5. 脳内微小環境と癌細胞の相互作用を解明する異分野融合的解析法

私たちは、転移性脳腫瘍の発生、すなわち他の臓器で発生した癌が、脳に至り生着する過程と免疫反応の解明を課題としています。

脳実質はミクログリアが免疫細胞として唯一存在し、初動免疫を担当します。

私たちはこれまで、動物モデルへの2光子顕微鏡を用いた生体イメージングによって、癌細胞とミクログリアを生体の脳内で長期観察する技術を確立しました。

侵入を試みた癌が脳実質に生着する過程や、ミクログリアの介在により排除される瞬間をとらえ、癌が脳内で実に多様な運命を辿ることをあきらかにしました。

ここから新たに生まれた疑問は、脳に「異物」として至った癌が、ミクログリアをはじめとした免疫系のパトロールから逃れる仕組みです。

これが解明できれば、転移性脳腫瘍の病態生理解明を大きく進めるだけでなく、ミクログリアを含めた脳内微小環境を腫瘍排除に誘導するような、あたらしい治療を提案できると考えています。

発展的には、患者さんから採取した癌細胞の培養・解析技術(Tsuji, et al., 2020)とも統合し、患者さんの癌検体から新規の脳転移規定因子や治療標的因子を抽出できるよう、系の構築をすすめています。