レシピエント

レシピエントの条件

腎臓を移植される人をレシピエントといいます。レシピエントにはいくつか条件があります。

  • 移植手術に耐える事ができる体力(心臓や肺の機能など)があること。
  • 悪性腫瘍がない事。しかし、過去に悪性腫瘍の治療歴があっても、数年間再発が無ければレシピエントになることが出来ます(悪性腫瘍の種類により異なります)。
  • 活動性の感染症(肺炎など)がない事。しかし感染症の治療が済めば移植手術を受けることが出来ます。
  • 生体腎移植の場合、自発的に腎臓を提供してくれるご家族がいること。
  • 献腎移植の場合、日本臓器移植ネットワークに献腎移植希望の登録を行う必要があります。当科でも登録を行うことが出来ます。現在わが国では腎提供の数が献腎希望登録者数より少なく、すぐに腎移植が出来るわけではありません。

生体腎移植の場合、免疫抑制剤の進歩により腎臓を提供される方と移植を受ける方の間で血液型が一致していなくても移植手術を受けることが出来ます。

当科では生体腎移植希望の場合、泌尿器科と腎臓内科双方で診察を受けていただいたうえで、腎臓を提供される予定の方とリンパ球クロスマッチ検査(採血でリンパ球の反応性を見る検査)を行い、腎移植を行う上で問題がなければ、腎移植手術に向けてスクリーニング検査を始めていきます。スクリーニング検査で医学的問題があった場合、他科と連携をとって治療を受けていただいたうえで、安全に移植手術が出来るように取り組んでいます。
他院において種々の理由で腎移植を受けられないと言われた方も、諦めずに一度ご相談下さい。

◯移植前のスクリーニング検査

他科受診 口腔外科、耳鼻科、眼科、循環器科、消化器科、婦人科など。
主な検査
血液検査 血液の一般的な検査を行うため、採血をします。
レントゲン・CT 肺、心臓、腎臓の大きさや血管などの状態を調べます。
肺機能検査 全身麻酔で手術を行うため呼吸機能を確認する目的で行います。
心電図・心エコー 心臓に異常がないか調べます。
骨塩定量・脈波伝達速度 骨塩量を調べ、動脈硬化の程度を調べます。
膀胱造影・膀胱機能検査 移植腎をつなげる膀胱に異常がないか調べます。
ブドウ糖負荷試験 耐糖能異常を調べます。原疾患が糖尿病の方には行いません。

この他にも患者さんによって別の検査を追加することがありますが、いずれも説明の上行います。また、献腎移植の場合はレシピエント候補となってから手術までの時間に制限がありますのですべての検査を行わず、可能な範囲で必要な検査を行います。

手術

  • スクリーニング検査で医学的問題がなければ手術の日程を決めたうえで、腎移植の準備に移ります。血液型適合移植、不適合移植の別で手術前に行う免疫抑制療法が異なるため、腎移植前の入院日数が異なりますが、手術の方法に違いはありません。入院期間は総計で3~4週間です。
    手術は全身麻酔で行い、提供された腎臓は下腹部(一般的には右下腹部)の骨盤腔内に移植します。これは、つなぐべき血管と膀胱が近いところに集まっており都合がいいこと、何か異常があった場合にも外から腎臓が皮膚を通して触れる位置にありますので触診や腎生検を行いやすいという利点があります。また、後ろが骨盤の硬い骨ですので、後ろからの衝撃に強いという利点があります。しかし、前からの衝撃には弱いので、手術後、スポーツなどをする際は気を付ける必要があります。また、もともとある自分の腎臓は特別な理由がない限り摘出せずそのままにしておきます。移植腎の動脈と静脈は骨盤内の腸骨血管にそれぞれつなぎ、尿管は膀胱につなぎます。移植腎尿管には尿管ステントを留置しますが、通常術後1週間で経膀胱的に抜去します。生体腎移植の場合、術後まもなく尿が出はじめ、翌日から透析を離脱するのが通常の経過です。献腎移植の場合直ぐに尿が出ないので、数日~1か月程度の血液透析を行い、尿が出るのを待ちます。手術時間は通常4時間程度で、術後経過が順調な場合で術後2週から1か月程度の入院を要します。

◯腎移植手術の実際

  • 皮膚切開
  • 腎静脈
    外腸骨静脈吻合
  • 腎動脈内(外)
    腸骨動脈吻合
  • 尿管膀胱吻合

愛知腎臓財団HPより

免疫抑制剤

体にウイルスや細菌が進入すると、これらを排除しようとする「免疫システム」が働きます。他者から提供された腎臓を移植する腎移植も同様に、常に生体の免疫システムが働いて移植された腎臓を排除しようとします。これを「拒絶反応」といいますが、移植された腎臓を拒絶反応から守るためにはこれらの免疫システムを抑える必要があります。そこで使用されるのが「免疫抑制剤」で、腎臓が生着している間は内服する必要があります。通常は以下の薬を複数組み合わせて使用します。

プログラフ(タクロリムス)

1日2回12時間毎に服用します。血中濃度を測定して内服量を決めています。血中濃度が上昇するのでグレープフルーツジュースは摂取しないでください。
代表的な副作用:腎障害、耐糖能異常

グラセプター(タクロリムス)

1日1回服用します。除法性のタクロリムスで1日1回服用します。グレープフルーツジュースに関する注意点は同様です。
代表的な副作用:腎障害、耐糖能異常

ネオーラル(シクロスポリン)

1日2回12時間毎に服用します。血中濃度を測定して内服量を決めています。血中濃度が上昇する のでグレープフルーツジュースは摂取しないでください。
代表的な副作用:腎障害、高血圧、多毛

