI後の抗血栓療法としての抗凝固療法 (GALILEO試験/GALILEO-4D試験)
2019年、TAVI後抗血栓療法としての抗凝固薬の有用性を検討したGALILEO試験が発表されました。これは、TAVI後に3か月間アスピリン+リバーロキサバン10mgを併用し3か月以後はリバーロキサバン10mg単剤にするリバーロキサバン群と、TAVI後3か月間アスピリン+クロピドグレルを併用し3か月以降はアスピリン単剤にする抗血小板薬群の成績を比較した前向きランダム化試験です。対象患者さんは、抗凝固療法が適応となるような他の病気を持っていない人たちです。この試験は安全性の観点から早期中止となりましたが、結果はリバーロキサバン群の方が死亡+血栓塞栓イベントの複合エンドポイントのリスクが高く、さらに出血イベントのリスクも高いというものでした。死亡は有意にリバーロキサバン群で多かったですが、脳梗塞や心筋梗塞は両群で有意差を認めませんでした。死亡の原因は、出血によるものは少数で、多くが突然死、原因不明の死、非心臓死でした。(参考文献⑤)

GALILEO試験のサブスタディであるGALILEO-4D試験は、TAVI後約90日後に造影CTを撮影し、弁血栓症の頻度の差をみたものです。この試験の結果は、リバーロキサバン群においてreduced leaflet motionやsubclinical leaflet thrombosisの頻度が少ないというものでした。(参考文献⑥) つまり上述のGALILEO試験と合わせると、抗凝固薬(リバーロキサバン10mg)を使用することで弁血栓の頻度を減らすものの、それが臨床結果を改善させてはいない、という結論でした。

このようにTAVI後の抗血栓療法として、抗凝固薬の適応となるような他の疾患のない患者さんに対し抗凝固薬をルーチンで使用することの有用性については現状では懐疑的となっています。


●当院で留意していること
TAVI治療後の抗血栓療法法としては抗血小板薬が選択されることが一般的です。しかしフォローアップ中に、心エコー検査にてTAVI弁の流速や圧較差の上昇を認めた場合は、弁血栓を疑って対応をします。腎機能の良い患者さんでは造影CTを撮影して、弁血栓の有無を調べることもありますが、TAVI治療を受けられた患者さんは高齢で腎障害のある方も多いです。その場合は造影CTは撮影せずに、弁血栓が生じたと考え抗凝固薬を使用し反応をみることもあります。
抗凝固薬が適応となる他の疾患をお持ちの患者さんに対する抗血栓療法については後述します。


(参考文献)
① Vollema EM, et al. “Transcatheter Aortic Valve Thrombosis: The Relation Between Hypo-Attenuated Leaflet Thickening, Abnormal Valve Haemodynamics, and Stroke” Eur Heart J. 2017 Apr 21;38(16):1207-1217.
② Chakravarty T, et al. “Subclinical leaflet thrombosis in surgical and transcatheter bioprosthetic aortic valves: an observational study” Lancet. 2017 Jun 17;389(10087):2383-2392.
③ Yanagisawa R, et al. “Incidence, Predictors, and Mid-Term Outcomes of Possible Leaflet Thrombosis After TAVR” JACC Cardiovasc Imaging. 2016 Dec 8;S1936-878X(16)30897-X
④ Rashid HN, et al. “Subclinical Leaflet Thrombosis in Transcatheter Aortic Valve Replacement Detected by Multidetector Computed Tomography - A Review of Current Evidence” Circ J. 2018 Jun 25;82(7):1735-1742.
⑤ Dangas GD, et al. “A Controlled Trial of Rivaroxaban After Transcatheter Aortic-Valve Replacement” N Engl J Med. 2020 Jan 9;382(2):120-129
⑥ De Backer O, et al. “Reduced Leaflet Motion After Transcatheter Aortic-Valve Replacement” N Engl J Med. 2020 Jan 9;382(2):130-139.

