Missionミッション

VRなどICT技術を医学・医療発展につなげる医・工・産の連携の場

VR技術の業務利用

 VR(バーチャルリアリティ)という用語が身近に使われるようになったのは数年前からですが,VRという用語は1989年頃に生まれました.この30年余, VRはもっぱらエンターテインメントの技術でしたが,2010年代から業務利用も増えてきました.その内容は,主に,専門職の(off the jobでの)トレーニング, デジタルツインを用いた工場などの管理,そして,メタバース技術を用いたコミュニケーションなどです.

医療分野におけるVR

 医療分野,特に外科分野におけるVR利用は,専門職の(off the jobでの)トレーニングで始まりました. 1990年代から2000年代前半は腹腔鏡手術が急速に普及した外科の変革期でしたが,ちょうどVR技術の黎明期でもあり, 初の診療手技VRシミュレータとして腹腔鏡手術VRシミュレータが誕生しました.内視鏡手術は,術者の目や手と手術対象の間に専用のカメラや手術機器を必要としたので, 関連するデジタル光学機器,エネルギーデバイス, 手術ロボットなどの新しい技術はすべてこの時代に生まれています.VR手術シミュレータは,これらのデジタルデバイスにマッチした新しいスキルトレーニング機器だったのです.
その後の2010年代は,外科領域でのVR応用はやや停滞期だったと言えるかもしれませんが,血管内治療,精神科や看護の領域でVR診療支援や教育が進展しました.最近はロボティクスやAI診断など,医療のデジタル化が顕著です. ただ,ヒトが対象である以上,診断でも治療でもアナログな部分は今後とも欠くことはできません.アナログとデジタルの統合においてVRは有用な技術で,今後,医療においてVRの重要性がさらに高まると考えられます.

医用VR研究・教育のxRセンター

 われわれは, VRの医療応用の始まりであったVR手術シミュレータを2004年に導入し,その後も増備と更新を続け,VR手術シミュレータについては,現在,国内最大級のセンターとなっています. そのほか,スキルス&ITラボ~シミュレーションセンターから承継した多くのシミュレーション機器を保有しています.xRセンターの中心は2000年頃からの腹腔鏡下手術機器のギャラリーで, AR/VRでの情報提示を組み合わせています.このなかで,医師,看護師や臨床工学技士など医療職の教育,トレーニングが行なわれるほか,診療シミュレーション環境を生かした工学系,情報系, さらに企業の研究者との交流や共同研究の場となっています.また,病院管理のDXも重要なテーマで,当院のデジタルツイン作成をまず当センターから始めています. 今後のVR展開は,リアル空間よりむしろweb上などサイバー空間が主になると考えられ,第2のxRセンターとして,メタバース・xRセンター(MxR-M+)を構築し,現在,整備を進めています.

"Museum"

 当センターの中心に,リアル+AR+VRの手術機器のギャラリーとVR手術シミュレータ群がありますが,その周囲には多数の映像や,リアルの絵画もあるビジュアルな空間となっています. われわれは,センター全体を"museum"というコンセプトで整備しています.それは,医療の根本には真善美があるべきと考えられますが,美の観点がやや弱いのではないかという我々の問題意識に基づいています. 診療施設内に"museum"というのは奇抜にきこえるかもしれませんが,リアルのセンターとサイバー上のセンターからなる"museum"が,医療職や研究者あるいは学生(学部+大学院,医系+工), さらに企業の関係者に新たな発想を生み出す場となることを期待しています.