VR SimulatorVRシミュレータ

専門職訓練におけるシミュレーション,VRシミュレータの誕生

 シミュレーション教育,訓練は,専門職を教育する方法として,実際の現場とは離れた模擬環境の中で行う方法で, 航空機操縦で1930年代から導入され,第二次世界大戦中に進展しました.最初は戦闘機の操縦教育でしたが,大戦後には民航機も取り入れ, 1950年代にはフライトシミュレータが一般化しました.こうした「現場とは異なる場面での教育,訓練」を仕事外訓練(off the job training)といいます. 医学,医療分野では1960年代の蘇生訓練用マネキンや模擬患者(SP)といったシミュレーションの手法が登場しました. 航空分野のフライトシミュレータでは,コンピュータやコンピュータグラフィック(CG)の進化に伴い,1970年代には航空機の詳細なデータを入れてCGで再現するようになりました. バーチャル・リアリティ(VR)という用語が登場したのは1989年ですが,画像と訓練者操作のインタラクション(相互作用),自己投射性を考えると, この時期のフライトシミュレータが技能訓練用VRシミュレータの嚆矢であったといえましょう. 当時は医療分野では蘇生用マネキンがPCを内臓して高性能化の兆しが見られます. 以上の動きは,教育,訓練の効率化を目的とするものでしたが,医学分野では,1990年末頃から患者安全重視の機運が盛り上がります. 1999年の衝撃的な米国科学アカデミーの報告"To Err Is Human"では,高リスク産業での安全管理で先行する航空機産業を範としたシミュレーション教育の導入が提言されました. 1990年代は,後述のように腹部外科で腹腔鏡下手術の導入という19世紀末以来の近代手術法に大変革が起こり始めた時期で,フライトシミュレータの技術を生かした VR手術シミュレータが診療技術訓練用のVRシミュレータとして初めて1990年代末に誕生しました. 2000年代に入ると手術に加え他の診療手技のVRシミュレータが多く登場し,私達もこの可能性に注目してVR手術シミュレータを導入し,いくつかの機種はわが国初でした.

腹腔鏡下手術の普及とバーチャル・リアリティ(VR)・手術シミュレータ黎明期

1.腹腔鏡下手術の誕生と普及

 内視鏡手術(腹腔鏡下手術)は,1987年にフランスのPhilippe Mouretが行った腹腔鏡下胆嚢摘出術が現在のタイプの腹腔鏡下手術の最初ですが (1985年頃にドイツのErich Müheが行った腹腔鏡を使用した小開腹創からの胆嚢摘出術が最初とみなすこともできます), 1990年頃からキズが格段に小さい低侵襲手術として全世界に急激に普及しました.この手術の大きな特徴は,術者は術野を直接見ることができない点と, 直接触れることができない点です.このため,コンピュータの画面のようなモニターを見ながら,小さな孔から入る細くて長い手術機器を操作することになります. それまでの手術ではあたりまえに行われていた糸で結紮したり組織を縫ったりする基本的動作が,大変難度が高い操作になってしまいました. しかし,それらを解決する技術開発が1990年代に次々に実を結ぶことになります.止血のための結紮を減らすために, そもそも出血しないように組織を切離する新しいエネルギーデイバスの開発,縫う動作を行う縫合器(ステイプラー)や手術支援ロボットが1990年代に開発され, 2000年代に入ると,さらに新しいエネルギーデバイス,そして,内視鏡手術において従来のオープン手術を凌駕する精密手技を可能にしたハイビジョン(HD)スコープが開発されました. また,画像処理技術も進展し,画像情報支援手術(ナビゲーション・サージャリー)や遠隔手術(テレサージャーリー)が実現しました. これらはコンピュータとの親和性が高い手術として,コンピュータ支援手術(computer assisted surgery: CAS)という用語が生まれました. このように1990年以降は,手術技法の発展と新しい手術機器の開発は密接な関係がありました. 新しい手術法に対し先端的技術を盛り込んだ新しいトレーニング法が実用化されたのは自然な流れで, VR手術シミュレータは, 工学系の研究者が大きくかかわって生まれました.

