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先端医療

ロボット手術腹腔鏡下大腸がん手術

 名古屋大学医学部附属病院では、2010年3月に手術支援ロボット『da Vinci Surgical System(ダヴィンチ・サージカルシステム:以下ダヴィンチ)』を導入しました。当科では、2010年8月より、大腸がんに対するロボット手術腹腔鏡下手術を開始しております。

『ダヴィンチ』とは

 アメリカの企業(Intuitive Surgical社)が開発した手術支援ロボットシステムです。システムはカメラアームと3つの操作アームを持つロボット部(Patient cart)、外科医が実際の操作を行うコクピット(Surgeon consol)、内視鏡画像を映し出すモニター(Vision cart)の3つのパーツで構成されています(図1)。ロボットと言っても、ロボットが自動的に手術を行うものではなく、外科医が腹腔内をカメラモニターで観察しながらコクピットで手元のレバーを動かすと、その手の動きがロボットの手の動きとして忠実に再現されるものです。欧米ではすでに10年以上前から実際の手術に導入されており、アメリカにおいては前立腺手術の80%以上がロボット手術として行われています。さらに韓国では、胃がん・大腸がんなど消化器外科領域にも広く適応され、普及台数はアメリカで1500台(図2)、ヨーロッパで350台(図3)、アジアでも韓国で36台が稼働しています(図4)。国内でも2009年11月にようやく薬事承認を受けた後、現在では40台のロボットが稼働しており、急速に導入が進んでいるのが現状です。
図1 図2 図3 図4

ロボットの長所
  • 通常腹腔鏡下手術と同様に、従来の開腹手術と比較して、小さな創で手術が可能なため、術後の疼痛が軽減され、美容的なメリットもあります。また、手術中の出血量が少量ですみます。
  • 通常腹腔鏡下手術は2-D(平面)画像であるのに対し、ダヴィンチではより鮮明な3-D(立体)画像を見ながらの手術が可能であり、通常腹腔鏡下手術と比較してより安全で確実な手術が可能となります。
  • 腹腔鏡下手術で長い鉗子(組織を摘まんだり、切ったりする道具)を利用して操作する際に不可避となる『手振れ』の防止機能がついているため、安定した精密な操作が可能となります。
  • ロボットの手には7つの関節がついており、回転と開閉しか行えない腹腔鏡手術の道具と異なり、人間の手首と同様な自由な手術操作が可能です(図5)。
  • スケーリング機能が搭載され、術者の手元の動きを1/2~1/5の大きさで伝えることができるため、実際の手の動きよりも繊細な動きが可能です。
    図5
ロボットの短所
  • 腹腔鏡下手術と同様に、従来の開腹手術と比較して手術時間が多少長くかかります。
  • 触覚が欠如するため、画像をみて力の入り具合の判断が必要となるため、手術の経験が重要になります。
  • 残念ながら、現在ロボット手術はまだ保険診療として認められておりません。今後は先進医療として申請していく予定です(先進医療が承認されれば、混合診療が可能となります)。しかし、消化器外科領域におけるロボット手術はまだ先進医療としても承認されておらず、現状では自費診療となります(図6)。
    図6
ロボット手術腹腔鏡下大腸がん手術

 近年、消化器外科領域における腹腔鏡手術の発達により、大腸がん手術も大きく変化しつつあります。従来主流であった腹部を大きく開放する開腹手術に変わり、小さな創から内視鏡カメラを挿入し、テレビモニターを見ながら手術を行う腹腔鏡下手術の割合が急速に増加しています。当科においても、現在では約半数の患者さんに対し、この腹腔鏡下手術を施行しています。
 ロボットシステムの導入により、低侵襲手術である腹腔鏡下手術のさらなる改善と進歩が期待されています。ロボット手術では、鮮明な3-D画像、手振れなく自由に動くロボットの手先を利用することにより、腹腔鏡下手術より安全で緻密な手術を行うことが可能になります。また、現在は技術的に困難とされ、一般的に腹腔鏡手術の適応とならない進行した直腸がんや骨盤内のリンパ節の摘出(リンパ節郭清)においても、狭くて深い骨盤内で開腹手術と同様、難易度の高い手術が可能となり、創の小さいロボット手術腹腔鏡下手術が可能となります(図7図8)。
図7 図8

 ロボット手術には、ロボットの手術手技や知識のみならず、腹腔鏡下手術の手術手技も必要不可欠です。ロボット手術には、日本内視鏡外科学会で認定された技術認定医で、Intuitive Surgical社からロボット手術の認定を受けた医師が手術を担当しております。