TAVI後の抗血栓療法(抗凝血療法)1

TAVI後の抗血栓療法について① ~DAPT vs SAPT~

TAVI治療後、留置した人工弁自体に対して、また二次的な血栓塞栓性イベントを防ぐために、抗血栓療法を行うことが推奨されています。
SAPIEN 3(バルーン拡張型生体弁)の添付文書では6か月後までアスピリン+チエノピリジン系のDAPT(二剤併用抗血小板療法)を行い、6か月以後はSAPT(単剤抗血小板療法)に減量することが推奨されています。Evolut R/Pro(自己拡張型生体弁)の添付文書では3か月後までDAPTを行うことが推奨されています。しかし、TAVI治療の対象患者さんは、高齢、並存疾患などにより出血高リスクとなることが多くなります。そのためDAPTによる出血リスク増加の懸念もあり、最適なDAPTの期間や必要性など、未だ十分に明らかにされていません。またTAVI後の抗血栓療法としての抗凝固薬の有用性や位置づけも意見の分かれるところです。TAVI後の最適な抗血栓療法はまだ定まっていません。

●DAPT vs. SAPT
バルーン拡張型生体弁を使用したTAVI後の抗血栓療法としてDAPT(アスピリン+クロピドグレルを3か月、最低6か月まではアスピリン単剤を継続)とSAPT(最低6か月まではアスピリン単剤を継続)を比較した小規模な前向きランダム試験では、DAPT群で出血イベントが多く、脳梗塞などの血栓塞栓性イベントはSAPT群と同等という結果でした。(参考文献①) また、自己拡張型生体弁を使用した小規模な前向きランダム化試験においても、DAPT群とSAPT群で短中期成績は同等であり、DAPTの優位性は示されませんでした。(参考文献②) 複数のメタアナリシスでもDAPTが出血イベントを増やすものの、血栓塞栓性イベントはSAPTと同等ということが報告されています。(参考文献③-⑤)

尚、TAVI後の血栓塞栓性イベントとして重要な脳梗塞は、その多くが術後24時間以内に起こることが知られています。この機序は、大動脈や大動脈弁に対する機械的な刺激によってプラークなどが剥がれて塞栓を起こす、というものです。この塞栓に対して、DAPTの予防効果は期待できません。また24時間以降に起こる脳梗塞は心房細動との関連が指摘されており、これに対してもDAPTの効果は限定的です。(参考文献①)

●当院で留意していること
日本循環器学会の「2020年改訂版 弁膜症治療ガイドライン」では、TAVI後の抗血栓療法は6か月未満のDAPT後、SAPTを継続することがクラスⅡaで推奨されています。(参考文献⑥) 一方上述のように、TAVI後のDAPTは血栓塞栓を減らさないが出血は増やす、というデータも出てきています。このようにTAVI後の最適な抗血栓療法はまだ定まっていませんが、当院では患者さんの背景や併存疾患および併用薬などを考慮しながら、最適と思われる抗血栓療法を選択しています。

(参考文献)
① Rodés-Cabau J, et al. “Aspirin Versus Aspirin Plus Clopidogrel as Antithrombotic Treatment Following Transcatheter Aortic Valve Replacement With a Balloon-Expandable Valve: The ARTE (Aspirin Versus Aspirin + Clopidogrel Following Transcatheter Aortic Valve Implantation) Randomized Clinical Trial” JACC Cardiovasc Interv. 2017 Jul 10;10(13):1357-1365.
② Ussia GP, et al. “Dual Antiplatelet Therapy Versus Aspirin Alone in Patients Undergoing Transcatheter Aortic Valve Implantation” Am J Cardiol 2011;108:1772–1776
③ Maes F, et al. “Meta-Analysis Comparing Single Versus Dual Antiplatelet Therapy Following TranscatheterAortic Valve Implantation” Am J Cardiol. 2018 Jul 15;122(2):310-315.
④ Siddamsetti S, et al. “Meta-Analysis Comparing Dual Antiplatelet Therapy Versus Single Antiplatelet Therapy Following Transcatheter Aortic Valve Implantation” Am J Cardiol 2018;122:1401-1408.
⑤ Hu X, et al. “Single versus Dual Antiplatelet Therapy after Transcatheter Aortic Valve Implantation: A Systematic Review and Meta-Analysis.” Cardiology 2018;141:52–65
⑥ 泉知里、江石清行編 「2020年改訂版弁膜症治療のガイドライン」 日本循環器学会/日本胸部外科学会/日本血管外科学会/日本心臓血管外科学会合同ガイドライン

