ドナー

腎臓移植ドナーについて

ドナーとは生体腎移植において腎臓を提供する方のことです。夫婦や親戚の方で自ら腎臓提供の意思がある方が対象となります。年齢は20歳以上で健康体であることが必要になります。本人の希望があっても、友人や善意の第三者の方からの生体腎移植はできません。
日本移植学会の倫理指針では、生体臓器移植では親族からの提供に限るとされており、親族とは6親等以内の血族、3親等以内の姻族と定義されています。
実際には、両親や兄弟(姉妹)、配偶者からの移植が多く行われています。

血液型

生体腎移植では血液型の異なる方でも可能です。血液型が異なる場合には、血液型不一致移植と血液型不適合移植の二つがあります。近年、すぐれた免疫抑制剤が使えるようになり、血液型が異なっても良好な成績が得られています。血液型不適合の場合は、移植前に血漿交換や二重膜濾過血漿交換(DFPP)が必要となります。提供されるご家族の方が複数いらっしゃる場合は、血液型が合っているご家族からの移植を優先する場合があります。

表3 ドナー・レシピエントのABO血液型の関係

HLA抗原(組織適応抗原)

HLA抗原とは白血球の血液型のことで、HLA-A、HLA-B、HLA-DRの3つがあります。献腎移植の場合はHLAが適合する方が優先されますが、生体腎移植の場合は、HLAが全く異なる方でも移植は可能です。最近は、血縁関係にない(HLAが全く異なる)夫婦間の移植が増えています。

クロスマッチ(抗ドナー抗体の検出)

クロスマッチとはドナーとレシピエント(腎移植を受ける方)のリンパ球の反応をみるもので、陽性の場合超急性拒絶反応の原因となります。クロスマッチは血液型やHLA抗原が一致していても起こりえるので、移植前に調べておく必要があります。

腎機能

ドナーは片方の腎臓を摘出することで約20-30%の腎機能を失います。そのため、もともと腎臓病があり腎臓の機能が低下している方はドナーには適していません。腎機能を測定し、70-80%以上であれば大丈夫です。もし左右の腎臓で機能に差があれば、働きが落ちている腎臓を提供することになります。

尿検査異常

血尿がある場合は、悪性腫瘍や尿路結石をしらべます。もしこのような病気がみつかればドナーには適していません。また尿蛋白が出ている場合もドナーには不向きです。

高血圧

高血圧があっても内服薬で管理がついていて、腎臓や心臓に病気がない場合はドナーになれます。血圧の目安は140/80mmHg未満です。

糖尿病

糖尿病がある場合(家族歴も含めて)、原則としてドナーには適していません。ただし生活習慣の是正、減量などで糖尿病が軽症となればドナーとなり得る場合もあります。

肥満

BMI 25 kg/m2以下であれば問題はありません。肥満の方は減量を行っていただき、BMI 25 kg/m2以下を努力目標としています。
BMI(体格指数:Body Mass Index)は下記の式で計算される値で、肥満の程度を知るための指数です。

BMI=体重(kg)÷(身長(m)×身長(m))

日本肥満学会では、BMI22の場合を標準体重としており、25以上の場合を肥満、18.5未満である場合を低体重としています。

悪性腫瘍

治療中や治療後まもない悪性腫瘍のある方はドナーにはなれません。提供した腎臓とともに腫瘍細胞も移植される可能性があるからです。ただし、治療後何年も再発がない場合はドナーとなる可能性もあります。

感染症

細菌やウイルスの感染症にかかっている方はドナーにはなれません。ただし感染症が完治すればドナーとなることは可能です。

年齢

原則としてドナーに年齢制限はありません。65歳以上の高齢ドナーに関しては,年齢による腎機能の低下や他の合併症の有無、全身麻酔の手術ができるかどうかなどを総合的に評価して、ドナーとして適しているか判断することになります。

精神的健康状態

腎臓提供に際しては、原則個人の自発的かつ自由で強い意思の下に行われることが保障されなければなりません。よってドナーは適切な自己判断能力を持つ者であることが必要になります。

その他

治療を必要とする肝炎や肝硬変、HIV抗体陽性、クロイツフェルトヤコブ病の方はドナーにはなれません。

生体腎移植ドナーの予後について

ドナーの腎機能は移植前と比べて約76%の機能を維持し,その後徐々に回復すると報告されています。生命予後に関しても、一般人口と比較してそん色ないものとなっています。ただしドナーに血圧の上昇や尿蛋白の出現がみられることもあり、経過観察は必要です。長期的には、いわゆる生活習慣病の管理をきちんとすることが重要です。肥満、高血圧、糖尿病、高脂血症は腎機能に影響を及ぼします。片腎で機能が悪化すれば慢性腎不全に移行する可能性もあるため、食事、運動に気をつけて生活習慣病にならないよう心がけることが大事です。名古屋大学医学部付属病院においては、腎臓内科外来に年に2回程度通院していただいています。

【参考資料】
日本腎臓学会ホームページ
日本移植学会ホームページ
日本臨床腎移植学会ホームページ
総説 腎移植シリーズ 日腎会誌 2004;46(4):347-359
Living donor kidney transplantation in a global environment
Kidney International (2007) 71, 608–614

ドナー手術

赤線 皮膚切開部(中外製薬HPより改変)

現在、一般的なドナー腎摘出術として開創的、腹腔鏡的に行う方法の2通りがありますが当科では基本的に腹腔鏡下で行っています。入院期間は約10日間です。費用は保険でまかなわれます。

腹腔鏡手術では 腹部に開けた小孔から、内視鏡や手術用器具を用いて手術を行います。外見的に傷が小さいだけでなく、筋肉を大きく切開しないことで、術後の回復が早く 早期社会復帰ができる利点があります。開創手術に比べて術後腸管麻痺が少なく手術後は翌日から歩行・食事を開始して、約1週間で退院可能です。

術中の出血も開創手術に比べて少ないことが示されています。他方、腹腔鏡手術は技術的に難しいので術者には十分な熟練が要求されます。当科では内視鏡外科学会(泌尿器内視鏡学会)認定医6人(2013年時点)を有し、県内でも有数の腹腔鏡手術認定医数を誇っています。

手術を行う外科医の側の利点としては からだの奥深い部分でも 明るい視野で 拡大して観察することができるという点に加え、気腹圧により小静脈からの出血がみられないため出血量が少ないことなどが挙げられます。

当科では1998年に腹腔鏡下腎摘除術を開始し、これまで700例以上の腹腔鏡下腎(尿管)摘除術を経験しています。ドナー手術では生命を脅かすような出血例の経験はこれまで一度もありません。

開腹

腎の摘出について 以前は開腹手術でおこなわれていました。腎は体の背中側にあり肋骨に囲まれているため、肋骨を切除したり、脇腹を大きく切開する必要がありました。そのため 術後の創部も目立ちますし筋力も低下することが問題でした。

赤線 皮膚切開部(中外製薬HPより改変)

入院・退院後経過

ドナーの方は手術2日前に入院していただき、術後1週程度で抜糸をしてから退院となるのが平均的な術後経過となっています。退院後は定期的に泌尿器科と腎臓内科の外来を通院していただき、腎提供後も健康的な生活が送れるように診察を継続させていただきます。