リウマチ患者様向け

「関節リウマチと妊娠、出産」

医療法人 三仁会 師勝整形外科 安原 徳政

 関節リウマチは若い女性の発症率が高く、結婚や出産については、患者さん本人はもとより家族、とりわけ母親にとって非常に大きな関心事であります。外来での短い診察時間内では医師と十分に相談することも難しく、悩んでおられる方も多いと思います。
一般的には関節リウマチによる障害があっても二人で十分話し合い、理解し合えば結婚することには何ら支障はないと思います。
 結婚後の薬物療法も医師と相談しながら続ければ、妊娠・出産にも特別問題はないと思われます。ただ、妊娠初期には坑リウマチ薬は控えるべきで、妊娠が判明した時点で中止すべきだと思いますし、メソトレキセートのような強力な坑リウマチ薬は、妊娠成立の3ヶ月位前から休薬するのが望ましいと云われています。一方消炎鎮痛剤は妊娠初期にはあまり問題とはなりませんが、妊娠後期には中止すべきと云われています。(消炎鎮痛剤のプロスタグランヂン合成阻害作用により陣痛初来の遅延や、動脈管早期閉鎖により肺高血圧症を合併する危険性があると云われています。)
 またステロイド剤は胎盤で不活性化されるので、胎児への影響はほとんどないと云われています。そのため、リウマチの活動性が高い場合や流産の防止のためにも医師が必要と判断した場合にはむやみに恐れることなく服用すべきだと思います。
 現在、結婚・妊娠を考えておられる方の参考になればと思い、小生が長期間経過を診ているMさんのことを、ご本人のご了解を得ましたので、簡単に紹介させて頂きます。
 Mさんは昭和54年、15歳時に関節リウマチを発症されステロイド剤服用により、ムーンフェイスとなり整形外科外来を受信されました。当時信頼できる抗リウマチ剤としては金剤の注射しかなく、シオゾールを週一回注射していましたが、ある時全身に強い発疹が出て中止せざるを得なくなりました。その後も種々の抗リウマチ薬を試みましたがいずれも副作用のため長期間服用は出来ませんでした。その間にもリウマチは徐々に進行して行きました。
 その後成人されて結婚したいとのご相談をうけ 相手の方と一緒に来院されました。フィアンセの方にもMさんの経過や関節リウマチと云う疾患について十分説明し理解していただき、めでたく結婚されました。
 その後もリウマチ病変は徐々に進行し手関節、足関節、肘関節、肩関節に著しい障害を生じ身体障害者3級の認定を受けました。幸い股関節には障害を生じませんでした。
 30歳時に妊娠され無事出産直前までこぎつかれましたが、難産となり結果的に死産となってしまったとのことでした。しかし32歳時には元気な男児を出産されました。前回の反省から、今回はリウマチ科と産科の連携のいい総合病院で帝王切開で出産されました。妊娠中は流産防止のためかなり大量のステロイド剤を服用されたとのことでした。36歳時にも元気な女児を前回と同じく帝王切開で出産されました。現在40歳で既に身障2級となっておられますが、9歳と5 歳の二児の母として家事・育児に奮闘しておられます。
 もちろんご主人をはじめご家族のご協力は欠かせませんが、リウマチで身体障害者となっても 結婚、妊娠、出産、育児と女性として健常者と何ら変わらない幸福な生活をしておられる方をご紹介させていただきました。

参考とした文献
1)赤真秀人、斎藤輝信;慢性関節リウマチと妊娠、出産. リウマチ科 26(1),1~6,2001
2)原まさ子;リウマチと妊娠.産婦人科治療 80(6)1206~1209,2000
3)阿部香織;妊娠 出産をする場合のRA患者に対する薬物療法.Progress in Medicine
  21(3),68~69,2001
4)村島温子;リウマチ、膠原病患者の妊娠、出産について.治療 86(6),
  1807~1811,2002.