新学術領域研究(研究領域提案型) 脳タンパク質老化と認知症制御

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公募班(H27-H28年度)

氏名 小野正博
所属・役職 京都大学大学院薬学研究科
准教授
研究課題 βアミロイドおよびタウを標的としたSPECTイメージングプローブの開発
研究概要 高齢化社会を迎える日本および先進国において、アルツハイマー病(AD)患者の急増が懸念されている。多数のADの発症前検査を画像診断により行うためには、汎用性に優れた生体イメージング技術が必要である。PETは空間分解能や定量性に優れる核医学イメージング技術であるが、11C(半減期20 分)や18F(半減期110分)といった標識核種を使用すること、これら核種の製造にサイクロトロンなどの大型施設が必要であること、PET検査施設が少ないことなどの理由からPET検査の受診可能な数には制限が生じる。一方、SPECTは、99mTc(半減期6時間)あるいは123I(半減期13時間)など、標識核種の物理学的半減期が長く、PETよりも汎用性に優れた臨床核医学診断を可能にする。本研究では、PETに比べて汎用性に優れたSPECTイメージング法に対応したAβおよびタウ標的SPECT用プローブの開発を行い、簡便かつ迅速にAβおよびタウの検出を可能とすることによって、ADの早期診断、効率的な治療薬開発支援に貢献することを目標とする。
氏名 村上 丈伸
所属・役職 福島県立医科大学・医学部・神経内科・先端臨床研究センター
助教
研究課題 認知症における大脳皮質可塑性障害のメカニズムの解明と新たな早期診断法開発への応用
研究概要 アルツハイマー病ではアミロイドベータ(Aβ)の脳内蓄積によるシナプス可塑性の障害が指摘されている。またAβが認知症発症前段階からすでに蓄積していることがわかっている。本研究では経頭蓋磁気刺激法(TMS)を用いて、アルツハイマー病をはじめとした認知症患者の大脳皮質運動野に可塑性変化が誘導できるか検討する。さらに標準的な認知機能検査や早期診断および鑑別診断で用いられる髄液バイオマーカー測定、PET-MRIによる脳機能画像検査を組み合わせることで、それぞれの検査との関連性を検討する。早期のアルツハイマー病や軽度認知障害患者の大脳皮質運動野に可塑性を誘導できるのではないかと予想する。しかし病期の進行に伴い、可塑性の誘導が乏しくなると推察する。TMSを用いて可塑性変化を検討することで、既知の検査法ではとらえきれないシナプス機能破綻が記録できないかと考えている。
氏名 水田 恒太郎
所属・役職 京都大学
助教
研究課題 アルツハイマー病の微小回路可視化による破綻過程の解明
研究概要 アルツハイマー病では、老化したタンパク質が蓄積することで神経回路破綻が起き、認知機能低下を引き起こす。その患者は初期症状として空間記憶障害を持つことが知られている。空間記憶には海馬が重要な役割を果たすが、その神経回路の破綻過程は詳しくわかっていない。これは、これまでの研究手法では海馬神経細胞活動が数日しか観察できなかった為である。本研究は、我々がこれまでに確立したin vivo 深部脳イメージング、蛍光カルシウムセンサータンパク質発現を発現するトランスジェニックマウス、およびマウス用バーチャルリアリティ(VR)システムなどの先端技術を用い、顕微鏡周囲に作り出されたVR環境下で行動する次世代型アルツハイマー病モデルマウスの約1000個の細胞からなる海馬神経回路活動を、単一細胞解像度の二光子カルシウムイメージングで数か月間長期観察する。VR認知学習課題を行うアルツハイマー病モデルマウスの海馬微小回路において、異常な細胞の発生、脳老化タンパク質の発生・蓄積から機能回路破綻といった過程を可視化し、その病態の機序を解明する。
