TAVIの致死的合併症の一つに冠動脈閉塞があります。劣化した自己の弁尖を全て切除した上で新しい人工弁を植えこむ外科手術と異なり、TAVIの場合は、自己の弁尖は新しく植え込む人工弁によって壁側に押しやられる形となります。通常はバルサルバ洞の隙間に収納されるような形となりますが、稀にその石灰化を伴う弁尖がうまく治りきらず冠動脈入口部を塞いでしまうことがあります。その発生頻度としては約1%程度で、その多くは人工弁植え込み直後に発生するとされています。一方で一部遅発性に発生するケースがあることも最近わかってきています。
TAVIに伴う冠動脈閉塞の発生は完全に予測できるわけではありませんが、弁輪から冠動脈入口部までの高さが低い、バルサルバ洞の膨らみが小さい、弁尖(特に先端付近)の高度石灰化、などが主な危険因子とされており、術前のCTではこれらの項目やそれぞれの位置関係を詳細に分析し、そのリスク評価を行います。また本邦でも最近認可されたValve
in valveの手技 (劣化した外科人工弁に対してのTAVI)もリスクの一つとされています(特に外巻きと呼ばれる種類の生体弁の場合)。
冠動脈閉塞は一旦発生すると速やかにそれを解除する必要があります。しかしながら、弁尖についた石灰化の塊が冠動脈入口部を塞いでしまうと、それを一から解除しに行くのは非常に困難です。そのため、リスクが一定以上と考えられる症例においては、冠動脈プロテクションを行なった上で弁の留置を行います。
弁を留置する前に、事前に冠動脈にガイドワイヤーを通し、多くの場合はバルン(場合によってはステント)を冠動脈内に待機させておきます(写真1)。弁の留置後、冠動脈閉塞が確認されれば、速やかに待機させていたバルン(ステント)を入口部まで引いてきて閉塞の解除を行います(写真2)。
(田中哲人)
News
小児 先天性心疾患 心臓外科フェローシッププログラムのお知らせ
小児・先天性心疾患 心臓外科フェローシッププログラム
小児・先天性心疾患の心臓外科は、高度な技術と専門性が求められる分野ですが,志望する若手医師の減少が危惧されているところです。名古屋大学医学部心臓外科教室およびその関連病院では,年間約500件の先天性心疾患手術を行っています.豊富な手術経験を所属医局に関係なく次世代の若手医師と共有し,日本の将来を担う若手の小児・先天性分野の心臓外科医を育成しつつ,地域の医療にも貢献できるようにこのプログラムを創設することといたしました。
具体的には,ともに年間200件以上の手術件数を有するあいち小児保健総合医療センターと,地域医療機能推進機構中京病院の2施設を中心に1年間ずつローテートする研修となります.両施設を経験することで,軽症例から最重症例まで,新生児から成人例まで,手術の執刀,術後管理,あるいは小児VAD管理まで経験していただけるプログラムになります.また,希望があれば、名古屋大学附属病院において,MICS手術,成人VAD手術,心臓移植手術に参加していただくことも可能です.
募集人数:年間1,2名程度
募集時期:随時
研修期間:2年
研修開始時期:原則,4月,10月
対象:原則,後期研修(3年間の外科専門医研修)修了者
待遇:あいち小児保健医療総合センター スタッフまたはフェロー
地域医療機能推進機構中京病院 スタッフまたは専攻医
このフェローシップの応募に、名古屋大学心臓外科への入局は必須ではありません。
このフェローシップは小児・先天性心疾患 心臓外科の研修を意図したものですが、一般成人心臓外科の経験が不足していると考えておられる先生の場合は、成人心臓外科のローテートを追加することも可能です。
問い合わせはこちらまで
https://form.run/@heartteamnagoya-1635673339
名古屋大学心臓外科教室 心臓外科修練医募集のお知らせ
名古屋大学心臓外科教室では20の関連病院において2500の開心術を含む多数の心臓大血管手術を行っており、教室から名古屋大学を含めて4大学に教授を輩出しています。
心臓血管外科の分野は、進歩が目まぐるしく、取り組むべき手術の内容、数も増える一方です。 その結果、各関連病院では診療を担う医師の数は、慢性的に不足しています。
教室は若手医師の参画を歓迎します。
出身大学は問いません。心臓血管外科は責任も伴いますが、やりがいも非常に大きい分野です。
興味があられる方は、教室内関連病院での修練、勤務をご検討ください。
