名大病院のMICS

名大病院が力をいれている 小切開心臓手術

ロボット支援下心臓手術


 

 

 

 

名古屋大学心臓外科教室でロボット支援下心臓手術(da Vinci Surgical System)の導入を2023年より行っています


近年、心臓手術はより身体的な負担を軽減し、回復の早い手術へと進化を遂げています。右小開胸下僧帽弁形成術と同時期に2018年よりロボット支援下弁形成術(1弁のもの、2弁のもの)も保険収載されるようになりました。当院では2018年より3D内視鏡下の右小開胸下僧帽弁形成術僧帽弁形成術を開始し、僧帽弁置換術、三尖弁形成手術、大動脈弁置換術、Maze(不整脈手術)、左心耳切除術まで適応を拡げて行っております。右小開胸で行いますので、通常の正中切開の手術と比べると手術時間、人工心肺時間、心停止時間が長くなる傾向がありますが、輸血率低下、ICU滞在期間、入院期間が短くなります。また、胸骨切開、肋骨切開を伴いない分、回復も早く社会復帰が早い傾向があります。
これまで死亡例、再手術症例もなくすすめてきました。
(2018年より胸腔鏡下弁形成術および弁置換術も限定された施設で保険収載可能)
ロボット支援下手術を導入することで、右小開胸下手術と比較すると、切開の傷をさらに小さくすることができ、狭い空間でのロボットアームの細やかな動きと広い可動域を活かすことで、より繊細な手術を可能にできます。
またロボット自体も進化を続ける可能性も非常に高く、現在は、4本のアームで手術を行っていますが、すでに米国では一つのアームでの手術が可能なda Vinci SP®も導入されています。

ダ・ヴィンチ手術とは?
da Vinci(ダ・ヴィンチ)手術支援ロボットは、1990年代にアメリカで開発され、2002年に僧帽弁手術に対するFDAの承認(米国)を得ています。2004 年には冠動脈バイパス手術でのFDAの承認(米国)を得ています。日本では2015年に心臓外科領域で薬事承認を得て、2018年に弁形成術に対して保険収載され限られた施設(25施設)のみで手術が可能となっています。
Da Vinciはコンソールで操作したことをロボットアームがリアルタイムに実行するという遠隔操作システムになっています。合計4本のロボットアームがあり、カメラ1本、鉗子3本の構成になっています。カメラには3D内視鏡が取り付けられ、その視野は非常に鮮明であり、3本の鉗子をたくみに操ることで、つまむ、切る、かき出す、縫合するなど、多彩な用途に応じて付け替えられます。
ロボットアームの可動域は人間の手の動きを完全に凌駕しており、鮮やかな手術が可能になります。

心機能低下の無いIV度の僧帽弁閉鎖不全症がもっとも良い適応です

文責 六鹿雅登


左からコンソール、ペイシェントカート、ビジョンカート

名大病院でのMICS

低侵襲心臓手術(MICS)

かつては心臓の手術とは命を落とすリスクも高いものでしたが、技術や機材の進歩に伴い弁膜症に関してはそのリスクは数%まで改善されています。手術成績はもちろんのこと、患者様のQOLを重視した治療を施す必要があると考えています。
従来の胸骨を縦に切って行う手術では、喉元からみぞおちにかけて約20cmの創が残りますが、2018年4月に保健収載された低侵襲心臓手術(MICS)は約5センチの創部から内視鏡補助下に行う手術であり、術後の創部は下の写真のように目立ちません。当科ではMICSを2018年夏から導入しました。
MICSのメリット
・骨を切らないため出血が少ない
・入院期間が短い
・術後の運動制限期間が短くて済む
・切開が小さいため美容的に優れている など
MICSのデメリット
・胸の形や血管の太さなど一定の条件がある
・適応症が限られている など
50代男性 僧帽弁形成術後

MICSの創部の例;50代男性 僧帽弁形成術後  20代女性心房中隔欠損(ASD)閉鎖手術後

条件を満たしている疾患の患者様に対しては可能な限りMICSを第一選択に考えます。右脇腹に約5cmの創と、約1cmの内視鏡用、約5mmの管子用の創を作製し、3Dハイビジョンモニター(KARL STORZ社)を見ながら手術を行います。対象物をモニターに大きく映し出すので手術部位を詳細に観察することができ、術者だけでなく手術スタッフ全員が病変を確認しながら術者の動きも見ることができるので、チーム全体が手術の流れを理解しやすくなります。胸骨を切らない手術ですので、術後の創の痛みが少なく、従来の手術に比べて早期退院が可能です。

上記はMICSの術中風景

(KARL STORZ社の3D内視鏡 メーカーHPより抜粋)

MICSの対象手術
・僧帽弁形成術
・三尖弁形成術
・大動脈弁置換術
・心房中隔欠損閉鎖術
・不整脈手術(メイズ手術) など

また、大学病院ならではの複雑病変に対する手術、再手術など、他病院では施行困難な手術も積極的に行っており、病変が複雑な場合には従来通りの胸骨を切って行う手術を選択しています。

今後はda Vinci(intuitive Surgical社)を用いたロボット手術も行うべく申請しています。1〜2cmの創部からロボットのアームを挿入し、先端についている管子や内視鏡を遠隔操作して手術を行います。管子の自由度が高く、繊細な動きが可能となるため複雑で繊細な手術操作が可能になります。

文責 六鹿雅登

 

sutureless AVR

縫合結紮が少ない 外科的大動脈弁置換術 sutureless AVR

経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)用生体弁の技術とこれまで使用されてきた生体弁技術の融合により誕生したINTUITY Elite(エドワーズライフサイエンス株式会社)の施設認定を受けており、解剖学的に条件を満たしている患者様に対してはより低侵襲に大動脈弁置換が施行できるようになりました。

提供:エドワーズライフサイエンス(株)

名大病院での僧帽弁手術

僧帽弁手術
僧帽弁形成術は僧帽弁置換術と比較して弁下の構造を保てることなどから術後の合併症発生率を軽減でき左室機能も維持されると考えられています。当科では形成術を第一選択とし、形成が困難な場合のみ僧帽弁置換術を選択しています。
形成の手技に関しては余剰弁尖を切除し再縫合を行う方法と、人工腱索を再建する方法が主流でありますが、当科では「respect rather than resect」のコンセプトをもとに、人工腱索再建の方法を積極的に施行しています。弁輪拡大予防目的にほぼ全例に人工弁輪を使用しています。
日本循環器学会から弁膜症治療のガイドラインが発行されており、ガイドラインに基づいた治療を提供しています。
http://j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2020_Izumi_Eishi.pdf

 

文責 柚原 悟史

» 続きを読む