縫合結紮が少ない 外科的大動脈弁置換術 sutureless AVR
経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)用生体弁の技術とこれまで使用されてきた生体弁技術の融合により誕生したINTUITY Elite(エドワーズライフサイエンス株式会社)の施設認定を受けており、解剖学的に条件を満たしている患者様に対してはより低侵襲に大動脈弁置換が施行できるようになりました。


提供:エドワーズライフサイエンス(株)
Valve in Valve TAVI:人工弁の中に留置するTAVIについて(一般の方 向け)
人工弁には機械弁と生体弁がありますが、機械弁は耐久性に優れているが、持続的な抗凝固療法が必要であるというデメリットがあります。一方で生体の組織から作られた生体弁は抗凝固療法の必要がない一方で、 耐久性の問題があります。開胸手術(SAVR)で留置された生体弁は術後およそ10-15年が経過すると形態的な劣化が生じ、人工弁に「狭窄」(弁が硬くなり開きにくくなる)や「逆流)」(弁が閉まらず血液が逆流してしまう)が認められるようになり、「生体弁機能不全 (SVD)」に陥ります(図1)[1]。
図1. Dvir, et al. Standardized Definition of Structural Valve Degenerationより引用
[1]
生体弁機能不全が起こりますと心臓から全身への血流の供給が低下する心不全の状態になる可能性があります。術後は定期的に心エコー検査を行い、機能不全になってきた場合には再治療が必要となります。機能不全に陥った人工弁に対してはこれまで再開胸・人工心肺使用による再手術(再AVR)が唯一の方法でありましたが、2018年7月から機能不全に陥った外科生体弁へのTAVI治療が保険適応になりました。弁膜症治療のガイドラインでは、「手術リスクの高い症例で、生体弁機能不全対するカテーテル治療」は推奨クラスIIa(エビデンス・見解から有用・有効である可能性が高い)と記載されています(図2)[2]。
図2. 2020年改訂版弁膜症治療のガイドライン[2]
この生体弁機能不全に対する特殊なTAVIは「TAV in SAV」と呼ばれており、2021年現在使用できるデバイスは自己拡張型Evolut Rおよび、バルーン拡張型Sapienが認められております。
図3. Webb and Dvir. Aortic Valve-in-Valve Implantationより引用 [3]
人工弁には大きく分けて、生体弁と機械弁があります。TAV in SAVの対象となる弁は生体弁で、機械弁は対象となりません。生体弁にはStented,
Stented (Externally Mounted), Stentlessの3種類があります(図3)[3]。外巻き弁に対してTAVIでvalve-in-valveを行う場合は その構造上、冠動口塞のリスクは内巻き弁より高いと考えられており、Sapienに関しては外巻の生体弁は対象外とされております。
さらに現時点では劣化したTAVI弁に対するTAVI(TAV-in-TAV)は現状のところ保険適用となっておらず、あくまでSAVRで置換された外科生体弁がその対象となります。
成績:
valve-in-valveにおいてはその低侵襲という特性上、外科手術ハイリスク症例に対しても優れた術後成績が報告されており[4]、生体弁機能不全に対する治療として、十分なオプションとなり得ると考えられます。再AVRとvalve-in-valveの成績が同等であるという報告もありますが[5]、 一方でvalve-in-valveを支持する報告も認められます[6]。Ahmedらの2021年の報告によると、valve-in-valve群の方が再AVR群と比べてベースのリスクが高かったにも関わらず30日死亡は低かったとされております[7]。一方で再AVR群の方が弁周囲の逆流や、患者人工弁ミスマッチ(PPM)、植え込んだ弁のパフォーマンスに関しては優れていたとも報告されております[7]。
Valve-in-valveに関する注意点はいくつか報告されております。小さな外科生体弁が入っている症例や、もともとPPMのある症例にvalve-in-valveを行うと予後が悪いという報告[3]があり注意が必要であると考えられます。
valve-in-valveの有効弁口面積が外科弁のフレームに制限されてしまうという問題点を解決するため、最近の外科生体弁にはフレームが拡張する機能をもつものが市場に出ており、さらにvalve
fractureというstent frameを割って広げるというテクニックも紹介されております[8]。
再AVRかvalve-in-valveかの選択は現時点では難しい選択となり、ハートチームで個々の症例ごとに詳細な評価を行い決定することが重要であると考えられます。さらに今後の大動脈弁治療においては、TAV
in SAVの可能性を常に念頭に置き、初回AVR時における弁の選択(サイズや種類)がこれまで以上に重要になってくると考えています。
文責 藤井太郎
参考文献:
① Dvir D, Bourguignon T, Otto CM, et al Standardized definition of structural
valve degeneration for surgical and transcatheter bioprosthetic aortic
valves. Circulation. 2018;137:388–399.
