脳とこころの研究センターについて

message-photo.jpg 2019年4月1日から「名古屋大学 脳とこころの研究センター」のセンター長を拝命致しました、尾崎紀夫と申します。センター長就任にあたり、ご挨拶申しあげます。

脳とこころの疾患である精神神経疾患は、2011年、我が国において5大疾病の一つ、すなわち医療と医学研究の重要な対象に位置づけられました。その理由として、第一に我が国だけで300万人以上という多数の精神神経疾患患者さんがおられること、第二にWHOによる「命を失うこと」と「生活に障害を受けること」の両者を加味した指標、障害調整生命年(DALY)によると、全ての疾患の中で精神神経疾患は最も大きな社会的損失をもたらすこと、があげられます。何より、精神神経疾患の当事者・家族のニーズに適う医療や支援が十分に提供出来ていない現状があります。精神神経疾患が、どの様にして発症し、進行するのか、というメカニズム(病態)を解明して、病態に基づく診断・治療・予防法の開発が待ち望まれています。

 自閉スペクトラム症、てんかん、統合失調症、うつ病、パーキンソン病、認知症など、精神神経疾患の発症と進行には、成長・加齢の過程における脳機能を発達・維持・回復する機構の破綻が関係しています。精神神経疾患の病態を理解するためには、健常と疾患のコホートを構築して、長期間にわたり多くのデータを取得して、この大規模なデータを解析することが必要です。更に、人において脳は高度な発達を遂げており、例えば人と人との関係に関わる「こころの動き」の元来の特性やその破綻を主たる症状とする精神神経疾患の理解には、人の脳の働きを知ることが不可欠です。また、精神神経疾患の発症に関係するゲノム変異が同定されつつあり、各ゲノム変異を起点として破綻した分子・細胞相互作用、神経回路病態を明らかにする道筋が考えられます。しかし人の脳やゲノムに関する数多くのデータを、長期間にわたり取得・解析した研究は乏しく、その結果、精神神経疾患の病態理解や診断・治療・予防法の開発が進んでいません。

 以上を踏まえ、「名古屋大学 脳とこころの研究センター」は、精神神経疾患の病態解明と診断・治療・予防法の開発を目指し、
1)学際的アプローチ(共同利用・共同研究)を可能とするプラットフォームの構築、2)大規模な発達・加齢・疾患脳画像・オミックス(ゲノム、末梢血、iPS細胞等を含む)コホートデータの構築と活用、3)マクロ(人脳画像・脳組織等を対象)からミクロレベル(モデル動物・細胞・組織を対象)に至る最先端神経回路可視化技術の創出と応用、
4)AI等を駆使した大規模データの解析、5)発達・加齢・疾患に関連する分子・神経回路病態の探索、6)研究実践の中で次世代を担う人材の育成、を実施しております。以上を実現するため、多様な領域を専門とする研究者が集い、大規模なデータを活用して分子・神経回路病態の解明を目指す先端研究拠点を形成しています。

 「名古屋大学 脳とこころの研究センター」は、当事者・家族のニーズを踏まえ、精神神経疾患とその障害の克服に向けた研究成果を目指しております。皆様のご支援とご参画をお願い申し上げます。