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産学連携による 日本初の「感染症マネジメント支援システム」の開発 ~「ニーズ探索型研究」により見出された課題解決成果~

ポイント

○産学連携の研究により見出されたニーズに基づき、日本で初めての※1主治医側医療機関※2と感染症専門医をつなぐクラウド上のウェブサービスを開発した。
○本システムの活用により、全国の医療施設の臨床医師が、感染症専門医の知見、ノウハウを円滑かつ効率的に実際の治療に活かすことが可能となり、感染症から生ずるさまざまな課題を改善していくことが期待される。
○感染症専門医には、オンラインによりいつでもどこにいても彼らの専門性を適切に提供できる新しい働き方を提示するシステムである。

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要旨

 国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科臨床感染統御学の八木哲也教授を研究代表とする、同大学医学部附属病院中央感染制御部、同大学予防早期医療創成センター、および岐阜大学大学院医学系研究科感染症寄附講座教員で構成される研究グループは、株式会社島津製作所(以下、島津製作所)と産学共同研究を実施し、主治医側医療機関(以下、「主治医」)と感染症専門医(以下「専門医」)をつなぐ「感染症マネジメント支援システム(以下、「本システム」)を開発しました。感染症診療の相談に特化した支援システムの開発は日本初になります。
本システムの開発にあたっては、2018年に島津製作所と名古屋大学医学部附属病院との間で実施した「ニーズ探索型共同研究」(産学共同でチームを編成し、現場観察に基づきニーズを探索する共同研究)の結果見出されたニーズに基づいています。今回のシステム開発は、この研究の成果ともいえるものです。

 近年、さまざまな細菌、ウイルスによる院内感染の集団発生や、適正な抗菌薬を選択しないために発生する「薬剤耐性菌」問題等感染症を巡る問題は近年益々深刻になりつつあります。一方で、感染症専門医の認定者数は適正数の半分程度といわれています。通常、感染症の専門医でない主治医らが感染症の診断や治療方針に難渋した際、専門医に電話やメールなどで助言を求めますが、専門医・主治医共に多忙な中、より円滑・効率的に感染症に関する相談・対応ができる環境が望まれていました。また、従来の相談形式では、専門医に対する成果や貢献度を正確に集計・把握することが困難でした。

 このたび、産学共同研究により開発された本システムは、クラウド上のウェブサービスを通じて専門医と主治医との間の効率的で有効なコミュニケーションを維持することで、専門医のいない医療機関でも適正な感染症対策の実施をサポートするものです。
本システムは、利用に際して主治医らと専門医らがユーザ登録を行います。主治医らは、登録されている専門医から相談相手を自由に選択し、カルテ情報等の情報を入力すると、本システムの「医療言語処理エンジン」および「辞書リストアップエンジン」(以下、「本エンジン」)が、関連する診察ガイドラインなどの参考情報をPC画面上に表示します。相談の依頼を受け、情報を受け取った専門医は、システム上で主治医らとメッセージや資料をやり取りすることができます。そして、相談相手の専門医は、対応可能な日時を登録でき、回答実績に応じた報酬を受け取ることができる仕組みとなっています。

 本システムの活用により、全国の医療施設の臨床医師が、感染症専門医の知見、ノウハウを円滑かつ効率的に実際の治療に活かすことが可能となり、感染症から生ずるさまざまな課題を改善してゆくことが期待されます。同時に、専門医には、オンラインにより何時でも何処にいても彼らの専門性を提供できる新しい働き方を提示するものと考えています。

1. 背景 

 近年、さまざまな細菌、ウイルスによる院内感染の集団発生や、適正な抗菌薬を選択しないために発生する「薬剤耐性菌」問題等、感染症を巡る問題はますます深刻になりつつあります。これらの課題に対応する為、適正な感染症対応を行うことが、全国の医療施設において喫緊の課題となっています。日本感染症学会は、日本全国の医療施設で感染症医療を適正に実施する為には「専門医の人数は3,0004,000人程度が適正」との見解を示しています。しかし、現行の同学会認定専門医は1,770名が登録されるに留まっております(202367日現在)。

