医療技術学専攻・病態解析学講座

パーキンソン病を中心とした非運動症状の研究

我々は現在までに、高齢者やパーキンソン病 (PD) 患者の非運動症状を中心に、MRIや誘発脳磁場 (MEG) の測定を行ってきました。PD患者の生活の質や患者負担に関する報告では、これらの因子を悪化させる原因は、運動障害よりもむしろ疼痛の有無、幻覚の有無などの非運動症状が大きく関与しています。
幻覚に関しては、文科省科研費のPDにおける視覚感覚野を中心とした幻覚発症のメカニズムと他の非運動症状との関連において脳磁図による一次視覚野の機序解明を行いました。さらに、痛みに関しては健常人に二重刺激を与え若年者と高齢者においてその反応がどのように違うかを解明する電気刺激の作成を試みる事により、感覚抑制機構の客観化が可能となるかを検討しています。介護者の最も負担となると考えられる興奮状態を抑制する神経回路の検討する本研究は、疾患の把握や対策への大きな一助となると考えられます。

加齢及びPDによる視覚誘発脳磁場(VEF)の変化の検討

被験者に左視野に刺激パターンを投影し、誘発された脳磁場を記録しました。
健常高齢者の記録例の刺激後 250 msまで同定される VEF 成分が下の波形です。脳磁分布および推定電流の向きにより 4 つの成分が同定されました。

健常高齢者の記録例と刺激後 250 ms まで同定される VEF 成分

(図1)健常高齢者の記録例と刺激後 250 ms まで同定される VEF 成分

 若年者群と高齢者群を比較すると、高齢者群でVEF の第2波および第3波成分の潜時が遅延していました。また、PD群と高齢者群を比較するとPD 群では高齢群に比べ第1波の潜時が延長しました。
 また、PDの臨床症状と波形の潜時の関係を検討したところ、PDの病気の進行度を表すUPDRS3、また嗅覚検査と第1波の潜時に相関関係を認めました。

UPDRS3および嗅覚検査の第1波潜時との相関 UPDRS3および嗅覚検査の第1波潜時との相関

(図2)UPDRS3および嗅覚検査の第1波潜時との相関

体性感覚誘発脳磁場(SEF)の加齢及び疾患による影響の検討

 測定は右手首正中神経に電極をあて定電流による単発および2回連続刺激を行いました。その時、連続刺激の間隔を変化させ、その時の誘発脳磁記録から電流推定を行い検討しました。
単発の刺激を行った際に出る50ms以内の脳の反応が下の波形です。第1波が約20msに、第2波が約 30msに第2波が現れます。これは、中心溝と呼ばれる部分のすぐ後ろ頭頂葉に出現する反応で、第 1 波と第 2 波は、ほぼ同じ位置に逆向きに推定されます。第1波は興奮性、第2波は抑制性にそれぞれ働くと考えられています。

単発の刺激時の脳の反応(右)と第1波(中央)、第2波(左)の電流推定関 単発の刺激時の脳の反応(右)と第1波(中央)、第2波(左)の電流推定

(図3)単発の刺激時の脳の反応(右)と第1波(中央)、第2波(左)の電流推定

 2発の連続刺激の第1波において若年者と高齢者で刺激時間間隔(ISI)40ms、60ms、80msで若年者に波形の振幅の低下が見られました。また3郡間を比較すると、若年とPDが類似な波形を示しましたが、第2波では、若年者と高齢者60ms、80msにおいて若年者が有意に低値であり、3郡間を比較すると、高齢群とPD群が類似な波形を示しました。この乖離が何らかの痛み感覚に関与していないかを検討しています。

第1波における回復曲線

(図4)第1波における回復曲線

(図5)第2波における回復曲線

(図5)第2波における回復曲線

現在、このほかにも聴覚刺激によって誘発される反応についても検討を行っています。

平山研究室では、それ以外に腸内細菌叢の変化などに伴う脳機能の違いに関し研究するための準備を進めています。