診療案内

専門としている病気の種類

乳腺外科

I 乳癌患者さんについて

 世の中の成人女性には、次の様な方々がいらっしゃいます。

  1. 現在、治療中の乳癌患者さん
  2. 乳癌と診断されて、これから乳癌の治療を受ける予定の患者さん
  3. 過去に乳癌の治療を受けたことがあり、治療が終了しており、現在は治療を受けていない患者さん
  4. 検査したことが無くて、今、自分が乳癌にかかっているのか、乳癌にかかっていないのか分からない女性
  5. 検診を定期的にうけていて、今年の検診は異常なしであった女性

乳癌はありふれた疾患です。乳癌に関しては、新聞・テレビ・ラジオなどのマスメディア、インターネット、各種の一般書・専門書など、医療情報が世間に満ちあふれています。皆さんは、この情報の波のなかで何を参考にすればいいのか?どこで相談をすれば良いのか、途方にくれることが多いと思います。これは、私たちの診察室に受診にこられる患者さんにも言えることですし、また、こうした患者さんをご紹介いただく家庭医の先生がたも、乳癌に関する情報の多さに翻弄されている様子です。これは、私たちから、皆さんへのメッセージです。上の1、2、3に該当するかたのご参考になれば幸いです。

II 現在、治療中の乳癌患者さんへ

乳癌の治療中の患者さんには、
1)手術を受ける前に抗癌剤、内分泌療法を受けている患者さん(術前化学療法、あるいは術前内分泌治療中の患者さん)
2)手術が決まって、手術待ちの患者さん
3)手術が終わって手術後の補助化学療法中の患者さん
4)手術が終わって、手術後の補助放射線療法中の患者さん
5)手術が終わって手術後の補助内分泌治療中の患者さん
6)転移・再発乳癌の薬物療法中、あるいは緩和ケアーを受けている患者さん

この5つの場合があるでしょう。私たち専門医からみると、
1)術前補助療法
2)手術
3)術後の補助化学療法
4)術後の補助放射線療法
5)術後の補助内分泌療法
6)転移・再発乳癌の薬物療法、あるいは緩和ケアーへの移行
のそれぞれの治療を開始する時点で
(1)この治療を受けることを患者さんに強くお勧めする場合
(2)この治療を選択することが可能とお話する場合
(3)患者さんの希望される治療が不必要か、適応が無い(しないほうがよい)ため、その治療を“しないこと”をお勧めする場合
があります。また、患者さんの治療開始後のQOL(生活の質)や、患者さん、ご家族の気持ちの変化などの社会的な問題を含む状況の変化、あるいは新たな治療成績に関するエビデンスの出現、新しい治療方法・治療薬剤の出現などのにより、1)~6)の治療の途中でも(1)、(2)、(3)のお勧め内容が変更になることもあります。
一人の患者さんの乳癌の治療は、患者さんご本人、ご家族、医療チームが信頼関係のもとに共同で行う行為です。
あなたの乳癌治療の開始にあたっては、ご担当の医師から“医療チームの治療方針”について、あなたとあなたのご家族に十分にご説明をして、ご理解をしていただき、ご承諾書をいただいて治療を開始しているはずです。
乳癌の診療は、乳癌検診のマンモグラフィ撮影に「乳房をひっぱって、はさむ」ことから、緩和ケアーで患者さんにモルヒネを処方することまで多岐にわたります。乳腺専門医には乳腺疾患、乳癌について幅広い知識を持つことが要求されています。しかし、ひとりひとりの乳腺専門医にもそれぞれの得意分野があります。また、先に書きましたように、乳癌の治療方法は、まさに“日進月歩”です。乳癌の患者さん、ご家族は乳癌の治療の1)~6)のどの場合でもご自身、ご家族の治療に対する疑問が発生したときには、ご担当の医療チームとじっくりご相談される、あるいは、担当医療チーム以外の“あなたの問題が得意分野である”乳腺専門医にセカンドオピニオンを求められることをお勧めします。
私たちは他院で乳癌を治療中の患者さんに対して、こうしたセカンドオピニオンに対応していますので、ご希望があった場合は、「ご担当の医療チームの医師に臨床情報提供書を準備していただく」という簡単な手続きだけ済ましていただき、セカンドオピニオンのために来院していただくようにお勧めします。

III 私たちが専門に研究している乳癌手術

これは、2.乳癌と診断されて、これから乳癌の治療を受ける予定の患者さん、特に、しこりが触れない、マンモグラフィや超音波検査だけで発見される様な“非浸潤癌”の疑いと診断された患者さんへのメッセージです。
非浸潤性乳管癌は乳房切除を行えば理論的に手術のみで治癒が可能な乳癌ですが、近年では、非浸潤乳管癌に対しても乳房温存手術を行うことが主流となりつつあります1)。乳癌検診の成果で、乳癌の早期発見例が増え、今後、外科的治療だけで治癒する患者さんが増加すると考えられています2)。あなたが乳房を切除せず、乳房を残してする手術、いわゆる“乳房温存手術”を選択された場合、“しこりが触れず、マンモグラフィや超音波検査だけで確認できる非浸潤癌”の手術は大変困難です。
名古屋大学医学部附属病院には、最新の超音波検査機器、CT、MRIが備わっており、乳腺の画像診断を専門とする女性放射線科医師のチームがあり、“しこりが触れず、放射線検査だけで発見された非浸潤癌”を大変、正確に診断していただけます。特に、最近では、Real-time virtual Sonograpy3、4)と呼ばれるCTやMRIのvirtual画像をみながら診断する超音波検査で“しこりが触れない非浸潤癌”のひろがりを大変正確に診断していただけます。
乳房温存手術の際には、整容性(術後の乳房の形)が大変重要ですが、たくさん乳腺を切除した場合、例えば、乳腺を四分の一切除(四分円切除術)した場合、患者さんに満足していただける整容性は得られないと私たちは考えています。
しこりを触れない乳癌の場合、正確なひろがり診断がされていないと乳腺外科医は乳癌を取り残すことを心配して、多めに乳腺を切除しがちです。
私たちは、放射線科医師チームと協力して、“しこりが触れず、放射線検査だけで発見された非浸潤癌”のひろがり診断を行い、内視鏡手術も併用する私たちの考案した整容性の高い乳房温存手術を行っています5)

 

1)乳房温存療法とは 正しい理解をもって治療を受けていただくための乳房温存療法ガイドライン 「標準的な乳房温存療法の実施要項の研究」班、主任研究者 霞富士雄、財団法人癌研究会有明病院乳腺科、2005
2)池田 正 外科療法の現状と展望 日本臨床増刊号 434-438、2007
3)佐竹弘子 他 RVS(Real-time virtual Sonograpy)技術の乳腺領域への臨床応用Digital Medicine 6、56-59、2006
4)西尾明子 他 3T MRIを用いた乳腺(RVS(Real-time virtual Sonograpy))の臨床使用経験、www.secretariat.ne.jp/3TMRI/images/5th_pro_syouroku.pdfpdf_icon
5)小田高司 他 ワイヤーマーカーを用いた三次元マルチスライスCTガイド下乳腺部分切除術 手術 61、151-156、2007

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