TAVI後の伝導障害 ②房室ブロック/ペースメーカー留置

TAVI後の伝導障害 ②房室ブロック/ペースメーカー留置

 『TAVI後の伝導障害 ①左脚ブロック』の中で、刺激伝導系について説明しました。この刺激伝導系がより強く障害されると、心房から心室へと興奮が伝わりにくくなります。これを房室ブロック(心房から心室へと興奮が伝わることがブロックされること)といいます。心房と心室の間の興奮伝達が完全に遮断されると、心房と心室の連携は失われ、各々が独自のペースで動くことになります。この状態を完全房室ブロック(3度房室ブロック)と呼びます。一般的に完全房室ブロックの場合は、著しく脈が遅くなり、放置しておくと心臓に負担がかかり心不全となったり突然死を起こすことがあるので、ペースメーカー留置の適応となります。ペースメーカーとは、心臓に電気刺激を送って脈を打たせる機械のことです。
 TAVI治療は、機械の進歩や手技の習熟とともに合併症の頻度も少なくなってきていますが、この伝導障害、特にペースメーカー留置となる危険性は依然として高く(4-30%)、TAVI治療のアキレス腱と言われています。
 ペースメーカー留置となった場合と予後との関連に関しては、まだ十分に解明されていません。

医療関係者の方へ

●伝導障害のメカニズム
左脚ブロックなどを除くと、ペースメーカー留置は最も多い合併症と言われています。刺激伝導系の解剖学的特性については『TAVI後の伝導障害 ①左脚ブロック』をご参照ください。もともと伝導障害を認めなかった方が高度房室ブロックになる場合もあれば、もともと右脚ブロックのあった方に新規左脚ブロックを生じて結果的に完全房室ブロックとなる場合もあります。

●頻度
TAVI後に恒久式ペースメーカー留置となる頻度は、前世代のCoreValveで16.6-37.6%、SAPIEN/SAPIEN XTで3.4-17.3%と報告されています。左脚ブロック同様、ペースメーカー留置となるリスクは自己拡張型(CoreValveシリーズ)の方が一般的に高いとされていますが、一方で変わらないという報告もあります。新世代の弁に関して、バルーン拡張型のSAPIEN3では3.7-31%と報告されています。SAPIEN3について検討した3つの多施設レジストリー研究において、ペースメーカー率は11-14%であり、前世代と比較して2倍も多くなっています。これは左脚ブロックが増えていたことと同様に、SAPIEN3の強いradial strengthとアウタースカートによるものと考察されています。(参考文献①)CoreValveシリーズのEvolut Rではペースメーカー率は10.8-31.3%、(参考文献①②③)Evolut Proでは11.8-27.7%と報告されています。(参考文献②③④⑤⑥)CoreValveシリーズに関しては、デバイスの改良とともにペースメーカー率が低くなっていると考察している文献もあります。(参考文献⑥)
このTAVI後新規ペースメーカー留置率を考慮するうえで注意すべきことがあります。一つ目は、もともとペースメーカーが留置されていた患者さんを母数から抜いているかどうかです。もともとペースメーカーが留置されている方は、TAVI後に新規ペースメーカー留置となることはないので、母数から抜かないと本当の新規ペースメーカー率を過小評価する可能性がありますが、一部の研究では母数から抜かれていません。二つ目は、ペースメーカー留置となった理由です。ペースメーカー留置の判断基準(不整脈の種類やwaiting期間など)は施設によって異なり、例えば新規左脚ブロックに対して予防的にペースメーカーを植え込む施設もあります。(参考文献①)
 高度房室ブロックはTAVI後24時間以内に発生するものがほとんどですが、遅発性に生じることもあります。退院時に伝導障害がなければ、その後高度房室ブロックに進行することはまれと考えられています。(参考文献①)
 左脚ブロック同様に、高度房室ブロックも時間経過とともに改善する場合があります。留置されたペースメーカーの解析で、心室ペーシング率が1%未満となる方が一定数存在することが知られています。ただし、たとえ1%未満のペーシング率でも、致命的となりうる発作性の高度房室ブロックを防いでいる可能性はあります。(参考文献①)

●予測因子
 ペースメーカー留置の予測因子として多くの研究で証明されているのは、術前の右脚ブロックと、自己拡張型弁(CoreValveシリーズ)の使用です。他には、患者さんの要因としては、男性、Ⅰ度房室ブロック、左脚前肢ブロック、大動脈弁/左室流出路/僧帽弁輪の石灰化が、手技的な要因としては、弁留置の深さなどが指摘されています。(参考文献①)

●予後
 TAVI後のペースメーカー留置と予後の関連はまだ十分に明らかにされていません。1つのメタアナリシスではペースメーカー留置と1年後の死亡との関連は認めなかったと報告されています。また別の研究で、ペースメーカー留置群の方が1年後の死亡率が低い傾向を示したことが報告されており、これは突然死を予防したからではないかと考察されています。一方、レジストリー研究で1年後の死亡と有意に関連していたとするものもあります。
 このようにペースメーカー留置と中長期予後は意見の分かれるところですが、これはペースメーカー留置となった理由(高度房室ブロックなのか、左脚ブロックに対して予防的に留置したのか、など)やペースメーカー依存率、特に右室ペーシング率の違いによる影響も大きいと考えられます。またTAVI患者さんは高齢で心外合併症も多く、一般的に寿命の長くない方々と考えられるので、長期右室ペーシングの影響が表れにくいのかもしれません。
 ペーシング率が高いと推測される患者さんを対象とした研究では、中長期の死亡と関連していたとする報告もあります。(参考文献①)

●当院で留意していること
 術前検査として行っている心電図で、既存の伝導障害の有無を確認しています。弁留置の深さがペースメーカー率と関連するとされているので、術中の大動脈造影や経食道心エコーをもとに、適切な深さに弁を留置するよう心がけています。また、術後の遅発性房室ブロックを見逃さないように、退院時まで心電図モニターを装着しています。


参考文献
① Auffret V. et al. “Conduction Disturbances After Transcatheter Aortic Valve Replacement: Current Status and Future Perspectives.” Circulation. 2017 Sep 12;136(11):1049-1069
② Gaurav Rao. et al. “Early Real-World Experience with CoreValve Evolut PRO and R Systems for Transcatheter Aortic Valve Replacement.” J Interv Cardiol. 2019 Oct 1;2019
③ Hellhammer K. et al. “The Latest Evolution of the Medtronic CoreValve System in the Era of Transcatheter Aortic Valve Replacement: Matched Comparison of the Evolut PRO and Evolut R.” JACC Cardiovasc Interv. 2018 Nov 26;11(22):2314-2322
④ Forrest JK . Et al. “Early Outcomes With the Evolut PRO Repositionable Self-Expanding Transcatheter Aortic Valve With Pericardial Wrap.” JACC Cardiovasc Interv. 2018 Jan 22;11(2):160-168
⑤ Kalogeras K. et al. “Comparison of the self-expanding Evolut-PRO transcatheter aortic valve to its predecessor Evolut-R in the real world multicenter ATLAS registry.” Int J Cardiol. 2020 Feb 27. pii: S0167-5273(19)34112-9.
⑥ Pagnesi M. et al. Transcatheter Aortic Valve Replacement With Next-Generation Self-Expanding Devices: A Multicenter, Retrospective, Propensity-Matched Comparison of Evolut PRO Versus Acurate neo Transcatheter Heart Valves. JACC Cardiovasc Interv. 2019 Mar 11;12(5):433-443.

 

(文責 戸部彰洋)


2020年05月09日|ニュースのカテゴリー:TAVI