 通常、感染症の専門医でない主治医らが感染症の診断や治療方針に難渋した際、専門医に助言を求めます。専門医は多忙な中、通常の院内業務に加えて院外の主治医からの問い合わせにも対応しており、専門医・主治医ともに円滑かつ効率的に感染症相談への対応ができる環境が望まれていました。また、従来の電話やメールなどの問い合わせ形式では、主治医からの問い合わせに対する専門医の成果や貢献度を正確に集計・把握することが困難でした。 

 国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科臨床感染統御学の八木哲也教授を研究代表とする、同大学医学部附属病院中央感染制御部、同大学予防早期医療創成センター、および岐阜大学大学院医学系研究科感染症寄附講座のメンバーで構成される研究グループは、株式会社島津製作所(本社所在地 京都市中京区西ノ京桑原町1番地・代表取締役社長 山本 靖則、以下 島津製作所)と産学共同研究を実施し、主治医側医療機関(以下、「主治医」)と感染症専門医(以下「専門医」)をつなぐ「感染症マネジメント支援システム(以下、「本システム」)を開発しました。感染症診療の相談に特化した支援システムの開発は日本初になります。

 本システムの開発にあたっては、2018年に島津製作所と名古屋大学医学部附属病院との間で実施した「ニーズ探索型共同研究」(産学共同でチームを編成し、現場観察に基づきニーズを探索する共同研究)の結果見出された「感染症診療における専門医と主治医が抱える問題点、およびその改善の必要性」というニーズに基づいています。今回の成果は、この研究の成果ともいえるものです。

2. 研究成果

 このたび開発された本システムは、クラウド上のウェブサービスを通じて専門医と主治医らとの間の効率的で有効なコミュニケーションを維持することで、専門医のいない医療機関でも適正な感染症対策の実施をサポートするものです。主治医らにとっては「必要な時に専門医に相談できる」「システムからの質問に答えるだけで相談の依頼ができる」という便宜性があると同時に、専門医にとっては、オンラインによりいつでもどこにいても彼らの専門性を提供できる新しい働き方の提示になります。

 本システムは利用に際して主治医らと専門医がユーザ登録を行います。主治医らは、登録されている専門医から相談相手を自由に選択することができます。本システムを通じて主治医らがカルテ情報や画像検査情報、検査レポートなどを入力すると、システム内の「医療言語処理エンジン」および「辞書リストアップエンジン」(以下、「本エンジン」)が患者情報を認識し、関連する診察ガイドラインなどの参考情報をPC画面上に表示します。また、本システムは自動で主治医らに追加の質問を表示して、専門医が回答に必要な情報を揃えます。詳細な相談を受け取った専門医は、システム上で主治医らとメッセージや資料をやり取りします。相談内容は記録されるため、利用実績の確認・ノウハウ蓄積にも役立ちます。さらに、専門医は相談対応が可能な日時を登録できるため自身で業務量をコントロールすることができるとともに、回答実績に応じた報酬を受け取ることができる仕組みになっています。

3. 今後の展開

 今後、本システムはシステム内の本エンジンにさらなる臨床症例のデータインプットをすることで、システムの精度を高めるとともに、より多くの感染症に対応できるよう準備を進めています。また、これまで以上に医療現場で実証実験を行うことで、サービス仕様の改善・ブラッシュアップを図っていき、サービスの社会実装を計画しています。

 本システムの活用・向上により、全国の医療施設の臨床医師が、感染症専門医の知見、ノウハウを円滑かつ効率的に実際の治療に活かすことが可能となり、感染症から生ずるさまざまな課題を改善していくことが期待されます。

1 20237月現在、日本国内企業発売済みの医療情報システムにおいて(島津製作所調べ)
2 主治医(医療施設の臨床医師)以外の利用者として、抗菌薬適正使用支援チームおよびインフェクションコントロールチーム(感染症から患者やその家族、病院職員らの安全を守るための組織。医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師、理学療法士、歯科衛生士、臨床工学士などからなる)を想定。

島津製作所からのニュースリリースは、こちらをご覧ください。

【関連情報】
インタビュー記事「現場ニーズが生んだ「感染症マネジメント支援システム」、もうすぐ始動!」(名大研究フロントライン)