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化学療法抵抗性または造血細胞移植後再発のCD19陽性急性リンパ性白血病に対するpiggyBacトランスポゾン法によるキメラ抗原受容体遺伝子改変 自己T細胞の安全性に関する臨床第Ⅰ相試験の開始について

 名古屋大学医学部附属病院(病院長 石黒 直樹)小児科の高橋 義行教授、西尾 信博特任助教らの研究グループは、信州大学医学部小児医学教室の中沢 洋三教授らの研究グループと共同で、非ウイルスベクターであるpiggyBacトランスポゾン法を用いたCAR-T細胞の培養法を開発しました。その培養法を用い、2018年2月より、本院において、化学療法抵抗性または造血細胞移植後再発性のCD19陽性急性リンパ性白血病に対するCAR-T細胞療法の安全性に関する第1相試験を開始します。

 急性リンパ性白血病(以下、ALL)は血液中の白血球の中のリンパ球ががん化して発症する疾患です。白血病細胞は患者体内で無限に増殖し、骨髄では正常な造血を障害するため、易感染性、貧血、出血傾向などをきたします。近年の多剤併用化学療法や造血細胞移植の進歩により、先進国における小児の治癒率は80-90%に達するようになりましたが、化学療法抵抗性の症例、再発例は未だに予後不良で、小児ではがんによる死亡者数で第1位の疾患です。成人でも長期生存は20-30%と依然として予後不良な疾患です。以上より難治性のALLに対する新規治療法が切望されてきました。

 近年、キメラ抗原受容体遺伝子改変T細胞療法(Chimeric Antigen Receptor modified T cell Therapy: 以下、CAR-T療法)が開発され、CD19抗原をもつB細胞性ALLを対象に米国の複数の施設で臨床試験が行われました。化学療法に抵抗性または造血細胞移植後の再発等難治性の患者を対象としているにもかかわらず、完全寛解、部分寛解を合わせた反応率が70-90%という治療成績が報告されました。 キメラ抗原受容体(以下、CAR)とは、抗体の抗原認識部位とT細胞受容体の細胞内シグナル伝達部位を繋いだ構造を持つ、人工的な蛋白です。CAR-T療法とはこの蛋白を発現する遺伝子を体外でT細胞に遺伝子導入して患者へ戻す治療です。米国で行われた臨床試験では遺伝子導入にレトロウイルスやレンチウイルスなどのウイルスベクターを用いていますが、ウイルスベクターの製造費用が高額であることが問題です。私たちは非ウイルスベクターであるpiggyBacトランスポゾン法を用いた遺伝子導入によるCAR-T細胞の作成方法を開発しました。本法は、酵素ベクター法の1つで、ウイルスベクターを用いた場合より製造方法が簡便で、遺伝子導入コストが安価であるものの、これまでは遺伝子導入効率が低いことがCAR-T療法開発への障害となっておりましたが、今回、遺伝子導入効率を従来のウイルスベクター法と遜色ないレベルまで上げることが可能となり、かつ治療効果も期待できると考えられたため、本試験を行うこととしました。

1)研究の背景

 急性リンパ性白血病(以下、ALL)は血液中の白血球の中のリンパ球ががん化して発症する疾患です。白血病細胞は患者体内で無限に増殖し、骨髄では正常な造血を障害するため、易感染性、貧血、出血傾向などをきたします。近年の多剤併用化学療法や造血細胞移植の進歩により、先進国における小児の治癒率は80-90%に達するようになりましたが、化学療法抵抗性の症例、再発例は未だに予後不良で、小児ではがんによる死亡者数で第1位の疾患です。成人でも長期生存は20-30%と依然として予後不良な疾患です。以上より難治性のALLに対する新規治療法が切望されてきました。

 近年、キメラ抗原受容体遺伝子改変T細胞療法(Chimeric Antigen Receptor modified T cell Therapy: 以下、CAR-T療法)が開発され、CD19抗原をもつB細胞性ALLを対象に米国の複数の施設で臨床試験が行われました。化学療法に抵抗性または造血細胞移植後の再発等難治性の患者を対象としているにもかかわらず、完全寛解、部分寛解を合わせた反応率が70-90%という治療成績が報告されました。キメラ抗原受容体(以下、CAR)とは、抗体の抗原認識部位とT細胞受容体の細胞内シグナル伝達部位を繋いだ構造を持つ、人工的な蛋白です。CAR-T療法とはこの蛋白を発現する遺伝子を体外でT細胞に遺伝子導入して患者へ戻す治療です。米国で行われた臨床試験では遺伝子導入にレトロウイルスやレンチウイルスなどのウイルスベクターを用いていますが、ウイルスベクターの製造費用が高額であることが問題となっています。私たちは非ウイルスベクターであるpiggyBacトランスポゾン法を用いた遺伝子導入によるCAR-T細胞の作成方法を開発しました。本法は、酵素ベクター法の1つですが、ウイルスベクターを用いた場合より製造方法が簡便で、遺伝子導入コストが安価であり、かつ治療効果も期待できると考えられます。

CAR-T_figure.png

2)実施方法

 患者さんが適格基準を満たしていることを確認後にアフェレーシス(機械を使った採血)を行ってリンパ球を採取し、CAR-T細胞の培養を開始します。無菌管理された培養施設の中で十分な量に増やした後、患者さんに輸注します。輸注されたCAR-T細胞は患者さんの体内で増殖している白血病細胞を排除し、白血病を治療します。

3)今後の展開

 多くの患者さんに本治療を届けるため、本治療法の保険収載を目指しています。そのため、今回の第1相試験によって安全性を確認したのち、治験を行う予定です。
 また、本治療法はB細胞性悪性リンパ腫にも臨床的な効果があることが報告されてきており、本細胞製剤の適応拡大を目指します。さらに、CARの抗原認識部位を変更することにより、他の固形腫瘍などにも応用していくことが可能となります。

4)用語説明

キメラ抗原受容体(Chimeric Antigen Receptor: CAR):抗体の抗原認識部位とT細胞受容体の細胞内シグナル伝達部位を繋いだ構造を持つ、人工的な蛋白です。CAR-T療法とはこの蛋白を発現する遺伝子を体外でT細胞に遺伝子導入して患者へ戻す治療です。

piggyBacトランスポゾン法:酵素ベクター法の1つであり、ウイルスベクターを用いず、ある特異的な配列に挟まれた遺伝子を染色体に組み込むことのできる遺伝子導入法です。