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研究について 2024年6月
名古屋大学での研究「Update」:芳川 豊史
みなさん、こんにちは。
現在、名古屋大学で行われている研究で、私、芳川豊史が中心となって関与しているもののUpdateをいくつか紹介したいと思います。
1.肺の変形に着目した手術シミュレーション研究
現在、呼吸器外科領域では、術前にとったCTから3次元CT(3DCT)画像を作成し、術前に手術計画を立てることが普通に行われるようになってきました。私自身も、様々なソフトウエアを用いて手術計画を立ててきましたが、3次元CT画像を作れば作るほど、より実際の手術に近い、3次元CT画像を作りたいという欲望にかられました。
つまり、現在の3DCT画像は、「静的な画像」で、手術操作や脱気による変形に対応していないのです。そこで、「動的な画像」を作るというコンセプトを基に研究を行ってきました。
現在、京都大学医学部知能医工学分野の中尾恵教授のチーム(京都大学大学院医学研究科 人間健康科学系専攻 知能医工学分野 (kyoto-u.ac.jp))と、名古屋大学呼吸器外科のチームが共同で、同じ方向性をもって、より精度の高い手術シミュレーションを開発するという課題に挑戦しています。なお、AMEDや科学研究費を獲得して研究を進めております。
これまでの研究成果の一部は、アメリカ胸部外科学会で口演発表し(論文1.)、アメリカ胸部外科学会の機関誌であるJ TCVSの表紙にも掲載されました(図1)。また、最近の研究結果の一部は、Review論文(Cancers | Free Full-Text | Evolution of Three-Dimensional Computed Tomography Imaging in Thoracic Surgery (mdpi.com))として公表いたしました。
呼吸器外科における世界初の手術ナビゲーションを目指しております。手術シミュレーション・ナビゲーションに興味のある方は、ぜひ、一緒に研究を進めましょう。
2.肺移植における様々な障壁に対する研究
肺移植患は、日本で限られた施設でしか行えない治療です。
多くの患者さんが肺移植で救われますが、周術期における肺保存や虚血再灌流障害に対する対策など、現時点でも、さまざまな課題があります。また、患者さんの約半数が、移植後に、いわゆる「慢性拒絶」に陥るといわれています。
このような肺移植における合併症に対する対策として、我々のグループでは、臓器移植抗体陽性診療ガイドラインなど、さまざまな肺移植におけるガイドラインの作成に携わったり、ABO不適合肺移植における知見(ABO blood type incompatible lung transplantation - Chen-Yoshikawa - Journal of Thoracic Disease (amegroups.org))の発信などを行ってきました。。
また、肺移植では、他人の臓器を移植するため、周術期の拒絶反応を抑えるべく、移植患者さんは、複数の免疫抑制剤を一生内服しますが、免疫抑制剤の副作用は、感染、腎障害、悪性腫瘍など多岐にわたります。したがって、その副作用が少しでも少なくなるような新規免疫抑制剤の開発を行ってきました。その成果の一部は、世界の一流雑誌に掲載されております(論文2)。
現在は、本邦における11施設目の肺移植実施施設として、臨床肺移植の準備を中心に力を注いでおりますが、今後も継続して研究も進めていく予定ですので、興味のる方は、ぜひ、お声掛けください。
3.肺移植の次の治療法としての肺再生療法、そこから芽生えた腸呼吸の研究
肺移植における大きな問題点の一つに、ドナー不足があります。日本では、現在、脳死肺移植登録された患者さんの約4割が肺移植まで到達できないという事実があります。そこで、ドナー不足に影響されない新規治療法の開発を、これまでに行ってきました。
その一つとして、オルガノイド研究で世界をリードする東京医科歯科大学武部貴則教授との共同研究があり、その成果の一部は、世界の一流雑誌に掲載されております(論文3)。
また、この研究から派生した研究として、肺ではなく、腸を用いて呼吸するという「腸呼吸」の研究があります。ドジョウなどの生物の呼吸にヒントを得た研究で、ECMOなどの高価な器具がなくても、肺の酸素化やガス交換が保たれるような医療を目指す、といったコンセプトで始めた研究です。これまでに、成果の一部を論文として、継続的に発表してきました(論文4,5)。現在も、学内では麻酔・集中治療科、学外では複数の施設の多くの仲間たちと一緒に研究を進めております。
今後もさらに研究を進めていく予定ですので、興味のる方は、ぜひ、一緒に夢を追いかけましょう。
論文1:独自に開発して切除プロセスマップというアルゴリズムを、世界で初めて、呼吸器外科手術に応用しました。(J Thorac Cardiovasc Surg) 論文2:抗がん剤であるMEK阻害剤が、自然免疫を抑制しない免疫抑制剤となりうることを、小動物肺移植モデルで確認しました。(Am J Respir Cell Mol Biol) 論文3:胎仔肺を傷害肺に移植することで、肺機能が改善することを確認しました。(Eur J Catdiothorac Surg) 論文4:腸呼吸の臨床応用への可能性を、小動物と大動物のモデルを用いて、世界で初めて示しました。(Med) 論文5:大動物を用いて、腸呼吸が低酸素状態をどのように改善するかについて、より詳しく検討しました。 (iScience) 図1:JTCVSの表紙
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