プログラム概要

趣旨

日本の大学の医学部学生を、英国の大学の医学部において4週間臨床実習に参加させ、臨床 実習の機会を与える事を目的としています。

資格

医学部の最終学年に進学する学生(現在医学部5年生)であって、 IELTS (International English Language Testing System) Academic Module を受験していること。 原則として約1年間の臨床実習期間を終了していること。

留学先

次のとおり6大学に派遣する予定。
ニューキャッスル大学医学部に4名 ・ロンドン大学セントジョージ校医学部に4名 ・オックスフォード大学医学部に2名 ・グラスゴー大学医学部に4名 ・ダンディー大学医学部に2名 ・リーズ大学医学部に3名

公益財団法人医学教育振興財団が主催する上記留学プログラムに参加する学生の募集を行います。詳細は財団ウェブサイトにてご確認ください。

本学より2名推薦予定。詳細は国際連携室までお問い合わせください。

採用実績 2023年1名、2020年1名、2019年1名

参加者体験談

2019年採用者 佐々木健
グラスゴー大学神経内科での4週間

名古屋大学医学部医学科6年 佐々木 健

この度グラスゴー大学神経内科にて4週間臨床実習をさせて頂くことができました。短い間でしたがイギリスと日本の医療を比べることができ、また財団・現地の学生の皆さんから大いに刺激を受けることができたので本当に充実したものにすることができました。これから留学される皆さんの参考になればと思い、応募から実習までここにご報告したいと思います。

1 応募

初めてこのプログラムについて知ったのは低学年の時だったと思います。大学の掲示板に応募要項が張り出してあったのを見て、自分も臨床実習をするようになったら是非参加してみたいなと漠然と思っていました。ただ後々聞いてみると名古屋大学からはここ何年かで1人の先輩しか行かれておらず、今まで参加された先輩方も数える程とのこと。また毎年参加するのは帰国子女の方達ばかりだと聞いたので、到底自分が参加できるものとは思っていませんでした。

ただイギリスの病院で実習してみたいという思いは強かったので、できる限りの事はしてみることにしました。準備の大部分はIELTSの勉強で終わってしまったように思います。5月と6月の計2回受験しました。まだ部活を頑張っていた時期で、また名古屋大学の留学プログラムのためにTOEFLも受験しなければならなかったのでとても大変でしたが、なんとか帳尻を合わせることができました。その後の1次選考の結果、面接に進めることになりました。

2 面接

対策は7月下旬に全てのTOEFLとIELTSを受け終わってから始めました。ここ数年は医学的な質問をされることは少なくなっていると聞いていましたが、先輩の体験談や報告書、ネットなどに載っている情報をもとに今までされた質問を全てリストアップしそれに対する答えを作成するという作業をしました。

また応募用紙に書いた志望動機や将来の展望などについて英語・日本語で話せるようにしました。夏前はほとんど医学の勉強に時間を割くことができなかったためこのような付け焼き刃的な勉強になってしまいましたが、これでダメだったらただ単に勉強が足りなかったということだと思うことができ自分なりに万全の(?)対策で臨むことができました。

面接は8月21日にお茶の水の財団の事務所で行われました。結局今年も医学的な質問をされることはなかったので本当によかったです。

質問内容としては①軽く自己紹介、名前と大学名くらい(日本語)②志望動機2分以内で(英語)③発展途上国の医療に従事したいと応募書類にあるが、そのきっかけ(モンゴルにおける人工透析医療など3年後期の研究室配属時の訪問・研究について答える、日本語)④海外で働きたいと応募書類にあるが、具体的に将来のビジョン(日本語)⑤なぜ海外で働きたいのか?(日本語)といった感じでした。あっという間に終わってしまいましたが、8月27日にグラスゴー大学派遣の内定を頂いた時は有頂天でした

3 面接から派遣まで

このようにして3月4日から29日までの派遣が決まったわけですが、後で問題が発生しました。実は名古屋大学のプログラムでグラスゴーの後にアメリカへ実習に行くことになり、これが例年通りだと4月1日からの予定だったのですが、今年から1週間早い3月25日からに変更されていたことがわかり1週間被ってしまいました。