関連病院において、下記のような修練目的の勤務については概ね3-4年までは入局は必須ではありません。 (関連病院において、上級スタッフポジションで長期働くことを所望される方は入局及び 修練責任者資格の取得が前提です)
1) 後期研修で進路に迷っておられる方 後期研修で心臓血管外科専門プログラムを考えている方; 我々のプログラムをご検討ください
関連病院において、1年目(卒後3年目)に集中的に一般外科研修を行い(外科専門医取得可能な例数も確保)、2年目(卒後4年目)以降、心臓血管外科専門研修を行う 卒後5-6年目で外科専門医を取得 卒後6年目以降に心臓血管外科専門医を取得する こういったプログラムです。
これを可能とする十分な症例数を教室はグループとして有しています。
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSdo82jPLTARj9K-ZkO4Xm5BOYXy-iS1IQ7k1CPZdP4WyaOXPQ/viewform
2) 後期研修を修了、さらなる修練機会を希望される方;心臓血管外科専門医取得や、取得後のさらなる技術鍛錬を所望される方; 是非我々のグループで共に働き、経験を積んでください
我々の関連病院の中では 現在 特に、以下の病院で修練医を募集しています <下記以外でも多くの病院で修練医の受け入れが可能です>
市立四日市病院では、心臓血管外科専門医取得前後の修練医を募集しています(経験がこれより浅くても応募可能です)。市立四日市病院 は 少数精鋭のHigh Volume Centerです。経験豊富な部長の元、やる気と技術さえあれば、開心術から血管内治療まで 執刀を含めた多くの経験を積むこともできます。勤務に際しては、近隣居住が望ましいですが、名古屋市内からの通勤も可能です。
日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院では心臓血管外科専門医の修練医を募集しています。後期研修医あるいはそれを見据えて初期研修を希望される医師、専門医取得前後の専門研修を希望される方 など 現在のキャリア状況に合わせて、このHPの問い合わせフォームまでご連絡ください。開心術から血管内治療までハイレベルな専門研修が可能です。現在の勤務地や出身大学は問いません。
問い合わせはこちらまで
https://form.run/@heartteamnagoya-1635673339
六鹿雅登心臓外科教授 就任挨拶
就任のご挨拶
この度、2022年11月1日をもちまして名古屋大学大学院医学系研究科病態外科学講座心臓外科学の教授を拝命しました六鹿雅登(むつがまさと)と申します。ここに謹んで挨拶を申し上げます。
私は、平成8年(1996年)に名古屋大学医学部を卒業し、岐阜県大垣市民病院で初期研修を行いました。翌年の平成9年(1997年)に名古屋大学心臓外科(故村瀬充也教授)に入局しました。外科系研修の後に、平成10年から心臓外科として玉木修治部長のご指導のもと臨床の研鑽を積むことができました。小児の複雑心奇形および成人の弁膜症、冠動脈、大血管などたくさんの症例を経験でき、日々手術そしてその後の術後重症管理にあけくれていたことを思い出します。現在の働き方改革では問題となるような働きかたではありましたが、これぞ“心臓外科医”の生活だと思っていたので、全く苦ではありませんでした。
平成18年(2006年)4月に、名古屋大学大学院医学研究科心臓外科博士課程(上田裕一教授:当時)に入学し、半年間の社会人大学院生の後に、10年半もの間、お世話になった大垣の地を離れ、名古屋大学心臓外科医員として帰局しました。大学院の研究テーマは、血管吻合後の内膜肥厚防止であり、免疫抑制剤で有名なタクロリムスを使用し、それを綿状(エレクトロスピニング法にて)にし、経時的に薬剤溶出させ、その効果を動物実験で実証し、国際学会で発表することができました。その研究で、上田裕一教授(当時)、成田裕司講師、緒方藍花さんのご指導のもと博士号を取得することができました。
平成21年(2009年)7月、上田裕一教授(当時)のはからいでカナダアルバータ大学小児心臓外科Ivan Rebeyka教授のもとクリニカルフェローとして臨床留学する機会を得ました。毎日のように重症な先天性心疾患の手術を2−3例非常に早い手術時間で終え、術後は小児集中治療専門医が、病棟では小児循環器科医が管理する一連の合理的なシステムを学ぶことができ非常に有意義な臨床留学でありました。その翌年からは、心臓(肺)移植・補助人工心臓部門クリニカルフェローとして、成人および小児の心臓および肺移植のドナー採取、移植手術、植込型補助人工心臓手術を多数経験できました。カナダにいながら、米国にもドナー採取に行く機会もたくさんあり、システムの違い、米国―カナダ間の移植の取り決めなどを学ぶことができました。1週間で最大8例の移植(心臓、肺移植)も経験でき、またそのような多数の移植手術が行われても動じない麻酔科、集中治療体制に感嘆していました。この2年の臨床留学で非常に多くのことを学ぶ機会を得ることができました。
