ロゴ

研究について

生化学グループ

糖タンパク質CD147/ベイシジンの役割

cd147
糖鎖修飾調整による尿細管細胞障害の制御
糖タンパク質であるCD147/basiginは細胞外マトリクスメタロプロテアー(MMP)を誘導し、主に細胞の生存や浸潤に関与する。正常腎においてCD147は尿細管細胞(TECs)に主に存在する。腎臓におけるCD147の病態生理学的役割は虚血や自己免疫性疾患に伴う急性腎障害(AKI)の発症から慢性腎疾患(CKD)の進展にまで至る。特に、虚血に伴うAKIでは好中球上のCD147が血管内皮細胞のE-selectinをリガンドとして好中球の遊走・組織浸潤に関与する。CD147がこのように虚血や線維形成性腎障害において増悪因子として作用する一方で、リンパ球上のCD147はIL17産生性T細胞(TH17)の抑制因子としてループス腎炎(LN)の病勢を抑制している。これらの基礎的な知見を元に、CD147は実際の臨床検体を用いた検証においてもAKIやLNをはじめとしたCKDに対する病勢把握にbiomarkerとして有用であることが証明されている。
腎臓病疾患以外において、私たちはCD147が細胞の生存・増殖においてエネルギー代謝を促進する役割を担うことに注目し、食生活の変化と共に増加傾向にある生活習慣病(糖尿病・脂質代謝異常症・肥満など)の進展に関与する事を検証している。CD147を中心として疾患における臓器間の関連を分子生物学的・免疫学的に検証を行うことによって、新たな疾患機構の解明と治療法の確立につなげたい。
cd147
糖鎖修飾調整による尿細管細胞障害の制御

腎臓における成長因子ミッドカインの役割

midkine
MK-EETs経路を介した心・腎障害カスケード
ヘパリン結合性成長因子ミッドカイン(MK)は細胞の成長や生存、遊走や抗アポトーシス効果を制御する。正常腎においてMKは近位尿細管に主に発現し、hypoxia-inducible factor(HIF)-1αの活性化を介した酸化ストレスにより誘導されるが、病態形成時にはMKは虚血によるAKIから糖尿病によるCKDに至るまで、幅広く関与する。特にMKは、内皮細胞依存性過分極因子(EDHF)でCYP450由来のepoxyeicosatrienoic acids (EETs)を介して血圧を制御している。微小循環における血管内皮細胞障害を呈する様々な全身性疾患にしばしば伴う高血圧症をMKは増悪させる。このように、MKはAKIから糖尿病性腎症を含む様々な腎疾患だけでなく高血圧症において、治療戦略の新たな道を切り開く可能性を有する。
midkine
MK-EETs経路を介した心・腎障害カスケード

肥満・高血圧・糖尿病に伴う慢性腎臓病の発症・進展メカニズムの解明

近年、加糖飲料・加工食品に多量に使用されている果糖ブドウ糖液糖(HFCS)の消費は飛躍的に増加しており、果糖(フルクトース)摂取量の増加と、慢性腎臓病の原因となる肥満・高血圧・2型糖尿病罹患率との疫学的相関が示されています。私たちは、これらの病態形成におけるフルクトース代謝とそれに引き続き産生される尿酸の役割とメカニズムの解明に取り組んできました。フルクトースは主にフルクトキナーゼ(KHK)により代謝され、そのKHKには2種のアイソフォーム、KHK-C・KHK-Aが同定されています。KHK-Cは主に腎・肝・小腸に、KHK-Aは全身に発現しています。私たちはこれまでに、コロラド大学腎臓病高血圧科との共同研究にて、フルクトース代謝と尿酸産生の抑制は肥満・インスリン抵抗性・脂質異常症・NAFLD・老化に伴う腎障害を軽減することを報告しました。また、塩分感受性高血圧・糖尿病性腎臓病・血管内皮障害・腸内細菌叢におけるフルクトース代謝の役割についても解析を進めるとともに、2種のアイソフォーム、KHK-C・KHK-Aのそれぞれの役割についても解析を進め、肥満・高血圧・糖尿病とそれに伴う慢性腎臓病に対する分子標的治療の開発に繋げたいと考えています。
fructose
fructose

