• 呼吸器外科について
  • 診療案内
  • 入局者募集
  • お問い合わせ

呼吸器外科について

HOME > 呼吸器外科について > 悪性胸膜中皮腫について

悪性胸膜中皮腫について

悪性胸膜中皮腫とは?

悪性胸膜中皮腫は胸膜の悪性腫瘍(がん)のひとつで、まれな腫瘍です。その発症にはアスベスト(石綿)の吸入が関与しています。発育形式としては1か所にかたまりを形成するものや、広く胸膜に沿ってしみこむように発育するものがあります。初期は腫瘍が薄く(規定の胸膜の厚みの測定方法で12 mm以下)限局しています(T1)。進行すると腫瘍は厚くなり(12mm~30mm)、隣接する組織に広がります(T2)。さらに腫瘍が厚くなるとT3と分類され、肋骨や隣接臓器、横隔膜を超えるなどの進行があるとT4と分類されます。一般的に手術を含む治療で効果があるのはT2でリンパ節転移がない進行までです。このような進行度には世界共通の分類方法があり、それを用いて客観的にどこまで進行しているか診断しています。

胸膜とは?

肺や心臓、胃腸などの臓器は、それぞれ胸膜・心膜・腹膜という膜で包まれています。胸膜は肺と胸壁との間にある袋状の空間をつくる二重の膜のことで、外側の胸壁の膜を壁側胸膜、肺の内側の膜を臓側胸膜と呼びます。これらの膜の表面をおおっているのが「中皮」で、この中皮から発生した腫瘍を中皮腫といいます。したがって、中皮腫は発生部位により胸膜中皮腫・心膜中皮腫・腹膜中皮腫に分けられます。胸膜中皮腫が最も発症頻度が高く、その外科治療を呼吸器外科医が担当しています。

アスベスト

アスベスト(石綿)は非常に細い繊維状の鉱物資源で、安価で耐久性に優れた断熱材として広く利用されてきました。しかしながらアスベストは様々な健康被害を起こすことが明らかになり、日本では2006年に使用が禁止されました。悪性胸膜中皮腫は、アスベストの暴露から数十年経ってから発生します。職場でのアスベスト吸入や、アスベストを扱う工場の近くに居住していて飛散してきたアスベストを吸入することで暴露し発症につながります。

悪性胸膜中皮腫の診断

悪性胸膜中皮腫は早期発見が非常に難しい病気です。アスベストに暴露された可能性のある方は、症状がなくても定期的に検診を受けることをお勧めします。悪性胸膜中皮腫で多くみられる症状としては、息切れ・胸痛ですが早期の場合、症状が全くないこともよくあります。検診等で撮像された胸部レントゲン写真で胸に水が貯まっていると診断された方のうち、アスベスト暴露歴のある方では特に悪性胸膜中皮腫を疑う必要があります。悪性胸膜中皮腫を疑われた場合には、さらに精密な検査を受ける必要があります。悪性胸膜中皮腫の診断は容易ではないことも多く、悪性胸膜中皮腫の治療経験が豊富な専門医の受診が重要となります。

悪性胸膜中皮腫の治療

悪性胸膜中皮腫は比較的まれな腫瘍で、患者さんの数が少ないこと、早期発見が難しいことから、有効な治療法が限られているのが現状です。治療法としては手術・放射線治療・化学療法(抗がん剤治療)・免疫療法および緩和療法があり、患者さんの進行具合(病期)や体力・併存症などを総合的に考慮して治療法を決定します。手術を含む治療を選択する場合には、必ず集学的治療といって抗がん剤や放射線治療を併用してより良い成績を目指します。この集学的治療は国際的なガイドラインでも推奨されている方法で、悪性胸膜中皮腫は手術単独で治す病気ではありません。
手術により悪性胸膜中皮腫の完全切除が期待できる場合には、手術に耐えられるかどうか慎重に判定したうえで手術を含めた治療(集学的治療)を計画します。手術術式にはふたつが挙げられ、胸膜と肺を一塊にして切除する胸膜肺全摘術(EPP: Extrapleural pneumonectomy)と胸膜のみを切除する胸膜切除/肺剥皮術(P/D: Pleurectomy/decortication)があり、患者さんの病期や状態を考慮しつつ、集学的治療チームで選択します。切除不能だったり、体力的に手術に耐えられなかったりする場合には手術を含まない治療(化学療法単独や緩和療法)を計画します。

当科の手術件数

当科における悪性胸膜中皮腫に対する外科治療を含む治療経験は、日本国内でも豊富で、この困難な疾患に対して豊富な治療経験のある集学的治療チームで対応しています(図1)。

図1:名古屋大学・呼吸器外科での悪性胸膜中皮腫に対する手術件数

補償

悪性胸膜中皮腫と診断された場合、石綿に関連する仕事に従事されていた患者さんには、「労災保険による給付」があります。労災保険の給付を受けられない方には、平成18年から「石綿健康被害救済制度」による「救済給付」と「特別遺族給付金」が設けられています。

患者さんやご家族に知っておいていただきたい大切なこと

悪性胸膜中皮腫はかなり予後の悪い悪性疾患です。一方で、悪性胸膜中皮腫に対する治療が体に対して大きなダメージを与えてしまう侵襲の大きな治療が多いため、悪性胸膜中皮腫に対する治療では、患者さんの病気の進行具合や併存症、元気さと予測される治療効果のバランスを考慮して治療計画を立て、十分に説明し理解していただいたうえで慎重に行われるべきだと考えています。

名古屋大学呼吸器外科の悪性胸膜中皮腫に対する治療経験と姿勢

名古屋大学では悪性胸膜中皮腫の治療経験の豊富な医師が多くおり、内科・外科・放射線科合同でひとりひとりの患者さんについて協議したうえで治療にあたります。悪性胸膜中皮腫についてなんでもご相談ください。