ミクログリアは、中枢神経系唯一の免疫細胞です。これまで精神・神経疾患において活性化することから、これらの病態における役割を明らかにする重要な研究が行われてきました。しかしながら、その生理的な機能はあまり知られていませんでした。
私たちはこれまで、2光子顕微鏡を用いた生体イメージングによって、生理的ミクログリアがシナプス(神経細胞のつなぎ目)に定期的に接触すること、接触には活動依存性があること、また一度シナプスが異常をきたすとミクログリアの接触時間が延長し、シナプスが消失することに関わることを明らかにしました (Wake et al., 2009)。
さらにシナプスに接触することでシナプス活動を修飾し、神経細胞活動の同期性を促進することで、学習などの高次脳機能を修飾することも明らかにしました (Akiyoshi et al., 2018)。発達期においては、神経細胞の樹状突起に接触することで未熟なシナプス形成を促進し、特異的な神経回路結合を担うことも見出しました (Miyamoto et al., 2016)。
これらのことから、ミクログリアは精神疾患の形成に強く寄与すると考えられ、その可能性を示唆してきました (Wake et al., 2013, Miyamoto et al., 2015)。
現在はミクログリアの血管に対する作用や統合失調症などの精神疾患における異常を解き明かすべく研究に取り組んでおります。
オリゴデンドロサイトは軸索周囲を髄鞘化することで、活動電位の伝播速度を約50倍程度まで速めることができます。
これまで、私たちは神経活動依存性を担うオリゴデンドロサイト内の分子基盤を明らかにし (Wake et al., 2011)、その分子基盤を担う形態的特徴を抽出してきました (Wake et al., 2015)。
現在、神経活動依存的髄鞘化を阻害したマウスの行動変容を明らかにすると共に、オリゴデンドロサイトが神経回路活動へ及ぼす影響を、2光子顕微鏡を用いて可視化しております。
またこれらの変化を担うオリゴデンドロサイトおよびその前駆細胞の機能応答を可視化すると共に、神経回路の変容と共に変化する分子・脂質群を2光子顕微鏡と質量分析顕微鏡を組み合わせることで解明しようとしております。
私たちの研究室では2光子顕微鏡を用いて、生体イメージングを行うことに取り組んできました。この技術を用いることで生きたマウスの脳構造・機能を可視化することができます。
さらに運動学習・感覚学習中のマウス神経細胞集団の活動を可視化し、数理学的に解析し、病態における異常を抽出してきました。
近年、このような神経細胞活動を操作するために、光遺伝学的手法を用いた細胞活動操作法(オプトジェネティックス)が発達してきました。上記で得られた異常な神経細胞集団の活動情報を基にオプトジェネティックをもちいて補正する試みを行う中で、より高精度に時空間的分解能を持つ光操作法の必要性に迫られ、当学システム情報学研究科・理学研究科・工学研究科や生理学研究所・理化学研究所、ニコン・サンテック社などと共同で顕微鏡の開発を行っております (Quan et al., 2018)。
ホログラフィー投影技術を用いて、これを顕微鏡に導入することでレーザーの形を加工し、様々なパターンの光投影を可能にし、これにより多彩な神経細胞活動を誘導することを試みております。