アメリカの方は受け入れタームが固定されており変更は難しいようで、またどうしても4週間フルに実習を行いたかったため財団に1週間実習を早めることができないかお願いしたところ、特別にグラスゴー大学にお願いをしてくださるとのことでした。しばらくしてそれでも大丈夫との返事がきて、また受け入れ担当のProf. Leachが神経内科の先生で実習科を神経内科にするのはどうかと提案してくださったので、そうすることにしました。

実は過去の報告書などを読んでいてグラスゴーの神経内科は日本では珍しい多発性硬化症(MS)の患者さんをみることができると聞いており、神経内科を第1希望にしたいと考えていたので願っても無い限りでした。このようにして実習科までが早い段階で決定しました。

4 勉強

派遣が決まったのはよかったですが、部活とTOEFL・IELTSのために医学的知識が全然足りなかったため、夏以降はほぼ部活を引退しひたすら医学の勉強を頑張りました。まず全く手をつけていなかった国家試験のビデオ対策講座を急いでやり始めました。それと並行してUSMLE Step1の勉強もやりました。

また私の大学では毎年20人弱が世界各国の大学へ数ヶ月間留学に行っており、留学された先生方によるフロンティア会という組織があります。その先生方による派遣生に対する講義を受けたり、メキシコ人のDr. ItzelによるUSMLE対策の講義を受けたりしていました。他にも有志で毎週集まり、USMLE Step2 CSの症例をいくつか使ってペアで診察の練習をするといったこともやっていました。このようにしていると派遣までの期間はあっという間に過ぎて行きました。

5 実習

前述の理由により2月25日開始の予定でしたので23日にグラスゴー入りしました。実習場所はスコットランドで最大のQueen Elizabeth University Hospitalに付属している病棟であるInstitute of Neurological Sciences(以下INS)でした。ここはGlasgow Coma Scale (GCS)が考案された場所として有名です。最初にProf. Leachが提示してくださった1週間の大まかなスケジュールとしては以下のようでした。

  午前 午後
月曜日 Prof. Leach外来 9:00-
@INS
特になし
火曜日 学部生レクチャー 8:00-9:00
カンファレンス 9:00-
Junior Teaching 12:30-
水曜日 学部生レクチャー 8:00-9:00
Teaching 11:00-
Unit Meeting 12:30-
木曜日 学部生レクチャー 8:00-9:00
神経生理学カンファ 9:00-
回診 10:00-
Prof. Leach外来@West Ambulatory Hospital
金曜日 特になし 休み

Prof. Leachのご専門はてんかんでらっしゃったため、外来もてんかん患者さんの外来でした。月曜日午前はINSでの外来でしたが、木曜日午後はKelvingrove Museum 近くのWest Ambulatory Hospitalで外勤をされていたため昼食後にこちらに移動していました。Junior Teachingは神経内科のRegistrar(後期研修医)のためのレクチャーで、TeachingはConsultant(専門医)の先生による1つのトピックに対するレクチャー、Unit Meetingは症例検討会のようなものでした。学部生レクチャーとは神経内科を回っている現地の4年生(イギリスの医学部は基本5年制)のためのレクチャーで、毎朝担当の神経内科の先生が部位別の神経診察の仕方について詳しく解説した後、学生同士で練習するというものでした。大部分は日本と同じでしたが、中には異なるところもあって非常に興味深かったです。カンファレンスはコメディカルの方も交えて全ての入院患者さんのマネジメントについて議論、回診はConsultantのみによるもので世間話の後、画像などをもとに何人かの患者さんについて議論を行ってから実際に患者さんのもとを回るといったものでした。最後に神経生理科のカンファレンスでは、てんかん患者さんの発作時のビデオとともに脳波を見てそれを元に議論を行うという形をとっていました。