 

(文責 戸部彰洋)

TAVI後の伝導障害 ②房室ブロック/ペースメーカー留置

TAVI後の伝導障害 ②房室ブロック/ペースメーカー留置

 『TAVI後の伝導障害 ①左脚ブロック』の中で、刺激伝導系について説明しました。この刺激伝導系がより強く障害されると、心房から心室へと興奮が伝わりにくくなります。これを房室ブロック(心房から心室へと興奮が伝わることがブロックされること)といいます。心房と心室の間の興奮伝達が完全に遮断されると、心房と心室の連携は失われ、各々が独自のペースで動くことになります。この状態を完全房室ブロック(3度房室ブロック)と呼びます。一般的に完全房室ブロックの場合は、著しく脈が遅くなり、放置しておくと心臓に負担がかかり心不全となったり突然死を起こすことがあるので、ペースメーカー留置の適応となります。ペースメーカーとは、心臓に電気刺激を送って脈を打たせる機械のことです。
 TAVI治療は、機械の進歩や手技の習熟とともに合併症の頻度も少なくなってきていますが、この伝導障害、特にペースメーカー留置となる危険性は依然として高く(4-30%)、TAVI治療のアキレス腱と言われています。
 ペースメーカー留置となった場合と予後との関連に関しては、まだ十分に解明されていません。

医療関係者の方へ

●伝導障害のメカニズム
左脚ブロックなどを除くと、ペースメーカー留置は最も多い合併症と言われています。刺激伝導系の解剖学的特性については『TAVI後の伝導障害 ①左脚ブロック』をご参照ください。もともと伝導障害を認めなかった方が高度房室ブロックになる場合もあれば、もともと右脚ブロックのあった方に新規左脚ブロックを生じて結果的に完全房室ブロックとなる場合もあります。

●頻度
TAVI後に恒久式ペースメーカー留置となる頻度は、前世代のCoreValveで16.6-37.6%、SAPIEN/SAPIEN XTで3.4-17.3%と報告されています。左脚ブロック同様、ペースメーカー留置となるリスクは自己拡張型(CoreValveシリーズ)の方が一般的に高いとされていますが、一方で変わらないという報告もあります。新世代の弁に関して、バルーン拡張型のSAPIEN3では3.7-31%と報告されています。SAPIEN3について検討した3つの多施設レジストリー研究において、ペースメーカー率は11-14%であり、前世代と比較して2倍も多くなっています。これは左脚ブロックが増えていたことと同様に、SAPIEN3の強いradial strengthとアウタースカートによるものと考察されています。(参考文献①)CoreValveシリーズのEvolut Rではペースメーカー率は10.8-31.3%、(参考文献①②③)Evolut Proでは11.8-27.7%と報告されています。(参考文献②③④⑤⑥)CoreValveシリーズに関しては、デバイスの改良とともにペースメーカー率が低くなっていると考察している文献もあります。(参考文献⑥)
このTAVI後新規ペースメーカー留置率を考慮するうえで注意すべきことがあります。一つ目は、もともとペースメーカーが留置されていた患者さんを母数から抜いているかどうかです。もともとペースメーカーが留置されている方は、TAVI後に新規ペースメーカー留置となることはないので、母数から抜かないと本当の新規ペースメーカー率を過小評価する可能性がありますが、一部の研究では母数から抜かれていません。二つ目は、ペースメーカー留置となった理由です。ペースメーカー留置の判断基準(不整脈の種類やwaiting期間など)は施設によって異なり、例えば新規左脚ブロックに対して予防的にペースメーカーを植え込む施設もあります。(参考文献①)
 高度房室ブロックはTAVI後24時間以内に発生するものがほとんどですが、遅発性に生じることもあります。退院時に伝導障害がなければ、その後高度房室ブロックに進行することはまれと考えられています。(参考文献①)
 左脚ブロック同様に、高度房室ブロックも時間経過とともに改善する場合があります。留置されたペースメーカーの解析で、心室ペーシング率が1%未満となる方が一定数存在することが知られています。ただし、たとえ1%未満のペーシング率でも、致命的となりうる発作性の高度房室ブロックを防いでいる可能性はあります。(参考文献①)

