Pre-BAV(TAVI中の前拡張)について

TAVIにおいて人工弁を留置するためには、血管内を通って心臓まで人工弁を運ぶカテーテルが、石灰化で狭くなった患者さんの自己大動脈弁を通過する必要があります。高度な石灰化のために弁の開きが非常に悪い場合などには、人工弁を運ぶカテーテルを通過し易くする目的で、事前に風船を膨らませること(バルーン拡張)で自己の大動脈弁を広げることがあります(= 前拡張;pre BAV)。


(以下は医療従事者の方向けです)
【当院におけるpre BAVの適応基準】
・大動脈弁弁口面積AVA (aortic valve area) <0.5 cm2  ・大動脈弁最大通過流速Peak Velocity >5m/sec 特に無冠尖の石灰化が顕著な場合(bulky NCC)
・先天的2尖弁
・Horizontal Aorta(=水平大動脈, 正中軸に対して大動脈が60°以上傾斜)

【pre BAVを行うことの利点】
・デバイス通過困難の回避、同軸性の確保 や展開不良の予防(特に自己拡張型人工弁; Evolutシリーズ)
・透視上で石灰化した弁尖の挙動を確認できる


【pre BAVを行うことのデメリット】 急激に出現する大動脈弁閉鎖不全が問題になります
・術前にAR(大動脈弁閉鎖不全=逆流)がない場合、pre BAVでARが急激に出現することで循環動態の破綻に繋がる
・pre BAVと人工弁deployで2回approachすることとなり、strokeや基部破裂のriskが高まる
一般に自己拡張型弁においては、前拡張でより多くの微小栓子が認められたとの報告もありdirect(前拡張なしでの留置)が推奨されていますが、一方で後拡張(人工弁留置後のBAV)では弁周囲破裂の危険性が高いとの報告もあり、前拡張を行うことの方が一般的となりつつあります。前拡張・後拡張と周術期脳梗塞との関係には議論の余地があります。



【pre BAV手技上の留意点】
・術前のCT計測を踏まえ、弁輪径の短径を超えないバルーンサイズを選択する必要がある 当院ではBAV balloonには通常18mmを用いますが、基部破裂の危険性が高い症例では16mmの小口径バルーンを用いています
・BAV中の同時造影は狭い部分に高い圧力がかかり大動脈解離を引き起こす危険がある バルーンの肩までPigtailを引くべき (当院では同時造影を避けています)
・ARで血行動態の破綻を招き、rapid pacing終了後にも血圧が回復しない場合があるため、前拡張施行前には人工弁のクリンプまたはloadingを終了させておく必要がある

(山田真生)



2019年03月30日|ニュースのカテゴリー:TAVI