研究について

乳腺

拡散MRIの乳がん診断への臨床応用

本研究では、非侵襲的な画像診断技術である拡散MRIを用いた、新たな乳がん診断法についての開発を目指し、かつその臨床応用の可能性について検証します。拡散MRIは、体内の水分子の動きを可視化することで、組織の微細構造を詳細に捉えることが可能な画像診断技術です。生体内の水分子の拡散はがん組織と正常組織で異なるため、拡散MRIは乳がんを含む多くのがんの診断に有用とされています。

ADC(Apparent Diffusion Coefficient:見かけの拡散係数)は拡散MRI画像から実際の生体内の水分子は自由拡散であるという仮定のもと直線の傾きを用いることにより計算される値で、がん組織では一般に低下します1。これはがん組織内の細胞密度が高い場合が多く、水分子の動きが制限されるためです。

このADC値の他にも、低い(拡散強調の度合いを表す)b値での信号の偏位を解析することで得られるIVIM (Intravoxel Incoherent Motion)は、組織内の微細血管の灌流を反映し、がんを始めとする病変の血流評価に有用な可能性があります。一方、高いb値における信号減衰を解析することでえられる非ガウス拡散は、がん組織内の細胞内構造の複雑さを反映し、Kurtosis modelなどを用いてより詳細な組織の特徴を定量可能です。

拡散MRIにおける信号減衰と代表的なモデル1

また昨今のハードウェアの進歩により、異なる拡散時間を用いた拡散MRIの撮影が可能となってきました。拡散時間を変化させて拡散MRIを撮影することで、異なる組織特性に基づく水分子の拡散パターンの違いを評価することが可能となると考えられます。例えば、自由水のような障壁のない環境では水分子の運動が一定の拡散係数を示します。その一方、障壁構造がある環境では、水分子が障壁に衝突することで異なる拡散係数を示すため、これらの拡散係数の測定を通じて組織の微細構造を捉えることが可能となると考えられます。特にがん組織のように内部構造が密な場合、これらの拡散係数の違いは正常組織と比較して顕著になる傾向にあります2,3

異なる拡散下での拡散時間と拡散係数の関係1

これらの様々な拡散MRIを主としたMRIパラメーターのイメージングバイオマーカーとしての開発を進めることで、より正確で患者負担の少ない乳がんの診断や個別化治療に役立つイメージング法を確立することを目指しています。

  1. 飯間麻美. 拡散MRIを用いた新たながん診断法の開発. 日本女性科学者の会学術誌 23, 16–21 (2023).
  2. Iima, M. et al. Time-dependent diffusion MRI to distinguish malignant from benign head and neck tumors. J. Magn. Reson. Imaging 50, 88–95 (2019).
  3. Iima, M. et al. The Rate of Apparent Diffusion Coefficient Change With Diffusion Time on Breast Diffusion-Weighted Imaging Depends on Breast Tumor Types and Molecular Prognostic Biomarker Expression. Invest. Radiol. 56, 501 (2021).

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