TAVI後の抗血栓療法(抗凝血療法)1

TAVI後の抗血栓療法について① ~DAPT vs SAPT~

TAVI治療後、留置した人工弁自体に対して、また二次的な血栓塞栓性イベントを防ぐために、抗血栓療法を行うことが推奨されています。
SAPIEN 3(バルーン拡張型生体弁)の添付文書では6か月後までアスピリン+チエノピリジン系のDAPT(二剤併用抗血小板療法)を行い、6か月以後はSAPT(単剤抗血小板療法)に減量することが推奨されています。Evolut R/Pro(自己拡張型生体弁)の添付文書では3か月後までDAPTを行うことが推奨されています。しかし、TAVI治療の対象患者さんは、高齢、並存疾患などにより出血高リスクとなることが多くなります。そのためDAPTによる出血リスク増加の懸念もあり、最適なDAPTの期間や必要性など、未だ十分に明らかにされていません。またTAVI後の抗血栓療法としての抗凝固薬の有用性や位置づけも意見の分かれるところです。TAVI後の最適な抗血栓療法はまだ定まっていません。

●DAPT vs. SAPT
バルーン拡張型生体弁を使用したTAVI後の抗血栓療法としてDAPT(アスピリン+クロピドグレルを3か月、最低6か月まではアスピリン単剤を継続)とSAPT(最低6か月まではアスピリン単剤を継続)を比較した小規模な前向きランダム試験では、DAPT群で出血イベントが多く、脳梗塞などの血栓塞栓性イベントはSAPT群と同等という結果でした。(参考文献①) また、自己拡張型生体弁を使用した小規模な前向きランダム化試験においても、DAPT群とSAPT群で短中期成績は同等であり、DAPTの優位性は示されませんでした。(参考文献②) 複数のメタアナリシスでもDAPTが出血イベントを増やすものの、血栓塞栓性イベントはSAPTと同等ということが報告されています。(参考文献③-⑤)

尚、TAVI後の血栓塞栓性イベントとして重要な脳梗塞は、その多くが術後24時間以内に起こることが知られています。この機序は、大動脈や大動脈弁に対する機械的な刺激によってプラークなどが剥がれて塞栓を起こす、というものです。この塞栓に対して、DAPTの予防効果は期待できません。また24時間以降に起こる脳梗塞は心房細動との関連が指摘されており、これに対してもDAPTの効果は限定的です。(参考文献①)

●当院で留意していること
日本循環器学会の「2020年改訂版 弁膜症治療ガイドライン」では、TAVI後の抗血栓療法は6か月未満のDAPT後、SAPTを継続することがクラスⅡaで推奨されています。(参考文献⑥) 一方上述のように、TAVI後のDAPTは血栓塞栓を減らさないが出血は増やす、というデータも出てきています。このようにTAVI後の最適な抗血栓療法はまだ定まっていませんが、当院では患者さんの背景や併存疾患および併用薬などを考慮しながら、最適と思われる抗血栓療法を選択しています。

(参考文献)
① Rodés-Cabau J, et al. “Aspirin Versus Aspirin Plus Clopidogrel as Antithrombotic Treatment Following Transcatheter Aortic Valve Replacement With a Balloon-Expandable Valve: The ARTE (Aspirin Versus Aspirin + Clopidogrel Following Transcatheter Aortic Valve Implantation) Randomized Clinical Trial” JACC Cardiovasc Interv. 2017 Jul 10;10(13):1357-1365.
② Ussia GP, et al. “Dual Antiplatelet Therapy Versus Aspirin Alone in Patients Undergoing Transcatheter Aortic Valve Implantation” Am J Cardiol 2011;108:1772–1776
③ Maes F, et al. “Meta-Analysis Comparing Single Versus Dual Antiplatelet Therapy Following TranscatheterAortic Valve Implantation” Am J Cardiol. 2018 Jul 15;122(2):310-315.
④ Siddamsetti S, et al. “Meta-Analysis Comparing Dual Antiplatelet Therapy Versus Single Antiplatelet Therapy Following Transcatheter Aortic Valve Implantation” Am J Cardiol 2018;122:1401-1408.
⑤ Hu X, et al. “Single versus Dual Antiplatelet Therapy after Transcatheter Aortic Valve Implantation: A Systematic Review and Meta-Analysis.” Cardiology 2018;141:52–65
⑥ 泉知里、江石清行編 「2020年改訂版弁膜症治療のガイドライン」 日本循環器学会/日本胸部外科学会/日本血管外科学会/日本心臓血管外科学会合同ガイドライン

 

(文責 戸部彰洋)

2020年06月26日|ニュースのカテゴリー:TAVI