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機能形態学分子細胞学(解剖学第一)

研究室概要

分子細胞学分野では、膜ドメイン、脂肪滴の形成や機能、オートファジー膜形成について研究しています。特に脂質分子に着目して研究を進めている点が特徴で、リン脂質や糖脂質、コレステロールなど生体膜を構成する脂質がどのように細胞機能やその調節に関与しているかを解明することを目指しています。分子生物学や生化学の手法に加えて、電子顕微鏡による分子局在技術を駆使しています。独自に発展させてきた急速凍結-凍結割断レプリカ標識法を用いて、生体膜上の脂質分子の分布をナノスケールで正確に可視化できる点が強みです。

研究プロジェクト

私たちは脂質が基盤となってできる細胞構造に興味を持っています.細胞内の構造は蛋白質,脂質,糖質によって構成されていますが,その中で脂質が中心的な役割を果たしていると考えられる構造を脂質超分子構造と呼ぶことにしています.私たちが研究対象としている脂質ラフト,脂肪滴,オートファジー膜についてもう少し詳しく紹介することにします.より詳細な研究背景については教室独自ホームページもご覧ください.

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図1 さまざまな膜脂質分子構造

  1. 脂質ラフトと膜脂質分子局在解析技術
  2. 細胞内脂肪滴
  3. オートファジー

1. 脂質ラフトと膜脂質分子局在解析技術

i) 急速凍結・凍結割断レプリカ標識法(QF-FRL) 

脂質を研究する方法は,核酸や蛋白質と比較するとかなり限られています.脂質はDNAによって直接コードされている分子ではないため,分子生物学的方法の適用にも制約があります.また形態学的な方法に関しても,蛋白質などと違って,脂質はアルデヒド等の化学固定ではその場に固定されないため,生体膜脂質の真の局在と量を知るのは大変困難です.私たちの研究室では,細胞を急速に凍結したのち、凍結割断レプリカという鋳型を形成することで脂質を物理的に捕捉した上で、脂質のナノレベル局在を電子顕微鏡で見るという方法を使っています(図2).
方法の概略は以下の通りです.

  1. 生きている細胞を急速に凍結する.液体ヘリウム温度(−269℃)に冷やした純銅ブロックに勢いよく細胞を打ち当てる方法(メタルコンタクト法)を用いれば,細胞表面は0.1ミリ秒以内,つまり1秒の1/10,000以内の時間で凍結します.加圧凍結法という方法では凍結時間はやや長くかかりますが、深さ100〜200ミクロンのところまで氷晶のない状態で凍結することができます.
  2. 凍結した状態の細胞を真空中で割断すると(カミソリなどの刃で氷を削る感じです),多くの場合,生体膜は脂質二重層の中央で劈開するように割れます.
  3. 極低温,高真空を保ったまま,膜の割断された面に白金とカーボンの微粒子を吹き付け,薄膜を形成させます.この薄膜をレプリカと呼びます.
  4. 細胞とレプリカを常温,大気圧下に取り出し,SDS溶液で消化すると,レプリカが被った膜分子はそのまま残りますが,他の細胞成分は溶解,除去されます.
  5. レプリカに捕捉された膜分子を抗体などで標識し,電顕観察します.
  6. 膜上の標識は,二次元平面に分布する点として見えるので,空間統計学的な方法で客観的に評価,比較することができます.
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図2 (左)QF-FRL法(藤田,藤本:細胞工学, 2007年3月号から転載)
図3 (右)細胞膜のカベオラとカベオリン-1分布(金コロイドで標識されている)

ii) 脂質ラフト

細胞膜のみならず細胞内オルガネラの膜にはコレステロールやスフィンゴ脂質などによって作られる液体秩序相(lo phase)のドメインがあり,受容体やシグナル伝達に関連する膜蛋白質などが lo phaseへの親和性に基づいて集中的に存在するという説があります.このような領域は脂質ラフト lipid raftと呼ばれ,実際,リポソームなどの人工膜では脂質のみで lo phaseが形成されることが証明されています.しかし生体膜上で脂質ラフトあるいは脂質ミクロドメインと呼ばれる領域がどのように分布しているのか,従来は上述したような理由により同定は困難でした.私たちはQF-FRL法を用いて,大きな脂質ラフトの一種である細胞膜カベオラ構造とカベオリン-1の局在を明らかにしました(図3).さらに脂質プローブの開発によりQF-FRLを膜脂質にも適用し,生体膜の糖脂質(ガングリオシドGM1, GM3),イノシトール燐脂質(PI(4,5)P 2)など多数の脂質を観察することに成功しました.

