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患者様へ病気と治療

多発性内分泌腺腫瘍症(MEN)

治療成績

多発性内分泌腺腫瘍症という病気はまれな病気です。したがってひとつの病院で多数の患者様を治療し、その治療成績をデータとして公表しているところはほとんどないのが現状です。日本では数多くの患者様を治療している病院はないものと思われます。外国に比べて患者様が少ないということではなく、まれな病気なので20年前くらいまで多発性内分泌腺腫瘍症という病気そのものを知っている医師が少なく正確な診断がなされなかったためだと思います。手術を受けられた患者さんがどれだけ治ったかという数字はお示しできませんが、外国からの報告をいくつかご紹介いたします。推測ですが、われわれの施設のデータもおおよそ同じものと考えております。

多発性内分泌腺腫瘍症1型

この病気で発生する腫瘍で生命に一番かかわるものは膵島腫瘍です。腫瘍が悪性の場合は肝臓や骨などに転移します。インスリンを分泌する場合は低血糖発作がおきてそのまま放置すると脳細胞が死んでしまいます。ガストリンを分泌する場合は胃十二指腸潰瘍が繰り返しできて、出血や穿孔という合併症を併発して生命を脅かします。下垂体腺腫や副甲状腺の腫瘍そのものは良性ですが、産生するホルモンのためにいろいろな障害が発生することがあります。これら3つの内分泌腺以外に、副腎をはじめとして胸腺や甲状腺などに腫瘍が発生することがあり、悪性の場合は生命に関わることがあります。

米国のNIHという国立の病院から報告されたデータでは、ガストリンというホルモンを分泌する腫瘍が発生した多発性内分泌腺腫瘍症1型の患者さん77人は23年間の経過観察のあいだに14人の方が死亡されましたが58人(76%)は健在でした(5人は病気と関係ない原因で死亡)。フランスの多施設共同研究のデータでは同様の患者さん77人は8年の経過観察で13人が死亡されましたが64人(83%)は健在でした。

多発性内分泌腺腫瘍症2型

この病気で発生する腫瘍で生命に一番かかわるものは甲状腺髄様癌です。癌なので早期に治療されないと転移をきたします。副腎褐色細胞腫は良性腫瘍のことが多いですが、急に血圧が上がる発作をおこすことがあり、脳出血や重症不整脈などで生命を脅かすことがあります。

ドイツで登録された多発性内分泌腺腫瘍症2型の患者さん352人の経過観察では5年生存率93%、10年生存率84%と報告されています。これは1988年から1997年のあいだに登録された患者さんのデータです。多発性内分泌腺腫瘍症2型の原因遺伝子が発見されたのは1992年ですので、まだこのデータに遺伝子検査を受けて早期発見された患者さんは多くは含まれていないものと考えられます。遺伝子検査の普及で甲状腺髄様癌が早期発見され治療が早い時期に行われれば5年生存率はおろか10年生存率も100%に近くなるとわれわれは考えています。甲状腺髄様癌をまず早期に発見し治療を受けていただき、副腎褐色細胞腫は定期的に検査でチェックして、手術が必要になれば腹腔鏡手術で副腎の治療を受けていただくというのが現在のところ最良の方法だと思います。