氏名 青木 正志
所属・役職 東北大学大学院医学系研究科神経内科
教授
研究課題 筋萎縮性側索硬化症やパーキンソン病などの神経変性疾患における病態解明とトランスレーショナルリサーチ
研究概要 筋萎縮性側索硬化症やパーキンソン病などの神経変性疾患における病態解明を進めています。筋萎縮性側索硬化症においては動物モデルの病態解析を通じて、再生医療の開発に取り組んでいます。特に私たちが作成したALSラットに対して効果を示した肝細胞増殖因子を新規治療薬としての開発を進めています。パーキンソン病や多系統萎縮症では、神経・グリア細胞内に細胞毒性を有するαシヌクレインという異常なタンパク質凝集物が蓄積し、神経変性が進行します。私たちは長谷川講師らが中心となり、分子・細胞生物学的手法を駆使し、レビー小体・GCI の主要構成成分であるαシヌクレインのリン酸化、凝集化による神経・グリア細胞変性機序、カテコラミン酸化物による神経変性機構を明らかにしてきました。さらにはこれまで不明とされてきたαシヌクレインの細胞内侵入・分泌・分解に関与する細胞内小胞輸送システムを世界に先駆けて明らかとしています。
氏名 伊藤 素行
所属・役職 千葉大学大学院薬学研究院 生化学研究室
教授
研究課題 CADASIL型Notch3タンパク質の老化と毒性機序の解明
研究概要 CADASILは大脳白質の病変を伴う遺伝性脳小血管病であり、50歳以降で進行性の認知症を発症する。CADASILの原因遺伝子がNotch3遺伝子であることが報告されたが、現時点で有効な治療法は見つかっていない。Notchシグナルは進化上保存された細胞間シグナル伝達経路で、多様な組織の発生、恒常性維持に関わっている。CADASIL型Notch3変異による認知症発症メカニズムは、シグナル伝達低下異常ではなく、ミスセンス変異による変性タンパク蓄積が発症要因である可能性が高いと考えられているが、詳細な病態発症機序は不明である。本研究では、1) リガンド結合によるCADASIL型Notch3 変異タンパク量調節機構の解明、2) 細胞老化によるCADASIL型Notch3 変異タンパク量調節機構の解明、3) CADASIL型Notch3変異ゼブラフィッシュ病態モデル解析を行う。
氏名 山田 薫
所属・役職 東京大学大学院医学系研究科・神経病理
助教
研究課題 細胞間伝播を導くタウの細胞外放出の分子機構の解明
研究概要 アルツハイマー病をはじめとする神経変性疾患では、正常には可溶なタウ蛋白質が脳内で不溶化し神経原線維変化 (NFT) として細胞内に異常蓄積することが知られており、タウオパチーと総称されている。 しかしながら、タウオパチーにおいて細胞死の原因となるNFTがどのように蓄積するのかは未だ不明である。近年NFTが神経細胞から神経細胞へ伝播しながら進展することが報告された。すなわちタウに関して次の二つの新しい病的メカニズムを示唆されている:(1)タウは細胞内で異常凝集構造をとるようになり、ついで細胞外腔に放出される; (2)細胞外に放出されたタウがさらに別の神経細胞内に取り込まれ、凝集の核となり新たにタウ凝集を誘発する。そこで本研究ではNFTの細胞間伝播における鍵経路「タウの細胞外放出」に焦点を絞り、その分子メカニズムと伝播への関与を解明することを目的とする。
氏名 柴田 佑里
所属・役職 東京大学医科学研究所
助教
研究課題 神経変性疾患におけるVCP補助因子p47の機能解析
