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縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー(指定難病)に対する 世界初のウルトラオーファンドラッグ、 アセノベル

【発表のポイント】

  • 東北大学病院は、縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー(注1の一種であるGNEミオパチー(注2を対象としたアセノイラミン酸(アセノベル®徐放錠500mg)(注3の臨床試験をファースト・イン・ヒューマンの第Ⅰ相試験の段階から実施してきました。
  • 各省庁からの補助金を得てプラセボ対照二重盲検の医師主導第Ⅱ/Ⅲ相試験に進み、有効性確認試験を経て、ノーベルファーマ株式会社にて製造販売承認を取得しました。
  • 開発がきわめて困難といわれているウルトラオーファン(注4の疾患に対する治療開発の成功例となり、世界に先駆けた成果として注目されます。

 

【研究概要】

縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチーの一種であるGNEミオパチーは、10代後半から30代にかけて出現することが多く、体幹から離れた部位から筋肉が萎縮、変性し次第に体の自由が奪われていく有効な治療法のない希少疾病です。我が国の患者数は400名程度と推定され、指定難病の一つに数えられています。東北大学大学院医学系研究科神経内科学分野の青木 正志教授らのグループは、2010年から医師主導治験として第Ⅰ相試験、第II/III相試験、ノーベルファーマ株式会社が治験依頼者となる有効性確認試験を実施し、GNEミオパチーにおけるアセノベル®徐放錠500mgの治療効果を明らかにしました。これらの結果をもとにノーベルファーマ株式会社が薬事承認申請を行い、2024年2月29日に厚生労働省医薬品第一部会において製造販売承認が了承され、3月26日に正式な製造販売承認を取得しました。

開発がきわめて困難といわれているウルトラオーファンの疾患に対する治療開発の成功例となり、GNEミオパチー患者の早期治療につながることが期待されます。

【詳細な説明】

縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチーの一種であるGNEミオパチーは、10代後半から30代にかけて出現することが多く、体幹から離れた部位から筋肉が萎縮、変性し次第に体の自由が奪われていく有効な治療法のない希少疾病です。我が国の患者数は400名程度と推定され、指定難病の一つに数えられています。

本疾患は1980年代に埜中ら・水澤らにより世界に先駆けて臨床病型が報告されました。2001年に、その原因遺伝子GNEから合成される蛋白がシアル酸代謝に関わる酵素であることが見いだされ、国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター神経研究所疾病研究第一部、西野 一三部長らによりモデルマウスにてシアル酸補充療法の予防効果が示されました。

これを受けて東北⼤学⼤学院医学系研究科神経内科学分野の青木 正志(あおき まさし)教授らのグループは、2010~2011年に、世界で初めて医師主導治験として第Ⅰ相試験を実施し、その後、医師主導第Ⅰ相試験(追加)を行い、シアル酸の一種であるアセノイラミン酸のファースト・イン・ヒューマンの検討を通して、安全性を確立しました。

 さらに日本医療研究開発機構の難治性疾患実用化研究事業として実施した医師主導第II/III相試験、ノーベルファーマ株式会社が治験依頼者となる有効性確認試験を実施しGNEミオパチーにおけるアセノイラミン酸の効果を明らかにしました。これらの臨床試験は、国立精神・神経医療研究センター病院(研究分担者:森 まどか医長)、名古屋大学医学部附属病院(研究分担者:勝野 雅央教授)、大阪大学大学院医学系研究科(研究分担者:髙橋 正紀教授)、熊本大学病院(研究分担者:山下 賢教授、現・国際医療福祉大学成田病院)、東北大学病院臨床研究推進センター(CRIETO)および岐阜大学先端医療・臨床研究推進センター(浅田 隆太准教授)と連携した成果となります。

・医師主導第II/III相試験結果概要

歩行可能なGNEミオパチー患者20例(うち6分間歩行試験の歩行距離200m以上が18例)に本剤1日6gを投与したプラセボ対照二重盲検試験において、本剤群ではプラセボ群と比較して48週時点の上肢筋力合計点数の低下(悪化)が抑制されました(図1)。

・有効性確認試験結果概要

GNEミオパチー患者14例に本剤1日6gを投与したプラセボ対照二重盲検試験において、本剤群ではプラセボ群と比較して48週時点の上肢筋力合計点数の低下(悪化)が抑制されました。

これらの結果をもとにノーベルファーマ株式会社が薬事承認申請を行い、2月29日に厚生労働省医薬品第一部会において製造販売承認が了承され、3月26日に正式な製造販売承認を取得しました。開発がきわめて困難といわれているウルトラオーファンの疾患であるGNEミオパチーに対する治療開発の世界初の成功例となり、世界に先駆けた成果として注目されます。

