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日米連携研究プロジェクト 「慢性炎症の制御によるがん発症ゼロ社会の実現」 ムーンショット型研究開発事業で始動

 名古屋大学大学院医学系研究科分子細胞免疫学教授(国立がん研究センター研究所/先端医療開発センター分野長)の西川博嘉をプロジェクトマネージャーとする研究プロジェクト「慢性炎症の制御によるがん発症ゼロ社会の実現」が、令和4年度「ムーンショット型研究開発事業(ムーンショット目標7 日米連携による「がんゼロ社会」に向けた研究開発)」に採択され、国内7施設とアメリカ3施設の日米連携研究チームにより2023年1月よりプロジェクトが始動する予定です。

 本研究プロジェクトでは、加齢や肥満等でも誘発され、がんを引き起こす慢性炎症について、本態解明とがんの起源細胞の超早期検出による発がん予防と超早期治療介入や、ウェアラブルデバイス等を用いた高感度生体モニタリングシステムの開発等により健康寿命延伸を目指してまいります。

※「ムーンショット型研究開発事業」ムーンショット目標7について
「ムーンショット型研究開発事業」は、我が国発の破壊的イノベーションの創出を目指し、従来技術の延長にない、より大胆な発想に基づく挑戦的な研究開発(ムーンショット)を推進する国の大型研究事業です。「人々の幸福(Human Well-being)」の実現を目指し、9つのムーンショット目標が掲げられており、健康医療分野の目標を定めたムーンショット目標7で「2040年までに、主要な疾患を予防・克服し100歳まで健康不安なく人生を楽しむためのサステイナブルな医療・介護システムを実現」が掲げられ、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が支援しています。

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発表のポイント
  • 日米連携による「がんゼロ社会」に向けた大型研究プロジェクトが、ムーンショット型研究開発事業において20231月より始動予定です。
  • 日米のがんの英知を集積し、加齢や肥満でも引き起こされ発がんに寄与する慢性炎症の本態解明や発がん予防等による健康寿命の延伸を目指します。
プロジェクト背景

 日本のがんの罹患率・死亡率は年々増加傾向にあり、その克服は医科学、生命科学のみならず日本社会全体の喫緊の課題です。さらなるがん克服には、従来の新規治療法開発に向けた研究に加えて新たな発がん予防法の探索と研究が重要です。

 これまでに、20-30% 程度のがんの発症に、ウィルス(肝がん、子宮頸がんなど)、ヘリコバクター・ピロリ等の細菌(胃がん、悪性リンパ腫)、炎症性腸疾患(大腸がん)等の慢性感染および慢性炎症が関わることが解明され、その一部に対しては抗微生物薬・抗ウィルスワクチン等による発がん予防が進められています。さらに近年では、慢性炎症が加齢や肥満、糖尿病によっても引き起こされ、発がんに寄与することが明らかになりつつあります。一方で、同じ慢性炎症でも発がんに至る場合と至らない場合があり、そのメカニズムは解明されていません。そのため、慢性炎症から発がんに至る因子や、発がんを促進または抑制する炎症のメカニズムの違いなどを解明することががん予防の重要なキーとなります。

プロジェクトの概要

 従来のがん研究では、がんの病態を一場面一時点で切り取り、かつ特定の細胞に着目して解析することが主であり、炎症―前がん状態―発がんへの時間的変化を空間的な相互作用も含めて検討することは十分に進められていませんでした。本プロジェクトでは、炎症―前がん状態―発がんへの変化をマルチスケール(例:免疫、ゲノム、エピゲノム、代謝)で解析し、時間的変化についても時系列の検体解析に加えて数理モデルによる予測を融合することで発がんに至る慢性炎症のメカニズムを解明します。

 慢性炎症が起始点となって生まれたがんの起源細胞の解析を行い、炎症―前がん状態―発がんの状態を予測する「発がん予測数理モデル」を確立します。発がん予測数理モデルによるがん化リスクに基づいた先制医療(プレシジョン先制医療)を実現し、超早期治療介入や、ウェアラブルデバイス等を用いた高感度生体モニタリングシステムの開発を行います。米国から3施設がプロジェクトに参加し、研究におけるパートナーシップだけではなく、人種差などを含めた検証が可能です。「がんは発症してから治療する」という従来の常識的な概念を取り払い、革新的研究に基づく発がん予測・先制医療、超早期診断・治療の開発によるがん予防へとつながる礎となるプロジェクトです。