地域在宅医療学・老年科学

認知症と全身疾患の関連

名古屋大学大学院医学系研究科老年科学分野 教授 葛谷 雅文

 人口の高齢化に伴い、認知症患者はますます増加しており、その予防法や治療法の開発が喫緊の課題となっています。老年期は臓器の加齢を背景に、全身に種々の疾患がおこってきます。生活習慣病に代表される中高年期からの慢性の病態が中枢神経機能に影響を与え、認知症発症のリスクを高め病態を修飾している可能性が指摘されています。裏を返せば、生活習慣病の治療に用いられる薬剤、食事や運動などの生活習慣などが認知症に予防的に働く可能性も示唆されます。我々は、こうした全身疾患、生活習慣と認知症の関連について研究をすすめ、認知症の予防・治療戦略に寄与することをミッションとしています。

生活習慣病とアルツハイマー型認知症

 糖尿病・高血圧・脂質異常などの生活習慣病がアルツハイマー型認知症の発症リスクであることが疫学的なデータによってしめされていますが、生活習慣病がどのようなメカニズムでアルツハイマー型認知症の発症を増やしているのかは明らかになっていません。生活習慣病は、脳内或いは全身の動脈硬化を進展させ、脳の血流に影響を及ぼして機能的および器質的な虚血を起こしうると推測されていますが、アルツハイマー型認知症の神経変性過程においてアミロイドの蓄積やタウの異常リン酸化の過程に関与して神経変性を加速している可能性も指摘されています。我々は、MR spectroscopyやPETによるamyloid imagingを用いて生活習慣病のアルツハイマー型認知症発症に与える影響を解明することによって、アルツハイマー型認知症予防の観点からの生活習慣病の治療のありかたを探索します。

生活習慣病とアルツハイマー型認知症

栄養とアルツハイマー型認知症

栄養とアルツハイマー型認知症

食事内容によって、アルツハイマー型認知症の発症リスクが異なることも多くの研究結果が支持しています。例えば、地中海式ダイエットをしている人にはアルツハイマー型認知症の発症が少ないことはよく知られていますし、野菜や魚の摂取がアルツハイマー型認知症の発症を減らす可能性が指摘されています。また、中年期の肥満が高齢期のアルツハイマー型認知症の発症リスクであると考えられている一方で、アルツハイマー型認知症を発症する前後から体重減少がおこるという報告もあり、食事とアルツハイマー型認知症には密接な関連があります。我々は、普段の食習慣の違い、さらには栄養的な介入による脳内の血流やアミロイドの蓄積の状況の違いを検討することによって、栄養学的観点から認知症発症予防戦略の提示を目指します。

運動と認知症

近年では、習慣的な運動あるいは身体活動が認知症予防に効果的であることを示す縦断的観察研究が数多くあります。しかしながら、どのような運動要素が認知症予防あるいは認知機能向上に最適かは十分に検証されていません。認知機能向上に有効な運動として、有酸素運動とレジスタンストレーニングに関する報告が数多くなされてきました。我々は、地域在住高齢者を対象としたランダム化比較試験により、有酸素運動・レジスタンストレーニング・両方を組み合わせたプログラムを実施し、認知機能向上効果の比較検証を行っています。効果検証には、認知機能検査等の心理検査と、voxel based morphometry(VBM)、拡散MRI、安静時脳機能MRIといった画像検査を用い、運動がどのようなメカニズムで認知機能に影響を及ぼすのか明らかにします。これにより、認知症予防に効果的な運動介入プログラムを提案し、介護予防における運動指導の指針を作成することを目指しています。