●予測因子
 ペースメーカー留置の予測因子として多くの研究で証明されているのは、術前の右脚ブロックと、自己拡張型弁(CoreValveシリーズ)の使用です。他には、患者さんの要因としては、男性、Ⅰ度房室ブロック、左脚前肢ブロック、大動脈弁/左室流出路/僧帽弁輪の石灰化が、手技的な要因としては、弁留置の深さなどが指摘されています。(参考文献①)

●予後
 TAVI後のペースメーカー留置と予後の関連はまだ十分に明らかにされていません。1つのメタアナリシスではペースメーカー留置と1年後の死亡との関連は認めなかったと報告されています。また別の研究で、ペースメーカー留置群の方が1年後の死亡率が低い傾向を示したことが報告されており、これは突然死を予防したからではないかと考察されています。一方、レジストリー研究で1年後の死亡と有意に関連していたとするものもあります。
 このようにペースメーカー留置と中長期予後は意見の分かれるところですが、これはペースメーカー留置となった理由(高度房室ブロックなのか、左脚ブロックに対して予防的に留置したのか、など)やペースメーカー依存率、特に右室ペーシング率の違いによる影響も大きいと考えられます。またTAVI患者さんは高齢で心外合併症も多く、一般的に寿命の長くない方々と考えられるので、長期右室ペーシングの影響が表れにくいのかもしれません。
 ペーシング率が高いと推測される患者さんを対象とした研究では、中長期の死亡と関連していたとする報告もあります。(参考文献①)

●当院で留意していること
 術前検査として行っている心電図で、既存の伝導障害の有無を確認しています。弁留置の深さがペースメーカー率と関連するとされているので、術中の大動脈造影や経食道心エコーをもとに、適切な深さに弁を留置するよう心がけています。また、術後の遅発性房室ブロックを見逃さないように、退院時まで心電図モニターを装着しています。


参考文献
① Auffret V. et al. “Conduction Disturbances After Transcatheter Aortic Valve Replacement: Current Status and Future Perspectives.” Circulation. 2017 Sep 12;136(11):1049-1069
② Gaurav Rao. et al. “Early Real-World Experience with CoreValve Evolut PRO and R Systems for Transcatheter Aortic Valve Replacement.” J Interv Cardiol. 2019 Oct 1;2019
③ Hellhammer K. et al. “The Latest Evolution of the Medtronic CoreValve System in the Era of Transcatheter Aortic Valve Replacement: Matched Comparison of the Evolut PRO and Evolut R.” JACC Cardiovasc Interv. 2018 Nov 26;11(22):2314-2322
④ Forrest JK . Et al. “Early Outcomes With the Evolut PRO Repositionable Self-Expanding Transcatheter Aortic Valve With Pericardial Wrap.” JACC Cardiovasc Interv. 2018 Jan 22;11(2):160-168
⑤ Kalogeras K. et al. “Comparison of the self-expanding Evolut-PRO transcatheter aortic valve to its predecessor Evolut-R in the real world multicenter ATLAS registry.” Int J Cardiol. 2020 Feb 27. pii: S0167-5273(19)34112-9.
⑥ Pagnesi M. et al. Transcatheter Aortic Valve Replacement With Next-Generation Self-Expanding Devices: A Multicenter, Retrospective, Propensity-Matched Comparison of Evolut PRO Versus Acurate neo Transcatheter Heart Valves. JACC Cardiovasc Interv. 2019 Mar 11;12(5):433-443.