2.VR手術シミュレータ

 誕生したVR手術シミュレータは,小型化,高性能化したコンパクトなコンピュータ(PC),両手の手術鉗子様デバイス,フットペダルとモニターという構成で, 基本的に現在のVR手術シミュレータと大きな違いはありません.「VRの3要素」を厳密に解釈すると,VR手術シミュレータをVRと言って良いのか, と考える方もいると思われます.これは,エンターテイメントと専門職のスキル訓練とでは,VR:バーチャル・リアリティの「リアリティ」の内容が異なることを 考慮する必要があります.「VRの3要素」に自己投射性がありますが,臨場感や没入感に近い概念です,専門職トレーングにおける臨場感は, 手技に対する環境(臓器変形,手術機器の動作,患者の状態)レスポンスの「リアリティ」であって,周囲の環境(手術室風景など)の「リアリティ」は 本質的に必須ではないのです.また,腹腔鏡下手術が2次元のモニターを見て行う手術であることも重要です. 「3要素」のひとつは「3次元の空間性」ですが,腹腔鏡下手術は2次元でのモニターを見て3次元の空間を認識して行う手術なので, 「3次元の空間性」の構築の少なからぬ部分がシステムではなく操作者側に委ねられているのです.スキル訓練VRにおいては, 訓練者がシミュレータ上で行う操作とシミュレータが提示する視,聴,触覚フィードバックのインタラクションは最も重要な要素です.
 内視鏡手術に必要な特有の能力として,対象臓器を直接見ないで2次元の視覚情報にもとづいて3次元空間を想定しながら, 長くて扱いにくい手術器械を的確に動かす能力(eye-hand coordination)が指摘され,箱に孔を開けて内視鏡や手術器械を入れて行うボックス・トレーニングという方法が開発されました.米国においては,腹腔鏡下手術に対する教育法としてFundamental Laparoscopic Skills (FLS)トレーニングというプログラムが確立され,この中で,ボックスで行う,把持,切開,結紮のような基本実技のメニューが作られました.同種のメニューは当時既にVR手術シミュレータ上でも実現しており,こうしたタスクの有効性について,2000年代に多くのエビデンスが示されました. 基本手技に続いて早い時期から,胆嚢摘出術,卵管結紮術のような術式モジュールも登場し,さらに多くの手術手技がVRモジュール化されました.

名古屋大学におけるスキルスラボとVR手術シミュレータの導入

1.スキルス&ITラボと画像情報外科トレーニングラボ

 医学教育改革に伴った2005年のOSCE導入前後に,全国的に基本手技のラボ(スキルスラボ)の整備が進みました.名古屋大学では既にあった診療手技のスキルスラボを整備し,2006年に模擬診察室やDICOMなどの医用画像データを出力できるラボを含むスキルス&ITラボとなりました.
 一方,手術トレーニング分野では,Johnson & Johnson株式会社のご寄附により,2004-5年にVR内視鏡手術シミュレータ:MIST (Mentice), LapSim (Surgical Science), LAP Menter (Simbionix)を導入し,2006年に内視鏡手術ラボができました(画像情報外科学講座:NU-ESSトレーニングラボ).さらに,2006年,LaparoscopyVR (Immersion Medical), 2007年,ProMIS (Haptica) などを追加し,各種ボックス・トレーナも含め,当時,わが国でも有数の内容の内視鏡手術トレーニングラボとなりました.これらのシミュレータはもともと外科医師トレーニング目的でしたが,私達は,将来, 外科を目指していない医学部学生も含め,臨床実習中の医学生の教育にも試用し,2011年からは消化器外科臨床実習のプログラムに組み込まれました.

2.シミュレーションセンター開設

 2012年度に,医療スタッフ高度教育(高度スキルトレーニングセンター開設)のためとした補正予算で多くの領域のVRシミュレータが導入され, NU-ESSや泌尿器科など各診療科からの継承機器とともにスキルス&ITラボに統合され,2013年にクリニカルシミュレーションセンターとなりました. このとき,VR手術シミュレータとしては,LapSim(新型,Surgical Science),LAP Mentor II (Simbionix),LapVR(新型,CAE Healthcare), LapX (Epoca),dV-Trainer (Mimic),EyeSi (VRmagic),Tempo (Voxel-Man)などが導入されました.

