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指定難病「特発性拡張型心筋症」の新たな治療法を開発 ~心臓をネットで覆い心機能を改善、2027年度実用化へ治験実施~

1.背景

特発性拡張型心筋症は心臓が徐々に大きくなり、心不全が進む難病で、中等度異常の心不全症状がある国の難病指定患者数は18,724 人(令和3 年度末時点)です。
末期心不全になると心臓移植が唯一の根本的治療法ですが、ドナー不足にて毎年80 名程度にしか適応されていません。広く適応できる治療法の開発が急務となっています。

2.成果

令和4 年度から日本医療開発研究機構(AMED)の橋渡し研究プログラム「研究開発課題名:拡張型心筋症に対するテイラーメイド方式心臓形状矯正ネットの医師主導治験」の支援のもとに、名古屋大学が橋渡し研究支援機関として研究支援を行い、全国5大学(名古屋大学、東京大学、東北大学、慈恵会医科大学、大阪大学)で実施している探索的医師主導治験「拡張型心筋症に対するテイラーメイド方式心臓形状矯正ネットの医師主導治験」の第1例目を6 月に実施しました。高度の肺高血圧、機能的僧帽弁閉鎖不全も伴っていた症例でしたが、心臓形状矯正ネット装着直後より、僧帽弁閉鎖不全は軽度にまでに改善し、肺動脈圧も正常化しました。手術は人工心肺、大動脈内バルーンポンプ等を用いることなく1 時間程度で終了し、術後も順調に回復しました。
重症心不全には機能的僧帽弁閉鎖不全を伴うことが多く、そのことがQOL、生命予後を悪化させます。心臓形状矯正ネットは機能的僧帽弁閉鎖不全の原因となる左心室の拡大を是正し、病態に沿った治療法になる可能性があります。
同じ試験機器を用い先行して実施した特定臨床研究3 例では、すでに術後2 年から3.5 年が経過し、運動耐容能(最大酸素摂取量、6 分間歩行距離)の改善が得られ、活動的な日常生活を維持されています。

3.今後の展開

令和6 年度中に探索的治験を完了し、フォローアップの観察研究を継続するともに、速やかに検証的治験へ移行し、令和9年度実用化を目指していきます。

用語説明

注1)探索的医師主導治験:

限られた患者集団を対象にした臨床上の指標を用いた初期の試験であり、検証的試験※のデザイン、エンドポイント、方法論の根拠を得ることを目的とする治験です。

※検証的治験:
有効性の証明/確認、安全性プロフィールの確立のために実施する適切でよく管理された治験です。

注2)テイラーメイド方式心臓形状矯正ネット:

心不全悪化の最大の要因である進行性心拡大(=心臓リモデリング)をメッシュ状の袋で防止する医療機器で、心不全患者のCT やMRI の心臓画像と心臓状態(左室拡張末期圧)から心機能を最適化するように設計され、コンピューター編み機で患者毎に製造される。


注3)拡張型心筋症に対するテイラーメイド方式心臓形状矯正ネットの医師主導治験

本治験の開始について:2022年7月13日付当院プレスリリース
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/hospital/news/pressrelease/2022/07/13101500.html

注4)特発性拡張型心筋症:

心臓 (特に左心室) の筋肉の収縮する能力が低下し、左心室が拡張してしまう病気です。国の指定難病
https://www.nanbyou.or.jp/entry/3985 )で、中等度以上の心不全症状がある指定難病医療受給者は令和3 年現在18,724 人が認定されています。適切な治療薬を行っていても進行性に心拡大と心不全が悪化することも多く、心臓移植症例の60%強が本疾患です。

注5)QOL:

Quality of life(QOL)は「生活の質」などと訳され、患者様の身体的な苦痛の軽減、精神的、社会的活動を含めた総合的な活力、生きがい、満足度という意味が含まれます。運動耐容能の改善によるQOLの改善は、生命予後の改善とともに、慢性心不全における治療目標のひとつとされています。


注6)先駆け審査指定制度

世界に先駆けて、革新的医薬品・医療機器・再生医療等製品を日本で早期に実用化すべく、世界に先駆けて開発され、早期の治験段階で著明な有効性が見込まれる医薬品等を指定し、各種支援による早期の実用化を目指す制度。

問い合わせ先

名古屋大学医学部附属病院心臓外科
特任教授 秋田 利明
TEL:052-744-2693 FAX:052-744-2693
Email:takita(at)med.nagoya-u.ac.jp
※e-mailは(at)を@に換えて送信してください。