TAVI後の抗血栓療法(について(抗凝血療法)4 -アップデート 2021.5- ~DAPT vs SAPT~


「TAVI後の抗血栓療法について①」でDAPTとSAPTについて記載しました。今回はそのアップデート版として、2020年に発表されたPOPular TAVI trial cohort A(参考文献①)についてご紹介します。
POPular TAVI trial cohort Aは、TAVI後の抗血栓療法としてSAPTとDAPTのどちらが優れているのかを検証したランダム化比較試験です。
(尚、この記事の2021年5月現在は、日本のガイドライン並びに添付文書は、まだDAPTが標準になっています。参考文献②)

対象患者:
TAVIを受ける予定で、抗凝固薬の適応となる疾患のない重症AS患者。

プロトコール:
SAPT群はアスピリン単剤を継続。DAPT群はアスピリンとクロピドグレルをTAVI後3か月間内服し、その後はアスピリンのみを継続。

評価項目:
第一評価項目(2つ)・・・12か月間の全出血と非手技関連出血。
※この出血の定義は少しややこしいので、この記事の最後に注釈として載せておきます。

第二評価項目①・・・12か月間の心血管死、非手技関連出血、脳卒中、心筋梗塞の複合エンドポイント

第二評価項目②・・・12か月間の心血管死、虚血性脳卒中、心筋梗塞の複合エンドポイント

結果:
SAPT群に331人、DAPT群に334人が割り付けられました。年齢は80±6歳、49%が女性でした。94%でTrans femoral-TAVIが行われました。Sapien 3が45%に、Corevalve Evolut R/Proが37%に留置されました。

第一評価項目である全出血はSAPT群の15%、DAPT群の27%に認め、SAPT群で有意に少ない結果でした。出血イベントの過半数がアクセス部位関連でした。手技関連出血 (=BARC type 4) はSAPT群で認めず、DAPT群では1.8%に認めました。全出血のうち、特にmajorおよびminor 出血がSAPT群で少ない結果でした。

第二評価項目①はSAPT群の23%に、DAPT群の31%に認めました。これについてSAPT群はDAPT群に対して非劣性であり、優位性も示されました。

第二評価項目②はSAPT群の9.7%に、DAPT群の9.9%に認め、SAPT群のDAPT群に対する非劣性が示されました。

虚血性脳卒中、脳出血、症候性弁血栓症、弁圧較差上昇について2群間で有意差を認めませんでした。

●当院で留意していること
POPuler TAVI cohort Aの結果は、「TAVI後のSAPTはDAPTと比較して、出血イベントを減らすが血栓性イベントは増やさない」というものでした。これまでも観察研究を中心とするメタアナリシスの結果などから、ここ最近はそのような論調に傾いてきていましたが、今回の比較的大きなRCTの結果を受けて、今後日本でもガイドラインが改定されるかもしれません。尚、アメリカのガイドラインでは、すでにSAPTがDAPTより推奨度が上となっています(参考文献③)。当院では患者さんの背景や既往などを考慮して、最適な抗血栓療法を選択するよう努めています。


参考文献
① Brouwer J, et al. N Engl J Med. 2020 Oct 8;383(15):1447-1457
② 泉知里ら. 日本循環器学会/日本胸部外科学会/日本血管外科学会/日本心臓血管外科学会 2020年改訂版弁膜症治療のガイドライン
③ Otto CM, et al. Ciculation. 2021 Feb 2;143(5):e72-e227


※注釈
全出血はVARC-2基準のmajor/minor/life-threatening or disabling、そして後述の手技関連出血と非手技関連出血の全てを含みます。非手技関連出血の定義は少しややこしいです。VARC-2基準では手技関連と非手技関連の区別がないため、まず手技関連出血をBARC type 4 (術後48h以内の頭蓋内出血、胸骨閉鎖後の出血管理目的の再手術、48h以内の5単位以上の輸血、24時間以内の胸腔ドレンからの2L以上の出血)と定義します。非手技関連出血は全出血から手技関連出血(BARC type 4)を除いたものですが、TAVI穿刺部の出血のほとんどがBARC type 4の基準を満たさないので、これら(穿刺部出血)は非手技関連出血に含まれます。手技関連出血(=BARC type 4)は全出血の中に自動的に含まれます(非手技関連出血も全出血に含まれます)。


(文責 戸部彰洋)

2021年05月30日|ニュースのカテゴリー:TAVI