② 日本循環器学会/ 日本胸部外科学会/ 日本血管外科学会/ 日本心臓血管外科学会合同ガイドライン. 2020年改訂版弁膜症治療のガイドライン.
https://www.j-circ.or.jp/cms/wpcontent/uploads/2020/05/JCS2020_Izumi_Eishi_0420.pdf
(2021年6月閲覧)
③ Webb JG and Dvir D. Transcatheter aortic valve replacement for bioprosthetic
aortic valve failure: the valve-in-valve procedure. Circulation. 2013;127:2542-50.
④ Webb JG, Murdoch DJ, Alu MC, Cheung A, Crowley A, Dvir D, et al. 3-year
outcomes after valve-in-valve transcatheter aortic valve replacement for
degenerated bioprostheses: the PARTNER 2 registry. J Am Coll Cardiol. (2019).
73:2647–55.
⑤ Sedeek AF, Greason KL, Sandhu GS, et al. Transcatheter Valve-in-Valve
Vs Surgical Replacement of Failing Stented Aortic Biological Valves. Ann
Thorac Surg 2019; 108: 424-430.
⑥ Pierre D, et al. Transcatheter Valve-in-Valve Aortic Valve Replacement
as an Alternative to Surgical Re-Replacement. J Am Coll Cardiol. 2020 Aug
4;76(5):489-499.
⑦ Ahmed A, Levy KH. Valve‐in‐valve transcatheter aortic valve replacement
versus redo surgical aortic valve replacement: a systematic review and
meta‐analysis. J Card Surg. 2021;36:2486‐2495.
⑧ Chhatriwalla AK, Allen KB, Saxon JT, Cohen DJ, Aggarwal S, Hart AJ, Baron
SJ, Dvir D and Borkon AM. Bioprosthetic Valve Fracture Improves theHemodynamic
Results of Valve-in-Valve Transcatheter Aortic Valve Replacement. Circulation
Cardiovascular interventions. 2017;10.
文責 藤井太郎
MICSの創部の例;50代男性 僧帽弁形成術後 20代女性心房中隔欠損(ASD)閉鎖手術後
条件を満たしている疾患の患者様に対しては可能な限りMICSを第一選択に考えます。右脇腹に約5cmの創と、約1cmの内視鏡用、約5mmの管子用の創を作製し、3Dハイビジョンモニター(KARL STORZ社)を見ながら手術を行います。対象物をモニターに大きく映し出すので手術部位を詳細に観察することができ、術者だけでなく手術スタッフ全員が病変を確認しながら術者の動きも見ることができるので、チーム全体が手術の流れを理解しやすくなります。胸骨を切らない手術ですので、術後の創の痛みが少なく、従来の手術に比べて早期退院が可能です。
上記はMICSの術中風景
(KARL STORZ社の3D内視鏡 メーカーHPより抜粋)
MICSの対象手術
・僧帽弁形成術
・三尖弁形成術
・大動脈弁置換術
・心房中隔欠損閉鎖術
・不整脈手術(メイズ手術) など
また、大学病院ならではの複雑病変に対する手術、再手術など、他病院では施行困難な手術も積極的に行っており、病変が複雑な場合には従来通りの胸骨を切って行う手術を選択しています。
