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名古屋大学と富士フイルム  AI 技術を用いた肺炎入院患者に対する経過予測技術の共同開発に成功 個別化医療の推進と病院経営の効率化を支援

 国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学医学部附属病院メディカル IT センターの古川大記特任助教、大山慎太郎特任助教、佐藤菊枝病院助教、白鳥義宗病院教授らの研究グループと富士フイルム株式会社(代表取締役社長・CEO:後藤禎一)は、院内のさまざまな診療データを統合し、AI 技術1を用いて解析する事で、肺炎入院患者の経過を高精度に予測する技術を共同で開発することに成功しました。
 これまでは医師記録、看護師記録、放射線レポート、血液検査データなどの情報は別々の部門システムで管理されてきたため、患者さんのデータを網羅的に収集して解析する事が困難であり、精度が高い医療AIの開発は困難でした。
 今回、富士フイルム株式会社の統合診療支援プラットフォームCITA clinical finderの技術を応用し、病院内に保管されている診療データを網羅的にAIで解析する事で、肺炎入院患者の経過を高精度に予測する技術を共同で開発することに成功しました。
 本研究で開発した経過予測技術を活用し、肺炎入院患者を含む多様な入院患者の経過をこれまで以上に高精度に予測できるようにすることで、患者一人ひとりの状況に応じた診療計画の策定や、限られた医療リソースの適切な配分を支援できる可能性があります。

ポイント

○これまで病院内の診療データを網羅的に解析する方法は無かったが、開発した仕組みを用いる事ですべての疾患に対して網羅的なAI解析が可能となった。
○特に肺炎は日本人の死亡原因の上位疾患であるが、肺の専門医以外にも診療する機会が多い。開発したAIも用いる事で、肺の専門医以外でも正確に経過を予測して診療する事が可能になるため、多くの患者さんの診療を変革する事が可能になった。

背景

 肺炎は呼吸器専門医や感染症専門医のみならず、多くの臨床医が診療に携わる可能性が高い急性期疾患で、日本人の死亡原因第 5 位と報告2されています。肺炎の診療現場では、入院治療の必要性の確認や、入院患者の経過を予測するために、肺炎の重症度評価手法として作成されたA-DROPスコア3が用いられてきました。しかし、本来 A-DROPスコアは、入院時などにその時点における患者の重症度を評価するための手法であり、評価に用いるデータは年齢や血圧など5つの項目に限られることから、入院後の経過を予測するには精度に課題がありました。
 一方、経過を精度高く予測するために、患者属性や診断名などのカテゴリーデータや検査値などの数値データ、診療記録等を学習データに加えたAIモデルによる研究がこれまでも行われてきました。これらの先行研究から、経過予測の精度向上には、A-DROPスコアで用いられるような限定的なデータではなく、院内で日々記録される患者の多様なデータを統合して利用することが重要であると示唆されています。

研究成果

 今回の共同研究では、院内の多様な医療データを一元的に管理できる富士フイルム医療機関向け総合診療支援プラットフォーム「CITA Clinical Finder」4のデータベースを基に、AI 技術を用いて、肺炎入院患者に対する経過予測を高精度に行う技術を開発しました。電子カルテ、放射線部門情報管理システム、検体検査システムなどさまざまな部門システムから「CITA Clinical Finder」に集約された、医師記録、看護記録、患者背景情報、入院診療計画、放射線検査報告、臨床検査結果、処置情報、食事情報などのさまざまな情報を、既 往歴など入院前の情報も含めて幅広く活用し、患者一人ひとりの状況に応じた経過予測を行うことで、A-DROPスコアよりも高精度な予測が可能となりました。なお、値が1 に近いほど予測精度が高いことを示すAUROC5 は、A-DROP スコアでは 0.736 であったのに対し、本技術ではその数値を上回る 0.888 を達成しています。また、本研究結果を解析した結果、経過予測の根拠となり、また精度向上への寄与度が高かった項目は、実際に医療従事者が経過予測の際に重視する食事情報や臨床検査結果などの項目と一致していたことを確認しました。

今後の展開

 本研究で開発した経過予測技術を活用し、肺炎入院患者の経過をこれまで以上に高精度に予測できるようにすることで、患者一人ひとりの状況に応じた診療計画の策定や、限られた医療リソースの適切な配分を支援できる可能性があります。

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用語説明

※1  AI 技術のひとつである機械学習を用いて開発した。
※2  厚生労働省「令和元年(2019)人口動態統計月報年計(概数)の概況」より。https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai19/dl/gaikyouR1.pdf
※3  日本呼吸器学会によって作成され、成人市中肺炎診療ガイドラインで採用されている一般的な肺炎患者の重症度評価手法であり、年齢、脱水状態、呼吸状態、見当識障害の有無、血圧の 5 つの項目を基に患者の重症度を評価する。
※4 病院内の各診療システムで管理されている、検査画像、バイタル情報、処方などの診療データを 1 つのプラットフォームに集約・表示する診療支援システム。
※5  受信者動作特性曲線下面積 (Area Under the Receiver Operating Characteristic curve)を指す。