エクソソームを用いた新規バイオマーカーの探索

腎疾患の診断には、腎生検という強力なツールがありますが、それとは別に我々の最終的な目的は、リアルタイムで腎臓に何が起こっているかを知ることにあります。
エクソソームとは、ほぼ全ての細胞が放出する30-150nmの、脂質二重膜で覆われた細胞外小胞です。その由来細胞の蛋白、核酸を含むことから、特に癌領域において将来大きな可能性を持つバイオマーカーとして注目されています。しかし一方で、ほぼ全ての細胞が放出するため、血液全体からエクソソームを回収した際、腎臓で起きている微細な変化を捉えるには、どうしても感度が落ちることになってしまいます。そこで我々は、腎臓由来のエクソソームを選択的に回収する技術を開発し、新たな腎疾患のバイオマーカーとして、診断、治療効果判定、また健診での検尿異常がみられた方の二次検査として役立てる研究をしています。
exosome exosome
血漿中のエクソソーム(電子顕微鏡)(左)
血漿からビーズを用いて腎由来エクソソームを選択的に回収(中央・右)
血漿中のエクソソーム(電子顕微鏡)(左)
血漿からビーズを用いて腎由来エクソソームを選択的に回収(中央・右)

マイクロRNAを用いた核酸医薬の開発

核酸医薬は、現在数多く開発・臨床応用されている抗体医薬に続く分子標的医薬として期待されています。その核酸医薬にも様々な種類がありますが、我々は比較的新しく発見された、マイクロRNAに着目しています。マイクロRNAは、他の人工核酸と異なり、本来生体内に備わった核酸であり、遺伝子発現を微調節するといった特徴があります。また10年ほど前に、生体内において、ある細胞が産生したマイクロRNAが、前述のエクソソームの媒介によって、隣接する、あるいは遠隔に存在する細胞にも伝播していることが発見されました。さらに、人が食事で摂取する植物由来のマイクロRNAも、生体内に影響をあたえるという報告もあります。つまりマイクロRNAは、本来生体内外で、行き来していることになります。
我々は、致死率が高く臨床的にも問題となっている敗血症性急性腎障害において、その発症に中心的な役割を果たすシグナルのカスケードを抑制する効果を持つマイクロRNAに注目し、適切なドラッグデリバリーシステムを用いて投与することで、障害を軽減する試みに取り組んでおり、大きな成果を得ています。今後は対象とする疾患を広げていくとともに、病態に合わせてマイクロRNAを選択するなど、プレシジョンメメディシン(精密医療)へ繋げていきたいと考えています。

糖鎖構造に着目した腎障害進展機序の探索

糖鎖とはタンパク質や脂質に結合している構造であり主として細胞表面に存在しています。糖鎖は8種類の単糖類が様々な配列を呈することにより多種多様な役割を担っています。身近なところではABO血液型や腫瘍マーカーの一部は糖鎖構造の変化に着目したものです。
糖鎖の主な働きとしては細胞外のシグナル受容のためのセンサーとしての役割があり、腎障害進展に際しどのような働きをしているか明らかにすることにより、新規の腎障害治療の方策を見つけようと鋭意研究を進めています。現在、リンパ球ホーミング現象に必要なシアリル6-スルホルイス X とよばれる硫酸化糖鎖を合成する酵素であるGlcNAc6STに注目しています。この酵素はサブクラス毎に臓器分布が異なる特徴を有しているため、臓器選択性を高める事により副作用の少ない治療方略の一つとなりうる可能性を秘めていると考え、現在腎障害モデルを作成して実験を進めています。