基本的にはこのスケジュールに従って行動しました。しかし見てお分かりかと思いますが、結構暇な時間がありました。ですから空いた時間で様々な外来を見学させてもらったり、他の科に行かせてもらったりしました。外来としてはてんかん以外に頭痛、パーキンソン病、MS、脳深部刺激療法(DBS)後フォローアップ、他の科としては小児頭頸部外科、脳神経外科、Spinal Injury Unit、Acute Stroke Unitなどです。小児頭頸部外科では松原君と山本さんのおかげで手術、外来ともに、脳神経外科は神経膠腫、DBSの2例の手術を見せていただくことができました。元々は神経内科の配属なので手術は見られない予定でしたが、先生方の御厚意のおかげでイギリスでの手術とはどのようなものなのかを肌で感じることができ、本当に貴重な経験となりました。Spinal Injury Unitでは現地の医学生のためのベッドサイドティーチングに、Acute Stroke Unitでは回診に参加させてもらいました。他にも検査や手技として、神経伝導検査や腰椎穿刺を見せていただくことができました。

また現地の医学生の子から学ぶことができました。2週目に神経内科をローテーション中の現地の4年生であるマレーシア人のEstherと知り合ったのですが、彼女の実習に対する意欲と優秀さには圧倒されました。4年生はレクチャーやベッドサイドティーチングなどに参加する以外はある程度自主性に任されているのですが、彼女は進んで先生にお願いして手技を見学させてもらったりしており、また彼女がレクチャーでとるノートは一字一句漏らさないくらいの勢いで完璧でした。日本にいるだけでは知り得ない、世界にはこんなに凄い医学生がいるということがわかったのは自分にとってとても大きな収穫でした。これからは常に彼女を目標にしながら頑張っていこうと思いました。


お世話になった67番病棟にて

宿泊先

Maryhillという地区のWolfson Hallというグラスゴー大学の学生寮に滞在しました。Maryhillはグラスゴーの中でも治安が悪い地区と聞いており到着する前は心配でしたが、夜遅くに帰るときは寮のすぐそばのバス停を利用するなどしていれば怖い思いをすることは一度もありませんでした。学生寮のため部屋にアメニティーはトイレットペーパー以外一切なく、また何より病院までバスで1時間かかるので大変でしたが、部屋の机も広く朝夕食事付きなので助かりました。ただ学部生のレクチャーに参加するときは出発が早いため朝ごはんは食べられなかったです。味や量は個人的には満足できるものでした。


滞在したWolfson Hallにて雪が降った時の1枚

食事

前述の通り朝夕はWolfson Hallで、昼は火曜日はJunior Teaching、水曜日はUnit Meetingでサンドウィッチなどが出るのでそちらで食べ、それ以外の曜日は病院のカフェテリアで食べていました。

週末の過ごし方

1週目はダンディー、2週目はロンドン、3週目はインバネス・ネス湖に行ってきました。ダンディーへは語学学校時代のイタリア人の友達Francescoがダンディー大学の学生で、また自分が低学年だった時にエジンバラ大学から名古屋大学に実習に来た医学生の友達Ronanが現在ダンディーのGeneral Practitionerで働いているため行ってきました。ロンドンは財団派遣生の皆さんの集まりがあったため行ってきました。企画してくれたロンドン大学セントジョージ校派遣の皆さんありがとうございました。インバネス・ネス湖はRonanと車で行ってきました。雪の降る寒い日でしたが一面真っ白のハイランドの荒野を見ることができて本当によかったです。また1週目の金曜午後に昨年夏グラスゴー大学から名古屋大学に実習に来たJennyとその友達Sarahにローモンド湖に連れて行ってもらいました。Jennyとは後で他のグラスゴー大学派遣の3人が合流してから5人で寿司を食べに行きました。スコットランドにいる友達と久しぶりにこのような形で再会できて本当に楽しかったです。


ジェニーとグラスゴー派遣生の5人で

最後に

今まで日本の医療しか知らなかった中で、こうして学生のうちに他国であるイギリスの医療を知り日本の医療と比べることができたのは、これからの自分を考える上でとても貴重な経験でした。応募から派遣までサポートしてくださった医学教育振興財団の先生方、望月様、小林様、名古屋大学医学部長の門松先生、国際連携室の長谷川先生、粕谷先生、Itzel先生、そして財団派遣生の皆さんには重ねて感謝したいと思います。本当にありがとうございました。

留学経費

交通費
2.5万円
滞在費
4万円
宿泊費
10万円
食費
4万円
通信費
0.5万円
21万円