セルセプト(ミコフェノール酸モフェチル)

1日2回12時間毎に服用します。
代表的な副作用:骨髄抑制、消化器症状

ブレディニン(ミゾリビン)

代謝拮抗薬
代表的な副作用:骨髄抑制

イムラン(アザチオプリン)

代謝拮抗薬
代表的な副作用:骨髄抑制、肝障害

サーティカン(エヴェロリムス)

1日2回12時間毎に服用します。血中濃度を測定して投与量を調節します。プログラフやネオーラ ルと併用することでこれらの服用量を減らし、長期内服による腎障害を軽減することが期待され ています。また、癌や感染症の予防効果も期待されています。
代表的な副作用:高脂血症、創傷治癒遅延

プレドニン(プレドニゾロン)

体内に分泌されている副腎皮質ホルモンを人工的に合成した薬です。免疫抑制効果があります。副作用軽減のため移植後早期に減量します。
代表的な副作用:消化性潰瘍、耐糖能異常、骨粗鬆症

その他の注意事項

グレープフルーツを食べたりグレープフルーツジュースを飲んだりしないでください。プログラフ、グラセプター、ネオーラルの血中濃度が上昇することがあります。その他の柑橘類では、晩白柚、文旦、はっさく、スウィーティ―の飲食も避けてください。
また、セイヨウオトギリソウ(St.Jphn’s Wort、セント・ジョーンズ・ワート)含有食品の摂取はプログラフ、グラセプター、ネオーラルの血中濃度を下げる可能性がありますので避けてください。
セルセプト服用中は、皮膚がんの副作用を避けるため、帽子や日焼け止め効果の高いサンスクリーンの使用により、日光やUV光線の照射を避けるようにしてください。
薬は決められた時間にきちんと飲みましょう。飲み忘れた場合は下記の注意に従い、主治医に連絡してください。

飲み忘れた場合

◯1日2回(12時間毎)服用している薬

6時間以内に気づいた場合 気づいたらすぐに1回分を飲む
6時間以上過ぎてから気づいた場合 飲み忘れた分の薬は飲まずに、次回分をきちんと飲む。
この時、2回分を一緒に飲んではいけません。

◯1日1回飲んでいる薬

気づいたらすぐに1回分をのむ。この時、2回分を一緒に飲んではいけません。

入院および退院後の経過

1.入院の時期

血液型適合腎移植:腎移植術の数日前に入院し、内服で免疫抑制剤を開始して手術に臨みます。
血液型不適合腎移植:通常2週間前から入院し、免疫抑制剤の内服を開始し、血漿交換療法により抗血液型抗体の除去を行ってから手術に臨みます。
献腎移植:レシピエント候補となったら入院していただきます。通常は予定手術でなく、準備の整い次第行うことになりますので、日頃から心の準備、呼び出された時すぐに入院できるよう準備しておくことが必要です。

2.手術後の経過

手術後の注意点は3つあります。拒絶反応、感染症、手術合併症の早期発見・早期治療です。どれも対応が遅れると腎機能が損なわれたり、命に危険を及ぼすこともありますので小さな症状でも気になることは医師や看護師に尋ねるようにしてください。

安静度

大きな血管を縫い合わせているため、手術創の様子を見て離床を進めていきます。

食事

麻酔の影響で腸の動きが悪くなるので、鼻から胃まで管が入りますが、腸の動きが良く、おならが出れば鼻の管が抜け、水分・食事が始まります。なお、食事・水分には制限がありますので、必ず医師や看護師に確認してください。

入浴

安静解除になると、洗髪から始め、創が治ったらシャワー浴・入浴が許可されます。歯磨きは行いましょう。

自己の体調管理

おしっこの管が抜けると(通常術後5日目に抜きます)自分で尿をためて、一日の尿量を把握していただきます。同時に飲水量、体重、体温、血圧など記録していただきます。これは移植腎機能や体調を把握するために非常に大事ですので、退院後も続けていただきます。入院中に慣れてしまいましょう。

面会

経過を見ながら医師より許可が出ます。初めは個室入院で面会謝絶です。許可が出てから近親者(親、配偶者、子、兄弟)の成人のみ特定の場所での面会となります。大部屋に移動するにつれてあえる人の範囲が広がります。通常術後1~2週で大部屋となります。

3.退院前の準備

そろそろ退院が近くなると、自己管理指導として栄養指導や免疫抑制剤を中心とした服薬指導を受けていただきます。また、状況によって、膀胱尿管逆流症の確認のための膀胱造影や、免疫抑制剤の皮内変動をみるための採血、耐糖能異常の有無を確認するためのブドウ糖不可試験を行います。これらの検査で問題がなければ退院となります。

4.退院後

退院後は定期的に移植外来に通院していただきます。移植外来では、血液検査・尿検査で移植腎機能や免疫抑制剤の血中濃度を評価し薬の内服量を調整します。腎移植後3か月で移植腎生検を行い、血液検査だけではわからない拒絶反応や、免疫抑制剤の毒性が出ていないかなどを評価します。生検で得られた結果をもとに拒絶反応の治療や免疫抑制剤の調整を行うことがあります。
退院後に発熱や体調不良などあれば、入院治療を必要とする感染症などを起こしている可能性がありますので、受診予定日でなくても連絡して受診していただく必要があります。
このほか、患者会及び移植の啓発活動があります。患者会では災害時非常時の対応などに関する学習会や、球技大会、遠足、新年会などを行っています。さらに移植についての見聞を広めるとともに、同じ病気や悩みを抱える仲間としてのつながりを深めることができます。