2. 細胞内脂肪滴 lipid droplet

ほとんどの細胞の中にはトリグリセリド,ステロールエステルなどの中性脂肪を貯蔵する脂肪滴が存在します.脂肪滴の表層はフリーのコレステロールを含む燐脂質一重層,つまり生体膜の半分しかない特殊な膜で被われています。我たちによるカベオリンの脂肪滴表層への局在の発見を端緒に(Fujimoto et al., J Cell Biol, 2001),多くの機能的分子が脂肪滴に局在していることが次々と明らかになり,脂肪滴は単なる栄養貯蔵庫ではなく,蛋白質分解・ウイルスや細菌の増殖・神経細胞変性死など幅広い領域に関連した生理機能を持つオルガネラとして注目を集めています.

i)脂肪滴の形成機序

脂肪滴は中性脂質合成の最終段階の酵素(哺乳類細胞DGAT1/2, ACAT1/2;酵母 Dga1/Iro1, Are1/2)が存在する小胞体膜で合成された脂質エステルが小胞体膜の燐脂質二重層の間にレンズ状に貯留し,一定の大きさに達すると小胞体膜の細胞質側の脂質一重層を外皮として細胞質側に膨らみ、やがて小胞体から遊離して形成されると考えられています.形成後も脂肪滴は小胞体との近接/解離を繰り返しており,脂質等を受け渡している可能性があります.しかし脂肪滴が小胞体膜中で形成される過程や、形成後の脂肪滴と小胞体とが連続しているか否かについては今もなお,決定的な証拠が得られていません,私たちは小胞体から脂肪滴が形成される場所が限局されており,かつ中性脂質合成経路の各遺伝子発現を容易に操作できる酵母細胞を用いて,電子顕微鏡レベルでの形態観察によりこの課題に取り組んでいます.

ii)脂肪滴周囲での蛋白質分解

肝細胞の小胞体内腔では細胞質脂肪滴から小胞体内へ再供給される脂質コアに巨大な疎水性分子であるApolipoprotein B (ApoB)が巻き付いて超低密度lipoprotein (VLDL)が形成されます。ApoB-lipoproteinが小胞体内腔に過剰量存在する条件(分泌阻害, プロテアソーム・オートファジー阻害剤処理など)では脂肪滴に融合した小胞体領域にApoBが蓄積した構造 (ApoB-crescent)が増加します (Ohsaki., Mol Biol Cell, 2006) (Ohsaki et al., J Cell Sci, 2008).私たちは、同構造体付近ではUBXD8, Derlin1などの分子群によりApoBが小胞体内腔から細胞質側へと移送され,ユビキチン-プロテアソーム系で分解されることを見いだし (Suzuki et al., Mol Biol Cell, 2012),さらに肝臓特異的UBXD8 KOマウスでは中性脂質分泌量異常と希有なパターンの脂肪肝を形成することを発見しました(Imai et al., PLOS ONE, 2015).現在さらに神経細胞系特異的UBXD8 KOマウスなどの表現型解析を通じて, UBXD8を中心とした脂肪滴周囲での蛋白質分解機構の解明を進めています.

iii)核内脂肪滴 nucleoplasmic lipid dropletの生理的意義

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これまで脂肪滴は細胞質だけにあるオルガネラと考えられてきました.しかし肝細胞などでは核質内にも脂肪滴が有意に存在します.

図4 核内脂肪滴と模式図









私たちは肝由来細胞の核内では、脂肪滴が核膜から延長する膜構造 (nucleoplasmic reticulum; NR)から中性脂質供給を受けて形成され得ること,さらに核内脂肪滴は蛋白質修飾や遺伝子発現制御の場と目されるPML小体としばしば一致することを見いだしました (Ohsaki et al., J Cell Biol, 2016).核内脂肪滴の意義についてさらに解析を進めています.