 シミュレーションセンターは2017年に新棟に移転しました.1990年からの腹腔鏡下手術の発展は, 手術機器の開発と改良と密接に関係していることは先に述べましたが,移転に伴い,手術に関連する医療スタッフ教育に重要な手術機器の展示を拡充し 手術機器ミュージアムとしました.2019年には,この手術機器ミュージアムの中にVR手術シミュレータを配置する実験的レイアウトに変更しました.

3.メディカルxRセンターへ

 2020年に,医学系+情報系の大学院教育におけるVR教育研究センター整備の予算を受け,2021年にメディカルxRセンターに改組されました. 同時期に医学教育DXの補正予算などにより,LapSimやLAP Mentor更新のほか,さらなるデジタル化を進め,手術機器ミュージアムのサイバー化, ミュージアムの中のVRシミュレータのセクションに加えて,実際の手術室プロジェクションマッピングの中のVRシミュレータのセクションも作成しました.

VR手術シミュレータの現状

1.内視鏡手術VRシミュレータの構成 

 VRシステムが成立するには,入力システム,シミュレーションシステム,出力システムが必要ですが,VR手術シミュレータの場合,入力システムは, 両手の手術鉗子様デバイス,カメラデバイス,フットペダル,シミュレーションシステムはPC本体,出力システム(ディスプレイ=視覚だけではありません)は, 視覚ディスプレイのモニターとスピーカー,そして触覚が表示される手術鉗子様デバイスという構成となります.手術鉗子様デバイスは,入力デイバスであるとともに, 触覚ディスプレイでもあります. シミュレーションシステムのソフトウェアはWindows上で動きます.市販型のMIST以来,多少の変化はあるとしても,基本的な構成はずっと変わっていません.
 シミュレータの有用性は,ボックス・トレーナと同様,単独で時間を問わず訓練でき,繰り返し練習が可能,という点があげられます. シミュレータがボックスや動物と異なる利点は, クリティカルな状況の表示が可能な点のほか,利き手,非利き手の移動距離や移動速度などの詳細な評価機能にあります.

2.基本動作

 内視鏡手術VRシミュレータは,たいていの機種に,把持,切開,結紮,縫合,クリッピングなどの基本動作が搭載されています. 私達は,専門職トレーニングとしての内視鏡手術VRシミュレータの有用性は,こうした内視鏡手術基本動作の教育にあると考えています. 中でも,eye-hand coordinationの修得にペグ移動,その次の段階として,円周切開が左右の手の協調運動,力の調節,鉗子の回旋の練習に役立つと考えてきました. これらのタスクは,私達の研究では,内視鏡手術初心者だけでなく熟練者にも技術向上の効果があることがわかっています.

 中堅医師に対するドライラボの手術セミナーでは,VRシミュレータより,臓器モデル(ファントム)と実際の手術機器を用いる訓練が主になっています. 中堅医師のドライラボ・トレーニングで強いニーズがあるのは内視鏡下縫合・結紮操作で,反復する自習が必要がという点でまさしくVRシミュレータに適した操作なのですが, 現在市販されているVRシミュレータでまともにこの訓練が行える機種は一つも無いために,実機のトレーニングにならざるを得ないのが現状です. 内視鏡下縫合・結紮操作は基本動作としてプログラムの改良を行うことはぜひ必要と考えられます. 私達も,縫合・結紮に関するデジタル教育システム開発に取り組んでいますが,実際のトレーニングにおいては,実機の持針器,糸を使用しています.
 また,ロボット(da Vinci)支援内視鏡手術は,通常の内視鏡手術より訓練期間を短縮できるとされていますが, やはり機械を使いこなすためのoff the jobトレーニングが必要です.da Vinci VRシミュレータ(dV Trainer, Mimic)は,コンソールの現実感が高く, 有意義な訓練が行えます.dV Trainerには術式モジュールが付属しませんが,妥当な方針と考えます. da Vinci手術シミュレータは,現在,他に3機種が市販されていますが,dV TrainerとdVSS (Intuitive)に関しては有用性についての多くのエビデンスが報告されています.

