TAVI後の抗血栓療法(抗凝血療法)2

TAVI後の抗血栓療法について② ~弁血栓症と抗凝固療法~

●弁血栓
TAVI後の抗血栓療法を考えるうえで、弁血栓症(leaflet thrombosis)は重要です。TAVI後に造影CTを撮影すると、一定の割合(4-13%)でHALT(hypo attenuated leaflet thrombosis)と呼ばれる低吸収領域がTAVI弁周囲に観察されることが知られています。(参考文献①) これは人工弁に付着した血栓、すなわち弁血栓であると推測されています。この弁血栓は、人工弁機能不全の原因となりうると考えられていますが、実際のところ多くの方では無症候とも言われています。無症候の弁血栓症を、subclinical leaflet thrombosisと呼びます。CTで発見されたsubclinical leaflet thrombosisが脳血管イベント(特にTIA)と有意に関連していたという報告もあれば(参考文献②)、関連を認めなかったとする報告もあります。(参考文献①、③)

 


●弁血栓発生の機序
ウィルヒョウの3徴をもとに解説している文献があります。(参考文献④)
① 人工弁表面の損傷
人工弁をおりたたむクリンプという作業時に、人工弁の表面に細かい傷がつくことが知られています。また人工弁留置時に、特にバルーン拡張型では傷がつくとされます。
② 血流の異常(停滞)
心拍出量が低いと弁血栓が生じやすいという報告があります。また、人工弁によってできたneo-sinusが大きいと血流が停滞しやすいと考えられます。大きな人工弁やvalve in valveもリスクとする報告があります。
③ 過凝固状態
高齢、炎症、癌、CKD、DMが血栓形成に関連する可能性があります。また自己弁の石灰化が凝固を亢進するといわれています。外科的大動脈弁置換術では自己弁を取り除くので、弁血栓の発生が少ないことと関連している可能性があります。

●症候性の弁血栓と抗凝固療法
弁血栓により人工弁の動きが制限され(reduced leaflet motion)、圧較差の上昇をきたすことがあります。このような人工弁機能不全に対して、抗凝固療法を行うことにより弁血栓が縮小・消失し、弁機能も改善したということが報告されています。(参考文献②)

●TAVI後の抗血栓療法としての抗凝固療法 (GALILEO試験/GALILEO-4D試験)
2019年、TAVI後抗血栓療法としての抗凝固薬の有用性を検討したGALILEO試験が発表されました。これは、TAVI後に3か月間アスピリン+リバーロキサバン10mgを併用し3か月以後はリバーロキサバン10mg単剤にするリバーロキサバン群と、TAVI後3か月間アスピリン+クロピドグレルを併用し3か月以降はアスピリン単剤にする抗血小板薬群の成績を比較した前向きランダム化試験です。対象患者さんは、抗凝固療法が適応となるような他の病気を持っていない人たちです。この試験は安全性の観点から早期中止となりましたが、結果はリバーロキサバン群の方が死亡+血栓塞栓イベントの複合エンドポイントのリスクが高く、さらに出血イベントのリスクも高いというものでした。死亡は有意にリバーロキサバン群で多かったですが、脳梗塞や心筋梗塞は両群で有意差を認めませんでした。死亡の原因は、出血によるものは少数で、多くが突然死、原因不明の死、非心臓死でした。(参考文献⑤)

GALILEO試験のサブスタディであるGALILEO-4D試験は、TAVI後約90日後に造影CTを撮影し、弁血栓症の頻度の差をみたものです。この試験の結果は、リバーロキサバン群においてreduced leaflet motionやsubclinical leaflet thrombosisの頻度が少ないというものでした。(参考文献⑥) つまり上述のGALILEO試験と合わせると、抗凝固薬(リバーロキサバン10mg)を使用することで弁血栓の頻度を減らすものの、それが臨床結果を改善させてはいない、という結論でした。

このようにTAVI後の抗血栓療法として、抗凝固薬の適応となるような他の疾患のない患者さんに対し抗凝固薬をルーチンで使用することの有用性については現状では懐疑的となっています。


●当院で留意していること
TAVI治療後の抗血栓療法法としては抗血小板薬が選択されることが一般的です。しかしフォローアップ中に、心エコー検査にてTAVI弁の流速や圧較差の上昇を認めた場合は、弁血栓を疑って対応をします。腎機能の良い患者さんでは造影CTを撮影して、弁血栓の有無を調べることもありますが、TAVI治療を受けられた患者さんは高齢で腎障害のある方も多いです。その場合は造影CTは撮影せずに、弁血栓が生じたと考え抗凝固薬を使用し反応をみることもあります。
抗凝固薬が適応となる他の疾患をお持ちの患者さんに対する抗血栓療法については後述します。


(参考文献)
① Vollema EM, et al. “Transcatheter Aortic Valve Thrombosis: The Relation Between Hypo-Attenuated Leaflet Thickening, Abnormal Valve Haemodynamics, and Stroke” Eur Heart J. 2017 Apr 21;38(16):1207-1217.
② Chakravarty T, et al. “Subclinical leaflet thrombosis in surgical and transcatheter bioprosthetic aortic valves: an observational study” Lancet. 2017 Jun 17;389(10087):2383-2392.
③ Yanagisawa R, et al. “Incidence, Predictors, and Mid-Term Outcomes of Possible Leaflet Thrombosis After TAVR” JACC Cardiovasc Imaging. 2016 Dec 8;S1936-878X(16)30897-X
④ Rashid HN, et al. “Subclinical Leaflet Thrombosis in Transcatheter Aortic Valve Replacement Detected by Multidetector Computed Tomography - A Review of Current Evidence” Circ J. 2018 Jun 25;82(7):1735-1742.
⑤ Dangas GD, et al. “A Controlled Trial of Rivaroxaban After Transcatheter Aortic-Valve Replacement” N Engl J Med. 2020 Jan 9;382(2):120-129
⑥ De Backer O, et al. “Reduced Leaflet Motion After Transcatheter Aortic-Valve Replacement” N Engl J Med. 2020 Jan 9;382(2):130-139.

2020年06月26日|ニュースのカテゴリー:TAVI