診療案内

専門としている病気の種類

肝臓外科

肝がんとは?

 肝臓は右上腹部に位置する大きな臓器(成人で1000から1500g)で、からだの働きに重要なさまざまな物質の貯蔵と処理を行う「人体の化学工場」です。肝臓はさまざまな細胞から構成されますが、この中でも肝細胞および胆管細胞から発生したがんをそれぞれ肝細胞がん、肝内胆管がんと呼び、これらを総称して原発性肝がんと呼びます。2004年のがん統計では肝がんは男性のがん死因の3位、女性のがん死因の4位を示しており、決して少ない病気ではありません。肝がんは男性に多く、罹患率、死亡率ともに女性の約3倍です。また欧米に比べ日本を含む東アジア諸国での発生が多いとも言われています。肝がんの発生は1975年頃から急激に増加していますが、最近はむしろ減少傾向にあります。肝臓に発生するがんの9割以上は肝細胞がんであるため、以下はこれについて説明します。

原因は?

 肝がんの多く(90%以上)はB型、C型肝炎ウイルス感染を合併しています。特に肝がんはC型肝炎に合併してよく起こります。これらのウイルスに感染すると肝臓に慢性的に炎症が起こり、約30年という長い経過を経て肝硬変、肝がんへと移行します。B型、C型ウイスル感染はいずれもこれらのウイルス同定が困難であった時期の輸血や血液製剤の使用、あるいはB型肝炎ウイルス陽性の母から胎児への感染(いわゆる垂直感染)により起こりました。現在は輸血による感染はほぼ完全に防止可能となり、また母子感染もかなり予防できるようになりました。

症状は?

 肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれており、その機能に障害が起きても症状が発生することはなかなかありません。また肝がんそのものが肝臓の機能を悪くするわけではないので、よほど進行しない限り肝がんで症状をきたすことはありません。末期の状態では黄疸や腹水が見られることがありますが、このような状態では多くの場合、手術の適応とはなりません。また、まれではありますが、肝がんが破裂を起こして腹腔内に大出血を起こし、腹痛や血圧低下など激烈な症状が起こることがあります。

検査、診断法は?

 肝がんの診断は主に血液検査、腹部超音波、CT、MRIで行われます。各々に一長一短があるので、最終的な診断はこれらの所見を総合して行われます。
血液検査
 血液検査では腫瘍マーカーの測定が行われます。肝がんに最もよく使われる腫瘍マーカーはアルファ胎児性蛋白(AFP)と呼ばれるもので50~100ng/mL以上になると肝がんを疑う根拠になります。AFPの次によく使われる腫瘍マーカーはPIVKA-IIと呼ばれるもので、この検査はAFPより肝がん診断の特異性が高いと考えられています。これら腫瘍マーカー測定による肝がんの診断は簡便ですが、実際に肝がんが存在しても腫瘍マーカーが全く正常であることもあり、診断には超音波やCT、MRIなどの画像検査を組み合わせることが必須となります。
画像検査
 各種画像検査の質は最近のテクノロジーの進歩により飛躍的に向上しました。この検査には腹部超音波検査、CT、MRIなどが含まれます。これらの技術により2~3cmほどの肝がんは容易に診断できるようになっています。
腹部超音波
 この検査は体外から超音波をあてて肝内の腫瘍を同定するもので、簡便で人体への影響も少なく、肝がんの診断に最もよく使用されます。最近は超音波検査専用の造影剤を使用することにより、さらに診断能が向上しました。
CT
 CTとはcomputed tomographyの略で、放射線を使用したからだの断面写真をとる検査です。近年はMD-CT(multiple-detector-row CT; 多検出器型CT)というものが普及しており、従来と同量の放射線照射で多数の画像を得られるようになりました。この検査では人体の輪切り画像を0.5mmのスライスでとらえることができます。さらにそれをコンピューターで再構築することにより、さまざまな断面の写真をつくりなおすこともできます。この検査は肝臓に流れる血管の描出能にもすぐれており、このため最近は血管造影検査が不要になりました。だだし、この検査を行うには少し多めの放射線を照射しなければいけません。またこれらの検査を行うには造影剤を使用する必要があり、まれにこれに対してアレルギー症状をきたす方もあります。
MRI
 CTが放射線を使用する検査であるのに対して、MRI(magnetic resonance imaging)は磁気を使用した検査であるため、人体への影響はほとんどありません。この検査もCT同様にからだの輪切り写真を撮影することができます。また造影剤を使用することにより、より正確な肝がん診断が可能です。

治療法は?

 治療法は大きく分けて、外科的肝切除、肝動脈塞栓療法(TAEと略)、経皮的エタノール局注療法(PEITと略)、ラジオ波凝固療法(RFAと略)、経皮的マイクロ波凝固療法(PMCTと略)、などにわかれます。これらの治療にはそれぞれに長所、短所があります。詳しくは表を参考にしてください()。このうち最も確実に腫瘍を取り除けるのは外科的肝切除だけです。したがって、状態が良い方には手術を受けることをお勧めします。しかし手術は全ての方に行うことができるわけではなく、腫瘍の大きさや数、腫瘍の局在、あるいは肝機能などの条件をクリアしていることが必要です。図にわが国の肝癌診療ガイドライン(2005年版)で示された治療法のアルゴリズムを示します()。図で示すように、手術が不能であったと判断された場合でも決してあきらめる必要はありません。先にあげたさまざまな治療法を組み合わせることによりがんの発育や進展をおさえることが可能です。

まとめ

 肝がんはアジア諸国でよくみられる疾患で、その多くはB型、C型肝炎に合併して起こります。したがって、これらの肝炎を合併した方は超音波やCTでの定期検査を受けることをお勧めします。治療は可能であれば外科的肝切除が最適ですが、それ以外にも肝動脈塞栓療法(TAE)、経皮的エタノール局注療法(PEIT)、ラジオ波凝固療法(RFA)、経皮的マイクロ波凝固療法(PMCT)などで治療可能で、腫瘍の状態や個々人の状態に合わせて適切な方法を選択してゆく必要があります。