3.術式モジュール
(1) 外科医師訓練に有用なのは胆嚢摘出術モジュールのみ

 VR手術シミュレータは,先述のように,初期から胆嚢摘出術,卵巣切除術などの術式モジュールも装備しており, その後,虫垂切除術,結腸切除術,胃バイパス術(減量手術)などの術式モジュールが追加されました.しかし,現時点では,外科医師トレーニング目的では, 術式モジュールは胆嚢摘出術以外の術式モジュールには有用性はありません.

 私達の検討では,虫垂切除術(LapVR)や結腸切除術(LAP Mentor)では, まったくといってよいほど構成妥当性(シミュレータの示す成績が手術経験に応じていること)は認められませんでした. これに対し,LAP MentorとLapVR(Immersion → CAE)の胆嚢摘出モジュールだけは多数の項目で構成妥当性が示されました. 腹腔鏡下胆嚢摘出術モジュールは,実際に手術を行う前のリハーサルに有用という報告もあります. 胆嚢摘出術は一般に消化器外科医が最初に行う腹腔鏡下手術であり,VRシミュレータが他のシミュレーション方法(臓器モデルや動物ラボ)より利点が多いことから, 私達は,外科1年目医師に対する手術セミナーにおいて,LAP MentorとLapVRの胆嚢摘出モジュールを中心にしたプログラムを実施しています. ただし,指導医が,訓練される医師の横について,シミュレータのシナリオではカバーされていない細かな点を指導し評価することが重要です.

(2) 術式モジュール用途,可能性

 しかし,術式モジュールに患者個々の解剖情報を反映させると,なかでも解剖学的破格がある症例などでは中堅以上の医師にも有益と考えられます. 術前CT検査のデータを入力し個々の症例の手術リハーサルが行えるVRシミュレータがわが国から市販されました(Lap PASS,三菱プレシジョン). まだ発展途上の機器だったので,改良が期待されていましたが,製造が中止されてしまったのは非常に惜しまれます.
 また,新しい手術機器に関する使用法のインストラクションは意味がありました.LAP Mentorの大腸モジュールは,発売された当時は, 新しく出たステイプラーの使用法のインストラクションが盛り込まれており,意義があったのですが,その後の新しいステイプラー発売に対応していないので, 今では古くて役に立たなくなってしまっています.
 一方,外科医師以外―の医師,学生やコメディカルに対しては,VR 手術シミュレータの術式モジュールは手術体験を提供できるという意味で有意義です. 最近,重視されているチーム医療学習の素材として使用できます. こうした用途を考慮し,私達は,診療現場をプロジェクションマッピングで再現した環境にVRシミュレータを設置する試みを開始しています.

バーチャル手術室

 手術スキル訓練用ではありませんが,HMD内の仮想手術室内で3D臓器モデルを回転,拡大,縮小,臓器抽出できるVR手術室が本学の情報学研究科により開発され, 当センターで体験できるようになっています.これも非医師に対する体験法のひとつのオプションです.

内視鏡手術以外のVRシミュレータ

(1)眼科手術用シミュレータ Eyesi Surgical (VRmagic)

 白内障手術および網膜硝子体手術用のシミュレータです.当センターで最も良く使用されている機種のひとつです.

(2)耳鼻科手術シミュレータ Tempo (Voxel-Man)

 7種類の中耳手術トレーニングコースが装備されています.画面は3Dで,力覚フィードバックもあります.

(3)上部・下部消化管内視鏡シミュレータ AccuTouch (CAE Healthcare)

 上部消化管内視鏡検査とクリップ止血などの治療手技,下部消化管内視鏡検査とポリペクトミー,気管支内視鏡検査が可能です. 上部消化管では食道入口部の通過,下部消化管では口側大腸への挿入手技が訓練の"肝"ですが,いずれもリアリティが低く,これらの手技の訓練はできません. しかし,模擬内視鏡で,先端を屈曲させるハンドル操作の練習は可能で,最も入門的段階で使用できる可能性があります. その他,非専門医,非医師が内視鏡検査や手技を体験するのに使用できます.気管支内視鏡検査は,まず,気管支解剖知識の習得が重要であり, 従来,気管支ファントムと実際の気管支内視鏡を使用していた訓練をAccutouchではVRで可能です.

