TAVI時の冠動脈閉塞への対策

 TAVIの致死的合併症の一つに冠動脈閉塞があります。劣化した自己の弁尖を全て切除した上で新しい人工弁を植えこむ外科手術と異なり、TAVIの場合は、自己の弁尖は新しく植え込む人工弁によって壁側に押しやられる形となります。通常はバルサルバ洞の隙間に収納されるような形となりますが、稀にその石灰化を伴う弁尖がうまく治りきらず冠動脈入口部を塞いでしまうことがあります。その発生頻度としては約1%程度で、その多くは人工弁植え込み直後に発生するとされています。一方で一部遅発性に発生するケースがあることも最近わかってきています。

 TAVIに伴う冠動脈閉塞の発生は完全に予測できるわけではありませんが、弁輪から冠動脈入口部までの高さが低い、バルサルバ洞の膨らみが小さい、弁尖(特に先端付近)の高度石灰化、などが主な危険因子とされており、術前のCTではこれらの項目やそれぞれの位置関係を詳細に分析し、そのリスク評価を行います。また本邦でも最近認可されたValve in valveの手技 (劣化した外科人工弁に対してのTAVI)もリスクの一つとされています(特に外巻きと呼ばれる種類の生体弁の場合)。

 冠動脈閉塞は一旦発生すると速やかにそれを解除する必要があります。しかしながら、弁尖についた石灰化の塊が冠動脈入口部を塞いでしまうと、それを一から解除しに行くのは非常に困難です。そのため、リスクが一定以上と考えられる症例においては、冠動脈プロテクションを行なった上で弁の留置を行います。

 弁を留置する前に、事前に冠動脈にガイドワイヤーを通し、多くの場合はバルン(場合によってはステント)を冠動脈内に待機させておきます(写真1)。弁の留置後、冠動脈閉塞が確認されれば、速やかに待機させていたバルン(ステント)を入口部まで引いてきて閉塞の解除を行います(写真2)。 (田中哲人)

2019年05月03日