今後は製販後調査で長期経過における有効性・安全性を確認し、GNEミオパチー患者の早期治療につながることが期待されます。

図1. 国内第Ⅱ/Ⅲ相試験でアセノベル投与により上肢筋力合計点数が有意に改善.jpg

図1.国内第Ⅱ/Ⅲ相試験でアセノベル投与により上肢筋力合計点数が有意に改善

 

【謝辞】

本研究は独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、文部科学省橋渡し研究加速ネットワークプログラム、厚生労働科学研究費補助金および国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)難治性疾患実用化研究事業の助成を得て遂行しました。また治験薬はノーベルファーマ株式会社より提供を受けました。東北大学病院臨床研究推進センター(CRIETO)の支援も受けています。

 

【用語説明】

  • 遠位型ミオパチー:遺伝的な筋肉の病気(筋疾患)の一つです。理由は不明ですが、筋疾患の多くは、体幹に近い筋(近位筋)から障害されます。ところがこの遠位型ミオパチーでは、体幹から遠い筋(遠位筋)、例えば足首を動かすような筋肉や指先を動かすような筋肉から障害されます。そのような遺伝性筋疾患を総称して、遠位型ミオパチーと呼んでいます。
  • GNEミオパチー:遠位型ミオパチーの一つで1980年代の日本からの臨床報告が疾患概念確立の端緒となりました。GNE遺伝子はシアル酸という糖の一種を身体の中で合成するのに必要な酵素の設計図です。患者はこの酵素の機能が低下していて、シアル酸が出来にくくなっています。
  • アセノベル®徐放錠500mg:一般名はアセノイラミン酸で、シアル酸の一種です。GNEミオパチーで足りなくなったシアル酸を補うため経口投与可能な薬剤として開発されました。
  • ウルトラオーファン:オーファンドラッグは対象患者数が本邦において5万人未満、医療上特にその必要性が高いものなどの条件を満たし、厚生労働大臣が指定した医薬品です。対象患者数が1,000人未満の疾患は、さらに医薬品の開発が困難であり、ウルトラオーファンと呼ばれています。

 

【論文情報】

タイトル:Phase II/III Study of Aceneuramic Acid Administration for GNE Myopathy in Japan

著者:Suzuki N, Mori-Yoshimura M, Katsuno M, Takahashi MP, Yamashita S, Oya Y, Hashizume A, Yamada S, Nakamori M, Izumi R, Kato M, Warita H, Tateyama M, Kuroda H, Asada R, Yamaguchi T, Nishino I, Aoki M*

(鈴木直輝、森まどか、勝野雅央、高橋正紀、山下賢、大矢寧、橋詰淳、山田晋一郎、中森雅之、井泉瑠美子、加藤昌昭、割田仁、竪山真規、黒田宙、浅田隆太、山口拓洋、西野一三、青木正志)

*責任著者:東北大学⼤学院医学系研究科神経内科学分野 教授 青木正志

掲載誌:Journal of Neuromuscular Diseases

DOI:10.3233/JND-230029

 

タイトル:Efficacy confirmation study of aceneuramic acid administration for GNE myopathy in Japan

著者:Mori-Yoshimura M, Suzuki N, Katsuno M, Takahashi MP, Yamashita S, Oya Y, Hashizume A, Yamada S, Nakamori M, Izumi R, Kato M, Warita H, Tateyama M, Kuroda H, Asada R, Yamaguchi T, Nishino I, Aoki M*

(森まどか、鈴木直輝、勝野雅央、高橋正紀、山下賢、大矢寧、橋詰淳、山田晋一郎、中森雅之、井泉瑠美子、加藤昌昭、割田仁、竪山真規、黒田宙、浅田隆太、山口拓洋、西野一三、青木正志)

*責任著者:東北大学⼤学院医学系研究科神経内科学分野 教授 青木正志

掲載誌:Orphanet Journal of Rare Diseases

DOI:10.1186/s13023-023-02850-y

 

タイトル:Phase I clinical trial results of aceneuramic acid for GNE myopathy in Japan

著者:Suzuki N, Kato M, Warita H, Izumi R, Tateyama M, Kuroda H, Asada R, Suzuki A, Yamaguchi T, Nishino I, Aoki M*

(鈴木直輝、加藤昌昭、割田仁、井泉瑠美子、竪山真規、黒田宙、浅田隆太、鈴木章史、山口拓洋、西野一三、青木正志)

*責任著者:東北大学⼤学院医学系研究科神経内科学分野 教授 青木正志

掲載誌:Translational Medicine Communications

DOI: org/10.1186/s41231-018-0025-0