環境医学研究所・病態神経科学分野

環境医学研究所・病態神経科学分野

名古屋大学環境医学研究所 病態神経科学分野 教授 山中宏二

グリア細胞と神経疾患

 アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症などの神経変性疾患は、特定の神経細胞が変性・脱落していく疾患として知られています。傷害される神経細胞における病態解明に主眼をおいた疾患研究がこれまで進められていました。しかし、脳は神経細胞やグリア細胞など多くの細胞群からなる臓器であり、最近では、神経細胞周囲のグリア細胞をはじめとする神経周囲の環境が精神・神経疾患の病態に深く関与することが明らかとなり、グリア細胞の役割は非常に注目されています。本研究分野では、運動ニューロンを傷害する神経変性疾患である筋萎縮性側索硬化症(ALS)と代表的な認知症であるアルツハイマー病を中心に、グリア細胞などがつくる神経周囲環境の恒常性維持とその破綻メカニズムの解明を目指し、臨床医学への還元を目指します。

グリア細胞が実行する「非自律性」の神経変性メカニズム

 研究グループでは筋萎縮性側索硬化症(ALS)の動物モデルを用いて、神経系に侵入する異物や病原体を認識・処理する免疫系を担当するグリア細胞のミクログリア、神経や脳血管の機能調節や栄養因子の供給などを担当するグリア細胞のアストロサイトの役割を解析してきました。そして、これらのグリア細胞におこる病的変化が疾患の進行を加速し、神経変性は「非自律性」の機序で起こることを明らかにしてきました。つまり、神経変性は神経細胞内部に起因する病的変化のみで自律性に起こるのではなく、グリア細胞をはじめとした神経外環境の破綻も神経変性に深く関与するという学説です。グリア細胞の異常を明らかにするため、モデルマウスを用いて神経変性を加速する炎症関連分子やシグナル経路の同定と解析を行っており、その知見を患者さんの試料で検証していきたいと考えています。

炎症と神経疾患

 神経変性疾患では、脳や脊髄の神経細胞が変性・脱落するにも関わらず、発症の早期から末梢血液に異常があるケースがみられます。特に、前述のグリア細胞と関連する炎症関連のタンパク質が高頻度に検出されることが多く、炎症バイオマーカーとして、その病状を反映する指標となることが期待されます。モデル動物での知見と、患者さんの血清での知見を比較検討して、全身性の異常が神経疾患にどのように関係しているかを解明したいと考えています。