今後はda Vinci(intuitive Surgical社)を用いたロボット手術も行うべく申請しています。1〜2cmの創部からロボットのアームを挿入し、先端についている管子や内視鏡を遠隔操作して手術を行います。管子の自由度が高く、繊細な動きが可能となるため複雑で繊細な手術操作が可能になります。
文責 六鹿雅登
Impella®(インペラ)
重症の心原性ショック症例に対して従来使用されてきた補助循環機器には、大動脈バルーンパンピング(IABP)や経皮的人工心肺補助装置(PCPS /
VA- ECMO)があります。重症心不全の場合には、両者の併用が必要になります。多くの場合大腿動脈から生理的な血流と逆行性に血液を送る経皮的心肺補助装置(PCPS
/ VA-ECMO)は自己の心臓には負担になることや、脱血が十分できていたとしても解剖学的シャントにより左心室が拡張し、心筋がダメージを受けることで救命できない症例があることが問題点でした。
Impella®(インペラ)は経皮的または経血管的に左心室に挿入され、順行性に補助循環を行う世界最小の心内留置型の定常流ポンプカテーテルです。カテーテル先端にある小型軸流ポンプのインペラ(羽根車)が回転することにより左心室内にある吸入部から血液を吸い込み、上行大動脈にある吐出部に送血されます。
https://www.youtube.com/watch?v=UOOQspSdAS8
欧州では2004年から、北米では2008年から承認販売され、本邦でも2017年9月から導入されました。補助人工心臓治療関連学会協議会及び厚生労働省により認可を受けた施設のみで実施可能な高度医療であり、当院は2018
年7月に実施施設としての認可を頂きました。その適応や使用に関しては名古屋大学重症心不全治療センターに所属する多職種(循環器内科医、心臓外科医、麻酔科医、臨床工学士、放射線技師、看護師など)による協議の上なされています。先に述べた大動脈バルーンパンピング(IABP)や経皮的人工心肺補助装置(PCPS
/ VA- ECMO)と併用も可能で、患者さまの状態に合わせて機器を組み合わせて必要な補助を行うことが可能です。
Impella®の最大の生理学的利点として、左心室から直接脱血することで左心室の容量および圧負荷が減少することで心筋の酸素需要を低下させ、自己心機能の回復が見込めることです。また経皮的人工心肺補助装置(PCPS
/ VA- ECMO)と異なり、生理的血流と同じ順行性に血液を送ることで心臓を含めた全身臓器に安定して血液を供給することができます。
適応には急性心筋梗塞、劇症型心筋炎など従来の機器では救命が困難であった重症心原性ショックを来す症例が適応になります。また心臓外科術後に左心室内圧を減圧する必要がある症例や心機能が低下した症例にも効果的であると考えられます。
。
現在Impella®(インペラ)は、最大補助流量の異なるImpella 2.5、Impella CP、Impella 5.0の3種類の機器が使用可能です。Impella 2.5、CPはそれぞれ最大2.5リットル毎分、3.7リットル毎分の補助循環が可能で、大腿動脈を穿刺してインペラカテーテルを挿入するためのシースを動脈内に留置し、そのシースから血管内に留置します。それに対しImpella 5.0は最大5.0リットル毎分の補助循環が可能ですが、カテーテルが前2者に比べて太いため、大腿動脈や腋窩動脈に外科的に吻合した人工血管を介してインペラカテーテルを挿入します。機器の選択は、患者さまに必要な最大補助流量を考慮するだけでなく、挿入後の治療方針も影響します。腋窩動脈からImpella®を挿入した場合は、大腿動脈に挿入した場合と異なり体位による動脈損傷の危険が少ないため、リハビリが可能になります。例えば植込み型補助人工心臓手術までの待機期間などのように留置が比較的長期に及ぶことが予想される場合には、心臓リハビリテーションが実施できるようにImpella 5.0を腋窩動脈から導入します
(文責 伊藤英樹)
https://www.youtube.com/watch?v=uWY9jFotZos
