新学術領域研究(研究領域提案型) 脳タンパク質老化と認知症制御

ホーム > 領域代表挨拶

領域代表挨拶

祖父江 元(名古屋大学大学院医学系研究科 神経変性・認知症制御研究部 特任教授 脳とこころの研究センター ディレクター) 

加齢に伴う脳老化は、認知症の最も強力かつ本質的な要因であり、その主要な分子基盤をなしているのは神経系を構成するタンパク質の生理機能の喪失および毒性・病原性の獲得による神経回路の破綻である。本領域では、こうした機能タンパク質の毒性獲得のプロセスを「脳タンパク質老化」と定義した。脳タンパク質老化の背景には、これらのタンパク質の修飾・構造変化などの質的変化とともに、その発現量の量的変化など種々の分子変化が存在すると考えられる。さらにこの脳タンパク質老化を抑制、促進する多くの要因(分解、排泄機構、ストレス、炎症、遺伝要因など)が存在する。例えば、アルツハイマー病、前頭側頭葉変性症、レビー小体型認知症など神経変性型認知症ではそれぞれAβ、TDP-43、タウ、FUS、α-シヌクレインなどのタンパク質が老化し、生理機能を喪失し、機能分子との相互作用を失い病原性を獲得して神経細胞に蓄積し広がることが脳機能を支える神経回路の破綻をきたし、認知症に至る神経変性の根本的分子基盤と考えられる。

しかし、脳タンパク質老化が、どのようなプロセスで起こり、どのように神経毒性を発揮し、それが神経回路をどう破綻するのかは全く明らかになっていない。即ち我々は、神経変性の最も重要な部分の解答を持っていない。本領域で行う研究は、正常に機能していたタンパク質が、ある時期から変質し、機能を失うあるいは神経細胞に対して毒性を持つようになり、神経細胞の機能障害、変性、伝播を介して、神経回路破綻を来たし最終的には認知症に至る過程、すなわち脳タンパク質老化に基づく神経変性について、その分子基盤の解明と認知症予防に結びつけるものである。

本研究領域は、『脳タンパク質老化と神経回路破綻(A01)』、『脳タンパク質老化の分子基盤(A02)』、『脳タンパク質老化に対する治療開発(A03)』の3つの研究グループが、脳タンパク質老化を軸に、分子レベルから個体レベルまでを視野に入れ、正常から神経変性に至る時間軸を重要な研究要素と位置づけ、次世代型先端技術を駆使して様々な角度から学際的に解析することで、そして有機的に結合して研究することにより、

  1. (1) 脳タンパク質老化の開始と病原性獲得メカニズム解明
  2. (2) 脳タンパク質老化の細胞間伝播・感染性獲得メカニズム解明
  3. (3) 脳タンパク質老化による細胞毒性とその抑制メカニズム解明および病態マーカー開発
  4. (4) 脳タンパク質老化の可視化と神経回路破綻

以上を明からにしていくことで脳におけるタンパク質老化学を切り開くことを目的としている。基礎から臨床に至る多様な研究者による新たな視点や手法による共同研究等の推進や、次世代技術を集結し、異なる学問分野の研究者の連携推進は、脳タンパク質老化研究領域の新たな展開につながると確信している。

脳タンパク質老化と認知症発症の我々の考え方
脳タンパク質老化とミクロ・マクロ神経回路破綻の解明とその関係解明
前方向視的研究が必要 - 正常からタンパク質老化、神経変性・認知症発症は非常に長いプロセス -
分子・細胞・動物・ヒトの一気通貫型研究が必要 - 階層別研究の統合がヒト認知症制御につながる -