研究概要 多くの神経変性疾患では、ユビキチン陽性の異常タンパク質凝集体が蓄積して細胞毒性を発揮することが病態の原因となる。近年、前頭側頭葉変性症や家族性ALSの原因遺伝子のひとつとしてVCPが同定され、VCP変異によりオートファジーを介したタンパク質分解経路に異常が引き起こされる結果、神経変性疾患を発症すると考えられている。通常VCPは補助因子と協調的に働くが、神経変性疾患における補助因子の役割は明らかとなっていない。また、ALSやIBMPFDにおいてユビキチン陽性のタンパク質凝集体の蓄積が確認されているが、そのポリユビキチン鎖の型に関する研究は十分に行われていない。そこで、本研究では、(1) VCP補助因子p47が神経変性疾患の病態に関与するかどうか、(2) 異常タンパク質凝集体に含まれるタンパク質が何型のポリユビキチン化修飾を受けているか、(3) ポリユビキチン鎖の鎖型特異的な脱ユビキチン化酵素が異常タンパク質の凝集を抑制できるか検討を行う。
氏名 田中 洋光
所属・役職 京都大学大学院理学研究科 生物科学専攻
助教
研究課題 Aβオリゴマーによるシナプス機能変性過程の解明
研究概要 私たちはこれまで、ガラス面をシナプス接着因子であるニューレキシンでコートし、その上に海馬神経細胞を培養することで、シナプス後膜様構造をガラス面上に形成させることに成功した。そして、そのシナプス後膜内外における蛍光標識したグルタミン酸受容体の動態を、全反射顕微鏡を用いて高シグナルノイズ比、高時空間分解能でライブイメージングできる独自の実験系を構築した。本研究では、この新可視化実験系を用いて、Aβオリゴマーがどのようなシナプス関連分子 (例えばAMPA型グルタミン酸受容体など) の動態に作用して、シナプス可塑性といったシナプス機能を変性させるのかという一連の過程を明らかにする。これにより、アルツハイマー病の発症分子機構の解明、及び記憶・学習が成立する基礎過程の解明に貢献することを目指す。
氏名 大野 美紀子
所属・役職 京都大学大学院医学研究科 循環器内科学講座
特定助教
研究課題 M16メタロプロテアーゼによる脳タンパク質老化と認知症制御機構
研究概要 我々は、膜型増殖因子HB-EGFの結合蛋白質として同定したM16ファミリーメタロプロテアーゼ;nardilysin (NRDc)が、細胞外ドメインシェディングの活性化因子であることを明らかにしてきた。アルツハイマー病(AD)の原因の一つとして、アミロイド前駆タンパク(APP)の切断に伴うAβの産生と凝集・沈着が知られる。これまで、細胞実験系及びADマウスモデルにおける検討から、NRDcがAPPのα切断を増強することでAβ産生を減少させることを明らかにした。しかし、実際のAD症例ではNRDcの発現が上昇していたこと、NRDcと酵素部位において高い相同性を持つinsulin degrading enzyme (IDE)がAβを分解することでAD抑制効果を持つこと、ADの発症にはAβのみならず、タウをはじめとする様々な「脳タンパク質の老化」が関与することから、ADにおいてNRDcの酵素活性が重要な役割を持つ可能性がある。以上より本研究では、1)AD症例及びその前段階におけるNRDcのバイオマーカーとしての意義、2) ADにおけるαセクレターゼ活性の意義、3) ADにおけるNRDcの酵素活性の意義を明らかにすることを目的とする。
氏名 坂口 末廣
所属・役職 徳島大学疾患酵素学研究センター神経変性疾患研究部門
教授
研究課題 プリオンの増殖と病原性獲得に重要なプリオンの細胞内移動に関与する分子の同定
研究概要 我々は、最近、プリオンが感染すると、異常プリオンがエンドソーム、特にリサイクリングエンドソームに蓄積し、それにより細胞内小胞輸送が障害され、その結果細胞膜蛋白質の細胞膜への輸送が障害され、プリオン感染神経細胞は機能不全となり細胞死を起こす可能性を示した(Nature Communications 2013)。この結果は、異常プリオンが病原性を獲得するにはリサイクリングエンドソームに運ばれる必要があることを示唆している。しかし、異常プリオンがどのようにリサイクリングエンドソームに運ばれるのか、不明である。
