小児科学・成長発達医学

小児てんかん、早産児における中枢神経障害

名古屋大学大学院医学系研究科 障害児(者)医療学寄附講座 教授 夏目 淳

小児てんかん

 「てんかん」は痙攣などのてんかん発作が繰り返しみられる病気で、その原因は様々です。てんかんは人口の約1%にみられますが、その約半数は小児期に始まります。小児期に始まったてんかんのうち約70%の患者さんでは大人になるまでに発作がみられなくなりますが、残りの30%の患者さんではさまざまな薬の内服などを行ってもてんかん発作がなくなりません。また、てんかん発作がみられなくなった患者さんでも認知、行動、運動などの機能に障害が残る方が多く見えます。一方でてんかんの焦点を正確に同定して手術することでてんかん発作が治る人もいます。我々は、このような小児てんかんの原因、病態を画像解析をもとに研究して、経過の予測や治療に役立てることを行っています。

小児てんかんの画像・生理学的検査による研究

 てんかんの患者さんで行われる画像・生理学的検査には、MRI、PET、脳波、MEG(脳磁図)などがあります。我々は通常のMRI検査では異常が見つからないてんかん患者さんで高磁場MRI、PETを用いて隠れた病変の検出を行っています。MRIの特殊な撮像法である拡散テンソル画像を用いて原因不明のウェスト症候群(乳児期に発症する難治性てんかん)の患者さんを撮像すると図1のように潜在する大脳白質の異常が明らかになります。この異常所見を定量すると患者さんの精神運動発達の経過と非常に良く相関することが明らかになっています。このように精密な画像解析を行うことが患者さんの潜在する病変や予後を評価するのに有用です。
 またMEG(脳磁図)は脳の神経の電気活動によって生じる磁場を検出する装置です。てんかんの異常な神経活動によってできる磁場の分布からてんかん性の神経活動の出現部位、てんかんの焦点を突き止めるのに役立ちます。磁場は骨や皮膚で信号が弱くならず、磁場センサーも多く設置できるため脳波で異常波の出現部位がはっきりしなくても脳磁図ではそれがわかる場合があります。我々はてんかん患者さんで図2のように脳磁図を用いててんかん焦点の同定に役立てています。
2014年からは脳波と機能的MRI(fMRI)の同時記録によるてんかん焦点及び伝搬経路の解明も行っています。通常はMRI検査室には金属でできたものを持ち込めないために、MRIと脳波を同時に記録することは困難ですが、我々は図3のように特殊なネット状の電極や脳波記録装置を用いてMRIと脳波の同時記録を行っています。両者の記録を合わせて解析することで、てんかん性の異常な神経活動がみられる脳の部位を特定し、その結果を診療に役立てています。これらの所見と脳磁図の所見をあわせて解釈することで、より確かなてんかん焦点および脳機能の解明を目指しています。

 

早産児の脳障害の研究

 新生児医療の進歩により、出産予定日より早く、体も小さいうちに出生してしまう早産児、低出生体重児の生存率が向上しています。しかし、一方で早産で出生し新生児期には大きな問題なく経過したと思われる赤ちゃんのなかにも、学校に行く頃には認知、行動などの問題がみられてくる子どもがいることが指摘されています。我々はこのような子どもたちにおける微細な脳の問題を高磁場MRIなどを用いて研究することを計画しています。
 また、正確に子どもの脳の問題を研究するためには病気のない子どもの画像検査も行って比較することが不可欠です。我々は健康な子どもたちのMRIも撮像して病気の子ども達の研究に役立てていくことを検討しています。