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甲状腺

手術後の合併症について

甲状腺の手術に特有の合併症がいくつかありますので、順に説明していきます。

甲状腺図3

反回神経麻痺
反回神経は声帯を動かす太さ1-2ミリ程度の神経です。この神経は脳から出て、いったん首を通り、胸まで下がってUターンして気管と甲状腺の間のあたりを通って、声帯(のどぼとけの中にあります)に至ります。このような走行をするので反回神経といわれるのですが、甲状腺を切除する場合必ず手術野に現れます。この領域を扱う外科医は反回神経がどのあたりを走行しているかきちんと把握していますが甲状腺癌がこの神経と癒着していてそこをはがす際にダメージを与える可能性はまったくゼロではありません。手術中に少しひっぱるだけでも反回神経の働きが一時的に悪くなることがあります。結果として、声帯の動きが悪くなり声がかすれます。ただし、神経を切断していない限りほとんど元の声に戻ります。しかし癌が神経にかたく密着(浸潤)している場合はこの神経を損傷することがあります。この場合、声のかすれが治るのにはかなり時間がかかります。

副甲状腺(上皮小体ともいいます)機能低下症
副甲状腺は甲状腺の左右の裏にそれぞれ2個ずつへばりついているようにある米粒以下の大きさの臓器です。こんな小さな臓器ですが、副甲状腺ホルモンというホルモンを分泌します。このホルモンは血液中のカルシウム濃度の調節をします。甲状腺を取るときに副甲状腺は一緒に甲状腺にくっついてくることがよくあります。甲状腺の手術に慣れた医者であれば、副甲状腺を確認して確実に甲状腺から離して機能を温存することが可能です。甲状腺癌の手術では左右の下の方にある副甲状腺はそのまま温存することが難しく筋肉の中に移植します。

しかし、副甲状腺は甲状腺から外されるような処置をすると一時的に働きが落ちて、副甲状腺ホルモンの分泌が低下し、血液中のカルシウムが低下します。血液中のカルシウムが低下すると手や口の周りがしびれ、さらに低下すると筋肉がけいれんすることがあります。カルシウムの低下に対処するため術後1週間程度カルシウム製剤(乳酸カルシウム)およびカルシウムの吸収を促進するためビタミンD製剤(アルファロールまたはワンアルファ)を服用していただきます。甲状腺癌手術後に発生した永久的な副甲状腺機能低下症(つまり副甲状腺が温存できなかった)は最近5年間でふたりだけでした(1.6%)。

乳糜(にゅうび)漏
リンパ節郭清を胸鎖乳突筋の外まで行った場合に起こり得るものです。乳糜は小腸で吸収された脂肪がとけ込んだリンパ液のことです。見た目がミルクのようなのでこの名前が付いています。乳糜はリンパ管を通って腹から胸の中を上がり、鎖骨の上あたりで頭から戻る静脈と腕から戻る静脈が合流するところで静脈に流入します。リンパ節を切除する範囲がこの辺りに及ぶ場合、リンパ節郭清のあとこのリンパ管に傷が付いていると、術後食事を始めると傷から出ているドレーンという管の中に乳糜が漏れてきます。少量しか漏れてこない場合はしばらく絶食でがまんしていただくことで漏れは自然に止まりますが、多量に出てくる場合は、再度漏れている場所を縫い閉じる必要があります。再手術が必要な状況になるのは数年に1回くらいの頻度です。

交感神経幹損傷
交感神経幹は総頚動脈という脳に血液を送っている血管の背面にある神経です。リンパ節郭清の際にこの神経を損傷すると、同じ側のまぶたが下がり気味になります。(ホルネル徴候といいます。)これも発生頻度はまれです。

横隔神経損傷
リンパ節郭清が胸鎖乳突筋のあたりまで及ぶ場合に起こりうるものです。横隔神経は横隔膜を動かす神経で、この神経を損傷すると、そちら側の横隔膜がたるみます。しかし自覚症状が出ることはまれで、胸部レントゲンを撮影して初めて気が付きます。この発生頻度も非常に稀です。

その他
手術を終える前に止血は確実にしますが、止血の確認の際には出血していなかったものの傷を閉じて病室に帰ったあとから出血しだす場合もあります(後出血と呼びます)。後出血の程度がひどければ再度全身麻酔をかけ傷をもう一度開き止血術をおこなわなければいけないことがあります。手術した部位に感染がおこり排膿などの処置を要することがあります。これらはすべてをあわせても数%以下のきわめて可能性の低いものです。