我々は、現在、蛋白質輸送に関与する分子Sortilinが異常プリオンに結合することを見出している。また我々は、プリオンが感染すると、Sortilinが減少することも見出している。これらの結果は、Sortilinの減少による細胞内輸送障害が異常プリオンのリサイクリングエンドソームへの蓄積に関与している可能性を示している。本研究では、異常プリオンの産生及び病原性獲得のメカニズムを解明することを目指し、異常プリオンの産生及び細胞内輸送におけるSortilinの役割について明らかにする。
氏名 松本 弦
所属・役職 長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科(医学系)
講師
研究課題 老化神経細胞モデルによる神経変性疾患発症機構の解析
研究概要 認知症をはじめとする神経変性疾患の発症は加齢(老化)とともに増加するこなどからも、神経老化が神経変性を引き起こす最大のリスクであることは明らかである。しかしながら、神経変性と神経老化がどのように相関しているのかという問題はもとより、「神経老化」がどのような現象であるのかという問題すら未だ解明されていない。我々は、「なぜ老化した神経細胞ではタンパク質分解システムが破綻してしまい神経細胞死に至るのか?」という神経変性疾患の根本的原因を理解するために、これまでとは異なる新規の実験系を構築し、特に神経老化によるタンパク質分解機構の変容の原因究明と神経変性疾患治療の新機軸となるターゲットの同定を目指した研究を行っている。
氏名 伊藤 慎悟
所属・役職 熊本大学大学院生命科学研究部 (薬学系) 微生物薬学分野
助教
研究課題 脳支援・防御機構としてのヒト脳関門におけるインスリン受容体機能の解明
研究概要 脳関門 (Blood-Brain Barrier; BBB) の実体である脳毛細血管内皮細胞に発現するトランスポーターなどの輸送関連タンパク質は「脳支援」として栄養物質を脳内に供給し、「脳防御」として過剰な神経伝達物質やその代謝産物などを脳内から除去することで脳内恒常性維持に貢献している。近年、糖尿病などのインスリン代謝異常がアルツハイマー病などの認知症と強い相関があることが疫学的研究で報告されてきているが、その2大疾患をつなぐメカニズムは未知のままである。脳関門は脳細胞のなかで唯一末梢と直接つながっている細胞である。そこで本研究はヒトBBBモデル細胞と質量分析を用いた定量プロテオミクスを用いて、末梢インスリン代謝変動による脳関門インスリン受容体機能異常が脳関門輸送機能を介した脳支援・防御機構を破綻させることを解明することを目的とした。
氏名 安藤 香奈絵
所属・役職 首都大学東京理工学研究科生命科学専攻
准教授
研究課題 タウ蛋白質の異常代謝開始点から見るタウ蓄積と神経毒性獲得に関わる因子の同定
研究概要 タウ蛋白質はアルツハイマー病や前頭側頭型認知症など多くの加齢依存性神経変性疾患脳で異常な修飾を受け蓄積し、神経細胞死を引き起こすと考えられている。しかし、疾患脳で、タウの異常代謝がどのように始まり、毒性を持つタウの蓄積につながるのかは不明である。疾患脳でのタウたんぱく質の変化の中でも、特にSer262∙356でのリン酸化は初期におきると考えられている。さらに申請者のこれまでの研究から、リン酸化酵素MARK/PAR-1によるSer262∙356でのリン酸化が、異常タウ蓄積につながる一連の変化の開始点である可能性が示唆された。本研究は、ショウジョウバエモデルを用い、Ser262∙356でリン酸化されたタウの生成・代謝に関与する遺伝子を網羅的に同定する。本研究の結果から、タウ蓄積と毒性化の機構について新たな仮説が得られ、治療戦略開発に役立つと期待される。
氏名 太田 悦朗
所属・役職 北里大学・医療衛生学部
講師