3. オートファジー

i)オートファゴソーム膜形成に必要な膜脂質供給経路

細胞内の成分を消化するオートファジー(自食作用)機能は酵母から高等動植物細胞にわたり保存されています.栄養飢餓状態では隔離膜と呼ばれる膜構造が成長してできるオートファゴソームが様々な蛋白質・脂質・オルガネラを細胞質と共に包み込み,ライソゾームと融合して内容物を分解し,細胞の栄養として再利用します.傷ついたり古くなったオルガネラや病原体を選択的に認識し分解するオートファジー機構も存在し,オートファジーの破壌は個々の細胞だけでなく生物個体の疾患レベルまで広く影響を及ぼします.

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図5(左) 酵母と哺乳類細胞でのオートファゴソーム膜形成過程
図6(右) オートファゴソーム膜上でのPtdIns(3)Pの分布

オートファゴソーム膜形成のメカニズムは遺伝学的手法,蛋白質機能解析を通じて明らかになってきましたが,未だ謎が多く,特に膜脂質がどのように供給されるかは未解明です.私たちはこれまでに,隔離膜形成初期に必須なClass-I PI3Kで作られるPtdIns(3)Pが,酵母では、従来の予想に反してオートファゴソーム膜の内腔側にも分布していることを発見しました (Cheng et al., Nat Commun, 2014).
また私たちはクリック法と呼ばれる新規合成脂質の可視化技術を用いて,オートファジー誘導時の脂質挙動を可視化し,電子顕微鏡技術なども駆使して、オートファゴソーム膜への脂質供給機構の解明を目指しています (Iyoshi et al., ASC Chem Biol, 2014).

ii)リポファジー

脂肪滴に貯蔵された脂質は細胞内で分解され,分解産物である脂肪酸やコレステロールは細胞のエネルギーや膜構成成分として再利用されますが,その分解機序は主に細胞質中の酵素(リパーゼ)によると理解されてきました.一方オートファジーが脂肪滴の分解に関与する(リポファジーと呼ぶ)ことが明らかになり、大きな注目を集めています.我たちは様々な電子顕微鏡法を駆使してリポファジーに伴うダイナミックな膜動態を解析し,酵母および哺乳類細胞において脂肪滴が分解されるメカニズムについて研究しています.

