新しい補助循環装置 インペラ

Impella®(インペラ)

重症の心原性ショック症例に対して従来使用されてきた補助循環機器には、大動脈バルーンパンピング(IABP)や経皮的人工心肺補助装置(PCPS / VA- ECMO)があります。重症心不全の場合には、両者の併用が必要になります。多くの場合大腿動脈から生理的な血流と逆行性に血液を送る経皮的心肺補助装置(PCPS / VA-ECMO)は自己の心臓には負担になることや、脱血が十分できていたとしても解剖学的シャントにより左心室が拡張し、心筋がダメージを受けることで救命できない症例があることが問題点でした。

 Impella®(インペラ)は経皮的または経血管的に左心室に挿入され、順行性に補助循環を行う世界最小の心内留置型の定常流ポンプカテーテルです。カテーテル先端にある小型軸流ポンプのインペラ(羽根車)が回転することにより左心室内にある吸入部から血液を吸い込み、上行大動脈にある吐出部に送血されます。

 


https://www.youtube.com/watch?v=UOOQspSdAS8

欧州では2004年から、北米では2008年から承認販売され、本邦でも2017年9月から導入されました。補助人工心臓治療関連学会協議会及び厚生労働省により認可を受けた施設のみで実施可能な高度医療であり、当院は2018 年7月に実施施設としての認可を頂きました。その適応や使用に関しては名古屋大学重症心不全治療センターに所属する多職種(循環器内科医、心臓外科医、麻酔科医、臨床工学士、放射線技師、看護師など)による協議の上なされています。先に述べた大動脈バルーンパンピング(IABP)や経皮的人工心肺補助装置(PCPS / VA- ECMO)と併用も可能で、患者さまの状態に合わせて機器を組み合わせて必要な補助を行うことが可能です。

Impella®の最大の生理学的利点として、左心室から直接脱血することで左心室の容量および圧負荷が減少することで心筋の酸素需要を低下させ、自己心機能の回復が見込めることです。また経皮的人工心肺補助装置(PCPS / VA- ECMO)と異なり、生理的血流と同じ順行性に血液を送ることで心臓を含めた全身臓器に安定して血液を供給することができます。

適応には急性心筋梗塞、劇症型心筋炎など従来の機器では救命が困難であった重症心原性ショックを来す症例が適応になります。また心臓外科術後に左心室内圧を減圧する必要がある症例や心機能が低下した症例にも効果的であると考えられます。


 

現在Impella®(インペラ)は、最大補助流量の異なるImpella 2.5、Impella CP、Impella 5.0の3種類の機器が使用可能です。Impella 2.5、CPはそれぞれ最大2.5リットル毎分、3.7リットル毎分の補助循環が可能で、大腿動脈を穿刺してインペラカテーテルを挿入するためのシースを動脈内に留置し、そのシースから血管内に留置します。それに対しImpella 5.0は最大5.0リットル毎分の補助循環が可能ですが、カテーテルが前2者に比べて太いため、大腿動脈や腋窩動脈に外科的に吻合した人工血管を介してインペラカテーテルを挿入します。機器の選択は、患者さまに必要な最大補助流量を考慮するだけでなく、挿入後の治療方針も影響します。腋窩動脈からImpella®を挿入した場合は、大腿動脈に挿入した場合と異なり体位による動脈損傷の危険が少ないため、リハビリが可能になります。例えば植込み型補助人工心臓手術までの待機期間などのように留置が比較的長期に及ぶことが予想される場合には、心臓リハビリテーションが実施できるようにImpella 5.0を腋窩動脈から導入します

(文責 伊藤英樹)

https://www.youtube.com/watch?v=uWY9jFotZos

2021年04月30日|ニュースのカテゴリー:CHF