研究課題 iPS細胞を用いたタウによる神経変性機構の解明
研究概要 優性遺伝パーキンソン病(PD)の原因分子であるLeucine-Rich Repeat Kinase 2(LRRK2)に変異をもつ患者は、孤発性PDと類似した特徴を示すことに加え、認知症の併発が一部で報告されている。そのためLRRK2は、認知症の発症にも何らかの影響を及ぼすことが考えられる。我々は、LRRK2に変異をもつPD患者から樹立したiPS細胞について研究を進めた結果、Tauのリン酸化亢進の可能性を見出した。本研究では、iPS細胞由来神経細胞とiPS細胞樹立のPD患者脳内におけるリン酸化Tauについて解析を進め、Tauが引き起こす認知症の発症メカニズムを明らかにする。また、短期と長期培養のiPS細胞由来神経細胞を用いたmRNAおよびタンパク質レベルの解析によって、老化が引き起こすPDおよび認知症の病態解明を目指す。
氏名 古川 良明
所属・役職 慶應義塾大学理工学部
准教授
研究課題 脳タンパク質老化の伝播性と感染性を検証する線虫モデルの確立
研究概要 脳・神経組織に見られるタンパク質の線維状凝集は、神経変性疾患の主な病理変化の一つである。既に形成したタンパク質線維は、自らがシード(鋳型)となることで、線維化していないタンパク質の線維化を「爆発的に」促進することがある(シーディング)。このシーディングが脳・神経組織内で進行すると、タンパク質の線維化とともに、病態が進行し拡大することが考えられる。つまり、シーディングは病態の伝播性や感染性を制御する可能性があるものの、その詳細は未だ明らかでない。そこで、本研究課題では、線虫を用いた独自の実験モデルを発展させることで、シーディングが病態の伝播・感染に果たす役割を明らかにする。
氏名 貫名 信行
所属・役職 同志社大学大学院 脳科学研究科 認知記憶加齢部門
教授
研究課題 NF-YA欠損によるユビキチン蓄積病態の解析
研究概要 我々はポリグルタミン病の病態を明らかにするため、凝集体結合蛋白質の解析を系統的に行ってきた。その結果ポリグルタミン凝集体に転写因子NF-YAが結合しており、そのシャペロン系との関係を報告した(EMBO J2008)。最近神経細胞においてNF-YAをノックアウトすることによりユビキチン、p62の集積を認めながら、線維性病変を伴わず、小胞体膜、核膜異常を伴う新規病変を見出した(Nat Comm2014)。本研究ではこのこれまであまり十分に記載されていない病変が膜の品質管理の異常による病変でありながら、老化過程・老化関連脳疾患でも見逃されている可能性を考え、さらに詳細な検討を行うこととした。実際類似の病変はある種の筋萎縮性側索硬化症でも報告されている。本研究では運動神経においてNF-YAをノックアウトしたときの病変を大脳皮質病変と比較検討するともに、ユビキチン化の標的分子を同定すること、また線維性病変を伴わないこのノックアウトマウスの脳に伝播する因子が存在するかなどの検討を行い、老化関連病態のさらなる展開に貢献する。
氏名 深田 正紀
所属・役職 生理学研究所
教授
研究課題 記憶と脳の安定性を保持するLGI1リガンドの老化と認知症における役割
研究概要 認知症の制御には認知症関連タンパク質の発掘は欠かせない。これまでに、Aβ、タウ、α-シヌクレイン、TDP-43等の病原性獲得に関する病態研究が広く行われているが、認知症発症におけるタンパク質の機能喪失に関しては、決定的なエビデンスは得られていない。私共は独自の生化学的手法を軸に、遺伝性側頭葉てんかんの原因タンパク質LGI1リガンドがADAM22受容体を介してシナプス伝達を制御すること、変異LGI1は構造異常によって分泌やADAM22結合が低下することを見出した。また、記憶障害やけいれん、見当識障害を主訴とする自己免疫性辺縁系脳炎では、LGI1自己抗体が単独、高値に存在し、LGI1-ADAM22結合を阻害することを明らかにした。本研究では、1)認知症患者脳や老齢脳におけるLGI1発現量、分布の検討、2)LGI1を分子標的とした治療法の開発、3)脳内LGI1定量法の開発を通して、LGI1老化の認知症発症における役割を明らかにする。