平成23年(2011年)帰国後、名古屋大学心臓外科学教室で上田裕一教授(当時)、碓氷章彦准教授(前教授)のご指導のもと主に成人の心臓疾患、複雑な大動脈疾患で臨床の研鑽を積むことができ、循環器内科の室原豊明教授、平敷安希博先生、奥村貴裕病院講師、精神科尾崎紀夫前教授、木村宏之先生、麻酔科、集中治療室らの先生達の協力を得ることができ、看護師、臨床工学技師、リハビリテーション、栄養士も加わり、重症心不全多職種チームの設立および運営、遠心ポンプを使用した長期体外式補助人工心臓管理およぶ離脱、その経験をもとに植込型補助人工心臓施設認定(平成24年:2012年)を取得できました。心臓移植申請後、植込型補助人工心臓症例も順調に増加し、東海地区初の心臓移植施設認定(平成28年:2016年)に一翼を担うことができ、翌年の東海地区初の心臓移植症例の手術にも携わることができました。心臓移植症例も順調に伸び、2022年に11例に到達しております。
その他に重点的に取り組んできたことは、循環器内科肺高血圧先端医療学寄付講座近藤隆久教授(当時)、足立史郎先生、小児科加藤太一准教授らとともに成人先天性心疾患の症例検討および手術を行ってきました。先天性心疾患手術も再開に向けて、碓氷前教授、病院の強いサポートのおかげで病院教授にJHCO中京病院の櫻井 一先生を迎えることとなり数年後には充実すると思われます。難易度の高い胸部大動脈瘤、胸腹部大動脈瘤の紹介も増加し、血管外科と共同で手術戦略を協議しております。
弁膜症に至っては、2018年(平成30年)より胸腔鏡下弁形成術(置換術)の保険召喚に伴い、右小切開3D内視鏡補助低侵襲手術(MICS)による僧帽弁形成術を開始し、徐々に症例数も増加し、大動脈弁手術、三尖弁手術、不整脈手術(Maze手術)、心房中隔欠損閉鎖術にも手術適応を拡大しています。手術後の回復が非常に早く、患者さんの社会復帰も早い術式であると考えています。
2023年にはロボット支援下心臓手術(da Vinci手術)の弁形成術を開始予定であります。
名古屋大学心臓外科は先天性心疾患を開始することで心臓大血管全般の診療を行うことができる全国でも数少ない病院となります。大動脈弁においてはカテーテル弁置換、僧帽弁逆流制御をクリップで行いMitraClipによる繊細な血管内治療も行っており、Dynamicな大動脈手術、複雑な心疾患、再手術、重症心不全治療などの侵襲度の高い手術など幅広い領域の手術治療および、またその全身管理を学ぶことができる大変魅力的でExcitingな診療科です。
名古屋大学心臓外科教室は関連病院での症例数もあわせると、全国有数の症例数と診療の質および人材を有していると自負しております。今後も最先端の医療、研究、教育を実践し、将来を担う一流の心臓外科医の育成に励んでいく所存です。
皆様のご期待、信頼に応えられるよう、魅力ある講座を目指して鋭意努力して参ります。今後とも皆様にはご指導、ご鞭撻賜りますようよろしくお願い申し上げます。
略歴
1996年3月 名古屋大学医学部卒業
1996年5月 大垣市民病院 研修医
1998年4月 大垣市民病院 胸部外科 医員
2006年4月 大垣市民病院 胸部外科 医長
2006年10月 名古屋大学医学部附属病院 心臓外科 医員
2009年3月 名古屋大学大学院病態外科学心臓外科 博士号
2009年7月 カナダアルバータ大学小児心臓外科クリニカルフェロー
2010年7月 カナダアルバータ大学心臓移植・肺移植・補助人工心臓部門クリニカルフェロー
2011年7月 名古屋大学医学部附属病院 心臓外科 特任助教
2014年4月 名古屋大学医学部附属病院心臓外科 病院講師
2016年11月 名古屋大学医学部重症心不全治療センター副センター長 病院講師
2018年10月 名古屋大学心臓外科講師
2020年1月 名古屋大学心臓外科准教授
名古屋大学医学部重症心不全治療センター副センター長(兼務)
2022年4月 名古屋大学心臓外科准教授
名古屋大学医学部重症心不全治療センターセンター長(兼務)
2022年11月 名古屋大学心臓外科教授