 

(文責 戸部彰洋)


Pre-BAV(TAVI中の前拡張)について

TAVIにおいて人工弁を留置するためには、血管内を通って心臓まで人工弁を運ぶカテーテルが、石灰化で狭くなった患者さんの自己大動脈弁を通過する必要があります。高度な石灰化のために弁の開きが非常に悪い場合などには、人工弁を運ぶカテーテルを通過し易くする目的で、事前に風船を膨らませること(バルーン拡張)で自己の大動脈弁を広げることがあります(= 前拡張;pre BAV)。


(以下は医療従事者の方向けです)
【当院におけるpre BAVの適応基準】
・大動脈弁弁口面積AVA (aortic valve area) <0.5 cm2  ・大動脈弁最大通過流速Peak Velocity >5m/sec 特に無冠尖の石灰化が顕著な場合(bulky NCC)
・先天的2尖弁
・Horizontal Aorta(=水平大動脈, 正中軸に対して大動脈が60°以上傾斜)

【pre BAVを行うことの利点】
・デバイス通過困難の回避、同軸性の確保 や展開不良の予防(特に自己拡張型人工弁; Evolutシリーズ)
・透視上で石灰化した弁尖の挙動を確認できる


【pre BAVを行うことのデメリット】 急激に出現する大動脈弁閉鎖不全が問題になります
・術前にAR(大動脈弁閉鎖不全=逆流)がない場合、pre BAVでARが急激に出現することで循環動態の破綻に繋がる
・pre BAVと人工弁deployで2回approachすることとなり、strokeや基部破裂のriskが高まる
一般に自己拡張型弁においては、前拡張でより多くの微小栓子が認められたとの報告もありdirect(前拡張なしでの留置)が推奨されていますが、一方で後拡張(人工弁留置後のBAV)では弁周囲破裂の危険性が高いとの報告もあり、前拡張を行うことの方が一般的となりつつあります。前拡張・後拡張と周術期脳梗塞との関係には議論の余地があります。



【pre BAV手技上の留意点】
・術前のCT計測を踏まえ、弁輪径の短径を超えないバルーンサイズを選択する必要がある 当院ではBAV balloonには通常18mmを用いますが、基部破裂の危険性が高い症例では16mmの小口径バルーンを用いています
・BAV中の同時造影は狭い部分に高い圧力がかかり大動脈解離を引き起こす危険がある バルーンの肩までPigtailを引くべき (当院では同時造影を避けています)
・ARで血行動態の破綻を招き、rapid pacing終了後にも血圧が回復しない場合があるため、前拡張施行前には人工弁のクリンプまたはloadingを終了させておく必要がある

(山田真生)



経皮穿刺法TAVI(きずのほぼ残らないTAVI)

TAVI施行の際には、外科的に血管(主として大腿動脈)を露出してシース(シースイントロデューサーの略、血管内に留置してカテーテル、ガイドワイヤー、TAVI弁本体などを出血なく挿入するための止血弁付きの筒)を挿入するカットダウン法、血管を露出せずに経皮的にシースを挿入する穿刺法があります。カットダウン法の場合、傷の大きさは3-4㎝です。(患者さんの皮下組織の厚さなどによって傷の大きさは異なります。)
穿刺法の場合、始めは創の大きさは1㎝弱程度の小さなものですが。1週間もするとほぼわからなくなります。我々は経皮穿刺法TAVIを大腿動脈アプローチの大半の例において行っています。

カットダウン法の場合はシースを抜いた後にできる血管の穴は外科的に縫合することで止血しますが、経皮穿刺法の場合は特殊な止血用の道具を使用する必要があります。
当院ではパークローズPROGLIDE(プログライド)🄬という道具を使用しています。


