リードマジメント

名大病院でのペースメーカーリードマネジメント

経静脈的リード抜去術


1. 経静脈的リード抜去術とは
ペースメーカーなどの植込型心臓電気デバイス(CIEDs)による治療中に、細菌感染や余剰リードの存在、リード留置静脈の閉塞など様々な理由でリードを取り除かなければならない事象が発生します。一度体内に埋め込まれたリードは、血管内・心臓内で癒着が起こり、留置後1年程度であれば牽引することで抜去できますが、それ以上の期間になると単純には抜けず、留置期間が長くなればなるほど癒着は強固になり抜去が困難になります。従って、こういった場合、十数年ほど前までは開胸心臓手術を行わないと抜けませんでしたが、最近では様々なデバイスを用いて、経静脈的に鎖骨下の本体植込み部位からのアプローチで、開胸心臓手術を行うことなく低侵襲に抜去できるようになってきました。

2. その適応
この治療の判断基準(手術適応)は日本循環器学会・日本不整脈心電学会合同ガイドライン1に従って適応を判断しています。具体的には、菌血症や敗血症を含めたすべての植込型心臓電気デバイス(CIEDs)関連感染症はその適応になります。リードによる留置静脈のトラブルや、リードによる疼痛、留置リードあるいは残存リードによる様々な不具合も抜去の適応になります。本邦では感染に起因することが多いですが、最近では、治療過程で不要になったリードや無機能リードの抜去等リードマネージメントを考慮した経静脈的リード抜去術がその利益とリスクをよく勘案して施行されています。

3. 手術の実際
 ほとんどの症例は全身麻酔で行なっています。局所麻酔で行うこともありますが、癒着の程度が軽いと判断できる、リスクの低い症例に限定しています。パワードシースと言われるエキシマレーザーシース(図1)、回転式ダイレーターシース(図2)を用いて、リード周囲に取り巻く血管内、心臓内の癒着を剥離し、リードを体外に抜去します。また、足の付根(大腿静脈)などから各種スネアカテーテルを(図3)用いてリードを捉えて牽引する抜去法などの血管内操作を行うこともあります。これらの操作はすべてX線透視下に行われます。経静脈的リード抜去術は様々な血管内カテーテル等の操作技術に習熟する必要があります。剥離操作によって血管や心臓を損傷した場合、生命に関わる合併症を発症する可能性のある手術です。
 リード抜去後は必要に応じて再度ペースメーカー等の植込みを行います。心臓再同期療法など、循環器内科と連携してハートチームで治療を行います。

4. 実施施設について
この手技は上述のように技術的難易度が高く、十分な経験がないと手術死亡率が高くなることがわかっているため、特にパワードシースを用いた経静脈的リード抜去術は、日本不整脈心電学会より厳格な施設要件及び、所定の研修を修了するなど医師にも実施要件が設定されており、その要件を満たさないと手術を行うことはできません。
当院では2011年から東海地区では他施設に先駆けて上記のパワードシースを含めた様々なデバイスを用いた経静脈的リード抜去術を行ってきました。当科の治療成績は、海外の報告と遜色ない高い抜去成功率と低い合併症発症率で行なってきており、現在までに大きな出血性合併症の発症や手術死亡例はありません(表1)。今では多くの病院で同様の手術は行われていますが、ほとんどの施設では循環器内科が主導した治療がなされています。しかし、緊急時の対応や開胸手術が必要になることがあることを考えると、一貫した治療が行える我々のような心臓外科主導でこの手術を行うことの方が望ましいと考えています。
全国のリード抜去可能な施設に関しては下記URLをご参照ください。
(https://procomu.jp/leadmanagement/lead_bakkyo.html)

参考文献
1. 日本循環器学会ガイドラインシリーズ 不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)第2章植込み型心臓電気デバイス (CIED) 6. 経皮的リード抜去術 p49-50

エキシマレーザーシース; グライドライト: フィリップス社

回転式第レーターシース; エボリューションRL: クック社

 

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当院の治療成績と欧米の治療成績の比較

  当院 米国(LExlCon研究) 欧州(ERECTRa研究)
臨床的成功率 97.5% 97.7% 96.7%
主要合併症発症率 1.2% 1.4% 1.7%
手術死亡率 0% 0.5% 0.5%

文責成田裕司



経静脈リード抜去について 診療のお問合せは 心臓外科 成田裕司まで(木曜日外来)

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