氏名 濱田 耕造
所属・役職 理研・脳科学総合研究センター
研究員
研究課題 脳タンパク質老化とその毒性機序における小胞体カルシウムの役割
研究概要 神経変性疾患の原因タンパク質はモノマーからオリゴマーそして繊維状構造へと構造変化を起こすが、このタンパク質老化プロセスが細胞内でどのように制御されているのか完全には理解されていない。またタンパク質老化により生じたタンパク質構造体がどのような機序により細胞機能に影響し毒性や伝播機能を獲得するのかまだ十分には解明されていない。本研究ではシナプス可塑性や小胞体ストレスなどの様々な細胞内プロセスに重要な「小胞体カルシウム」がタンパク質老化そしてその毒性機序に関与する可能性を検証する。
氏名 清水 重臣
所属・役職 東京医科歯科大学 難治疾患研究所 病態細胞生物
教授
研究課題 新規オートファジーによる脳老化タンパク質調節機構の解析と創薬開発研究
研究概要 オートファジーの多寡は、老化に伴って増えていく異常タンパク質の蓄積量に影響を与え、ひいては認知症などの発症に深く関わっている。オートファジーは、細胞が自己成分を消化し、新陳代謝などに貢献する機構である。我々のグループは、これまでオートファジーに必須と考えられてきたAtg5/Atg7分子に依存しない新規メカニズムによるオートファジー機構を発見している。また、その後の研究で、この新規オートファジーが神経細胞内のタンパク質蓄積に関与している事実を見いだしている。
そこで、本申請では、①脳老化タンパク質の蓄積や認知症発症における新規オートファジーの役割の解明、②新規オートファジー調節による認知症治療法の開発研究を行なう。
氏名 望月 秀樹
所属・役職 大阪大学大学院医学系研究科神経内科学
教授
研究課題 パーキンソン病マーモセットにおけるiPS由来α-syn蛋白伝播
研究概要 パーキンソン病(PD)は、頻度の高い変性疾患である。αシヌクレインの凝集や進展は、その発症や症状の増悪に関与しているといわれているが、その詳細は不明である。我々は、これまでPD動物モデルの開発やウイルスベクターなどを用いてPDの発症機序や治療法の開発を行ってきた。今回我々は、PD患者からiPS細胞を作成し大量培養を行い、そこから病的αシヌクレインを精製し、PDマーモセットモデルに脳内投与し、その進展形式を検討する。これらは、慶応大学岡野先生との共同研究である。
氏名 岡田 洋平
所属・役職 愛知医科大学医学部内科学講座(神経内科)
准教授
研究課題 患者iPS細胞由来ニューロンにおける異常タンパク凝集を促すストレスシグナルの解析
研究概要 患者自身の体細胞を用いて作成される疾患特異的ヒトiPS細胞は、分化誘導により患者自身の疾患感受性細胞を得ることができるため、患者の病態を忠実に反映する優れた疾患モデルとなり得ると考えられてきた。また、iPS細胞の分化誘導過程を解析することで、疾患の発症や病態の進行過程をin vitroで再現し、その分子病態を解明できる可能性がある。本研究では、多くの神経変性疾患で、老化による異常タンパクの凝集体形成が神経変性を誘導することに着目し、神経変性疾患患者から疾患特異的ヒトiPS細胞を樹立し、神経系細胞への分化誘導過程をつぶさに観察することで、疾患の発症過程でみられる早期の病態変化や、異常タンパクの凝集体形成・神経変性過程を解析する。これにより、病態を促進する、老化に伴う「ストレスシグナル」を同定し、新たな治療ターゲットとなり得る分子病態を明らかにする。