(医療関係者の方へ)
当院でのプログライド使用方法と我々が留意している点(TAVI弁挿入側)(この方法は 経皮穿刺法ステントグラフトにも応用可能です)
(当院ではTAVI弁挿入側のシース抜去部の止血にはプログライドを2本使用しています。)
1. 6Frシース挿入。(エコーガイド下に血管性状のよいところでかつ必ず血管のど真ん中を狙って穿刺する。石灰化の強い部位を穿刺したり、血管の端によった穿刺をしたりすると、プログライドでの止血が困難となる。ここは肝である。)
2. シース周囲をメス(尖刃)、スペンサーもしくは鑷子を使用して剥離。(十分な剥離を行わないとプログライドの機構が十分働かない。ここももう一つのポイントである。)
3. ガイドワイヤー(0.035"、180㎝ラジフォーカス🄬)を挿入。(透視下に先端を腹部大動脈まで進める。)
4. 6Frシース抜去。
5. プログライド挿入。
6. ガイドワイヤー抜去。
7. 側面のマーカーチューブから血液が噴出するところまでプログライドをさらに進める。
8. 一旦血液が噴出しないところまで引く。その後、さらに進めて血液が噴出するところまで進める。
9. 1と書かれたレバーを倒す。
10. マーカーチューブーブから血液が噴出しないところまで慎重に引く。
11. ブランジャーを押して(2の矢印の方向に押す。)、その後引く(3の矢印の方向に引く。)。
12. ブランジャーを引いて本体から引き離す。本体から出てきた糸を切る。
13. レバーをもとの位置に戻す。(4の番号がついている。)
14. 本体全体をゆっくりと引く。
15. 糸を引き出す。結び目をネラトンにて先端を保護したモスキートで把持する。
16. ガイドワイヤーポートが見えたら、本体を引くのをやめ、2本目のプログライド挿入のためのラジフォーカスガイドワイヤーを挿入する。(先端が腹部大動脈内に位置するよう透視で確認する。)
17. 1本目のプログライド本体を抜去する。
18. 2本目のプログライド挿入。
19. 6から15を再び行う。これによりシース挿入部に糸が2本かかった状態が作られる。(シース抜去部に2方向で糸がかかるよう、プログライドを傾けて展開する。)
20. 9Frスーパーシースを挿入
21. 以降、TAVI弁留置用のシースに交換し、手技を進める。TAVI弁留置が無事終了すればスティフワイヤーを残した状態でTAVI弁留置用シース抜去、プログライドを天井方向に引き上げて出血コントロールが行えることを確認しつつ、末梢動脈の拍動を確認。
22. 末梢血流よければ、スティフワイヤー抜去。(ワイヤーが残っていれば動脈損傷に対して血管内治療が可能であるため最後までワイヤーを残しておく。)
23. 二組ある糸の内、一組の糸を天井方向に引き上げながらもう一方の組の糸の結び目を付属のスーチャートリマーを用いてシース抜去部まで進める。これは糸を切らずに保持しておく。
24. 同様の手順によってもう一組の糸も結び目をシース抜去部まで送り、糸を切る。
25. 先に結んだ側の糸も切り、圧迫止血を15分程度行う。

手技上の留意点
A) シース挿入部はエコーで十分に確認し、総大腿動脈の中で石灰化等のない性状良好な部位を選択し血管中央を穿刺する。
B) 2本使用する際は、1本目と2本目でシース抜去部に糸がかかる方向が異なるように、デバイス本体を傾けてからデバイスを展開する。
C) 血管損傷を避けるため、ワイヤー、プログライドの出し入れを行う際は透視下に行う。
D) 結び目が血管穿刺部まで進められるよう、最初に6Frシースを挿入した後の剥離はアクセス血管を損傷しない範囲で十分に行う。
                     (西俊彦)

Horizontal aorta

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Horizontal Aorta (水平大動脈); 水平方向に上行大動脈が寝ているような形をしていることを言います
TAVIにおいては、人工弁の留置の難易度が上がります。
医療関係者の方へ;上行大動脈の走行が60度以上の傾きがある場合(真横に走るものを90度とした定義)をhorizontal aortaと言います そのような患者さんのTAVIではLCC側が深く留置される傾向になります 我々は同軸留置の工夫を行っており、弁輪に対して斜めに留置されることを防いでおります。(counter closkwise rotation, flex解除,Pre-BAVの施行がオプションとなると考えています。)
上行大動脈瘤が存在する場合もワイヤーの走行は実質horizontal aortaのようになります。当院へは動脈瘤の患者さんの紹介が多いので、結果としてhorizontal aortaの方のTAVI治療例も多いです。

(徳田順之)

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