名大病院のMICSのコピー

低侵襲心臓手術(完全内視鏡下、ロボット支援下


低侵襲心臓手術とは、内視鏡カメラを用いる直視下法(内視鏡は補助的に使用)、完全内視鏡法、ロボット支援下の3種類があり右胸部からの小切開でおこなう心臓手術です。傷が小さく、骨を切らないため、回復が早いのが特徴です。JACVSD(日本の心臓手術のデータベース)によると、2021年度は日本全体で約1200例の僧帽弁形成術が低侵襲手術で施行されており、これは全体の半数以上になります。決して目新しい手術方法ではなく、広く普及した術式です。ただし手術難易度は高いため、十分な実績のある施設で修練を積んだ医師がおこなう必要があります。特にロボット支援下は、高難易度手術に認定され、全国でも40施設未満でしか行われていない治療になります。名古屋大学も2023年1月からロボット支援下手術を開始し、50例以上の症例に実施しています。
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1.適応疾患
大動脈弁狭窄症、大動脈弁閉鎖不全症、僧帽弁狭窄症、僧帽弁閉鎖不全症、三尖弁閉鎖不全症、心房中隔欠損・心室中隔欠損などの先天性心疾患、一部の心臓腫瘍、心房細動・心房粗動などの心房性不整脈、が基本的な適応疾患となります。
大動脈弁狭窄症に関しては、さらに低侵襲な経カテーテル的弁置換術(TAVI)が適応となる可能性もあります(TAVIの項参照)。
基本的には大動脈手術や冠動脈バイパス術は適応外となります(冠動脈バイパス術の一部は左小切開で施行することが可能、MICS-CABGの項参照)。
術前検査において、上行大動脈の拡大や石灰化、末梢動静脈の形態異常、肺疾患などを有する場合は、低侵襲手術が不適応となることもあります。
心臓再手術に関しては、基本的に初回手術と同様の適応となります。再手術が理由で低侵襲手術が不適となることはありません。

2.アプローチ
多くの心臓手術は、胸骨正中切開(図1)が心臓への標準的なアプローチですが、本手術では、胸骨を切らずに、右胸部の肋骨の間からアプローチします(図2)。右腋窩(わき)の下に、約3~4cmの皮膚切開を置きます。その他に1cm程度の創を数か所使用し、内視鏡カメラもしくは手術支援ロボットを用いて手術を行います。
鼠径部(足の付け根)から動脈・静脈のカニューレ(人工心肺につなげる管)を挿入します。鼠径部の創部は、2~3cmの皮膚切開で施行する施設もありますが、当施設は穿刺による挿入方法を採用しており、この部位の創部も術後まったく目立たなくなる利点があります。血管性状によっては鎖骨下(肩と首の間辺り)からカニューレを挿入することもあります。
皮膚切開の大きさは、体形などによって変わります。また小切開で手術が安全に進行できない場合は創を大きくする

ことがあります。


(図2、低侵襲心臓手術における右小切開)

 

3.麻酔
この手術では、左右の肺を個別に換気できる特殊なチューブを使用します。右小切開から心臓が良く見えるようにするため、手術中の一部で左肺のみの換気をおこないます。肺疾患がない方は、片肺でも十分な換気ができます。片肺換気が困難と判断された方には、通常の正中切開アプローチを行います。麻酔薬や人工呼吸器は通常の心臓手術と同じものを使用します。

4.心臓内操作
通常手術と同様の操作をおこないます。低侵襲手術という理由で、必要な操作を省いたりすることはありません。手術器具やデバイス(心臓手術用の医療機器)は低侵襲手術用のものを使用します。手術支援ロボットは、アームの可動域が540度あり、人間の手以上に繊細な作業が可能となります。


5.入院から退院までの経過

約2日前 手術当日 1-2日後 4-5日後 5-6日後 7日以降
入院、IC 手術、ICU入室 ICU退室 手術後検査 シャワー 退院


低侵襲心臓手術では、基本的に手術後7日での退院を目標としています。経過や体力次第では手術後7日以前の退院も可能です。また、骨を切らない手術となるため、退院後の労作制限はありません。
胸骨正中切開は、胸骨を切ってのアプローチとなるため、一般的には術後2カ月間は重いものを持つなどの胸骨に負担のかかる労作を控える必要があります。

6.利点・欠点
低侵襲心臓手術の利点
・創が目立ちません。
・創部の痛みが軽減されます。
・胸骨が感染する恐れがありません。
・術後の回復が早く、早期退院・早期社会復帰が可能です。

低侵襲心臓手術の欠点
・手術難易度が高く、手術時間が長くなることがあります。
・鼠径部からのカニューレ挿入による動脈・静脈の損傷が起こる可能性があります。
・片肺換気により、気管損傷・肺水腫などの合併症が起こる可能性があります。


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低侵襲心臓手術、通常の胸骨正中切開、それぞれに利点・欠点があります。我々はあくまで最適と思われる術式を提案いたしますが、それは必ずしも絶対ではなく、最終的な希望は患者さま御本人にしていただく必要があります。しかしながら、適応ではない場合もございます。
ご不明点な点がございましたら、いつでもお問い合わせください。

2025年01月15日|ニュースのカテゴリー:非掲載