環境医学研究所・神経系分野2

環境医学研究所・神経系分野2

名古屋大学環境医学研究所 神経系分野2 教授 山中章弘

 我々は毎日睡眠覚醒を数回繰り返しています。睡眠は脳の正常な機能を保つために重要であり、また、ほとんどの精神疾患が、睡眠異常が伴うことが知られていることから「こころ」とも深く関わっていることが分かります。睡眠中には成長ホルモンが遊離され、身体の修復が行われると同時に、脳内でも神経細胞の修復や神経回路の修飾が行われており、この時に記憶が固定されていると考えられています。しかしながら、睡眠時に脳内で何が行われているのか十分に分かっておらず、またどのようにして睡眠覚醒が調節されているのかについても解明されていません。しかし、現代のストレス社会において約5人に1人が何らかの睡眠に関わる問題を抱えていると報告されていますし、睡眠覚醒に起因する事故や作業効率の低下は年間3.5兆円にものぼると推計されていることからも、睡眠覚醒のメカニズム解明による睡眠覚醒調節障害の治療は喫緊の課題であると言えます。これまで睡眠覚醒を調節する神経メカニズムはほとんど分かっていなかったが、近年の研究によって視床下部の神経細胞が重要な役割を担っていることが分かってきました。私たちは主に実験動物を用いて特定神経活動の操作や運命制御を行い、その神経活動がどのように睡眠覚醒を調節しているのかについて明らかにする研究を行っています。特に、視床下部のオレキシン産生神経細胞だけが無くなることによって発症する睡眠障害「ナルコレプシー」について、その症状が発現するメカニズムや治療法・治療薬の開発を中心に研究を進めています。