脳とこころの研究センター・基盤整備部門

脳血流動態を探る

名古屋大学脳とこころの研究センター 教授 礒田 治夫

 磁気共鳴(magnetic resonance,MR)を用いた3次元シネ位相コントラスト磁気共鳴法 (3D cine phase-contrast MR imaging、3D cine PC MRI)や磁気共鳴血管撮影(magnetic resonance angiography, MRA)を行うことにより、内径3mm程度以上の血管の血流速度、血流量を求めることが可能です。また、これらのデータを解析することで、血流動態の可視化が可能になるとともに、血管壁機能のバイオマーカーである血管壁剪断応力(wall shear stress, WSS)などの指標を求めることができます。
 人間の身体のさまざまな臓器の機能を健康に保つには適度な刺激が必要で、これが強すぎても、弱すぎても、健康を保つことができません。これと同様に血管機能を健康に保つには適度な血管壁剪断応力が必要で、これが強すぎると脳動脈瘤などの血管病変が発生し、弱すぎると動脈硬化やアポトーシスが生じるとされます (Malek et al. Hemodaynamic shear stress and its role in atherosclerosis. JAMA 1999:282;2035-2042)。

脳血流動態を探る

 MRを用いた脳血管、脳動脈瘤の血流動態解析から血管壁剪断応力などのバイオマーカーを計算し、血管機能を推定し、将来の脳動脈瘤発生の推定・予防、脳動脈瘤の将来の破裂予測や治療方針決定に役立つことを目指しています。また、この血管のバイオマーカーが脳機能に関連している可能性を視野に入れ、研究を進めて行きたいと考えています。

脳動脈瘤の血流動態

痛みに関する研究

名古屋大学脳とこころの研究センター 教授 寳珠山 稔

 痛みに関するメカニズムの解明と痛みを和らげる治療の開発には、神経活動の基礎的研究と痛みを生じる脳活動の研究を中心に心理学的アプローチから細胞生物学的研究に至るまで、連携のとれた総合的研究が必要です。これまでの痛みに関連する脳活動の研究では、MEGやMR画像を用いて、急性痛(針が刺さった時のような痛み)を生じる神経伝導路や反応特性が明らかになってきていますが、慢性痛(長く続くジンジンした痛み)がおきるメカニズムや治療については多くのことがわかっていません。最近では、痛みの感覚が伝わる神経の経路や脳の活動部位だけではなく、細胞免疫学的レベルでおきている神経反応の変化と精神心理学的な脳活動との関連が注目されています。
 これまで計測したり、観察したりすることが難しかった慢性痛や異常感覚、痛覚過敏についてもMEGやMR画像、機能的MR画像を用いた研究で、脳の反応部位や脳の過剰な活動を明らかになることが期待されています。
 痛みに関係する脳の活動を可視化して観察することは、痛みの診断や治療をする上で、細胞レベルから心理学的レベルまで「痛み」の理解に有用な情報になると期待されています。

【図】 手の指先に強さのちがう痛み刺激を与えた場合の脳活動の時間経過とMR画像上での脳反応部位を示します。MEGで計測された脳の活動より、第1次および第2次体性感覚野(上・中段)とその後の帯状回(下段)での反応部位が計算されます。帯状回の反応は自覚的な痛み感覚の大きさに相関して出現すると考えられています。

痛みに関する研究

社会脳と扁桃体の神経画像研究

名古屋大学 医学系 研究科 リハビリテーション療法学専攻 教授 飯高哲也

近年は社会脳 “Social Brain” という言葉が脳科学の分野で広がっている。この言葉は従来から認知的な枠組みでしか語られなかった脳の働きを、より広範な意味での社会生活に関連付ける概念として用いられている。社会的活動を支えるこころの働きとその階層性を考えると、意識、知覚、注意、記憶、学習、報酬などが順にあげられる。これらの基礎的なこころの働きの上に、いわゆる「社会性」は成り立っている。従ってここでいう社会脳には、情動・感情や経済性(利他行為を含む)などが含まれている。従来から情動・感情は、認知的なこころの働きより下に位置付けられてきた。しかし最近では社会性の中に含まれることで、より高次な機能を持っていることが指摘されるようになった。社会性と情動の密接な関連性は、扁桃体と前頭前野の相互作用を抜きにしては解明できない。例えば扁桃体が障害されると、相手の恐怖顔の認知ができなくなったりする。また近づいてきた相手に対する、不安や嫌悪感が減退するという報告もある。ヒトを対象とした脳画像研究を用いて、情動や顔認知と扁桃体-前頭葉の機能を計測し、社会脳の一端を解明できると考えている。

社会脳と扁桃体の神経画像研究

脳卒中に対するリハビリ効果の基礎研究

名古屋大学 医学系研究科リハビリテーション療法学専攻 理学療法学講座 准教授 石田 和人

 いわゆる脳卒中(脳出血および脳梗塞)は,運動麻痺や感覚障害,記憶障害など高次脳機能障害,また抑うつ状態を呈するなど,様々な障害をもたらします.これに対するリハビリテーション(理学療法)への期待は大きく,またその有効性が報告されています.しかし,そのリハビリがなぜ有効なのかといった作用機序については十分な解明がされていません.
 我々の研究室では,脳出血や脳梗塞を実験的に引き起こした病態モデルを作成し,これに運動刺激を与える,環境を改善するなどして,リハビリの効果(運動・感覚機能の改善,記憶力の改善,抑うつの緩和・予防など)を求め,そのベースには脳の神経細胞が樹状突起を伸ばし,シナプスを形成することなど,基礎医学的研究を進めております.このような基礎研究を発展させ,近い将来,リハビリ領域における新しい治療法の開発につなげ,脳卒中等,脳の障害で苦しむ方々のADLやQOLを向上し,健康寿命の延長と健やかな暮らしの復権に貢献したいと考えています.

脳動脈瘤の血流動態