(4)膝関節鏡VRシミュレータ  ArthroSim (Touch of Life Technologies)

 コロラド大学発のベンチャー企業が開発した膝関節鏡トレーニングのVRシミュレータで,力覚フィードバックも備えています.

(5)血管内治療VRシミュレータ

 VIST(Mentice)は,透視台を模した大型のVRシミュレータです. PCI(冠動脈インターベンション), ペースメーカーのリード留置,脳血管コイリング,頸動脈ステント(CAS)から REBOA(大動脈内バルーン遮断)まで多くの領域のカテーテル手技のプログラムが装備されています.当センターでは,血管外科などが学生実習に使用しています.

当センターの利用現状

 私達はVRシミュレータを次のような目的に使用しています.
(1) 内視鏡手術における基本動作―eye-hand coordination等―の訓練
(2) 手術初心者(1年目消化器外科医)の腹腔鏡下胆嚢摘出術リハーサル
(3) 医学生,研修医の手術・検査手技体験(early exposure)
(4) 医師以外を含む多職種の手術講習会
(5) 一般の見学者に対する内視鏡手術,VR診療教育などの紹介

 当センターの利用状況は,職員研修(自己トレーニングを含む)が約2/3で,学生の教育が約1/3となっていますが,VRシミュレータの利用目的に限ると,学生や研修医の指導が約2/3を占めていました. 手術訓練に関しては,自己トレーニングはボックス・トレーニングで行うことが多いが,学生や研修医指導にはVRシミュレータの方が主になる傾向がみられました.

VRシミュレータ 最近の動向

 近年,VR技術の進化とともに,多くの分野に急速に用途が広がっています. 2016年は「VR元年」と呼ばれますが,Oculus Rift, HTC ViveやMicrosoft HoloLensが登場した年で, 「ヘッドマウントディスプレイ(HMD)元年」と呼んだ方がふさわしいでしょう. この年登場した安価で高性能なHMDのインパクトが大きく,VR=HMDと誤解している方も少なくないようです. 診療スキル訓練目的では,没入感を増す(immersive)ためのHMDは必ずしも有効ではないのですが, HMDを組み込む動向が見られますが,「今風」に見せる動きと言えなくもありません.

(1)Immersive VR

 従来のVRシミュレータ(LapSim)に手術室360°動画を提供するHMD (Vive)を組み合わせる試みが早くも2017年に報告され(Huber),その後,Simbionix社のLAP Mentor IIIでvirtual ORモードとして製品化されています(HMDはOculus). このモードは,私達のセンターでも医学生の人気が高いのは事実ですが,手術トレーニングの効果を増すものではないことも留意すべきです.

(2)AR シミュレータ

 超音波検査シミュレータのVRシミュレータであるVimedixに,HMD (HoloLens)を装着すると,マネキンに内臓の3D映像が重畳されるARモードが登場しました. 超音波の画像をまったく読めない人(学生?)には意味はあると思われますが,医療スタッフの訓練としての意義は乏しいです.

VR手術シミュレータの今後

 医師のスキル訓練機器としては,やはり基本動作が重要で,先に述べたように,縫合・結紮手技の訓練モジュールが実用レベルに改良される必要性が高いと考えられます.また,患者の個別情報を入れたシミュレーションができると,診療支援として有意義です.VRは,本質的な部分が現実と同等であれば良いので,医師のトレーニングとしては,操作を加えた時の臓器の変形,デバイスを通して感じる質感のinteractionが最も重要で,あたかも手術室にいるというような臨場感などはそれほど重要ではありません. 臨場感として重要なのは,出血や患者のバイタル変化などであると考えられます.本質的に重要な部分を地道に改良していく努力が必要です.
 一方,多職種訓練では,VR手術シミュレータはさまざまな用途がありますが, ここでは診療場面にいる臨場感も重要な要素です.術式モジュールは実際に手術を施行できない医療スタッフの研修や学生の教育に現状でも有用です.
 VRシミュレータの普及を妨げている大きな要因は価格にあると考えられます. HMDの価格が劇的に下がったように,VRシミュレータも技術の進歩とともに下がっていくことを期待したいものです.