研究について

4D flow MRI

4D Flow MRIは3D cine phase contrast MRIのことであり、撮像範囲(FOV; Field of View)内の血流ベクトルを時相分解して全て収集することで、FOV内の任意の血管の血流を自由に解析することが可能な撮像法です(図1)。一旦撮像してしまえばFOV内のすべての血流ベクトルデータが手に入るため、網羅的・後方視的な血流解析が可能になります。当院ではこの技術を用いて大動脈領域や門脈領域の血行動態と各種病態・治療適応・治療効果との関連を研究しています。

門脈領域においては、上腸間膜静脈と脾静脈の合流形態が健常者においてもねじれの関係にあることがまれでなく、合流直後の門脈本幹ではらせん流を示すことがあります。肝硬変を持つ患者では渦流や逆流を示すことも稀ではありません。正確な門脈流量を取得したい場合、4D Flow MRIから作成可能である血流を示すstreamline像上で、らせん流や渦流を避け、なるべく層流を示す部位の正確な垂直断面を選択することで可能となります(図2)。これは基本的に二次元での評価となり後方視的な評価ができない超音波検査や2D cine phase contrast MRIでは困難なことであり、より客観的かつ正確な評価を可能にします。

また、4D Flow MRIでは、血流ベクトル由来のパラメーターであるWall Shear Stress(WSS; 血流の血管壁への摩擦を示す;図3)、Oscillatory Shear Index(WSSの時間変動を示す)、Energy Loss(血管壁や血流同士の摩擦によるエネルギー喪失を示す)、Relative Residence Time(血流の停滞時間を示す)などを取得可能であり、これらのパラメーターを用いて各種病態や生理学的な現象の解明を試みています。

具体的には以下のような研究を行い、その成果を学術論文として報告しています。

① 大動脈・門脈のInterventional Radiology前後での治療適応評価や効果判定などの臨床応用、血流解析による病態の解明

A. 大動脈ステントグラフト留置によるEnergy Lossの変化

腹部大動脈瘤に対するステントグラフト留置によりEnergy Lossが増大することを示し、心負荷増大との関連について検討しました。(Horiguchi R. J Magn Reson Imaging. 2023;57:1199-1211)

B. 肝移植後の門脈狭窄に対する門脈ステント留置の血行動態への影響

生体肝移植後の門脈狭窄症例における門脈血流の異常(ジェットや渦流)を解明し、ステント留置が単に門脈を拡張するのみならず、これらの異常な流れを改善することを示しました。(Hyodo R. Magn Reson Med Sci. 2021;20:231-235.)

C. Budd-Chiari症候群の血行動態解析とその治療適応

Budd-Chiari症候群の複雑な血行動態を、呼気相・吸気相に分けた4D Flow MRIを撮像することで解明しました。また下大静脈狭窄に対するバルーン治療により血行動態の異常が改善したことを視覚的に示すことに成功しました。(Hyodo R. Magn Reson Med Sci. 2023;22:1-6.)

② 胆管癌に対する術前門脈塞栓術に伴う門脈血流の変化およびその肝再生との関連

当院は肝門部領域胆管癌のハイボリュームセンターであり、進行胆道癌の術前処置としての門脈塞栓術も多数経験しています。この門脈塞栓術前後に4D Flow MRIを撮像することで、いままでin vitroの研究で示されてきた門脈枝塞栓とWall Shear Stressの変動との関係や、門脈血流変化と肝再生との関連について評価しました。塞栓前後での残存予定門脈枝の流量の増大率がその後の残肝予定肝葉の体積増大と有意に相関することを示し、塞栓術後の待機時間についての指標を示しました。(Hyodo R. Radiology. 2023;308:e230709)

③ 門脈血栓の存在と血液滞留との関連

肝硬変を持つ症例では門脈血栓の発生頻度が高く、以前よりその原因や関連する因子についての研究が行われてきました。我々は血液の滞留を示すパラメーターであるRelative Residence Time(RRT)を用い、門脈本管の平均RRT値を4D Flow MRIから算出することで、門脈血栓を持つ症例において有意にRRT値が高いことを示しました。また門脈血栓の原因となりうる多数の因子を用いて多変量解析を行い、高いRRT値と低い血小板数が血栓の存在と有意に関連することを示しました。RRT値の血栓の存在に対するオッズ比は肝硬変症例のみにおいても11.4と高値を示し、今後の門脈血栓の発生予測への足掛かりを提供したと考えています。(Hyodo R, J Magn Reson Imaging. 2024. In press.)

これらの結果は放射線科領域のメジャージャーナルに掲載されており、現在hotな領域であると考えております。

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