教員

構成員名役職所属
藤本 豊士 教授 分子細胞学
大﨑 雄樹 講師 分子細胞学
辻 琢磨 助教 分子細胞学
小笠原 裕太 特任助教 分子細胞学

研究実績

  • 2016年
    1. Takatori S, Tatematsu T, Cheng J, Matsumoto J, Akano T, Fujimoto T. Phosphatidylinositol 3,5-Bisphosphate-Rich Membrane Domains in Endosomes and Lysosomes. Traffic, 2016; 17: 154-167.
    2. Takatori S, Fujimoto T. A novel imaging method revealed phosphatidylinositol 3,5-bisphosphate-rich domains in the endosome/lysosome membrane. Commun Integr Biol, 2016; 9: e1145319.
    3. Ohsaki Y, Kawai T, Yoshikawa Y, Cheng J, Jokitalo E, Fujimoto T. PML isoform II plays a critical role in nuclear lipid droplet formation. J Cell Biol, 2016; 212: 29-38.
  • 2015年
    1. Takatori S, Fujimoto T. Microscopy of membrane lipids: how precisely can we define their distribution? Essays Biochem, 2015; 57: 81-91.
    2. Suzuki M, Murakami T, Cheng J, Kano H, Fukata M, Fujimoto T. ELMOD2 is anchored to lipid droplets by palmitoylation and regulates adipocyte triglyceride lipase recruitment. Mol Biol Cell, 2015; 26: 2333-2342.
    3. Imai N, Suzuki M, Hayashi K, Ishigami M, Hirooka Y, Abe T, Shioi G, Goto H, Fujimoto T. Hepatocyte-Specific Depletion of UBXD8 Induces Periportal Steatosis in Mice Fed a High-Fat Diet. PLoS One, 2015; 10: e0127114.
  • 2014年
    1. Yamamura T, Ohsaki Y, Suzuki M, Shinohara Y, Tatematsu T, Cheng J, Okada M, Ohmiya N, Hirooka Y, Goto H, Fujimoto T. Inhibition of Niemann-Pick-type C1-like1 by ezetimibe activates autophagy in human hepatocytes and reduces mutant alpha1-antitrypsin Z deposition. Hepatology, 2014; 59: 1591-1599.
    2. Takatori S, Mesman R, Fujimoto T. Microscopic methods to observe the distribution of lipids in the cellular membrane. Biochemistry, 2014; 53: 639-653.
    3. Ohsaki Y, Suzuki M, Fujimoto T. Open questions in lipid droplet biology. Chem Biol, 2014; 21: 86-96.
    4. Iyoshi S, Cheng J, Tatematsu T, Takatori S, Taki M, Yamamoto Y, Salic A, Fujimoto T. Asymmetrical distribution of choline phospholipids revealed by click chemistry and freeze-fracture electron microscopy. ACS Chem Biol, 2014; 9: 2217-2222.
    5. Fujimoto T, Yamamoto H, Ohsumi Y. Different phosphatidylinositol 3-phosphate asymmetries in yeast and mammalian autophagosomes revealed by a new electron microscopy technique. Autophagy, 2014; 10: 933-935.
    6. Cheng J, Fujita A, Yamamoto H, Tatematsu T, Kakuta S, Obara K, Ohsumi Y, Fujimoto T. Yeast and mammalian autophagosomes exhibit distinct phosphatidylinositol 3-phosphate asymmetries. Nat Commun, 2014; 5: 3207.
  • 2013年
    1. Suzuki M, Shinohara Y, Fujimoto T. Histochemical detection of lipid droplets in cultured cells. Methods Mol Biol, 2013; 931: 483-491.
    2. Suzuki M, Iio Y, Saito N, Fujimoto T. Protein kinase Ceta is targeted to lipid droplets. Histochem Cell Biol, 2013; 139: 505-511.
    3. Ohsaki Y, Cheng J, Yamairi K, Pan X, Hussain MM, Fujimoto T. Inhibition of ADP-ribosylation suppresses aberrant accumulation of lipidated apolipoprotein B in the endoplasmic reticulum. FEBS Lett, 2013; 587: 3696-3702.
    4. Fujimoto T, Ohsaki Y, Suzuki M, Cheng J. Imaging lipid droplets by electron microscopy. Methods Cell Biol, 2013; 116: 227-251.
  • 2012年
    1. Suzuki M, Otsuka T, Ohsaki Y, Cheng J, Taniguchi T, Hashimoto H, Taniguchi H, Fujimoto T. Derlin-1 and UBXD8 are engaged in dislocation and degradation of lipidated ApoB-100 at lipid droplets. Mol Biol Cell, 2012; 23: 800-810.
    2. Suzuki M, Ohsaki Y, Tatematsu T, Shinohara Y, Maeda T, Cheng J, Fujimoto T. Translation inhibitors induce formation of cholesterol ester-rich lipid droplets. PLoS One, 2012; 7: e42379.
    3. Fujita A, Fujimoto T, Ozato-Sakurai N, Suzuki H. A method for efficient observation of intracellular membranes of monolayer culture cells by quick-freeze and freeze-fracture electron microscopy. J Electron Microsc (Tokyo), 2012; 61: 441-446.
  • 2011年
    1. Suzuki M, Shinohara Y, Ohsaki Y, Fujimoto T. Lipid droplets: size matters. J Electron Microsc (Tokyo), 2011; 60 Suppl 1: S101-116.
    2. Ozato-Sakurai N, Fujita A, Fujimoto T. The distribution of phosphatidylinositol 4,5-bisphosphate in acinar cells of rat pancreas revealed with the freeze-fracture replica labeling method. PLoS One, 2011; 6: e23567.
    3. Fujimoto T, Parton RG. Not just fat: the structure and function of the lipid droplet. Cold Spring Harb Perspect Biol, 2011; 3.
  • 2010年
    1. Ohsaki Y, Suzuki M, Shinohara Y, Fujimoto T. Lysosomal accumulation of mTOR is enhanced by rapamycin. Histochem Cell Biol, 2010; 134: 537-544.
    2. Ohsaki Y, Shinohara Y, Suzuki M, Fujimoto T. A pitfall in using BODIPY dyes to label lipid droplets for fluorescence microscopy. Histochem Cell Biol, 2010; 133: 477-480.
    3. Fujita A, Fujimoto T. High-resolution molecular localization by freeze-fracture replica labeling. Methods Mol Biol, 2010; 657: 205-216.
    4. Fujita A, Cheng J, Fujimoto T. Quantitative electron microscopy for the nanoscale analysis of membrane lipid distribution. Nat Protoc, 2010; 5: 661-669.

研究キーワード

膜ドメイン、脂肪滴、オートファジー、膜脂質、電子顕微鏡、急速凍結、凍結割断