TAVI施行の際には、外科的に血管(主として大腿動脈)を露出してシース(シースイントロデューサーの略、血管内に留置してカテーテル、ガイドワイヤー、TAVI弁本体などを出血なく挿入するための止血弁付きの筒)を挿入するカットダウン法、血管を露出せずに経皮的にシースを挿入する穿刺法があります。カットダウン法の場合、傷の大きさは3-4㎝です。(患者さんの皮下組織の厚さなどによって傷の大きさは異なります。)
穿刺法の場合、始めは創の大きさは1㎝弱程度の小さなものですが。1週間もするとほぼわからなくなります。我々は経皮穿刺法TAVIを大腿動脈アプローチの大半の例において行っています。
カットダウン法の場合はシースを抜いた後にできる血管の穴は外科的に縫合することで止血しますが、経皮穿刺法の場合は特殊な止血用の道具を使用する必要があります。
当院ではパークローズPROGLIDE(プログライド)🄬という道具を使用しています。
(医療関係者の方へ)
・当院でのプログライド使用方法と我々が留意している点(TAVI弁挿入側)(この方法は 経皮穿刺法ステントグラフトにも応用可能です)
(当院ではTAVI弁挿入側のシース抜去部の止血にはプログライドを2本使用しています。)
1. 6Frシース挿入。(エコーガイド下に血管性状のよいところでかつ必ず血管のど真ん中を狙って穿刺する。石灰化の強い部位を穿刺したり、血管の端によった穿刺をしたりすると、プログライドでの止血が困難となる。ここは肝である。)
2. シース周囲をメス(尖刃)、スペンサーもしくは鑷子を使用して剥離。(十分な剥離を行わないとプログライドの機構が十分働かない。ここももう一つのポイントである。)
3. ガイドワイヤー(0.035"、180㎝ラジフォーカス🄬)を挿入。(透視下に先端を腹部大動脈まで進める。)
4. 6Frシース抜去。
5. プログライド挿入。
6. ガイドワイヤー抜去。
7. 側面のマーカーチューブから血液が噴出するところまでプログライドをさらに進める。
8. 一旦血液が噴出しないところまで引く。その後、さらに進めて血液が噴出するところまで進める。
9. 1と書かれたレバーを倒す。
10. マーカーチューブーブから血液が噴出しないところまで慎重に引く。
11. ブランジャーを押して(2の矢印の方向に押す。)、その後引く(3の矢印の方向に引く。)。
12. ブランジャーを引いて本体から引き離す。本体から出てきた糸を切る。
13. レバーをもとの位置に戻す。(4の番号がついている。)
14. 本体全体をゆっくりと引く。
15. 糸を引き出す。結び目をネラトンにて先端を保護したモスキートで把持する。
16. ガイドワイヤーポートが見えたら、本体を引くのをやめ、2本目のプログライド挿入のためのラジフォーカスガイドワイヤーを挿入する。(先端が腹部大動脈内に位置するよう透視で確認する。)
17. 1本目のプログライド本体を抜去する。
18. 2本目のプログライド挿入。
19. 6から15を再び行う。これによりシース挿入部に糸が2本かかった状態が作られる。(シース抜去部に2方向で糸がかかるよう、プログライドを傾けて展開する。)
20. 9Frスーパーシースを挿入
21. 以降、TAVI弁留置用のシースに交換し、手技を進める。TAVI弁留置が無事終了すればスティフワイヤーを残した状態でTAVI弁留置用シース抜去、プログライドを天井方向に引き上げて出血コントロールが行えることを確認しつつ、末梢動脈の拍動を確認。
22. 末梢血流よければ、スティフワイヤー抜去。(ワイヤーが残っていれば動脈損傷に対して血管内治療が可能であるため最後までワイヤーを残しておく。)
23. 二組ある糸の内、一組の糸を天井方向に引き上げながらもう一方の組の糸の結び目を付属のスーチャートリマーを用いてシース抜去部まで進める。これは糸を切らずに保持しておく。
24. 同様の手順によってもう一組の糸も結び目をシース抜去部まで送り、糸を切る。
25. 先に結んだ側の糸も切り、圧迫止血を15分程度行う。
手技上の留意点
A) シース挿入部はエコーで十分に確認し、総大腿動脈の中で石灰化等のない性状良好な部位を選択し血管中央を穿刺する。
B) 2本使用する際は、1本目と2本目でシース抜去部に糸がかかる方向が異なるように、デバイス本体を傾けてからデバイスを展開する。
C) 血管損傷を避けるため、ワイヤー、プログライドの出し入れを行う際は透視下に行う。
D) 結び目が血管穿刺部まで進められるよう、最初に6Frシースを挿入した後の剥離はアクセス血管を損傷しない範囲で十分に行う。
(西俊彦)