分子生物学/生体高分子学

分子生物学/生体高分子学

名古屋大学大学院医学系研究科 生物化学講座分子生物学分野 教授 門松健治

 私たちの教室では神経とがんの接点で生命活動の作動原理を探求しています(教室ホームページ:http://www.med.nagoya-u.ac.jp/biochem/)。 神経芽腫は神経由来(交感神経由来)で子供のがんという2つの際立った特徴があります。神経の発生発達とがん発生という2つの命題の接点にあります。小児がんである神経芽腫の場合は、罹患率が年齢と共に上昇する訳ではなく、罹患数も成人がんより圧倒的に少なくなっています。 このことは、両者の成り立ちが根本的に異なっていることを示唆しています。実際に小児がんでは成人のがんに圧倒的に多い遺伝子変異がほとんど見られません。私たちは神経芽腫モデルマウスを用いて、特にがん発生初期の機構解明を目指しています。そしてそこからがん治療に繋がる治療標的に見出そうとしています。

 一方、神経回路再編・可塑性について、私たちは硫酸化糖鎖を中心に研究しています。 これは世界的にも緒についたばかりの新しい分野ですが、糖鎖生物学の生命科学への起爆剤の一つとして期待されます。 これを基に神経と糖鎖の融合研究推進のための新学術領域「神経糖鎖生物学」http://shinkei-tosa.net/を立ち上げました。神経組織の細胞外微小環境は他組織と大きく異なります。神経組織ではプロテオグリカンなど糖鎖を含む分子が多くを占めます。プロテオグリカンは、コアタンパク質に硫酸基修飾された長大な糖鎖が付いた分子です。中枢神経組織におけるプロテオグリカン糖鎖の神経損傷後神経回路再編および神経可塑性における役割を分子生物学的アプローチによって研究しています。

 基礎医学の立場から生命活動の作動原理解明を目指しますが、その成果が社会に還元されなければ医学系研究科の中で研究する意味はないと考えています。 例えば治療薬の標的となるたくさんの候補分子を見つけても、薬にしやすいものとしにくいものがあります。 教室の研究には、他分野の専門家に加えて企業との共同研究を通して社会還元のための助言も頂いています。