新学術領域研究(研究領域提案型) 脳タンパク質老化と認知症制御

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計画研究A03『脳タンパク質老化に対する治療開発』

<研究代表者>
岡野 栄之(慶応義塾大学・教授)、佐原 成彦(放射線医学総合研究所・サブリーダー)

患者iPS細胞由来神経細胞を用いた in vitro モデル系とトランスジェニック霊長類作出技術を用いた in vivo 疾患モデル系を構築し、脳タンパク質の老化の可視化、神経回路破綻との関係の可視化、タンパク質老化の診断・治療の評価指標とすべきバイオマーカー探索と臨床応用に向けた治療薬開発などを行う。

A03-1岡野グループ

研究課題名 『ヒトiPS細胞と霊長類モデルを用いた治療開発の基盤整備』
研究代表者 岡野 栄之(慶応義塾大学・教授)
連携研究者 塩澤 誠司(慶応義塾大学・講師)

これまで、神経変性疾患の病態解明及び治療開発を目的として、様々な疾患モデルマウスが作出されてきた。これらのマウスは重要な研究資源として広く用いられ、極めて多くの知見を供給してきた。その一方で、マウスとヒトでは中枢神経系における種差があまりに大きく、ヒト病態の再現が難しい部分があることも同時に明らかにされてきた。更に、マウスでは行動や認知機能等の解析においても受ける制約が大きい。このことは、高次脳機能が解析対象となる神経変性疾患研究における本質的な問題の1つである。
本研究ではこの問題を克服するために、脳老化タンパク質の1つであるタウに着目し、以下の2つのモデル系を構築する。

1) 患者iPS細胞由来神経細胞を用いた in vitro モデル系

タウ遺伝子の変異を原因とする神経変性疾患であるFTDP-17-tauの患者から iPS 細胞を作製し、神経細胞への分化誘導を行う。このモデルでは、実際の患者神経細胞を in vitro において再現することで、その発症メカニズムを詳細に解析することが可能である。また、この系を用いることで、バイオマーカーの探索や病態進行を抑制する化合物あるいは治療効果のある化合物のスクリーニングが可能になる。

2) トランスジェニック霊長類作出技術を用いた in vivo 疾患モデル系

我々が世界に先駆け確立した、小型霊長類であるマーモセットにおけるトランスジェニック技術を用い、変異型タウ遺伝子を発現するマーモセットの作出を行う。作成されたトランスジェニックマーモセットを育成・繁殖させ、ライン化を進めると共に、脳画像解析によりタウ病変の形成を検出する。更に高度な認知機能テストを指標にした表現型解析を行うことで、革新的な早期診断バイオマーカーの探索を目指す。

ヒトiPS細胞と霊長類モデルを用いた治療開発の基盤整備

A03-2 佐原グループ

研究課題名 『脳イメージングを基軸としたタンパク質老化モデルの治療評価系の開発』
研究代表者 佐原 成彦(放射線医学総合研究所・チームリーダー)
研究分担者 山口 芳樹(理化学研究所・チームリーダー)
連携研究者 樋口 真人(放射線医学総合研究所・チームリーダー)
南本 敬史(放射線医学総合研究所・チームリーダー)
青木 伊知男(放射線医学総合研究所・チームリーダー)

本研究班では、脳タンパク質老化の進展メカニズムの解明と精神・神経変性疾患の治療を目的として、生体脳イメージング技術を駆使した治療評価系の開発を目指す。
本研究班の拠点となる放射線医学総合研究所(放医研)では小動物用マイクロポジトロン断層撮影(PET)装置、核磁気共鳴イメージング(MRI)、二光子顕微鏡システムなどマルチモーダル生体脳イメージングによる小動物の病態解析が可能である。

また、放医研はマーモセットなどの霊長類を用いた脳画像解析を行なえる希少な研究施設であることから、よりヒトへの臨床応用に近い治療評価系の開発を目指すことが期待できる。
本研究では動物モデルを用いたイメージングバイオマーカーの開発、霊長類脳タンパク質老化モデルの病態解析、病態バイオマーカーの開発、そして脳タンパク質老化を阻止しうる治療薬剤の開発を進めていく。

イメージングバイオマーカーの開発においては、放医研にて開発されたタウPETプローブ[11C]PBB3を足がかりとして、多様性のあるタウ病変に選択性のあるPETプローブの開発を目指す。
また、各班と連携してαシヌクレイン、β-アミロイド、TDP-43などを標的としたイメージングバイオマーカーの開発を進める。

霊長類モデルは遺伝子改変マーモセットまたはアカゲザルを作出し、モデル動物を用いたバイオマーカーによる早期診断法の開発や治療効果の評価系の確立を目標とする。
本研究を遂行することで、イメージングバイオマーカーを用いた病態モニタリングシステムを連結点とした基礎研究と臨床研究の交流の活性化が期待される。

さらに、公募研究から提案される新たな脳タンパク質老化モデルを用いた診断・治療薬開発研究との相互研究支援体制の確立をめざすとともに、脳イメージングを基軸とした脳タンパク質老化研究の新領域を開拓する。

A03-B班:脳イメージングを基軸としたタンパク質老化モデルの治療評価系の開発