TAVI術前CT検査で偶発的に見つかる心血管外の異常所見(Incidental Findings)について

安全かつ正確にTAVIを行ううえで、術前の造影CTは必須の検査と言えます。造影CTは大動脈弁周囲、アクセス血管や冠動脈を評価する目的で行われますが、TAVIを受けられる患者さんのほとんどが高齢であることも影響して、心血管外に意図せずして異常所見が見つかることがあります。このような偶発的に見つかる所見をIncidental Findings (IFs)と呼びます。当院のTAVI候補患者さんを対象に、IFsの頻度やその影響を調べました(参考文献)。

●方法
対象:TAVI候補患者さんとして当院でTAVI-CTを撮影した257名。
Incidental Findingsの評価方法:放射線科医の作成した読影レポートを基に、次の3つに分類
1) insignificant(重要でない);さらなる精査・治療・フォローアップを必要としない所見
 例;肺炎症性変化、腎嚢胞、肝嚢胞、etc
2) intermediate(中間);フォローアップを必要としたり、さらなる精査が考慮されるが、TAVIの計画には影響を与えない所見
 例;肺陰影(要経過観察)、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)、etc
3) significant(重要);早急な精査を必要としたり、TAVIの計画に影響を与える所見
 例;肝臓癌の疑い、etc

●結果
なんらかのIFを認めたのは254/257人(98.8%)で、ほぼ全例でした。insignificant / intermediate / significant IFsが指摘された患者さんの割合はそれぞれ98.4% / 59.5% / 13.2%でした。significant IFsが指摘された34名(13.2%)を詳しくみてみると、新規で指摘された所見だったのが19名で、既知の所見だったのが15名でした。新規に指摘された19名のうち、精査の結果悪性疾患の確定診断あるいは強い疑いとなった方は6名でした。そのうちの2名(全体の0.8%)の患者さんにおいて、悪性疾患による予後が厳しいことから、TAVIも中止となりました。

●当院で留意していること
TAVI治療後の患者さんの最大の死因は非心臓死という報告があります。つまりTAVIを受けられる患者さんにおいて、治療対象である心臓だけでなく、それ以外を含めた全身を包括的に見た上で治療を考えていく必要があると言えます。またTAVIの適応が若年患者さんへと拡大しており、いっそうIFsに注意する必要がありそうです。本検討では、TAVI施行患者さんにおいて、心血管外の異常所見が偶発的に見つかることが、決して稀ではなく、むしろ頻度が高いことが示されました。
 当院ではTAVI術前CT画像を画像の専門である放射線科医を含めた複数の医師でチェックし、見落としがないように気を付けています。また重大な所見の指摘があった場合には、総合病院という強みを生かし、各専門科に相談し適切な対応をするよう心がけています。

参考文献
Tobe A, et al. Heart Vessels. 2021 Jun 3.

文責 戸部彰洋

2021年06月14日|ニュースのカテゴリー:TAVI